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2006年7月10日 (月)
経営学のフィールド・リサーチ―「現場の達人」の実践的調査手法
[a]
/ 日本経済新聞社 / 2006-01
なんとなく買い込んで,そのまま机の横に積んでいたのだが,たまたま手にとってめくってみたら,これがまさに巻置く能わざる面白さであった。ここのところ読んだ本のベストワン。もしこの本を修士のころに読んでいたら,人生変わっていたかもしれん。
法政大で2003年頃に開かれていた,フィールド調査についての研究会の記録らしい。自分の研究の紹介が語り口を生かして文章化されていて,大変読みやすい。スピーカーは,経営学から藤本隆宏,和田充夫(マーケティング。ビジネススクールで使うケースの話),三品和宏(自動車工場のフィールド調査),櫻澤仁。社会学から佐藤郁哉,川喜多喬(産業社会学。細かな産業調査を狂ったように量産している人。話が極端で笑ってしまう)。地域研究から末廣昭(タイの財閥の研究)。
佐藤郁哉の章を別にして(これは面白いに決まっている),特に面白かったのは,まず藤本隆宏という人の章。研究を次の研究へとつなげていく,その秘訣が語られている。あまりに格好よくて溜息が出てしまう。この先生の本は読んでおいたほうがよさそうだ。
櫻沢仁という人の章は,製茶業界の奥深くに潜入し,徹底的な参与観察を続けた体験談。一編の小説になりそうな面白さであった。
いくつか抜き書き:
「アメリカでは典型的な,厳密にデータ分析をやってひとつひとつの命題を固めていくという方法は,ある意味ではコンピューターのようなモジュラー的なやり方だと思うのです。[...] これに対して,大陸ヨーロッパとか日本の伝統の中には,少し違うタイプのものもあると思います。僕はこれをホログラムのようなものではないかと思っているのです。[...]ひとつひとつは強くない傍証を積み重ねて,全体として強固な命題に至る,という研究戦略です。僕はこの流儀です。[...]自分の中ではフィールド・ワークからしか得られないある種の確信があるわけで,一方においてそういう「確信」を持ている仕事をしたいというのが,学者としての内発的な動機づけとしてあります。[...]統計分析はプレゼンテーションのための副産物だと考えています」(藤本隆宏)
「誰とはいいませんが,ベンツがどうだ,BMWがどうだなどと書いて,結局は『ブランドは魂だ』なんてことをいう人がいます。それではまったく意味がないのです。もし事例研究をやるのであれば,ひとつのケースを深く深く掘り下げていくということが必要です」(和田充夫)
「地域研究者の場合,直面する大きな問題というのは,どうやって自分の時間を管理するかです。[...]大学の先生方がよくやる失敗は,八月の夏休みに海外にどっと行かれて,ミカン箱二箱くらいの資料を大量に持って帰る。帰ってきても,集めた資料を読みはしないし,その時間もありません。[...]こういうやりかたは,率直にいって一種の研究搾取だし,紙公害でしかないのです」(末廣昭)
「製茶問屋の社長のところに行って,『実は恥ずかしながら研究に行き詰まっている』と告げたわけです。[...]『これ以上スーツを着てインタビュー調査や文献研究をやっていても何も出てこない。これではつまらない。申し訳ないけれども,一週間ばかり丁稚奉公をさせてくれないだろうか』とお願いしました。そうしたところ,どちらかというと強面だった相手の社長が満面の笑みを浮かべて『うれしいね,やっとわかってくれたんだね。じゃ,いつから来るかい』」(櫻澤仁)
マーケティング - 読了:07/10 まで (M)