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2014年3月26日 (水)

Hui, S.K., Huang, Y., Suher, J., Inman, J.J. (2013) Deconstructing the "First moment of truth": Understanding unplanned consideration and purchase conversion using in-store video tracking. Journal of Marketing Research. 50(4), 445-462.
 スーパーの買い物客にビデオカメラをつけるという研究。聞くだけで面白そうですね。

 本研究の関心は非計画購買にある。というわけで、まずは非計画購買についての先行研究概観。
 買い物前後の聴取に基づく研究:

 買い物の最中を追いかける研究 (おそらく全部著者らの仲間うちではないかと思うけど):

 これらに対してこの研究は、購買の手前にある考慮のステップを捉えているのが新しい由。

 で、調査。実査は2009年。いやー、さすがだ。
 スーパーの入り口で来店客をリクルート。96個の製品カテゴリのリストを見せ(「野菜」から「練炭」まであるぞ)、買おうと思っている奴をチェックさせる。これが購買計画の有無になる。さらに、予算、買い物リストの有無、連れの有無、来店頻度 etc. を聴取。買い物リストを持ってる人は37%だそうだ。日本とはずいぶん違いますね。
 で、装置を着用させる。ヘッドセットみたいなのにカメラがついていて、対象者の視界が記録される。また、店舗内のRFIDタグをつかって位置が記録される。さらに、ロボコップみたいな格好になるので悪を倒せる。それは嘘ですけど。撮った動画の例がこちら。卵を買うとき、ちゃんとパックを空けて中をチェックするんですね。なかなか楽しい。まだ120viewしかないので、万一このブログをお読みの奇特な方がいらっしゃいましたら、ひとつ観てあげてください。
 買い物が終わったら出口調査。デモグラとか、衝動買い傾向尺度とか。店舗のご協力でレシートも集める。その日その日の店内ディスプレイももちろん記録してある。分析対象者は237人。すげえな。

 さあ、録りまくった動画をどうやって分析するか。人がいちいち観てコーディングするのである。大変だなあ。
 動画から「考慮」の期間を切り出す。基準は次の通り。次の3条件がそろったら「考慮」の開始とする。(1)あるカテゴリの棚に向かっている。(2)移動が止まるか、遅くなっている。(3)視界がそのカテゴリに固定されている。で、次のどちらかで「考慮」の終了とする。(1)移動の再開。(2)視界が別のカテゴリに移る。
 こうして切り出された考慮の回数は、0回から26回まで、平均13.1回。うち非計画考慮 (=入口調査でチェックしてなかったカテゴリについての考慮)は5.6回。

 お待ちかね、モデリングの時間です。別に待ってないけど。
 対象者を $i$, カテゴリを $j$, 購買計画有無を $s_{ij}$, 考慮有無を $r_{ij}$とする。以下、原文では記号に片っ端から右肩に$(r)$がついているんだけど(考慮のモデルであることを示している)、省略。
 まず、非計画考慮をモデル化する。非計画の状態 ($s_{ij}=0$) における「考慮することの潜在効用」$u_{ij}$ を考え、これが正だったら非計画考慮が生じると考える。この $u$ についてモデルを組む。説明変数は、個人特性、カテゴリ特性、カテゴリのプロモーション、カテゴリ間の相補性。
 $u_{ij} = \alpha + \tau_i + v_j + m_{ij} \varphi - \eta d_(j, s_i) + \epsilon_{ij}$
 $\epsilon_{ij} \sim N(0,1)$
 個人特性 $\tau_i$、つまり個人 $i$ の非計画考慮傾向は、デモグラ特性のベクトル $z_i$ で説明する。
 $\tau_i = z'_i \gamma + \zeta_i$
 $\zeta_i \sim N(0, \sigma^2_\zeta)$
 カテゴリ特性 $v_j$ は、カテゴリのhedonicity (別の研究からとってくる)、{要冷蔵/要冷凍/ほか}、の2要素からなるベクトル $c_j$ で説明する。
 $v_j = c'_j \Psi + \delta_j $
 $\delta_j \sim N(0, \sigma^2_\delta)$
書いてないけど、$m_{ij}$ は来店日のチラシ掲載有無であろう。
 最後に相補性。パスタの購買を計画している人はパスタ・ソースを非計画考慮しやすいだろう、という話である。カテゴリが散布する2次元空間を考え、カテゴリ $j, m$ 間のユークリッド距離 $dist(j,m)$ がカテゴリ間の相補性を表しているものとする。対象者 $i$ の購買計画ベクトル $s_i$ にはいっているすべてのカテゴリと、カテゴリ $j$ との距離の最小値を $d(j, s_i)$とする。
 以上を力づくで推定します! もちろんMCMCで!!

