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2017年3月31日 (金)

増田明子, 恩蔵直人 (2011) 顧客参加型の商品開発 (株式会社良品計画 無印良品). マーケティングジャーナル, 31(2), 84-98.

第一著者は良品計画の中の人。いま掲載誌の目次をみたら「取材レポート」と書いてあるので、そういう枠の記事なのであろう。

読了:増田, 恩蔵(2011) 無印良品の顧客参加型製品開発

Chang, W., Taylor (2015) The effectiveness of customer participation in new product develoment: A meta-analysis. Journal of Marketing, 80, 47-64.

副業の都合で読んだ奴。顧客参加型新製品開発の先行研究をメタ分析して成功要因を探るという論文。

他にもいくつか目を通したんだけど... 記録し損ねていたら忘れてしまった...

読了:Chang & Taylor (2016) 顧客参加型新製品開発のメタ分析

2016年10月13日 (木)

菅野佐織(2011) ブランド・リレーションシップ概念の整理と課題. 駒大経営研究, 42, 87-113.
仕事の都合で大急ぎで読んだレビュー論文。フォルニエの研究を中心に関連研究を整理している。こういうのを日本語で読めるの、すごく助かりますです。感謝。

読了:菅野(2011) ブランド・リレーションシップとはなにか

Calderon, E., Rivera-Quintero, A., Xia, Y., Angulo, O., O'Mahony, M. (2015) The triadic preference test. Food Quality and Preference, 39, 8-15.
 消費者に製品の選好を訊く際の新手法を提案する論文。
 仕事の都合で急遽目を通したんだけど、これがなんというかその、かなり納得のいかない内容で...

 いわく。
 新製品開発では一対選好テスト(paired preference test)が良く使われている。"No preference"選択肢をいれておき、各製品の選好率をみたり、"No preference"率をみたりする。ある製品の選好の強さを測るために、信号検出理論でいうd'を応用したhedonic d'を使うこともある。
 一対選好テストの問題点として、仮に2製品が全く同一でも、かなり多くの被験者がどちらかを選好するという点が挙げられる。先行研究における回答分布はいろいろだが、たとえば40%-20%-40%。選好反応は製品属性だけでなく、なんらかの「外的要因」にも影響されているわけである。それら外的要因は、2製品が異なるときにも影響しているはずだが、その大きさはわからない。そこで、被験者に全く同じ2製品のペア(これをプラセボ・ペアと呼ぶ)についての一対選好テストと、異なる2製品のペア(テスト・ペアと呼ぶ)についての一対選好テストを求め、結果を比較する、という手続きが用いられることもある。

 一対選好テストにおける「外的要因」についての研究は2系統ある。
 ひとつは統計学的な研究で、プラセボ・ペアへの反応とテスト・ペアへの反応をどう比べるかという研究。カイ二乗検定とか、hedonic d'を使うとか...[中略]
 もうひとつは実験心理学的研究の系統で(本論文もこれに属する)、「外的要因」をどうやったら排除できるかを考える。先行研究としては、"No preference"を複数水準にすると合計の割合が増えるとか[←そりゃそうでしょうね]、"liking"じゃなくて"buying"の選好を訊くと"No preference"が増えるとか[←そりゃそうでしょうね]、韓国人はなぜか"No preference"が少ないとか[←へえー]、プラセボ・ペアに"No preference"反応をする傾向には安定性がないとか、いろいろあるけど、問題の解決には遠い。

 著者ら(Alfaro-Rodriguez, et al., 2007 Food Quality & Preference; Sung et al., 2011 J. Sensory Studies)は「プラセボ・ペアで"No preference"と答えた人がテスト・ペアでこう答えたか」に注目した研究を行ってきた。いわばプラセボ・ペアをスクリーナとして使うわけだが、サンプルサイズが1/3くらいになっちゃうのが欠点である。それに、プラセボ・ペアでは「外的要因」に惑わされた人でも、テスト・ペアでは製品属性の違いに目覚めて選好を回答してるかもしれない。
 問題は、消費者が「選好テストではどっちかを選好しなきゃ」と思っちゃっているという点にある。そういう思い込みを捨てて気持ちよく"No preference"とお答えいただき、スクリーナ通過者が増えるように、テストの外見と構造を修正したい。

 そこでtriadic選好テストをご提案します。
 3製品(実はうち2品が同一製品)を提示し選好を訊く。選択肢は、「2製品は同じ、残り1製品はそれより上」「2製品は同じ、残り1製品はそれより下」、「すべて同じ」、「3製品それぞれちがう」の4種類(紙に書いて見えるところに置いておく)。4番目の回答をした人はスクリーナを通過できなかったとみなし、除外して集計する。

 実験1。
 対象者は学生・大学職員、200名。刺激はジュース2銘柄(P,Q)。
 課題は2つ。課題1、通常の一対選好テスト。プラセボ・ペア、テスト・ペアの順。プラセボ・ペアはP-PとQ-Qの2種類(被験者を折半)。テスト・ペアはP-Q。休憩して、課題2、triadic選好テスト。
 結果。通常の一対選好テストでは、プラセボ・ペアに対する"No preference"は34%。triadic選好テストでは、スクリーナ通過者はなんと92%。

 実験2。教示をちょっと簡略化して変化をみる。[あんまり本質的な話じゃないと思うので略]

 考察。[プラセボ・ペアで選好が生じる理由について、急に大風呂敷を広げて議論しているけど、省略]

 いやあ。。。久しぶりに納得できない論文を読んだ。

 著者らいわく、同一の2製品(プラセボ・ペア)に対する選好テストで"No preference"率が低いということは、選好テストが製品属性以外のなんらかのノイズを被っているということを示している。ここまではわかる。
 そこで、そのノイズを減らすための工夫をしましょう、という話ならばよくわかる。また、ノイズを減らすのは難しいので、テスト・ペアだけでなくプラセボ・ペアについても選好テストを行い、プラセボ・ペアでの"No preference"率をノイズのサイズを表すベースラインにしましょう、という話であっても、よくわかる。
 いっそテスト・ペアとプラセボ・ペアを同一被験者に訊いちゃえ、という著者らのアプローチも理解できる。プラセボ・ペアで正しく"No preference"を選んだ人だけについて分析しましょう、というのも... おいおいずいぶん荒っぽい話だなとは思うけど、話の筋としては理解できる。
 しかし。この論文で著者らが云っているのは、そもそも選好テストにおける"No preference"反応率が不自然に低すぎるんだ、実験手続きを工夫して高めよう、という話なのである。あれれ? "No preference"率の低さは選好反応におけるノイズの強さを表してるんじゃなかったの? そのノイズの元を絶たずして、外見上の"No preference"率だけを高くしてもしょうがないんじゃない?
 著者らが示さないといけないのは、(1)一対選好テストにおける"No preference"反応率が、日常生活における選好とは異なり、一対選好テストそのものの課題特性によって不自然に低くなっているのだというエビデンス、(2)著者らが提案している新手法が、単に外見上の"No preference"率を高めているんじゃなくて、選好テストにおけるノイズの低減(著者らの主張によれば課題特性によるバイアスの低減)に寄与しているんだというエビデンス、なのではないかと思う。
 (1)が難しいというのはわかる。著者らにいわせれば選好と行動とは異なる概念であるから、結局のところ真の選好を示す外的基準は手に入らない。代わりに著者らは先行研究からそれっぽい定性的知見を引き合いに出しているけど(被験者の事後インタビュー)、議論としてはあまりに弱い。たとえば、"No preference"反応の検査再検査信頼性が低いというような証拠を出せばいいんじゃないかしらん。
 (2)についてはいろいろ調べる手があると思う。プラセボ・ペアの2製品の製品属性をちょっとずつ変えていって、既存手法と提案手法の判別能を比較するとか?

