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2014年5月 2日 (金)

Prelecのベイジアン自白剤に関連する論文を手当たり次第にめくっている今日この頃。いまこの瞬間に限っていえば、23区内で一番ベイジアン自白剤について考えているのは私かもしれない。こうやって集中していると、効率はいいんだけど、飽きてくるのが難点だなあ。

Howie, P.J., Wang, Y., Tsai, J. (2011) Predicting new product adoption using Bayesian truth serum. Journal of Medical Marketing, 11, 6-16.
 薬品の新製品についての医師による受容性評価にベイジアン自白剤(BTS)を使うという話。著者所属は、筆頭の人がTargetRx、あとはファイザー。TargetRxというのはヘルスケア系の調査会社で、現存しない模様(Symphonyグループに買われたらしい)。いずこも大変ですね。

 医師1763人、13個の新製品について調査。1人は1製品だけらしい。製品非認知者はあらかじめ外してある。
 この研究は、truth-tellingメカニズムというBTSの特徴には関心がないので、対象者にBTSについての教示はしていない模様。設問はオリジナルのBTSとちょっと違っている。「(新製品)が利用できるとして、疾患ほにゃららを持つあなたの患者に対して以下の治療を処方するパーセンテージは?」治療のリストのなかに新製品がはいっている。新製品に対する回答をXとする。「あなたの同僚や他の医師はほにゃらら患者をどのように扱うと思うかを伺います。ほにゃらら患者のうち(新製品)を処方される人のパーセンテージは?」回答をYとする。
 BTSではXはカテゴリカル変数, Yは各水準への離散確率分布でないといけないので、どうするのかと思ったら、Xは101水準のカテゴリカル変数だとみなし、Yをポワソン分布の平均とみなして101水準への離散確率分布を無理矢理つくった模様。なるほど。
 で、ここが医薬品業界のすごいところだが、調査対象者の医者がどんな処方をしたかのデータベースがある。そこから、新製品上市の次の四半期における実際の処方シェアを計算して、突き合せちゃうのである。

 分析。
 まずBTSのことは忘れて、予測シェアで実シェアを説明するモデルを組む。説明率4%、βは0.18。予測シェアXは、実シェアを過大評価する傾向がある由。
 で、BTSスコアを使うのだが... 原文には"we can now evaluate whether whether using the BTS to weight the individuals will improve predictive performance"とあるから、BTSスコアをウェイトにしたWLS回帰を行う、ということかしらん?
 なお、BTSスコアは情報スコアと予測スコアの和だが、原論文には予測スコアに重みづけしてよいと書いてあるので(重みをalphaと呼ぶ)、0.0001, 0.5, 1の3種類のalphaを試す。スコアが負である対象者は除外する(200人くらいが除外される)。
 結果は... BTSスコアで重みをつけると、説明率はちょっぴり上がりました。βも上がりました。回帰じゃなくて製品別の累積でみると、alpha=0.0001でMSE最小であった由。そうか、予測スコアはいらないのか... もっともこれはポアソン分布による近似のせいかもしれない、とのこと。

 上市前新製品についての医師の処方意向が、上市後のその医師の処方選択をほとんど説明しないというところ、泣かせますね。著者のみなさまには悪いが、BTSを使っても焼け石に水、という感じである。関係者のみなさま、ご一緒に泣きましょう。
 細かいことだけど、BTSスコアと予測シェアXの関連が知りたいところだ。Xがキリのよい値だとBTSスコアが低い、なんていう関連性なら、それはすごく納得する。でも、たとえばXが高いとBTSスコアが低い、なんていう関連性だったら、BTSスコアが回答の質と関連したのはポアソン分布による近似で生じたアーティファクトかもしれないと思う。BTSスコアとは要するにカテゴリ選択率と他者のカテゴリ選択率予測値の平均との比の対数だから、高いほうのカテゴリの選択率予測値を高めに近似すれば、Xの高いほうのカテゴリに対するBTSスコアは低くなる。Xが高い医者、つまり派手にoverclaimしている医者が除外されれば、そりゃあ説明率は上がるだろう。

 これまで読んできた研究をおおまかに整理すると、次の3つがあった:

この研究は路線 C である。
 著者いわく、BTSとはどんなものかということ、自分がそれによって評価されているということ、を回答者に理解してもらうのは大変なわけで、教示がある場合とない場合のちがいの検討が必要だね、とのこと。全くその通りだと思う。BTS関連の研究を読んでいて感じるのは、総じて回答の心的プロセスに関心が持たれていないという点で(「事前分布が共通だとして」なあんて簡単に仮定しちゃうのだ)、このへんが、調査回答の認知心理学的研究と、ゲーム理論やメカニズム・デザインに由来する研究とのスタンスの違いだという気がする。うーん、Prelecさん自身は心理学者だと思うんだけど。そこんところもちょっと不思議だ。

論文:予測市場 - 読了: Howie, Wang, & Tsai (2011) ベイジアン自白剤 for 医薬品の新製品受容性予測

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