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2019年8月19日 (月)

 仕事の都合で、大企業における女性管理職登用についての日本語の論文をいくつか探して読んでいたんだけど、いずれも「あれも問題だしこれも問題ですよね」というような、なんというかぬるま湯のような内容で、いささか参った。これは誰が悪いって話じゃなくて、きっとそうならざるを得ないタイプの問題なのであろう。
 その中で唯一、あっこれ面白い...と思った論文についてメモ。

中川由紀子 (2013) 女性管理職育成・登用をめぐるエージェンシー理論分析 -日米間3社の事例分析-. 経営哲学, 10(2), 82-92.

 いわく。
 なぜ男女均等処遇が進まないのか。内閣府の男女共同参画白書のまとめでは、ワークライフバランス、女性のキャリア形成支援、意識改革、の三点が挙げられている。他にもいろんなことがいわれている。保育所が足りないとか。
 ここではそういうんじゃなくて、企業の側からみてみよう。
 50年代、Beckerという人は「経営者は女性労働者に対して差別的嗜好を持っている」と考えた(嗜好差別理論)。しかし上場企業であれば株主価値や利潤を犠牲にしてまで好みを貫くことはないだろう。
 70年代、Arrowらは経営者が集団のステレオタイプに基づいて判断すると考えた(統計的差別理論)。たとえば、女性が平均として結婚・出産で離職しやすいから、採用を控えたり昇進させなかったりするという説明。これは、経営者から見て個々人の情報を知るためのコストが高い(と経営者が思っている)という前提での説明である。しかし実際には、統計的差別によって優秀な女性人材を失うという機会コストは大きいから、経営者が個々人についての情報の取得をさぼるとは思えない。

 本稿の説明は次のとおり。
 ここにあるのはエージェンシー問題だ。経営者(プリンシパル)は長期的な全体効率経営を目指してるんだけど、管理職(エージェント)は短期的・利己効率的に考えているせいで、女性登用に積極的になれない。つまりは全体効率性と個別効率性の対立だ。
 とすると、エージェンシー理論からいえば解決策はふたつ、(A)経営者と管理職の情報の対称化、(B)両者の利害の一致、である。
 (A)は難しいけど、(B)の方法なら2つある。(1)モニタリング・システム。つまり経営者がなんとかして管理職を統治する。(2)インセンティブ・システム。経営者がなんとかして管理職を自己統治させる。

 ここからは3つの企業の比較。比べるのは、日本の総合電機メーカーA社、GE、サムソン。いずれも聞き取り調査(著者はA社とGEの人事におられた方なのだそうで、そういわれるとA社がどこだかなんとなくわかっちゃいますね...)。
 A社には管理職の機会主義的な行動を抑制するメカニズムがない。いっぽうGEでもサムソンでも、モニタリングとインセンティブシステムがうまく機能している(紹介が面白かったんだけどメモ省略)。
 云々。

 ... 全くの門外漢なので見当違いな感想かも知れないけど、女性登用をエージェンシー問題という視点からみるという発想がとても面白かった。
 すごく面白かったせいなんだけど、いくつか疑問がわいたのでメモしておくと、

論文:その他 - 読了:中川(2013) エージェンシー理論から見る女性管理職登用

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