 ところでこの論文、実験手続きについてもかなり疑問があって、たとえば、実験1の手続きは変だと思う。被験者内で従来手法と提案手法の順で聴取し手法を比較している(それも刺激を使いまわして)。仮に試飲のたびに少しずつ真剣さが増してたらどうすんだ。従来手法と提案手法は被験者間で比較するか、被験者内だとしてもせめて順序をカウンターバランスするべきであろう。

 まあいいや。著者らの筋立てを離れて、提案手法について考えてみると...
 著者らは一対選好テスト(日本の伝統的な官能検査用語でいうところの「二点嗜好法」)を改善したいという入口から入って、新しい選好テストを開発するんだけど、結局のところ著者らが提案しているのは、日本で「三点嗜好法」と呼ばれているあの悪名高き手続きに近い。ちがいは、三点嗜好法ではまず3製品のなかの同一2製品を識別するように求め、次に選好を訊くのに対して、著者らの方法では識別を問わず、いきなり3製品の選好順序(タイあり)を訊く、という点である。
 よく知らずに勝手なことを言うけど、官能検査の方面の方々はこういう手法を嫌うんじゃないかと思う。感覚刺激に集中してもらうために、反応課題の認知負荷をできる限り軽くしようとするからだ。「この三つのうちどれが同じですか」「では同一の二つと残り一つのどちらが好きですか」を別々に訊く三点嗜好法が、いろいろ問題はあるとはいえ長く用いられてきたのは、個々の反応課題を単純にすべしという信念の表れではないかと思う。それに対して、3つの刺激の選好順位づけ、しかもタイありってのは、認知的に結構むずかしい課題だと思うのだが、どうだろうか。選択肢を紙に書いて見えるところに置いておかないといけないということ自体、このテストの認知負荷の高さを表しているのではないか。

 さらにいうと(嗚呼、いちゃもんがあふれ出てくる...)、そもそも「同一刺激に対してどちらかを選好した人は分析から除外する」という、著者らの枠組み自体がいかにもローテクに思えてしかたがない。百歩譲って、選好判断において製品属性以外のノイズに影響されちゃう人とそうでない人がいるとして、その個人差は二値的ではなく連続的なものだろう。むしろ、個人差の確率分布を仮定したなんらかのモデルをつくって、プラセボ・ペアでうっかりどっちかを選好しちゃった人のテスト・ペアへの回答には小さな重みをつけ、プラセボ・ペアで正しく"No preference"と答えた人には大きな重みをつける、というような、うまい統計的分析を考えたほうがいいんじゃなかろうか。

 なんか文句ばっかりメモしちゃったけど、考察のところに面白い話があったのでメモしておく。選好判断の妥当性を調べた研究は少なくて、9件法ヘドニック尺度でいえば論文が2本しかないそうだ。Peryam, et al. (1960) がのちの選択行動との関連を、Rosas-Nexticapa et al.(2005, J.Sensory Studies)がのちの購買行動との関係を調べている由。えええ、そんなに少ないかなあ? それは官能検査方面に限った話で、マーケティング分野での上市後売上予測に関する研究のなかで、もっとあるような気がするんだけど?
 ... おっと、また文句になってしまった。カルシウムが足りないのだろうか。

読了:Carderon (2015) 製品選好を訊く新手法

2016年9月17日 (土)

ウォレンドルフ, M., アポストローバ=ブロッサム, E. (2001) マーケティング・リサーチは創造性の源とはならない. Diamondハーバード・ビジネス・レビュー, 2001年6月号, 138-140.

 題名に惹かれ、原稿の役に立つかと思って取り寄せたんだけど...

  たった3ページの短い記事。恥を忍んで申し上げるけれど、私にはよく理解できない内容であった。冒頭部でいきなり「ポストモダン時代の消費行動には『衝動』的な面があり、ある意味、境界なく融合された自我の発露といえる」と言われて... えっ??? はい? ??

 理解できた範囲で言うとこういう内容。
 コマールとメラミドという画家が「国民の選択展」というプロジェクトをやった。これは各国の消費者に「何を描いてほしいか」等々とリサーチし、その結果に基づいてアートを制作するという企画であった。その目標は、マーケティング調査の結果に基づいて描かれた芸術作品に疑問を喚起することであった。
 「我々は、ポストモダンの文化産業への批評を通じて、個人的な体験と芸術的な創造性に関する洞察から、マーケティング・リサーチから出された数字の信憑性に異議を捉えられるはずだ」。

 賛否以前の問題として、著者らのいいたいことがつかめない。文章の脈絡がわからないのだ。本文と題名との整合性も乏しい(たぶん編集の方も題名をつけるのに困惑したのだろう)。これはなにかもっと長い文章から切り取ったものなのだろうか? まさか、翻訳が絶望的にまずいとか?

 それにしても、この記事、いろいろ謎が多い。
 記事の末尾に、「参考文献」としてギー・ドゥボール「スペクタクルの社会」、ならびにポストモダンマーケティング関係らしき文献が何本か挙げられているが、本文との対応がなく、なぜこれらが参考文献なのかわからない。もっと長い文章を切り詰めているんじゃないかと疑う所以である。
 日本人の方の論文で、この著者らの記事が本家HBRの同年同月号に載っているかのように引用しているのをみつけたが、HBRのデータベースを調べてみてもそんな記事は見当たらない。これは本家HBRからの転載記事ではないようなのだ。上記論文の著者の方は、ついついこの記事の英語原文を読んだかのように引用してしまったのではないかと思う。
 著者らは実在する。第一著者はたしかにアリゾナ大学の教授だ。CVをみると、2001年に"Post-modern Production and Consumption of Art"という記事がダイヤモンドHBRに日本語で掲載された、という記載があり、この記事と頁が一致する。元となる英語記事についての記載はない。
 CVによれば、著者らは2000年のACR年次大会で"The Role of Marketing Research in Consumer-Market Relationships: A case study of `The People’s Choice’ exhibit by Komar and Melamid"という発表を行っている。題名からして、たぶんこの発表がこの記事の基なのだろう。残念ながらACRのproceedingには載っておらず、内容は確認できない。

読了:ウォレンドルフ, アポストローバ=ブロッサム (2001) マーケティング・リサーチは創造性の源とはならない(という主旨なのかどうかよくわからない)

小阪玄次郎, 上智大学小阪ゼミナール (2014) 市場調査業界: ネットリサーチの登場と新旧企業の攻防. 一橋ビジネスレビュー, 114-129.

 目次に「ビジネス・ケース」って書いてあるから、そういう趣旨の記事なのだと思う。
 マクロミル、インテージ、クロス・マーケティングの比較。わたくし、たまったま市場調査の会社に拾って頂いたけど、もともとなんの関心もなかったもので、業界事情にはきわめて疎い。へー、あの会社ってそうなんだー、などと感心しながら読みました。
 マーケティングのケーススタディって案外批評性がないものなのね?なんてちらっと思っちゃったんだけど、末尾の注釈で、学生さんたちが講義の一環で書いたものだと知り、急に暖かい気持ちに。いやあ、立派だなあ。

読了:小阪 et al. (2014) 市場調査業界

2016年9月15日 (木)

Gibson, L.D. (2001) What's wrong with conjoint analysis? Marketing Research, 13 (4), 16-19.

 朝野先生のコンジョイント分析レビューで引用されていたので、ついでにディスプレイ上でざっと読んでみた。著者は自営の実務家だそうだ。掲載誌は米のマーケティングの団体が実務家向けに発行している機関誌で、ときどきこういう極論のコラムも載る模様。
 せっかくなので口語調でメモ。

 はっきりいわせてもらえば、コンジョイント分析って使えない。
 その理由を以下に示そう。

 なによりまず、属性や水準の数が多いとき役に立たない。これが最大の欠点。
 さらにいえば、何度も質問するから調査目的が対象者にわかってしまう。だから対象者は自意識過剰になっちゃって、価格を軽視したりしはじめる。これも欠点。

 改善案もあるって? 知ってますよ。
 改善案は大きく分けて2つある。ひとつめは、自己申告型の質問を併用するハイブリッドモデル。でもあれっておかしくない? そもそも、自己申告はあてにならない、トレードオフ型の質問をしなきゃだめだ、っていうのがコンジョイント分析の出発点でしょ? 自己申告でもいいですってんならなんでコンジョイント分析にこだわらないといけないの? 筋が通らないじゃない。
 ふたつめは、実験デザインと数理モデルをもっと複雑にしていく方向。そのおかげで、個々の対象者の個々の水準の価値を推測できるようになった。でも、「属性・水準が多すぎるとだめ」問題は解決できてない。

 結局、コンジョイント分析では、最初に誰かが「大事な」属性・水準を選ぶしかない。でもそれ、誰がどうやって選ぶの? どの属性・水準が大事かを決められる人がいるんなら、コンジョイント分析なんていらないじゃないですか。
 コンジョイント分析のためにはちゃんと選んでくれる顧客も選ばなきゃいけない。たとえば、特定のブランドに深くコミットしている人はそのブランドの選択肢ばかり選ぶので、選択シミュレーションの役に立たない。でも、どんな顧客を選んで実験するのか、実験の前にどうやったらわかるの?

