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2018年5月 5日 (土)

 SNSを検索していて、「マスメディアの世論調査はあてにならない」という強烈な感情表現を数多く目の当たりにし(その論拠はピンキリだが、ほとんどはキリのほう)、サーベイ調査に対する人々の信頼とは... と、深い感傷に浸ったのであった。

Nir, L. (2011) Motivated reasoning and public opinion perception. Public Opinion Quarterly, 75(3), 504-532.
 とはいえ、ぼけーっとしていてもしょうがないので、これを機にちょっと勉強してみるか、と関連しそうな論文を探して読んでみた。予備知識ゼロだけど、タイトルからして面白そうなので。

 ハバーマスいわく[おっと、カッコ良い出だしだね]、publicとはただの個人の集まりでない。publicはコミュニケーション行為を通じて意見を形成する。それを可能にする主要な情報源がマスメディアである。
 しかし、個々人が他人の政治的選好についての情報を求めるかどうかは別の問題である。人々が自分の意見を支持する意見ばかりに耳を傾けるようでは、熟議は成り立たない。
 motivated reasoning(目標志向的な認知処理方略)の研究では、accuracy目標とdirectional目標のちがいが注目されている。前者は正しい信念を維持しようという目標で、推論に投じられる努力が大きくなり、情報処理が深くなる。後者は望ましい結論を維持しようという目標で、それを支持する証拠が重視される。Kunda(1990, Psych.Bull.)をみよ。
 Lodge & Taber (2000)はmotivated reasoningと政治的評価のタイポロジーを提案している。横軸にaccuracy目標の強さをとり、縦軸にdirectional目標の強さをとる。

 先行研究が主に注目してきたのは党派的推論者の情報処理だった。意見にバイアスを与えるメカニズムとして、選択的接触、選択的処理、選択的知覚が指摘されてきた。しかし、Lodge & Taberのタイポロジーは、以下の3つの方向の研究を示唆している。

 仮説です。

 推論目標をどうやって操作的に定義するか。accuracy目標はCacioppo & Petty(1982 JPSP)のNeed for Cognition尺度で測る。direction目標はJavis, Blair, & Petty(1996 JPSP)のNeed to Evaluate尺度で測る。[←すげえ... 社会心理学版の打ち出の小槌だね...]
 
 方法。
 Electronic Dialogue 2000 (ED2K)プロジェクトのデータを使う。脚注もみながらちょっと詳しくメモしておくと...
 対象者はKnowledge Networks社のパネルから抽出した。これはまずSSI社が世帯をRDDで抽出し、そのうちWebTVのデータベースにない世帯をリクルートして、WebTVの装置をただで配るかわりに毎月40分程度の調査に参加してもらいますという全米パネル。年齢や人種が代表性を持つようにリクルートしている。
 ここから2000年2月に3967人抽出し、2014人の同意をとった。ベースライン調査は長いので2回にわけてやった(2~3月)。回答者は1684人。これを「議論」群(900人)、「コントロール」群(139人)、「セットアサイド」群に割り当てた。議論群とコントロール群は毎月調査参加する羽目になる。議論群は、10-15名ずつの60チームにわかれ、モデレータつきのオンライン議論に毎月参加する(調査はその前後)。実は60チームはうまく組んであって、20チームはリベラルor中道、20チームは保守or中道、20チームは混在である。最終の調査が2001年1月(これも2ウェーブに分けた)。実に一年がかりのプロジェクトであった。お疲れ様でした。
 Need for CognitionとNeed to Evaluateの項目は、4回目の議論のあとの調査(2001年1月)、ないし最終調査に含まれていた(うまいこと設計されていて、ある対象者にはこのうちどこかで一回だけ訊いている)。
 分析に使う指標は以下の通り。

 お待たせしました!結果です!

 考察。
 本研究の貢献は以下の3点。

  1. motivated reasoningの研究の拡張。推論タイプと意見知覚の関係を示した。
  2. 観察研究における、推論タイプの操作的定義を示した。
  3. 人々の推論過程の個人差、それが近くにに及ぼす影響についての我々の理解を示した。

 本研究の限界:

 今後の研究への示唆。

 。。。いやー、さっすがはPOQ。私のような素人の心も掴んで離さない、すごく面白い論文であった。
 Lodge & Taberのタイポロジーというのがとにかく面白い。引用されている論文はLupia, et al. (eds.) "Element of Reason"に所収。第一著者のMilton Lodgeについて調べてみると、世界のあちこちに同名の宿泊施設があって困ったが、どうやら政治心理学者。70年代にJPSPに書いているほかは、政治心理学の専門誌での論文が多いようだが、Sageの緑本でマグニチュード尺度について書いていたりする。67年に学位取得というから結構なお年であり、今年お弟子さんたちかなにかによる記念論文集が出ているようだから、さぞや偉い学者なのだろう。2013年にTaberと共著で"The rationalizing voter"という本を書いているが、残念ながら翻訳はないようだ。

 書き方から推測するに、著者自身はED2Kプロジェクトにはタッチしておらず、あとでデータを借りてきたような雰囲気だ。こんなんあれですよ、凡百の心理学者がやったら、「回帰分析してみたら、認知欲求が高い人はxxxが高くて、評価欲求が高い人はxxxが高かったですー」的な、吹けば飛ぶよな相関研究ですよ。つくづく、大事なのはデータじゃなくて理論的枠組みなのである。

 自分の仕事に当てはめると、消費者に対して他者の選好を推測させるcitizen forecastを考えた時、うっかりしていると「カテゴリ関与が高いほうが推測が正確」と素朴に仮定してしまいそうになるが、正確性を目標にした推論をもたらすようなカテゴリ関与もありうるし、自分の選好の支持を目標にした推論をもたらすようなカテゴリ関与もありうるわけだ。その違いは、もちろん環境との相互作用の履歴が生んだ産物ではあるんだけど、カテゴリを超えた個人的傾向の尺度で、ある程度は予測できるかもしれない。

論文:心理 - 読了:Nir (2011) 推論の動機づけ的個人差が、世論についての知覚のバイアスと関連している