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2015年11月12日 (木)

Brahma, A., Chakraborty, M., Das, S., Lavoie, A., Magdon-Ismail, M. (2012) A Bayesian Market Maker. 13th ACM Conference on Electronic Commerce.
 予測市場のための自動マーケット・メーカの新機軸、BMM(ベイジアン・マーケット・メーカ)を提案するよ! LMSR(対数マーケット・スコアリング・ルール)を超える凄い奴だよ!という論文。
 筆頭著者の所属がQualcommになっているので驚いたが、Rensselaer Polytechnic Institute在学中の研究らしい。

1. イントロダクション。略。

2. マーケット・メイキング
 その1, LMSR。早速ここで躓いた。著者いわく。

価格はパラメータ $b$とマーケット・メーカの現在のインベントリー$q_t$で決まる。ここで$t$とは注文到着時を表すインデクスである。インベントリ―はゼロから始まる、すなわち$q_0$である。これは初期価格$0.5$に対応する。

おおっと。どうやらここで著者は2銘柄しかない市場について考えているわけだ。さらにいわく、

スポット価格は$\rho(q_t)= \exp(q_t/b) / (1+\exp(q_t/b))$である。取引が数量$Q$に達したとして、時点$t+1$における投資家のコストは次の式で与えられる:
 $C(Q; q_t) = \int_{q_t}^{q_t+Q} ds \ \rho(s) $
 $= b \ln (1+\exp( (q_t+Q)/b )) - b \ln (1+\exp( q_t/b )) $

うわあ。著者は2銘柄のうち一方だけが取引されるとみて、取引されないほうについては$\exp(q_t/b)$のかわりに1を置いている。ってことは、一方の銘柄の発行数量が常に0であるような2銘柄の市場について考えているのだ。なぜ? この定式化に基づいて考えた話は、多銘柄を取引する場合にもあてはまるの?

 まあいいや、先を読むと... (以下、引用表記を省略)
 LMSRにはつぎのような問題点がある。取引に参加している多くの人々が、なんらか違う信念を持ち続けているとしよう。さらに、常に何人かの投資家がいて、なんらかの取引をしており、そのサイズを$Q$としよう。時点$t$における株式発行量を$q_t$とする。
 数量$Q$におけるbid-ask spreadについて考えよう。すなわち、$Q$株の買いの平均価格と、$Q$株の売りの平均価格の差である。それは次式となる:
 $\delta (Q) = \frac{b}{Q} \ln( \frac{cosh(q_t/b) + cosh(Q/b) }{2 cosh^2(q_t/2b) } )$
[← $cosh(x) = (\exp(x) + \exp(-x))/2$であろう。この式、他の全銘柄の発行数量が0である市場については確かに成り立つようだ。わざわざスプレッド・シートをつくって確認した。ヒマなのか私は]

 仮に、均衡価格がインベントリー$q_{eq}$に対応しているとしよう。典型的な取引数量が$Q$ならば、この均衡点の周囲におけるスポット価格の変動は強度$sinh(Q/b) / (cosh(q_{eq}/b) + cosh(Q/b))$を持つ。この変動は均衡点について非対称であり持続する。[←このくだり、まったく理解できない...そもそも価格変動の強度ってどのように定義されているの?]

 そのせいで、質的な確率推定値を抽出するのが困難になる。$b$の選択は重要なオープン・クエスチョンである。小さな$b$は損失の小ささを保証するが、均衡点の周囲での変動が大きい、流動性の低い市場となる。[←ま、この結論は理解できるので、いいか]
 
 その2、流動性敏感なLMSR。LMSRにおいてはある取引数量に対する価格反応は流動性を問わず等しい。つまり、価格を $p_i (q)$ として $p_i (q + \alpha 1) = p_i(q)$である。Othmanらは$b$を市場の数量の関数にして、流動性敏感な価格関数をつくった (先日読んだOthman et al. (2013)のカンファレンスペーパー版)。しかしこの提案では、全銘柄を通した株価の合計が1を超える...云々。 [このくだり、批判してんだか単に紹介してんだかわからない]