 コンジョイント分析は属性と水準の重要性を測定するわけだけど、重要性とブランド選択とはちがうものだ。だとえば、新車にとって信頼性がおけることはとても重要だけど、新車というものは信頼できるものだから、信頼性は新車の選択に影響をもたらさない。
 さらにいえば、コンジョイント分析では、調査者が選んだ属性と水準の重要性が過大評価されてしまう。

 コンジョイント分析では、すべての対象者がいろんなブランドの属性・水準を客観的に把握すると仮定している。たいていの場合、これは現実的な仮定じゃない。人間の選択ってのは主観的な知覚に基づいていて、それは個人的な価値と相互作用している。知覚と現実と関係は一対一じゃない。
 それに引き替え、自己申告型(self-explicated)の選択モデリングは個人のブランド知覚に容易に対応できる。[←著者はself-explicatedという言葉を、選択時の属性知覚と部分効用を自己申告させるという意味で用いている]

 限られた属性・水準と非現実的なモデルに依拠するコンジョイント分析のせいで、嗚呼、どれだけの収益機会が失われてきたことか。
 レストランでは喫煙者より非喫煙者のほうが席を長く待たないといけないことがある。そのことについてのネガティブな知覚の重要性をあきらかにしたコンジョイント分析が、これまでにあっただろうか?
 コンジョイント分析では、属性の組み合わせに基づく戦略の収益性も見逃される。複雑な交互作用を扱えないからだ。
 潜在的に重要な属性を含めるのも難しい。チューインガムの属性として「歯を白くする」を含めることができるのは自己申告型の手法だけだ。
 コンジョイント分析では顧客の知覚を測っていないから、誤った知覚を訂正することもできない。

 それに引き替え、自己申告型選択モデリングの妥当性を示す証拠は蓄積されている。Green & Srinivasan (1990) のレビューをみよ。Srinivasan先生ってのはね!AMAの賞を貰った偉い先生なんだよ!
 Marder(1999, CanadianJ.Mktg.Res.)はSUMMという自己申告型モデルを作っている。このモデルでのシミュレーションと、実際の選択実験の結果と比べると、なんと相関0.88なんだよ!
 自己申告型のモデルは単純で優秀。クライアント様の収益機会発見をお手伝いするためには、やっぱり自己申告型モデルだよ!!

 。。。あー、いるいる!いるよね、こういうこと言う人!
 と一人で盛り上がりながら楽しく読了。市場調査に関わる(おそらくベテランの)方々がいかにも言いそうなコンジョイント分析批判を集めてきて、鍋でとろーりと煮詰めました、という感じの内容である。あまり論理的ではないけれど、読みやすく刺激的な内容であった。
 ご主張への賛否は、ま、読み手に任されている問題であろう。私は内容のうち1割くらいが著者ご自身の概念的混乱、残り九割はただの言いがかりだと思ったし、わけのわかんない理屈で褒められた自己申告型手法のほうもいい迷惑だろうと心配したが、この手のご意見とどうやって向き合うかを考える機会が得られるという意味で、勉強になる文章であった。こういう極論が、酒場での放言を超え、ちゃんと活字になっているという点が素晴らしいですね。

読了:Gibson(2001) コンジョイント分析をディスり倒す

2016年8月25日 (木)

Surachartkumtonkun, J., Patterson, P.G., McColl-Kennedy, J.R. (2013) Customer rage back-story: Linking needs-based cognitive appraisal to service failure type. Journal of Retailing, 89(1), 72-87.
 ちょっと都合があって目を通した論文。魅力的なタイトルだが、要するに横断研究である。

 いわく。
 顧客の激怒とその帰結についての研究はあるけど、激怒にいたるまでのバック・ストーリーに注目した研究は少ない。わずかに、激怒は人間の基本的要求(正義とか自尊心とか)のハンドリングのミスによって生じるという理論研究があるくらいだ。サービスの失敗から激怒に至るまでの認知的評価(cognitive appraisal)プロセスと、そのプロセスに影響する諸要因について調べる必要がある。
 本研究ではストレス・コーピングの理論に基づいて、認知的評価とサービス失敗の関係を調べる。注目するのは、最初の失敗(エピソード1)とリカバリの失敗(エピソード2)。顧客は西洋人(US)と東洋人(タイ)。 キー・クエスチョンは次の2つ。(1)サービス失敗のタイプと、激怒に至る認知的評価の関係。(2)文化はその関係のモデレータになっているか。

 ここから理論的議論。長い。めんどくさい。

 Affective event theory(AET; Weiss & Cropanzano 1996)によれば、出来事の認知的評価が感情を引き起こす。その感情価は自分のwell-beingに対してそれが脅威か利益かという知覚で決まる。[←AETって知らなかったけど、要はラザルスの認知的評価理論の組織研究版みたいなものらしい]
 ストレス・コーピングの理論によれば、人はネガティブ感情反応において不均衡状態を感じ、コーピングにより通常の状態へと復帰しようとする。コーピング戦略には問題焦点型と感情焦点型がある。激怒はコーピング戦略のひとつと捉えられる。

 話変わってサービス失敗について。大きくわけて初期失敗とリカバリ失敗がある。失敗のタイプとしては、核心的失敗、従業員の鈍感な行動(無能さを含む)、不適切な行動(無礼とか)、遅延、非倫理的行動、にわけられる。[←さすが、すでにこういう分類があるのね。Bittner, et al.(1990 J.Mktg.), Keaveney (1995 J.Mktg.)というのが挙げられている。]

 認知的評価とネガティブ感情について。
 人間の基本欲求への脅威は強いネガティブ感情を引き起こす。激怒につながる脅威として以下が挙げられるだろう:資源欲求への脅威(カネと時間)、自尊欲求への脅威、公平性知覚の欲求への脅威、制御欲求への脅威、安全欲求への脅威。

 文化について。人は世界の理解において文化モデルに依存する。[...Hofstedeの文化次元の話。いまちょっとそういう気分じゃないのでパス...]

 そんなこんなで、以下の仮説が導かれる。(安全欲求への脅威はレアだろうから、仮説には出てこない)

 データ。
 過去半年以内にサービス失敗で激怒した覚えのある人に、その経験の詳細な自由記述を求めた。サービスの業種は問わない(ホテルとかデパートとか)。バンコクで212名、US西海岸で223名。回答をエピソード1, 2にわけ、 結局、全体でエピソード1が435例、2が415例となった。あらかじめ用意したコーディング・フレームによって、5タイプの失敗、5タイプの脅威へとコーディングした。
 [フレームはアプリオリに決めたよ、と何度も強調している。おそらく、ここがこの分野でこの定性的アプローチを押し通すための鍵なのだろう。コードの体系をデータから立ち上げていくやり方だと相手にされないんだろうな、きっと]

 分析。
 エピソード1,2別に、4つの脅威の発生を従属変数とし、階層ロジスティック回帰モデルを計8本組んだ。独立変数は、失敗タイプ(エピソード1では5つ、エピソード2では核心的失敗を除く4つ)、国、国と失敗タイプの交互作用、そのほか対象者属性。失敗タイプはエピソード内で重複していて排他分類できないんだそうで(そりゃそうだよな。無能かつ無礼な店員というのが存在しうる)、全部ダミー変数になるので、結構でかいモデルになっている。
 [恥ずかしながら、なぜ「階層」ロジスティック回帰なのかがよくわからない。だってこれ、一人一票でしょ? たしかに国で階層化されたデータではあるけれど、モデル上は国の効果と国x失敗タイプの交互作用をいれただけじゃないのかなあ]
 結果は... エピソード2のH2, H4a, エピソード1のH8を除きすべて支持された由。[正直、結果には全然関心ないので、ちゃんと読んでない]
 ロジスティック回帰じゃなくてPLSモデルでも再現できた由。

 考察。[...略...]
 実務への含意としては、失敗のリカバリにあたって顧客の心的・経済的な損失に合致したオファーを出すことが大事でしょう。自尊心の脅威を感じているんなら謝罪して傾聴して支援するとか。公平性に脅威を感じているんなら説明するとか。実のところ、顧客が何をどう認知的に評価してるかなんてわかんないけど、失敗タイプからあたりがつけられるんじゃないでしょうか。遅いと不満を云っている→資源脅威だ、みたいに。
 云々、云々。

 。。。要するに、顧客はなぜ激怒するか?それは人間としての基本欲求に対する脅威を認知したからだ。という枠組みに基づく研究である。その枠組みのなかでは、面白い研究なんだろうな、たぶん。なかなか文化間比較なんてできないっすよね。自由記述でコーディングってのも手間がかかっている。

