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2012年10月25日 (木)

Goldstein, W.M. & Beattie, J. (1991) Judgments of relative importance in decision making: The importance of interpretation and the interpretation of importance. In Brown & Smith (eds.) Frontiers in mathematical psychology. pp.110-137.
 どうしても手に入れられなかったので、著者のGoldstein先生にお願いしてご恵送いただきました。心から感謝。

 前半は、属性の重要性という概念についての整理。いわく...重要性研究には2つの意義がある。

どちらにしても、人々が重要性判断において重要性というものをどう解釈しているかを知る必要がある。そもそも統計学においてさえ、重要性という概念は曖昧ではないか。
 判断や決定における「重要性」とは、ある複雑な全体(例, 選択肢)に対してその部分(例, 属性)が持っている関係性を指している。「重要性」には3つの解釈が入り混じっている:

  1. relative sensitivity. すなわち、属性の水準の変化に対する判断・選択の反応性という解釈。
  2. relative impact. すなわち、判断・選択の要約としての解釈。
  3. psychological representations and processes. すなわち、刺激と反応の間に介在する心的プロセスの特徴としての解釈。

まずはrelative sensitivityについて。線形モデルの係数、限界代替率、辞書編纂型決定ルールにおける属性の順序、その他なんらかのparamorphicなモデルにおける係数がこれに入る。問題は、ふつう属性間では測定単位が違うのでsensitivityを比較できないという点だ。各属性に対する主観的重要性判断だって、いっけん直接比較できるようにみえるけれども、実は異なる属性の増加の間のなんらかの直観的な精神物理学的マッチングに基づいているかもしれない(「価格より機能が重要」という判断でさえ、機能のこのくらいの変化が価格のこのくらいの変化に対応するという暗黙的マッチングに基づいているかもしれない... ということだと思う)。
 relative impactについて。たとえば,ある属性による分散の説明率はrelative impactだ(その属性のsensitivityだけでなく、その属性の変動についての要約にもなっている)。ところが、ここで著者らはちょっと不思議なことをいいだす。

すでに述べたように,分散の分解はrelative impactという相対的重要性概念の典型例である。その理由はおそらく,その属性の水準が違っていたら決定がどう変わっていたか(relative sensitivity)という関心が,その属性の水準が分散していたせいでどれだけの変化が起きていたか,という問いへとつながるからであろう。しかし,impactの指標を提供するために分解できるのは,判断の変動性だけではない。異なる属性が直接的に比較可能な場合,もうひとつの方法として筋が通っているのは,相対的重要性を,その選択肢の全体的望ましさに対するそれぞれの属性の相対的貢献という観点から捉えることだ。[...]
 relative impactを表す諸指標は、ある統一的な特徴を持っている。そのことは次の点に注意すればあきらかである。決定が、特定の刺激セットにおけるある属性の水準によって影響されていた程度を表す指標は、それがなんであれ本質的には、決定パターンを要約する記述統計量である。relative sensitivityという概念は、もし環境が変化したら決定がこうかわるだろう、という予測的思考に依拠している。いっぽう要約統計量は、すでに生じてしまった決定に焦点を当てている。[...]

訳出してみてようやく得心した。著者らは、重要性指標が属性の値の分布情報に影響されているかどうかだけに注目しており(影響されていたらそれはrelative impact)、影響を与えている分布情報が代表値か散布度かはどうでもよいのだ。その結果relative impactは、Achenのいうlevel importanceとdispersion importanceの両方を含む概念になっている。これは要するに、視点の違いだなあ。統計学者Achenとちがい、心理学者である著者らにはこの二つをわざわざ区別する動機が乏しいのだろう。
 psychological representations and processes(長い...)について。属性の知覚的顕著性とか、その属性が強い感情的反応を誘発するかどうかとか、その属性が高レベルな目標なり複数の目標なりについての含意を持っているかどうかとか、そういうのがここにはいる。たとえば、TverskyのEBAモデルでは、aspectの選択確率はそのaspectがもともと持っている"weight"で決まる。あるいは、Trabasso & Sperry (1985,JML)の物語理解の研究では(うわあ...)、文章中の文の重要性判断はその文そのものというより物語全体の因果構造で決まる。こういう意味での重要性がprocess型の重要性である。決定の心的プロセスと関係しているにせよ、決定の結果とは全然関係ないかもしれない。

 後半は著者らの実験の紹介。実験1はGoldstein&Mitzel(1992,OBHDP), 実験2はBeattieさんの博論。
 実験1は、架空の研究室秘書さんがアパートを選ぶ場面で(属性は家賃とキャンパスからの距離)、彼女のデモグラ情報、重要性判断、選択肢集合(サンプル・セット)に対する選択結果を教示し、別の選択肢集合(タスク・セット)に対する彼女の選択を予測させるという課題。各選択肢集合は6つの選択肢からなる。どうやら、Goldstein(1990)でのwideセットをサンプル・セットに、narrowセットをタスク・セットに使っている模様。
 重要性判断は2属性へのポイント配分。選択は選択肢の順位づけ。要因は、重要性判断の教示(なし/「家賃70対距離30」/「30対70」)と選択結果の教示(なし/a/b)で、被験者内2要因(3x3)デザイン。理屈は書いてないが、選択結果教示 a は重要性配分「70対30」と、bは「30対70」とそれぞれ整合する由。
 順位づけ回答を6選択肢の総当たり戦(15ペア)と捉え、安いのが勝った回数を指標とする。結果は... 重要性判断教示も選択結果教示も回答に影響する(そりゃまあそうだろう)。両方教示すれば両方とも影響する。要するに、他者の選択についての推論において、他者の重要性判断の結果が利用されていますね、という話。
 実験2は、80個の短いシナリオを読ませる。それぞれのシナリオはトレードオフの関係にある2つの選択肢からの選択を求めている(例、明日がレポート提出日なのに結膜炎にかかっちゃいました。痛い思いをして提出しますか、進級をあきらめますか)。で、各属性(目の痛みと進級)の重要性を11件法で評価した後、決定がどのくらい難しいと思うか、決定にどのくらい時間がかかりそうか、正しい決定ができそうか、というメタ認知的判断を求める(決定は求めない)。変な課題を考えたものだ。
 その結果、属性間の重要性評定値の差が小さいときに、決定は難しく時間がかかり不確実だと感じられた。要するに、自分の決定についてのメタ認知において重要性判断が用いられていますね、という話。
 というわけで実験からの示唆は、重要性というものは、relative sensitivityやrelative impactのような刺激-反応関係の特徴としても解釈されているし、決定の心理的過程の特徴としても解釈されていますね、ということなのであった。

 実験はまあ横に置いておいて、前半の理論的整理のところがとても勉強になった。私はいま市場調査に関わっているから、ずっと選択・選好に対する重要性指標の基準関連的妥当性のことばかり考えていて、主観的重要性が決定の心的過程についての回答者のメタ認知を表しているという側面はノイズだと思っていたのだけれど、たしかにそうした側面も興味深いし、決定プロセスについての初期のメタ認知がその後の決定プロセスそのものに影響してしまう面もあるだろう。あんまりpsychologicalな話になると、だんだん嫌になってくるんだけど。

 気になったところをメモ:

論文:調査方法論 - 読了:Goldstein & Beattie (1991) 重要性の解釈の重要性

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