 その3、Dasらの情報ベース・マーケット・メーカ(ZPマーケット・メーカ)。
 マーケット・メーカが証券の価値$p_t(v)$についてなんらかの信念(事前確率密度)を持っている。投資家がシグナル$s$を得る。$s$の分散は投資家が持っているシグナルの不確実性を表す。マーケットメーカは事前分布しか情報を持っていないので、ここに情報の非対称性が生じる。この非対称性は投資家の事前信念の分散と投資家の不確実性の比として表現される。
 マーケット・メーカは買値(ask)と売値(bid)を提示する。トレーダーは、$s$がaskより小さければ売るし、bidより大きければ買う。ここでaskとbidを決めるには、利益の期待値が0になる(zero profit, ZP)ことを目指せばよい。すなわち、$ask=E_{p_t(v)}[v | s \gt ask], bid = E_{p_t(v)}[v | s \lt bid]$を解けばよい。
 で、マーケット・メーカは取引を観察して$s$についての情報を手に入れ、$p_t(v)$を$p_{t+1}(v)$に更新する。というモデルである。

 その4、その他にもいろいろある。Pennockの動的パリ・ミュチュエル・マーケット、Hollywood Stock Exchangeのマーケット・メーカ。

 比較しよう。投資家の信念の分布の平均を動かして株価の変動をシミュレーションしてみると、LMSRは適応するが収束せず、情報ベースMMは収束するけど適応が遅い(MMが大損する可能性がある)。流動性敏感LMSRも適応が遅い(MMは損しないけど)。
 思うに、MMは損することなく流動性をつくりだすものであってほしい。また、均衡点に収束するものであってほしい。第三に、真値の変動にすばやく適応してほしい。

3. 市場のミクロ構造
 以下では単一の証券について考える。価格を0から100とする。出来事が起きたかがどうかでペイオフが0ないし100になるのかもしれないし、清算配当が0から100のあいだになるのかもしれない。
 投資家はその証券の取引の履歴と、「現在の株価」をみることができる。投資家は取引数量を選ぶことができ、注文前にその取引価格を知って、注文するかどうか決めることができる。

4. BMMアルゴリズム
 提案手法はDasのZPマーケット・メーカを改善し、適応性を増したものである。以下、その仕組み。
 MMはスポット価格$p_t$を出す。投資家は注文を投げる。注文の数量を$Q$、売買方向を$x_t = \pm 1$とする(正が買い)。マーケット・メーカは、$Q$枚の株のVWAPを示し、ほんとに取引するかどうか尋ね、取引したりしなかったりする。で、MMは現在の信念を更新するわけだ。そのやり方について説明する。以下では買い注文について説明する。

 まず、ZPではどうなっていたか。
 MMは市場の価値についてのガウシアン信念$V: N(\mu_t, \sigma_t^2)$を持っている。スポット価格は$p_t = \mu_t$である。で、投資家の信念は$V$の周りに分散$\sigma_e^2$で正規分布すると仮定し、MMが情報的に不利である程度を$\rho_t = \sigma_t / \sigma_e$とする。売値を以下のように決める。
 $ask = \mu_t + \sigma_e Q(\rho_t) \sqrt{1+\rho_t^2}$
$Q(\rho)$とはDasらが決めた関数。こうして決めた売値の下で、利益の期待値は0になる。ここでは取引数量について考えていないことに注意。
 さて、MMは投資家の信念$s$が取りうる範囲について考える。たとえば投資家が取引に応じたら、$s$はaskより上だ。もしキャンセルしたら、$s$は$\mu_t$と askのあいだだ。[←おおお。注文が入ってから取引価格を示してキャンセルを許容することに積極的な意味があるわけだ。これは面白いな]。そんなこんなで、$s$の上限と下限、$\mu_t$, $\rho_t$, $\sigma_e$の5つを組み合わせて、$\mu_t$と$\sigma^2_{t+1}$を更新する。詳しくはDasの論文を読め。

 これを改善して... [以下、なんだかめんどくさくなっちゃったので略。数量を反映させ、取引履歴を一定の窓でモニタしてMMの信念の不確実性を変えていく、というような話だったような気が]
 シミュレーションすると... [パス]

5. 人間による実験。めんどくさくなって飛ばし読み。
6. エージェントによる実験。一行も読んでない。
7. 結論。BMMは優れてます。ただし、LMSRみたいに組み合わせ市場には拡張しにくい。またMMの損失は小さいけど有界ではない。すでにRPI Instructor Rating Marketsというところで運用実績がある。云々。

 ワクワクしながら読み始めたのだけど、途中で読む気を失くしてしまった。先行するZPマーケットメーカについて知っていないとお話にならない。Das(2005, Quantitative Finance), Das(2008, Proc.AAMAS), Das&Magdon-Ismail(2008, NIPS)というのを読むべきらしい。

論文:予測市場 - 読了:Brahma, et al. (2012) ベイジアン・マーケット・メーカ

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