 いまこの瞬間にも、電話口や店先では顧客が激怒し、従業員はなにもできずただ歯を食いしばって頭を下げていることと思う(親鸞聖人は正しい。地獄は一定すみかぞかし)。その激怒のうち、この論文で想定されているようなクールな激怒(認知的評価理論があてはまるような激怒)って、果たして何割くらいなんだろうか。認知的評価より感情的反応が先行しちゃってる場合もあるだろうし。俺はとにかくまず怒鳴る男だ!理屈は怒鳴りながら考えるぜ!という行動先行型の激怒もあるだろうし。そもそも病気の人もいるだろうし。
 個別具体的に顧客に向き合うサービス実務最前線の人にとっては、その判別こそが最大の関心事だろうと想像するのだが、さすがにその割合は、サービスの性質や環境要因で変わってきちゃうので、一般化できないんでしょうね。

読了:Surachartkumtonkun, et al. (2013) 顧客の激怒のバック・ストーリー

2016年6月14日 (火)

 広告の世界ではよくリーチ(到達率)とフリケンシー(平均接触回数)という言葉が使われているけれど、よく考えてみたら物事そんなに単純なものなの? 平均回数なんてどうでもよくない? ... と、データを分析している途中で急に不思議に思い始めて、試しに論文を適当に選んで読んでみた。
 広告の話には疎いし、雰囲気が華やかすぎて近づきたくないんだけど、仕事とあらばそうも言ってられない。その辺の本で勉強したほうが早いのかもしれないけど、正直なところ、美しく整理された教科書を読んでいるより、書き手の主張が前に出ている論文を読んでいるほうがなんぼか楽しい。

Cannon, H.M., Leckenby, J.D., Abernethy, A. (2002) Beyond effective frequency: Evaluating media schedules using frequency value plannning. Journal of Advertising Research, 42(6), 33-46.
 googleによれば被引用回数48件という風情ある論文。ネットでPDFファイルを見つけたんだけど、スキャンが悪くて読みにくく、仕方なく2011年のワーキング・ペーパーを読んだ。たぶん中身は同じだと思う。

1. イントロダクション
 平均的なオーディエンス・メンバーをある広告メッセージに対して有効的に接触(effectively expose)させるために必要なビークル接触数の平均を有効フリケンシーと呼ぶ。また、特定のターゲット集団のうち上記のレベルで接触した人の人数(ないし割合)を有効リーチと呼ぶ。
 [えーと、仮に部屋のテレビからCMが3回流れてきたとき、そのときに限りブランド名の記銘が生じるとして、有効フリケンシーは3、有効リーチは「3回以上見た人」の人数だ]

 有効リーチと有効フリケンシーに基づいたメディア・プランニングを有効フリケンシー・プランニング(EFP)と呼ぼう。
 EFPは広告業界に広く普及している。しかし、考え方が単純すぎるだろうという批判もある。有効フリケンシーという考え方が正しいならば、広告の効果はビークル接触に対してある閾値を持つわけで、広告反応曲線はS字型になるはずだけど、実際には反応曲線はconcaveになることが知られているではないか。
 これに対し、本論文はフリケンシー・バリュー・プランニング(FVP)を提唱いたします。

2. パラドクスのルーツ
 EFPのような誤った考え方がなぜ普及してしまったのか。理由は3つある。
 その1、リーチと平均フリケンシーという伝統的な概念に対する不満。
 歴史をさかのぼろう。昔々、プランナーは広告プランニングのためにメディアにウェイトをつけていた。60年代初頭、定量的メディア分析の諸概念がはいってきて、リーチとフリケンシーの推定が重要な関心事となった。コンピュータの登場により、平均フリケンシーじゃなくてフリケンシーの分布が注目されるようになった。80年代初頭の広告研究はフリケンシー分布で溢れている。
 代理店のなかには洗練されたプランニング・システムを構築したところもある[Foote, Cone and Belding Communicationsという名前が挙げられている。現在はFCBという社名、Interpublic傘下である由]。しかし多くの代理店は、比較的に低レベルなスタッフにも使いこなせるようなシンプルなルールを求めた。「3回以上のリーチが必要だ」というような。それでもまあ、単純なリーチと平均フリケンシーに頼っているよりは、ずいぶんましである。
 というわけで、有効フリケンシーはメディアプランニングに欠かせない概念となった。おかしいのはわかっているけど、いまさら止められない。
 その2、表面的妥当性。
 コミュニケーションにはなんらかの閾値があるだろうという考え方は、理論家にも受け入れられやすいし、素人の直感にも合う。Krugman(1972, J.Ad.Res.)はこういっている。1回目の接触での消費者の反応は"What is it?", 2回目は"What of it?"、だから3回の接触が必要なのだ、と。なんでビークルに物理的に3回接触する必要があるのか、よく考えてみると全然説明になっていないけど。ともあれ、マジック・ナンバー「3回」は広告業界のスタンダードになってしまった。
 その3、かつての研究結果。Ackoff&Emshoff(1975)によるバドワイザーの研究とか[←恥ずかしながら存じませんでしたが、そういう古典的研究があるのだそうだ]、Naples(1979, 書籍)とか。

3. フリケンシー・バリュー・プランニング
 かつて我々はEFPに代わる枠組みとして最適フリケンシー・プランニング(OFP)というのを提案している(Cannon & Riordan, 1994 J.Ad.Res.)。個々の接触回数に値を割り当てておき、スケジュール案ごとに値の合計を求め、それが最大となるスケジュールを選ぼうという話である。このたびご提案するFVPはその改善版である。

 えーと、まず(a)マーケティング・コミュニケーション戦略を決めます。(b)メディア・オブジェクティブとゴールを決めます。DAGMARに従い、ブランド認知だとか実購買だとか、なんらかの消費者反応に注目するわけです。(c)予算制約の決定。外部的に与えられることも多いけど、ほんとは(b)と相互作用するし、ほんとは以下のFVP分析の結果に応じて見直さないといけない。
 ここからがFVP分析。(d)スケジュール案をつくる。(e)接触頻度分布を推定。(f)広告反応曲線の推定。(g)フリケンシー・バリューの算出。

 (e)所与のスケジュール案の下での広告接触頻度分布の推定について。
 定量的メディア・プランニングにおけるもっとも顕著な発展の一つは、頻度分布を推定するための数理モデルの構築であった。それらのモデルは、ある人があるメディア・ビークルに接触する確率(opportunities to see, OTS)の推定値に基づいている。しかし、それらのモデルが広告接触には適用できないと考える理由はない。単に、メディア・ビークルをメディウムではなく実際の広告として狭く定義するだけでよい。従って、(雑誌への接触確率ではなく)雑誌の特定のページへの接触確率が頻度分布モデルの入力となる。得られる結果は、ターゲット集団のうち何パーセントが、その実際の広告に1回接触するか、2回接触するか、...を示す分布である。
 先行研究によれば、分布の推定のためのもっとも実用的なツールはおそらくsequential aggregation法である。この方法は理論的基礎、正確さ、計算速度のあいだでうまくバランスをとっている(Rice & Leckenby, 1986 J.Ad.Res.)。[...]
 sequential aggregationモデルにもいろいろあるが、そのなかでも単純かつパワフルなアプローチにMSAD (Morgenzstern Sequential Aggregation Distribution) がある。この方法はMorgenzsternのリーチ方程式に基づいている。雑誌・テレビのスケジュールに関してはとても正確なモデルであることがわかっている。[...ここでMSADの説明があるが、いまいちわからんので省略。接触頻度分布は母比率が変動する二項分布だからベータ二項分布で表現すりゃいいじゃんと思ったのだが、調べてみたところ、ベータ二項分布ではちょっと問題があって、いろいろ修正案があって、その一つがMSADなのだそうだ。ふーん]
 既に述べたように、任意の頻度分布モデルはOTSデータだけでなく広告接触についても適用できる。従って、広告接触の頻度分布の構築は、ビークル接触の頻度分布の構築と異なる固有な問題を持っているわけではない。問題は、モデルの入力として必要な広告接触確率をどうやって推定するかである。この一般的問題に関しては膨大な文献があるが、必要な推定値を得るための実用的なガイダンスはきわめて少ない。[...]
 [...ビークル接触確率に頼ってちゃだめだという説教が一段落あって...]
 必要な推定値を得る基礎的な方法が2つある。
 ひとつはノーミングである。[...] 広告接触とビークル接触の比についての実証研究に基づき、ビークル接触データを修正するファクターを構築する。たとえば、もしあるテレビ番組が視聴率10.0を持っており、過去の研究から類似の番組における広告への視聴者の接触率が50%であると示唆されているならば、広告接触の予測を5.0とする。

