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2008年5月 6日 (火)

Bookcover 消費者行動論 (ビジネス基礎シリーズ) [a]
平久保 仲人 / ダイヤモンド社 / 2005-05-19
実務家向けのやさしい教科書。出典もろくに書いていないので,読み物というべきかもしれない。
 この本はしばらく前に買い込んで,読み始めて失望し放り出した。中途半端に親しみやすく,中途半端に網羅的なので,結局は勉強にならない,というタイプの本。著者はその分野の立派な研究者らしいのに,なぜこんな本を出しちゃうんだろうか。
 このたび,いわゆる「消費者行動論」がふつうどんな章立てでどんな話題をカヴァーするのか,ちょっと整理してみたくなって,手始めにこの本の内容目次をつくってみた。

1. 消費者行動論とは何か?
- 顧客満足はすごく大事だ。顧客を知るためには消費者行動の理解が必要だ
- 購買プロセス:認識-検索-選択-購買-購買後評価
- 上記プロセスに並行する心的プロセス:動機づけ,学習,知覚,態度形成
- 影響要因:商業的刺激,個人的要因,社会的要因
2. 個人的影響要因
- デモグラフィクス: 社会階層(例, PRIZM)
- 購買中枢集団とは
- 使用水準(80/20の法則)
- オケージョン
- 顧客の行動範囲
- ライフスタイルとpsychographics: VALS, VALS-Japan(Rogersの普及理論)
3. パーソナリティとセルフイメージ
- フロイト理論: id, ego, superego
- 新フロイト派: ホーナイの追従型/自己主張型/遊離型, CohenのCADスケール
- 特性論:革新性,自意識,物質主義,教条主義,最適刺激水準,認知欲求
- セルフイメージ:現実の自己と理想の自己
- 自尊心:リスク行動との関係
4. 消費者関与
- 関与を表す属性:関心,商品リスク,購買リスク,愉快感,自己像
- 関与の種類:長期的/一時的; 認知的/感情的
- 関与の対象:商品, ブランド, 広告, 媒体, 状況
- 関与を高める方法: 商品を関心事と関連させる; 使用者を想定したメッセージ;心理的便益の訴求; 有名人の起用; 恐怖喚起; オピニオンリーダーの起用; 差別特徴の訴求; CRM
- 低関与購買/高関与購買の特徴
5. 問題認識(購買行動の最初の段階)
- 問題:在庫切れ,不満足,使用状況の変化,別の商品の購入による需要,生活環境の変化
- ニーズとウォンツのちがい
- ニーズの分類:機能,快楽
- 製品が示唆する「意味」が購入される
- マズローの5段階説
- ハーツバーグの2要素説
- マーレイの社会的動機のリスト
- 消費者が気づいていない問題に気づかせることが重要
6. 動機づけ
- ニーズ - テンション - ドライブ - 行動
- 機能的満足と心理的満足
- 動機の理論:動因低減説, 期待価値説
- 葛藤の分類
- 購買習慣に基づく製品分類:最寄品, 買回品,専門品
- 消費者の立場から便益について考えることが大事だ
7. 情報収集
- 内的情報収集と外的情報収集
- 購買前検索と継続的検索
- 情報収集の量が多いのは:重要度が高い時,熟練度が中程度の時, リスクが高いとき
- リスクの種類: 金銭的,機能的,物理的,時間的,心理的。社会的
- ネットをつかって関与を挙げる工夫
8. 学習
- 古典的条件づけ:USとCSの反復提示,般化と弁別
- 道具的条件づけ:報酬と罰,強化スケジュール,反応形成,観察学習
- 最近は認知的学習論というのもあります
- 説得の周辺的ルートは右脳的で中心的ルートは左脳的だ (※???)
- 広告の想起に影響する要因:予備知識,特異性,写真
9. 知覚
- 五感を通して取り入れる刺激の割合は,視覚75%,聴覚13%,触覚6%,嗅覚3%,味覚5%(※これ,出典はどこだ?!)
- 視覚的デザインは大事だ, 匂いも大事だ, 触覚も味覚も大事だ
- 刺激の絶対閾値
- 刺激への順応: 変わった媒体によって順応を防ぐ工夫
- 弁別閾: 価格のJND, 価格弾力性
- 知覚の選択性,知覚的防衛
- スキーマによる解釈
- 知覚の閉合原則による不完全情報の補完が関与を高める(※知覚レベルの自動的推論が関与を高めるってこと???)
10.態度
- 態度の強さの分類:応諾,同一化,内在化
- 態度の機能(Katz):適応,価値表出,自我防衛,知識
- 態度階層のABCモデル (※これ,出典はどこだろう...)
- 認知的不協和
- foot in the door
- 判断の係留効果
- ハイダーのバランス理論
11. 社会的影響
- グループの影響ははかり知れません
- 社会化のプロセス:モデリング,強化,社会的交流
- 準拠集団とその種類(フォーマル/インフォーマル, etc)
- 準拠集団のパワー:正当,専門,関係,褒賞,罰
- 準拠集団の影響は,ブランドに対しては人目に触れるとき大,所有に対しては贅沢品において大
- オピニオンリーダーは大事だ
12. 選択肢の分類
- 陳列カテゴリーが選択に影響する
- 60%は計画外購買だ
- ポジショニングの方法:属性,便益,オケージョン,ユーザ,競争相手,カテゴリ
- 認識集合,想起集合,検討集合
- 想起されやすいブランド:模範的,なじみ,優良,ポジティブな経験,状況との関連性,検索手がかりがある,メーカーの専門性
- 消費者の検討集合を知ることが大事だ
13. 評価選択
- 非相補的決定ルール: 辞書編纂,EBA, 統合, 分離
- 消費者のカット・オフ・ポイントを知ることが大事だ
- 相補的決定ルール:多属性態度モデル; その示唆
- ヒューリスティクス:品質を示唆する外的属性,ロイヤリティ,特異性と鮮明性
- 決定の不合理性:心理的財布,埋没費用,価格戦略の例(product-line, reference)
14. 購買後評価
- 期待不一致モデル; WOWファクターによる正の不一致; 期待値を低める
- 不満足行動のタイプ: なにもしない,直談判,第三者通告,ボイコット,起業
- ルーツ・コーズ
- 苦情処理は大事だ
- CRMは大事だ

 細かい点でいろいろ納得できない記述があるんだけれど,それはまあいいとして...
 一般教養向けの心理学の教科書だと,たとえば動機づけという章の下にキャノンとか期待価値理論とかマズローとかが雑然と並んでいて,唐突にレヴィンの葛藤の分類の話になって終わったりする。どういう関係があるのかさっぱりわからない。あれは概説書の良くないところだと思うのだが,この本もそういう部分を受け継いでいる。これは概説書の宿命なのか。実務家はこんなんで満足しちゃうのか。消費者行動論なんて所詮,実務家の経験にハクをつけてくれる程度のものなのか。うーん,つまんないなあ。

マーケティング - 読了:05/06まで (M)

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