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2018年5月 3日 (木)

相馬黒光「碌山のことなど」. 碌山美術館, 2008。
 休日に新宿三丁目付近を通りかかり、少し時間があったので、カレーの中村屋の上にあるという美術館に立ち寄って(中村つねの作品があると聞き覚えていた)、荻原守衛の裸婦のブロンズ像などをぼけーっと眺めて帰ってきたんだけど、受付前に置いてあった薄い小冊子が妙に面白そうで、つい買ってしまった。安曇野市にある碌山美術館の発行とある(碌山とは荻原守衛のこと)。中村屋創業者夫妻の妻・相馬黒光が、最晩年に荻原について語った追想の聞き書きだという(初出は昭和31年。黒光は30年に亡くなっている)。正直、ちょっと下世話な好奇心もあって。

 萩原の絶作となった上記の裸婦像について黒光はこう述べている。「足が地について立ち上がれないあの姿を見て私は正視してゐられませんでした。あの像の顔をみて山本安曇さん[工芸家、この像の鋳造者]は私に「誰の顔を作ったかわかるぢゃありませんか」と云ひました。去年も展覧会であの像を見まして、この年になっても猶息のつまる思ひをしました」
 荻原は死の病床で、黒光と戸張狐雁(相馬夫妻と荻原の友人、のちに彫刻家・画家となる)にアトリエの机の鍵を渡す。荻原の死後、二人は引き出しから日記を見つけ、読まずに焼却する。「狐雁が男泣きに泣き乍ら一枚一枚むしってはくべ、私を「ヘッダガブラーだ」と罵り乍ら灰にしたのです。狐雁はやさしい人でした」と、ここから黒光に対する萩原の秘めた愛の話になって...

 いやあ、こういっちゃなんだが、大変面白かった。相馬黒光という人は只者ではない。
 それにしても、これは映画になるんじゃないかしら、なんて思ったのだが、いま調べてみたら、2007年に信越放送が「碌山の恋」というTVドラマを制作しており、黒光は水野美紀さんが演じたそうだ。

ノンフィクション(2018-) - 読了:「碌山のことなど」

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