 ふたつめはモデリングである。

 (f)広告反応曲線の推定について。
 $i$回の広告接触への反応$R_i$についてモデル化する。concaveだと想定すれば
 $R_i = R_\infty (1-\exp(-a-bi))$
 S字型だと想定すれば
 $R_i = R_\infty / (1-\exp(a+bi))$
 具体例を示そう。まず上下限を決める。Foote, Cone & Belding社によれば、メッセージ認知の典型的な上限は85-95%、下限は5-35%だそうだ。なので、まずは最大値を90%、最小値を20%と定める。
 メッセージ認知に必要なフリケンシーには多様な要因が影響する。たとえば新製品だと必要なフリケンシーは高くなるだそうし、コピーがユニークであれば低くなるだろう。そこで、13個の要因を洗い出し、それらが今回のキャンペーンにあてはまるかどうか、0~1の評定値を与える。で、必要なフリケンシーが高くなる要因には+1、低くなる要因には-1を掛ける。いっぽう、13個の要因に重要性を割り振る(和が100になるように)。で、評定値に重要性を掛けて合計を求める。結果は-0.33となった。ちょっと楽観的にみてよいだろう。さっき最大値を90%と決めたけど、最大値には±5%の幅があったから、90%+0.33x5%=91.65%、最小値には±15%の幅があったから、20%+0.33x15%=24.95%ってことにしよう。
 concaveモデルを採用しよう。$b=-\log(1-R_1/R_\infty)$だ。$R_1=0.2495, R_\infty=0.9165$と仮定すれば$b$が決まる。ほら、広告反応曲線が推定できた。[←はああ?! いやコレ、ものすごい理屈だなあ...]

 (g)フリケンシー・バリューの算出について。
 (e)で求めた広告接触回数の分布と、(f)で求めた接触回数ごとに広告反応率の積和をとる。これが所与のスケジュール案の下での市場反応の推定値(Total Frequency Value, TFV)となる。
 これをGRPで割ったのがFrequency Value Per GRP(VPG)。メディア効率を示す。ここでGRPというのは通常のビークル接触のGRPじゃなくて、接触回数と広告接触回数分布の積和、つまり広告接触のGRPである。
 [ここからコストを加味した指標の話になるけど、面倒なのでパス]

4. まとめと結論
[今後の課題がいろいろ書いてあったけど、省略]

 。。。この分野についてまるきり不勉強なんだけど、(e)広告出稿スケジュールを入力とした広告接触頻度分布の推定については、長い歴史と豊富な研究があることがよーくわかった。
 同時に、(f)広告接触頻度を入力とした広告反応のモデルについては、少なくともこの論文の段階では、ろくなモデルがないということもわかった。さすがにスリー・ヒット・セオリーよりはましだけど、この係数推定はアンマリではないでしょうか。研究者のみなさん、もうちょっと頑張ってくださいな。[←超えらそう]
 いまはシングル・ソースのパネル・データがあるから、ビークル接触履歴と広告反応の関係が個人ベースでわかるわけで、広告接触履歴を潜在変数にして(f)と(g)を同時推定できると思う。そういう研究を探しているんだけど、どこかにないだろうか。きっとあるんだろうな、探し方が悪いだけで。

読了:Cannon, Leckenby, Abernethy (2002) 有効フリークエンシーを超えて:フリークエンシー価値によるメディア・プランニング

2016年4月18日 (月)

Bass, F.M. (1969) A new product growth for model consumer durables. Management Science, 15(5), 215-227.
イノベーション普及のBassモデルを最初に提案した論文。原稿で引用したいのだが、いくら超有名な論文とはいえ、読んでもいないのを引用するのは気が引けるので、いちおうざっと目を通した次第。

面白かった点をメモ:イントロに「この理論は数学的には感染モデルに由来している。感染モデルは疫学において幅広く用いられてきている」とある。ああ、そりゃそうか、疫学のモデルのほうがずっと古いだろうな(WikipediaでSIRモデルの項目を見たら、原型のKermack & McKendrickはなんと1927年に遡る)。Bassモデルに限らず、初期のマーケティング・サイエンスってのは他の分野に学ぶところが多かったのだろう。

読了:Bass(1969) 諸君、俺の名をとってこれをBassモデルと呼び未来永劫語り継ぐがよい (とは書いてないけど)

2016年4月11日 (月)

 「製品・サービスの普及をBassモデルで推定したいよ!でも時点数が足りないからうまく推定できないよ!」「じゃあ時点数が足りるまで待てば?」「うぎー!そんなに待ってたら推定する意味ないじゃん!」というジレンマに対し、「じゃあさ、過去データからパラメータの事前分布みたいのを作っといて、手元のデータでベイズ更新しようよ」という路線のモデルがある。
 先日読んだSultan et al.(1990)は、過去データから求めたBassパラメータと手元のデータから求めたパラメータをGoldberger-Theilアプローチというので結合する、という提案であった。

Lenk, P.J., & Rao, A.G. (1990) New Models from Old: Forecasting Product Adoption by Hierarchical Bayes Procedures. Marketing Science, 9(1), 42-53.
 いっぽう、この論文ははなっから階層ベイズモデルを使うという提案。こっちのほうが気が利いているような気がする。

 まずはBassモデルのおさらいから。潜在受容者数を$m$、時点$t$における累積受容者数を$N(t)$として、新規受容者は
 $N'(t) = \left( p + q \frac{N(t)}{m} \right) \left( m - N(t) \right)$
$F(t) = N(t)/m$として、
 $F'(t) = \left( p + q F(t) \right) \left( 1 - F(t) \right)$
これを解いて、
 $\displaystyle G(t) = c \ \frac{1 - \exp(-bt)}{1 + a \exp (-bt)}$
$G(t)$は受容までの時間の累積密度関数, $a=q/p, b=p+q, c=m/M$, $M$は母集団サイズ。
 ここで、年間売上$X_t$について
 $X_t / M = \Delta G(t) + \epsilon_t$
と定式化する。$\Delta G(t) = G(t)-G(t-1), G(0)=0$。$\epsilon_t$はiidな正規誤差と考え、その分散を
 $Var(\epsilon_t) = \Delta G(t) (1-\Delta G(t)) \sigma^2$
と仮定する。売上のレートが高ければ分散も大きいだろう、という仮定である。ほんとは$X_t / M$は非負でないとおかしいし、合計は1以下でないとおかしいけど、とりあえずこの2点の制約は忘れる。
 [このくだり、いまいち腑に落ちていない... Srinivasan & Mason(1986, MktgSci.)をみるとよいらしい]

 ここからが本題。ここに階層ベイズ(HB)モデルを導入する。まずはHBモデルとはなにか、ご紹介しましょう。[←こういうところ、時代だなあ]
 いま$K+1$群の母集団があり、それぞれ$N(\theta_k, \sigma_k^2)$に従っているとしよう。最初の$K$群のそれぞれから無作為標本$X_{k,1}, X_{k, 2}, \ldots, X_{k, n(k)}$を得る。標本平均$\bar{X}_k$は$\theta_k$の十分統計量である。$\bar{X}_k$の尤度は$N(\theta_k$, $\sigma^2_k/n(k))$から得られる。
 いま$\theta_1, \theta_2, \ldots, \theta_{K+1}$が$N(\phi, \tau^2)$からのiidドローであるとしよう。$\phi$は未知だが$\tau^2$は既知とする。これを第一段階事前分布と呼ぶ。$\phi$は$N(\mu, \xi^2)$に従うとしよう。これを第二段階事前分布と呼ぶ。
 $\bar{X}_k$の周辺分布は$N(\mu, \sigma^2_k/n(k) + \tau^2)$。最初の$K$群からの標本が観察されたとして、$\phi$の事後分布$N(\mu_K, \xi^2_K)$について考えると、$\mu_K$は標本平均$\bar{X}_k$の周辺分布の分散の逆数を重みにして、事前平均$\mu$との加重和をとったものになり、$\xi^2_K$はウェイトと$\xi^{-2}$の和の逆数となる。
 第$K+1$群からの標本を観察する前の$\theta_{K+1}$の予測分布は$N(\mu_K, \tau^2+\xi^2_K)$となる。最初の観察事例$X_{K+1, 1}$の予測分布は$N(\mu_K, \sigma^2_{K+1}+\tau^2+\xi^2_K)$となる。$n(K+1)$の標本を得たときの$\theta_{K+1}$の事後分布について考えると、それは正規分布で、平均$\tilde\theta_{K+1}$は第$K+1$群からの標本平均と$\mu_K$とを、それぞれの分散の逆数を重みにして加重和をとったものとなる。云々...
 [丁寧に説明してくださっているんだろうけど、勉強不足のせいでちょっと理解できない箇所が... ま、あとでゆっくり考えよう]

