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2019年4月28日 (日)

Franses, P. H., van Oest, R. (2004) On the econometrics of the Koyck model. Econometric Institute Report 2004-07, Econometric Institute, Erasmus University Rotterdam.
 セミナー準備で読んだやつ。いわゆるマーケティング・ミックス・モデリングの分野で有名なKoyckモデルについての、6頁のメモみたいなもの。全然わかんないけど、第一著者はこの分野の研究者だと思うので(JMRにファーストの論文があった)、いい加減な内容ではないだろうと思って。

 いわく。いわゆるKoyckモデルにはいろいろややこしい問題が多い。解説しよう。

 売上を$S_t$, 広告を$A_t$として、次のリンクを想定する。
 $S_t = \mu + \beta (A_t + \lambda A_{t-1} + \lambda^2 A_{t-2} + \ldots) + \epsilon_t$
$\epsilon_t$は自己相関を持たないとする。
 $\lambda$はふつうリテンション率と呼ばれる。当期効果は$\beta$, キャリーオーバー効果は$\beta/(1-\lambda)$である。
 説明変数の数が多いときはKoyck変換をかけることが多い。
 $S_t = \mu + \beta A_t + \lambda S_{t-1} + \epsilon_t - \lambda \epsilon_{t-1}$
時系列分析でいうところのARMAXモデルである。

 Koyckモデルの推定について。
 当然ながら最尤法が用いられる。対数尤度関数は
 $LL(\mu, \beta, \lambda, \sigma^2) = - \frac{T-1}{2}(ln(2\pi) + ln(\sigma^2)) - \sum_{t=2}^T \frac{\epsilon_t^2}{2 \sigma^2} $
 なお、より一般化したARMAXモデル
 $S_t = \mu + \beta A_t + \lambda_1 S_{t-1} + \epsilon_t - \lambda_2 \epsilon_{t-1}$
を推定することもできる。しかし実務的には、2つの推定値のうちどちらを採用するかという問題が生じるし、
 $S_t = \mu + \beta (A_t + \lambda A_{t-1} + \lambda^2 A_{t-2} + \ldots) + \epsilon_t$
という形式に戻せなくなるので、理論的な観点から見るとあまり関心が持てない。二つの$\lambda$は等値にしておいたほうがよろしい。

 Koyckモデルのパラメータの検定について。
 ここで難しいのは、もし$\beta = 0$だったら$\lambda$も消えて
 $S_t = \mu + \epsilon_t$
となるという点だ。普通のt統計量は$\lambda$に依存する。それがわからないので最尤推定値を使うとすると、統計量がデータに依存し、漸近分布が正規でなくなる。こういうのをDavies問題という。
 Davies問題に対する最近の解法は、未知パラメータ$\lambda$の範囲を考え(今回は[0,1) である)、その範囲を通じた統計量の最大値、ないし平均値を使うというものである。前者をsup検定統計量, 後者をave検定統計量という。シミュレーションしてみると[...中略...]、aveの検定力のほうが高い。
 
 実例。Lydia Pinkhamデータというのを使う。[あ、これ、前にも見たことあるな]
 モデルによっても検定方法によっても結果がかなり変わるという話。

 ... あんまし真剣に読んでないのであれなんだけど、あれこれ考えさせられました。
 検定の話にはあまり関心がないので置いておいて、モデルの話を整理しておこう。本文中で言及されているのは次の3つのモデルだ。
A. $S_t = \mu + \beta A_t + \lambda S_{t-1} + \epsilon_t - \lambda \epsilon_{t-1}$
B. $S_t = \mu + \beta A_t + \lambda_1 S_{t-1} + \epsilon_t - \lambda_2 \epsilon_{t-1}$
C. $S_t = \mu + \beta A_t + \lambda_1 S_{t-1} + \epsilon_t$
 著者は、AをKoyckモデルないしARMAXモデル、Bを非制約ARMAXモデル、Cを「MA部分を無視したKoyckモデル」と呼んでいる。
 ラグ演算子を使って書きなおすと
A. $S_t = \frac{1}{1-\lambda} \mu + \frac{1}{1-\lambda L} \beta A_t + \epsilon_{t}$
B. $S_t = \frac{1}{1-\lambda_1} \mu + \frac{1}{1-\lambda_1 L} \beta A_t + \frac{1-\lambda_2 L}{1-\lambda_1 L} \epsilon_{t}$
C. $S_t = \frac{1}{1-\lambda} \mu + \frac{1}{1-\lambda L} (\beta A_t + \epsilon_{t})$

 A.は、切片項、広告のAR系列、ホワイトノイズの和になっている。著者は$-\lambda \epsilon_{t-1}$のことをMA部分と呼んでいるが、それは見た目の話であって、A.では撹乱項はMAになっていないと思うんだけど、あっているだろうか。

 ARMAXモデルという言葉について... forecastパッケージの中の人Hyndman先生は、(Aではなくて)BやC.のように撹乱項と説明変数に同じARがかかるのをARMAXモデルと呼んでいたと思う。モデルの呼び方が人によって違うので混乱する。気を付けないといけない。

 著者はB.について「関心が持てない」といっているけれど、うーん、その点は良く理解できなかった。そもそもA.のように、売上の撹乱項がホワイトノイズだと仮定するのは無理があるのではないか。その点、B.はARMA(1,1)撹乱項を考えているので自己相関が許される。C.もAR(1)撹乱項を考えていることになるけど、説明変数と撹乱項のリテンション率が同じだという点で不自然だ。
 むしろB.が一番自然なモデルなんじゃないかしらん? それとも、撹乱項が自己相関を持たないという実質的信念があるということだろうか...?

論文:データ解析(2018-) - 読了:Franses & van Oest (2004) Koyckモデルの注意点

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