 やれやれ。。。
 結果。チラシ掲載は非計画考慮にすごく効く。女性、高年齢者、予算に余裕がある人、買い物リストを持っていない人、店になじみがない人は非計画考慮しやすい。ヘドニックなカテゴリ、要冷凍のカテゴリでは非計画考慮が生じやすい。カテゴリ間相補性の空間も解釈容易(一番近いのは「カット済み野菜サラダ」と「米/豆/パスタ」だそうな)。

 では、計画考慮と非計画考慮はどうちがうのか。また、非計画考慮のうち購買につながったやつとつながらなかったやつはどうちがったか。
 それぞれの考慮について以下をコード化する。(1)時間: 滞在時間のなかのどのへんか。(2)場所: 店のどこにいるときか。(3)カテゴリ: ヘドニックである程度、要冷蔵、要冷凍。(4)関与。考慮の時間と、製品に触った回数(購買を除く)。(5)考慮の深さ。棚を見た回数と、棚と身体との距離。(6)外的情報へのアクセス。スタッフとのやりとり、ショッピングリストを見たか、店内表示を見たか。コーダーさんに深く同情いたします。
 結果。非計画考慮は、買い物の後半戦で生じやすく、購買につながる確率は低く(83% vs. 63%)、陳列棚(aisle)で起こりやすく、関与は浅く(製品接触回数が少ない)、考慮も浅く(棚との距離は長め)、外部情報へのアクセスは少ない。カテゴリがヘドニックかどうかは関係ない。
 非計画考慮のなかで購買につながる奴は、つながらない奴に比べ、陳列棚で生じやすく、ヘドニックなカテゴリで生じやすく、関与は深く考慮も深く外部情報アクセスが多い。

 というわけで、今度は非計画考慮のみを対象に、購買のモデルを組む。いやあ、すごい、肉食人種だ。
 新しい変数は次の2つ。(1)その時点での予算の残り金額。(2)その前の非計画考慮で購買したか。(3)考慮中の動画からコーディングした行動変数(関与、考慮の深さ、外部情報へのアクセス)。あとは同じ建付けのモデルである。
 結果。購買にチラシは効かない。店内ディスプレイは逆効果(非計画考慮の下での条件つき確率をモデル化しているので、筋は通っている)。陳列棚で生じやすい。デモグラ、カテゴリ特性はほぼ効かない。残り予算は効く。直前の非計画考慮で買っていると次の非計画考慮では買いにくい(なるほどね、これは面白いなあ)。などなど。
 相補性マップで一番近かったのは卵と調味料だったそうだ。こっちの相補性マップは、どう使えばいいのかピンとこないなあ。

 考察。今後の課題として、(1)調査協力者のバイアス。(2)入り口でカテゴリのリストを見せちゃっている点。(3)視界がわかるだけで見ているかどうかはわからない。(4)人力のコーディングは大変。(5)<考慮→購買>という図式が当てはまらないこともある。(6)非計画購買の動因として、ニーズを忘れていたのか、その場で発生したのかを区別すること。(7)別の業態。
 
 ううむ。この論文は非常に面白かった。データの充実、論旨の明確さ、展開の論理性、どこをとってもプロの研究者の論文である。このたび読んだ事情のほうの役には立たなかったんだけど、良いものを読んだ。
 アウトプットのなかで、非計画考慮の生起を説明するカテゴリ間相補性マップというのが一番面白いと思った。著者らも書いているけど、バスケット分析ではわからない、店内配置やクーポン発行への示唆が得られそうだ。

論文:マーケティング - 読了:Hui, Huang, Suher, & Inman (2013) 買物客の行動データで非計画購買を解剖する