 エアコン(13年間)、カラーテレビ(8年間)、衣類用ドライヤー(13年間)、超音波診断装置(14年間)、マンモグラフィー(14年間)、外国語プログラム(12年間)、加速教育プログラム(?)(12年間)の、7本の普及曲線を使う(各時点をケースとみるわけである)。$k$番目のカテゴリのパラメータを$\theta_k = \{logit(c_k), logit(p_k), logit(q_k), 2log(\sigma)\}$とする。$\theta_k$の第一段階事前分布を$MVN(\mu, \Sigma)$とする。7カテゴリしかないので、推定の都合により$\Sigma$の非対角要素はゼロとする。ハイパーパラメータ$\phi = (\mu, \Sigma)$にはJeffreyの無情報事前分布を与える。
 6カテゴリで事前分布を推定して1カテゴリを予測、というのを繰り返す。当該の普及曲線をMLで推定した場合と比べると、初期の売上が低い場合はHBのほうが有利、6カテゴリと大きく違うカテゴリについてはMLのほうが有利。

 細かいところ、よくわからない点が多い... 勉強不足を痛感いたしました。
 90年の論文なのでMCMCは出てこない(数値積分をモンテカルロ積分でやっているけど)。そのほかにも、いまならちょっとこういう書き方はしないんじゃなかろか、という箇所があった。もうちょいと新しいのを読んで、きちんと勉強しよう。

 ... それよかですね、この論文の白眉(?)は、このあとについたコメントと返答なのであります。実をいうとそっちを先に読んでいて、ちょっと笑っちゃったので、本編を探して読んだ次第である。

Vanhonacker, W.R. (1990) On Bayesian Estimation of Model Parameters. Marketing Science, 9(1), 54-55.
 Lenk-Raoの提案、実にすばらしい。いくつかコメントしたい。
 彼らのアプローチはこうだ。

このアプローチはある重要な想定に基づいている。すなわち、交換可能性だ。事前分布$N(\phi, r-2)$は交換可能な事前分布である。つまり、$\theta_k$の事前情報は異なる$k$のあいだで同じである。このことは、Bassモデルのパラメータについての事前情報が産業材でも消費財でも同じだと考えていることに相当する。これは現実にそぐわない。
 このように、HBはパラメタの異質性を確率的に表現してはいるものの、いかなるパラメータについても事前分布が弁別できない。事前知識はパラメータの異質性を含んでいないのである。ここがベイジアン・モデルの非現実的なところだ。仮に事前分布を別の形で表現しても本質はかわない。異質性が持っているシステマティックな性質を事前情報に組み込むことができていない。
 今後は、Lenk-Raoがappendixで触れているような、事前分布に説明変数を組み込むアプローチが期待される。また、これは僕らがやっているアプローチなんだけど、Goldberger-Theilの再帰推定量という考え方を用いて、異質性の既知の構造を線形のパラメータ構造に統合していくという方法も考えられる。すなわち、

このやり方だと初期予測を簡単に手に入れられるよ。

Lenk, P.J., & Rao, A.G. (1990) Reply to Wilfried R. Vanhonacker. Marketing Science, 9(1), 56-57.
 Vanhonacker先生、コメント誠にありがとうございます。光栄に存じますが、なんか勘違いしておられるようです。

 うっかりコメントしたらもうコテンパンな目に... Lenk & Rao, おそろしい子...

読了:Lenk & Rao (1990) 階層ベイズなBassモデル (心温まるコメントと背筋の凍る返答つき)

2016年3月25日 (金)

van Everdingen, Y.M., Aghina, W.B., Fok, D. (2005) Forecasting cross-population innovation diffusion: A Bayesian approach. International Journal on Research in Marketing, 22, 293-308.
 要するに、クロス・カントリーのイノベーション普及モデル。
 いわく、本研究の特徴は2つ。(1)モデル。先行モデルはPutsis et al.(1997 Mktg Sci.)で、これに時変パラメータを入れるところが新しい、さらに国間でパラメータを比較できるように国の違いを吸収するパラメータを入れる(サンプル・マッチングという由)。(2)推定方法。先行研究から事前分布を持ってきて、アダプティブ・ベイジアン推定(Xie et al.(1997 JMR)のaugmentedカルマン・フィルタ)を使う。

 以下、モデルの説明と推定方法の説明、データへの適用例、先行モデルとの比較。メモは省略。 細かいところは読み飛ばしたが、雰囲気はわかったので良しとしよう。

読了:van Everdingen, Aghina, Fok (2005) クロス・カントリーのイノベーション普及モデル

Peres, R., Muller, E., Mahajan, V. (2010) Innovation diffusion and new product growth models: A critical review and research directions. International Journal on Research in Marketing, 27, 91-106.
 原稿の足しになるかと思って読んだ。

 消費者間相互作用に基づくイノベーション普及モデルのレビュー。イノベーション普及モデル全般のレビューではない。全般について知りたかったら、Mahajan et al. (2000 書籍), Meade & Islam (2006 Int.J.Forecasting), Hauser, Tellis & Griffin (2006 Mktg.Sci.), Chandrasekaran & Tellis (2007 Chap.), Krishnan & Suman (2009 Chap.)を読め、とのこと。

1. イントロダクション [メモ省略]

2. 市場内の普及

2-1. 社会ネットワークにおける普及。すでに Van den Bulte & Wuyts (2007 書籍)というレビューがある。いちばん注目されているのはインフルエンサーの影響、ついでネットワーク構造の影響。
 こうした研究のおかげで、消費者は異質だねということになり、普及モデリングも累積ベースから個人ベースにシフトしつつある。アプローチとしてはエージェント・ベース・モデリングが多い(たとえばセルラー・オートマトン)。特長: (1)個人レベルのマーケティング活動を累積レベルのパフォーマンスにつなげやすい、(2)いろんな相互依存性を区別しやすい(ネットワーク外部性の効果はこれこれだ、とか)、(3)消費者異質性をモデル化しやすい、(4)空間モデルを組みやすい。
 個人レベルモデルのパラメータと、累積レベルモデルのパラメータ(Bassモデルでいうpとq)との関係は、今後の課題。

2-2. 普及とネットワーク外部性。研究史は20年ほどあるが、ネットワーク外部性が成長にどう効くのか、いまだ合意が得られていない。(1)faxのような直接的効果と(送受信相手がいないと意味がない)、ソフトウェアのような間接的効果を分ける必要がある。(2)グローバルな外部性とローカルな外部性(知り合いが採用しているか)とを分けて考えないといけない(の注目はグローバルからローカルにシフトしている)。(3)マーケティング戦略によるちがいも考えないといけない(携帯の家族割とか)。
 先行受容者が多いことがネットワーク外部性を生んでいるのか模倣を生んでいるのか区別する研究も出てきている。

2-3. テイクオフとサドル。横に時間、縦に成長率をとったとき、古典的なBassモデルだと一山になるけど、上市後ちょっとしてから急速な伸びが始まり(テイクオフ)、いったん小さな山ができ、ちょっと落ち込んで(サドル)、今度は本格的に上昇する、という考え方が出てきている。
 テイクオフはだいたい6年後、潜在市場規模の1.7%を占めたあたりではじまるという報告もある。値引きとか製品カテゴリとか文化的諸要因(不確実性回避とか)の効果を調べた研究もある。テイクオフには相互作用は効かず、むしろ異質性で決まっていると考えられる。
 サドルはムーアのいうキャズムって奴。説明としては、(1)マクロな技術変化とか経済とかによる説明、(2)相互作用による説明(情報カスケード)、(3)異質性による説明。

