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2015年11月 2日 (月)

 読んだ本をそのままため込んでいると記憶が薄れてしまう。これは少し前に読んだ本だけど、忘れないうちにメモしておこう。
Bookcover シネマの極道: 映画プロデューサー一代 (新潮文庫) [a]
日下部 五朗 / 新潮社 / 2015-10-28
往年の東映プロデューサーによる自伝。
 一番面白かったのは、東映任侠映画で一時代を画した大プロデューサー、俊藤浩滋についての人物評。ヤクザの世界に詳しいどころか、元はその筋であったといわれる人である。えーと、富司純子のお父さん、寺島しのぶのお祖父さんですね。

 わたしたちは職掌柄、やくざの親分さんのところへ挨拶や取材に出かけることが時折あるが、親分さんというのは人生訓話の好きな方が多い。ある日、俊藤さんと挨拶に伺った親分さんもおのれの人生訓を滔々と語って倦まなかった。わたしは御説ごもっとも拝聴しているだけだったが、ふと変な気配に気づいて横を見ると、俊藤さんが感極まって涙を流している。帰りの車の中でも、
 「日下部、おやっさんの話、ホンマええ話やったなあ!」
 まだ目を潤ませていた。わたしは吃驚したが、つまり、俊藤さんは本当の意味で庶民なのだ。だから、ある時期の俊藤プロデューサーは、庶民の期待する映画を何の衒いも躊躇いも気負いもなく、スッと差し出せたのだと思う。

この語り手・日下部五朗さんが、後に「仁義なき戦い」を制作し、俊藤浩滋と任侠映画の時代を終わらせることになる。

ノンフィクション(2011-) - 読了:「シネマの極道」

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