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2016年1月 4日 (月)

twitterでどなたかが呟いておられるのをみかけて、興味を惹かれて手に入れてしまい、興味を惹かれて眺めているうちに、興味を引かれるままついつい読み終えてしまった論文。仕事とはなんの関係もないっす。すいません、現実逃避です。

Ljungqvist, I., Topor, A., Forssell, H., Svensson, I., Davidson, L. (2015) Money and Mental Illness: A Study of the Relationship Between Poverty and Serious Psychological Problems. Community and Mental Health Journal.
 著者ら曰く。
 そもそも心的健康と貧困には関係があるといわれている。どっちが原因かは諸説ある。どっちかが原因でどっちかが結果だと割り切れるような話でもないのかもしれない。
 因果関係はともかくとして、心的疾患は社会的孤立と結びついており、社会的孤立は貧困と結びついているのだろう。経済状態が好転すれば社会関係が良くなる、という知見はすでにレジストリ研究(register study)で得られている。また社会化支援の介入が心的疾患に与える効果についてはランダム化統制試験(RCT)による証拠がある。社会化支援とは、伝統的な"train and place"モデルを"place then train"モデルに置き換え、とにかくまず望ましい状況をつくっちゃう(ここでは友達をつくっちゃう)、というアプローチである。
 スウェーデンといえども相対的な貧困はある。精神疾患患者の社会化支援の必要性も叫ばれている。じゃあ経済的支援は役に立つか? 先行研究ではよくわからない。実験してみましょう。

 重度な精神疾患患者(SMI)を被験者にする。ある町の患者さん100人に月73ドル渡した。別の町の患者さん38人には測定のときだけ22ドル渡した(これが統制群。つまりRCTになってないわけで、著者らも言及しているが、 ホーソン効果の可能性は残る)。介入は9ヶ月。介入前と6~7ヶ月時点を比較する。測定したのは不安とか心的機能レベルとかQOLとか[略]。なお、患者さんは統合失調症、双極性障害、重度の鬱、自閉症スペクトラム、などであった由。どっちの群も可処分所得が低かった。
 結果。実験群でのみ、鬱、不安、QOL、自己知覚、社会的ネットワークが改善。機能レベルは有意差なし。云々。

 考察。
 SMIにおける社会的孤立はSMIの症状ではないのではないか。心的状態だって、お金のおかげで生活が変われば改善するのではないか。
 
 へええええ。面白いなあ。
 金を渡したら精神疾患の症状が軽減されたという話自体は、視点ががらっと変わる驚きはあるが、よく考えてみるとまあそんなもんなんだろうな、と思う次第である。著者らも最初に述べているように、所得と社会関係と心的状態、すべては絡み合っている。人生のある側面を改善したら他の側面も改善しちゃう、というのは不思議じゃない。
 むしろ面白いのは、著者らは触れていないけど、実は患者に金を配った方が薬漬けにするより安上がりかも?常識的なケアより安上がりかも?... と想像が膨らむところだ。
 データ解析についていえば、せっかくだからpre-post比較じゃなくて、介入開始後にもう一回くらい測定しておいて、経済状態の好転→社会的関係性の向上→心的疾患の改善、という縦断モデルをつくればよかったんじゃないかと思ったけど、ま、傍で見ているほど楽じゃないんでしょうね。

論文:その他 - 読了:Ljungqvist, et al.(2015) 重度の精神疾患患者に毎月お金を渡したら?

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