2-4.技術世代。普及が終わる前に次の技術世代が出てきちゃうときどうなるかという研究。特に、世代が下ると普及が早くなるかという点が注目されている。実務的にはもちろん、理論的にも興味深い(社会システムは世代とともに受容能力が上がるかという話だから)。成長パラメータは世代を通じて一定だという研究が山ほどある一方、普及速度は全体にどんどん早くなっているという研究もある。この矛盾に対する説明として、パラメータは世代でも時代でも変わってないけどテイクオフのタイミングが時代とともに早くなっているのだという説がある。
 異質性に注目して、ある技術世代のラガードが次の技術世代のイノベータになっちゃうという説もある[←おもしれえー!]。Goldenberg & Oreg (2007 Tech.Forecasting.Soc.Change)。
 新技術世代がはいってくると何が起きるかは大変複雑。(1)市場の潜在規模は大きくなると考えられている。(2)技術世代間にカニバリが起きるかも。(3)世代をすっ飛ばして蛙飛びするユーザもいるかも。個別の研究はあるけど、統一的枠組みが必要。

3. 市場間・ブランド間の普及

3-1. 国のあいだの影響。90年代以降、研究が山ほどある。上市が遅い国のほうが普及が速くなるという研究が多い(リード・ラグ効果)。国間の影響をモデルに取り込む研究も多い。国間の影響はコミュニケーションによって生じると考えている研究もあれば、メカニズムは考えてない研究もある。今後はコミュニケーションとシグナルを分ける必要がある。個人レベルモデルが有用だろう。
 ゲーム理論で規範モデルをつくるという研究もある。

3-2. 国による成長の違い。これも研究が山ほどある。競争が激しい市場では普及が速いとか。ハイコンテクストな文化では速いとか(Takada & Jain, 1991 J.Mktg.)、多様性が大きいと遅いとか。GDPが大きい国では速いとか、所得の不平等が大きいとむしろ速いとか(Van den Bulte & Stremersch, 2004 Mktg.Sci.)。[←不平等の話、面白いけど、文化的要因と区別できるんだろうか]

3-3. 成長における競争の効果。[この項、すごく長い。ざっと目を通したところ、面白いんだけど論点が死ぬほど多い。ここだけで一本のレビューになるんじゃないかしらん。疲れたのでメモは省略]

4. 今後の方向。[ここまでの内容の総ざらえという感じで、いろんなことが書いてあって疲れるので、面白かった話のみ抜き書き。ほんとはネットワーク分析の話が一番長かったんだけど、どばっと省略]

 ... というわけで、かなり適当に読み流しちゃったけど、知りたい話が書いてないことがわかったので良しとしよう。

読了:Peres, Muller, & Mahajan (2010) 消費者間相互作用とイノベーション普及

2016年3月16日 (水)

Sultan, F., Farley, J.U., Lehmann, D.R. (1990) A meta-analysis of applications fo diffusion models. Journal of Marketing Research, 27(1), 70-77.
Sultan, F., Farley, J.U., Lehmann, D.R. (1996) Reflections of "A meta-analysis of applications of diffusion models." Journal of Marketing Research, 33(2), 247-249.
 原稿の都合で読んだ。前者は題名の通り、新製品・新サービスの普及モデル(具体的に言うとBassモデル)の実データ適用についてのメタ分析。この論文は学会の大きな賞をもらったのだそうで、後者は著者らによる受賞記念コメント。
 
 まず元論文のほうから。
 モデルのおさらい。いまなにかの新製品なり新サービスなりがあるとして、市場におけるその受容プロセスについて考える[←受容とは、とりあえずは初回購入のことだと考えてよいだろう]。潜在的受容者の総数を$N^*$、時点$t$における累積受容者数を$N(t)$、受容率を$g(t)$とする。普及モデルを一般化して書くと、普及の速度について
 $d N(t) / d t = g(t) [N^* - N(t)]$
というモデルである。$g(t)$の関数形はいろいろで、たとえば

これにマーケティング・ミクス変数(価格や広告)をいれて拡張したりする。

 メタ分析。50年代以降、実データにモデルを当てはめた論文が15本みつかった。事例数は合計213。$P$の平均は.03、$Q$の平均は.38だったが、分散が大きい。なお、すべて年次データを使っていた。
 全事例に以下のコードを振った。

これらを要因とし、目的変数を$P$ないし$Q$としてANOVAをやった(目的変数が$P$のときは3つめの要因は除外)。
 結果。欧州は革新係数が高い。産業・医療財は模倣係数が高い。革新係数をいれている事例は模倣係数が高い(入れたほうが正しいのだろうとのこと)。マーケティング・ミクス変数を入れてると模倣係数が低い。どっちの係数もOLSのほうがちょっと高め。云々。
 なお、このメタ分析モデルの推定自体も、OLSとWLSで比較してみたんだけど...[関心ないので読み飛ばした]

 メタ分析の結果をどうやって使うか。
 その1、普及過程の持続時間。Bassモデルにいわせれば、普及速度がピークになるまでの時間は
 $T^* = (P+Q)^{-1} \log (Q/P)$
である。本研究で使った事例の平均である$P=0.03, Q=0.38$をいれると5.3年。最小の$P,Q$をいれると80年、最大の$P,Q$をいれると1年。これは適当に選んだ例だが、普及過程に要するであろう時間の幅が広いことがわかる。[←おいおい...それはメタ分析のモデルを作らなくても、先行事例を集めた段階でわかっていたことでしょうに]

 その2、普及モデルによる予測。[←実をいうと、関心があるのはここだけだ]
 普及モデルの最重要な用途は普及初期段階における今後の普及の予測だが、よく知られているように、数時点しかないデータにモデルをあてはめるのは危険である。そこで、メタ分析の結果を事前分布としたベイズ推定を考えよう。このベイズ推定手法は、Durbinの業績に基づく、Goldberger-Theilの「混合推定」アプローチに依存している。すなわち、メタ分析から得た先行する結果を、データに基づく推定値とミックスさせ、パラメータの事後推定値を手に入れるのである。その際、2つの推定値のウェイトは、分散の逆数とする。
 Mahajan, Mason, & Srinivasan (1986)のエアコン普及データでやってみよう。メタ分析モデルによれば、米の消費財の推定値は$P=0.00, Q=0.30$。各年度について、それまでのデータを使ってP, Q を推定する。で、Zellner(1971, p.15)に従って事後パラメータを求める。計算には、the analogous matrix formula which accommodates correlation between P and Q (Leamer 1978, pp.182-186)を用いる。
 この事後パラメータは、時点数が少ないときはメタ分析のパラメータに近く、時点数が増えるとだんだんデータからの推定値に近くなっていく。

 考察。[メモ省略]

 95年のコメントの内容はこんな感じ:90年から95年までにこの論文を引用してくれた論文は22本あった。それらで扱われているテーマは、(1)普及モデルの改訂、(2)推定方法、(3)他の製品カテゴリへの拡張。これまでの研究には、成功した製品への偏り、耐久消費財への偏り、北米への偏りがみられる。旧技術の代替製品についても検討が必要。マーケティング研究においてもっとメタ分析が活用されるといいな。云々。

 メタ分析モデルを踏まえた初期予測のくだりについてメモしておく。

 。。。うーん。このGoldberger-Theilのアプローチって、カルマン・フィルタとどういう関係にあるのだろうか。直観としては、事前分布を使わずにいったんモデルをNLS推定してあとで事前分布と加重平均するのって、無駄な感じがするんだけど。また、新製品普及の初期予測に階層ベイズモデルを使う話があるけど、どっちがいいのだろうか。わからんことだらけだ...

読了:Sultan, Farley, Lehmann (1990, 1995) 新製品普及モデルのメタ分析

2016年3月15日 (火)

Mahajan, V., Muller, E., Bass, F.M. (1990) New Product Diffusion Models in Marketing: A Review and Directions for Research. Journal of Marketing, 53, 1-26.
 前に読んだMeade & Islam (2006)で紹介されていた、80年代のイノベーション普及モデル研究の総括。原稿の都合で仕方なくとはいえ、四半世紀前の論文に目を通すなんて、どんな好事家かと...

