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2011年12月31日 (土)

Bookcover 農村青年社事件―昭和アナキストの見た幻 (筑摩選書) [a]
保阪 正康 / 筑摩書房 / 2011-12
全く知らなかったのだが,昭和12年に大逆事件の再来として大々的に報じられた「農村青年社事件」というのがあって,でもそれは結局のところアナキスト弾圧のためのフレーム・アップであった,のだそうだ。著者は70年代にこの事件について取材し,でも結局著作にすることがなかったのを,このたび(ある種の後悔を抱えながら)一冊にまとめた由。
 戦時中に保護観察下にあった思想犯に対する警官の態度が,戦争末期になってころっと変わってきた,という話はどこかで読んだことがあったのだが,農村青年社事件の関係者たちもそのような経験をしているのだそうで,なかにはこんな証言もあるのだそうだ。
 「昭和二十年に入ってからのことですよ。長野県警察本部の思想担当の刑事たちが当時逮捕された者の家一軒一軒を訪ね,自分は拷問しなかった,思想犯を痛めつけたことはなかったという証明書を書いてくれと言って歩いていた。実はほとんどの者は拷問されていたんです。ふざけるなと怒る者もいれば,まああのときはあのときでと証明書を作るのに協力した者もいますよ」
 ううむ。私には嗤えない。組織のなかで生きることは,ときとして滑稽で陰惨だ。いまでも変わらないと思う。

日本近現代史 - 読了:「農村青年社事件」

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