elsur.jpn.org >

« 読了: Liu & Agresti (2005) 順序カテゴリカルデータの分析方法レビュー (全体的に遠慮がちな質疑応答つき) | メイン | 読了:Nir (2011) 推論の動機づけ的個人差が、世論についての知覚のバイアスと関連している »

2018年5月 5日 (土)

先日ふとした機会に、人々がサーベイ調査に対して持つ信頼感ってどうやって形成されているんだろう?と不思議に思った。茫漠とはしておりますが、結構切実な疑問であります。メディア研究の文脈とかで、きっと理論とか実証研究とかあるんだろうけれど、探し方が悪いのか、ぴったりなのが見つからず...

稲増一憲(2016) メディア・世論調査への不信の多面性:社会調査データの分析から. 放送メディア研究, 13, 177-193.
2015年5月、NHK放送文化研究所の調査でメディア・世論調査への信頼について調べたという報告。著者は社会心理の若い研究者の方。Webで拾って読んでみた。

 調査は住基台帳ベース、留置法。さっすがー。
 報道媒体への信頼度を5件法で訊いたんだけど、TVニュースと新聞記事に対する回答は意外に高く、T2B(「とても信頼している」「まあ信頼している」で7割越え。
 新聞社への信頼とテレビ局への信頼(4件法、こちらはT2Bが3割台)を目的変数として重回帰した(順序ロジットとかではなくて、単純なOLS)。テレビニュースや新聞記事への接触がポジティブに効き、ネットでの他者の意見への接触頻度がネガティブに効いた(ネットの政治ニュースへの接触は効いてない)。テレビ局への信頼には民主党支持がポジティブに効き、政治関心の高さがネガティブに効いた(性・年齢・年齢二乗・学歴・年収をコントロールしてもなお。へー。でもこれ、性x年代カテゴリで入れたほうが良かったんじゃないかな、きっと交互作用があるから...)
 途中省略するけど、世論調査の中立性の知覚について調べているところがあるのでメモ。世論調査を「マスメディアが操作している」という項目(5件法)を目的変数とした重回帰で、政治への関心の高さ(自己報告)がポジティブに効き、実際に持っている政治についての知識レベル(簡単なテストで調べている)がネガティブに効く。なるほどねえ。
 なお、上記に支持政党は効いていない。ただし、世論調査が「公平に意見を反映している」という項目には、自民党・公明党支持がポジティブに効いている(上と同じく、デモグラはコントロール済なのに)。へー、そうなのか。
 考察。Ladd(2012) "Why Americans Hate the Media and How it Matters"という本で、アメリカでは党派的に分極化した政治家たちのメディア批判がメディア不信の一因になっているという指摘があるんだけど、この調査結果をみるかぎり、日本ではそうはなっていない模様。云々。

 いまの日本の首相は国会での質疑で、別に聞かれてもいないのに特定の新聞社を口汚く罵るという、私にはよく理解できない振る舞いをなさっているのだが、ああいうのって、メディアへの信頼と内閣支持率にどう効くんでしょうね。反応の異質性がすごく大きいので、簡単には答えの出ない話だろうけど。

論文:その他 - 読了:稲増(2016) メディア・世論調査への不信感が高いのはどんな人か

rebuilt: 2020年11月16日 22:54
validate this page