 内容は、(1)Bassモデルとその性質、(2)パラメータ推定をめぐる諸問題、(3)パラメータの時間変動を許容するバージョン(フレキシブル普及モデル)、(4)Bassモデルの拡張、(5)普及モデルの記述的・規範的な使用。時間がないのでほとんど読み飛ばしたけど、多岐にわたる問題を手際よく整理した名レビュー論文であった(ような気がする)。

 いま関心のある箇所のみメモ:目の前ではじまっている新製品普及についてBassモデルを推定するときどうするか。正面からのパラメータ推定は、非累積の普及曲線がピークを過ぎていないと難しいのだけれど、もうそんだけ時間が過ぎているなら、Bassモデルを推定しても予測的な使い方はできないわけで、初期の短い観察だけでなんとかならないか、という話である。

読了:Mahajan, Muller & Bass (1990) 新製品普及モデルレビュー in 1990

2016年2月 4日 (木)

Dahan, E., Mendelson, H. (2001) A Extreme-value model of concept testing. Management Science, 47(1), 102-116.
 仕事の足しになるかと思ってざっと目を通した。
 コンセプト・テストについての論文ってのは最近ではちょっと珍しい。えーと、ここでいうコンセプト・テストというのは、ある製品なりサービスなりを開発している途中で、その(実物じゃなくて)コンセプトについて潜在顧客がどう思うかとか、商品化した暁には買ってくれるだろうかとか、そういうのを調べることを指している。こういう市場調査の定番的課題についての議論はとっくに枯れちゃってて、情報を仕入れようにも、かえってろくなものがない。

 第一著者は予測市場のマーケティング応用なんかをやっているMITのEly Dahanさん。タイトル通り、コンセプト・テストに極値分布を使ったモデルを使いましょうという話である。先生ってば、またそういう変なことを...

 いわく。
 新製品開発(NPD)の初期段階(ファジー・フロント・エンド)での手法としては、VOCとかリードユーザ分析とかコンジョイント分析とか狩野法とかPughのコンセプト選択とかいろいろある。コンセプト・テストは最良のデザインとか価格とかを探索する手法であると考えられている。きちんとやれば利益の期待値は上がるがコストもかかる。
 コンセプト・テストの先行研究は次の3つに分けられる。

 提案モデル。
 次のように想定しよう。それぞれのコンセプトの利益は独立。それぞれのコンセプトは最良の下位コンセプトからなる[←もうrefineされ尽くしているという意味であろう]。利益の分布パラメータは企業と製品カテゴリに依存する。テストにかかるコストはコンセプトあたりで一定。テストしたいすべてのコンセプトを同時並行でテストできるけど、コンセプト数は事前に決めないといけない。利益の期待値が一番でかいやつを上市する。
 コンセプト・テストを特徴づけるパラメータってのは、結局次の3つだ。コンセプトあたりのテストのコスト $c$、利益の潜在的不確実性 $b$、そして利益の分布の右の裾の太さ $\alpha$。いま、$n$個のコンセプトを同時にテストするとしよう。コンセプト $i$ の利益を$x_i$とする。
 コンセプト数$n$を大きくすれば、利益の最大値$\pi_n$の期待値$E[\pi_n]$が大きくなるけど、コスト$n \cdot c$が増大する。最適なコンセプト数を$n^*$とする。話を簡単にするために、コンセプト数は連続的に動くことにする(実際には整数だけど)。

 話を簡単にするために、あるコンセプトについてテストすれば、そのコンセプトから得られる利益$x$が直接にわかっちゃうってことにしよう。
 $x$は確率分布$F(x)$に従う確率変数だとする。$n$個の独立したテストの結果の最大値の累積分布は$[F(x)]^n$だ。[←しれっとこう書いてあるけど、ちょ、ちょっと待って... 確率変数$X$の累積確率分布を$G(x)=P(X \leq x)$として、 独立な実現値$x_1, x_2, \ldots, x_n$の最大値が$x$以下である確率は$P(x_1 \leq x) \cdot P(x_2 \leq x) \cdots P(x_n \leq x) = [G(x)]^n$じゃないですか? ってことは、この論文では$F(x)$を確率分布と呼んでいるけど、実は累積確率分布なの?]
 その確率密度関数は$n \cdot f(x) \cdot [F(x)]^{n-1}$だ。よって期待される利益は
 $E[\pi_n] = n \int^\inf_{-\inf} x \cdot [F(x)]^{n-1} \cdot f(x) dx - c \cdot n$
これを解いて...[中略]... コンセプト数$n$を1増大させることによる限界利益を算出できる。
 もし「どれも儲かりそうになかったらなにも上市しない」という選択肢を許すと... [略]

 [さあ、ここが本題だ。だんだん読む気が失せてきたけど]
 分布$F(x)$は当該コンセプトの利益の不確実性を表している。これは、過去データとかから推定される、そのカテゴリの利益の分布$H(x)$とはちがう。なぜなら、$H(x)$は一般的な利益の分布であり、そこから取り出したありうるコンセプトの巨大な下位集合の、そのまた最大値が、テストされるコンセプトだからだ。つまり、$F(x)$は$H(x)$からランダム・ドローした標本の最大値だと考えられる。$H(x)$の性質に応じて、$F(x)$はフレシェ分布、ガンベル分布、ワイブル分布になるか、あるいはそのどれにもならない。なお、「当たればでかい」製品カテゴリはフレシェ分布、当たっても上限がある製品カテゴリはワイブル分布、だいたい利益が決まっているような製品カテゴリはガンベル分布で表現される。

 事例。Inhaleという会社についての実例である。[現在はNektarという社名らしい]
 この会社はインシュリンみたいな薬を吸入して肺の奥深くに届けるというシステムを開発している。VCからすごいお金が流れ込んでいる。3つの開発プロジェクトが進んでいる。(A)薬を乾燥した粉にする方法の開発。(B)粉を安く作って梱包する方法の開発。(C)吸入装置の開発。それぞれ他の会社に売ることを考えている。
 過去データとかシミュレーションとかで、それぞれのコンセプトの利益の確率分布関数を推定した(その方法はこの論文の本題ではない)。Aはフレシェ分布[←ワイブル分布やガンベル分布と同じく、極値分布の一種なのだそうだ]、Bはワイブル分布、Cはガンベル分布となった。ここから各カテゴリにおける最適コンセプト・テスト数が出せました。

 考察。企業のみなさん、新製品の評価をする際には、利益の期待値と分散だけでなく、分布の右裾の太さを考えなさい。テストするコンセプト数をカテゴリごとに最適化しなさい。云々。[他も書いてあるけど省略。「効率の良いテスト手法を考えなさい」なんて、この論文で説教されても困る]

 。。。理解できているのか怪しいものだが、要するにこういう論文だったのではないかと思う。

 正直、一読して、ぽかーんとしてしまう内容であった。ぽかーん。

 多くの研究がそうであるように、この論文もさまざまな想定に基づいているので、どれが非現実的か、またどれがクリティカルか、きちんと考えないといけない。

 こうして整理すると、一番あっけにとられるのは、(5)このモデルでコンセプト数を決める、という点である。
 なぜ? なぜここまで苦労して、コンセプト数の最適値を解析的に決めないといけないの? 解を閉形式で書くってのはそんなにすごいことなの?
 だって、コンセプト・テストで上市後の利益がわかるんでしょう? その確率分布も事前にわかっているんでしょう? テストのコストを所与として、全体の利益を最大化するためには何個テストすればいいかがわかればいいんでしょう? コンセプトの数は絶対に整数で、いくら多くてもせいぜい一桁でしょう?
 。。。いろんなコンセプト数についてモンテカルロ・シミュレーションすればいいじゃん!!!

読了:Dahan & Mendelson (2001) コンセプト・テストの極値モデル

2016年1月22日 (金)

Yang, Y., Goldfarb, A. (2015) Banning Controversial Sponsors: Understanding Equilibrium Outcomes When Sports Sponsorships Are Viewed as Two-Sided Matches. Journal of Marketing Research, 52(5), 593-615,
 ちょっぴり興味を惹かれて読んだ(当面の仕事と関係ないというところも魅力的であった)。スポーツのスポンサー契約をマッチング理論で分析するという論文。

 著者ら曰く。
 マーケティング意思決定の多くはマッチングプロセスの結果だ。たとえば小売がどのメーカーの製品を扱うか、とか。この論文ではマッチング市場におけるポリシーの変化が及ぼす効果をtwo-sidedマッチング・モデルで分析する。取り上げる題材は英サッカークラブのシャツのスポンサー契約(通常ひとつのクラブにはシャツのスポンサーが年に1社だけつく由)。

 先行研究概観。

 データの説明。英サッカークラブのスポンサー契約のデータ(約30年間分)、クラブのデータ、スポンサー企業のデータ、である。関心ないのでメモは省略。
 two-sided マッチングモデルについて。ここはあまりに馴染みのない話で困惑したので、別にメモをとった。ま、とにかく、スポンサーシップの効用がクラブの属性と企業の属性の交互作用項で決まるという線形モデルを、 マッチング市場が均衡しているという前提のもとで最適化問題として解くという話だ。
 スポンサーシップの効用の線形モデルには次の12種類の項を叩き込む(それぞれが複数の変数を含んでいる。巨大なモデルだ)。論文中の記号と一緒にメモする。なお、クラブの属性の主効果と企業の属性の主効果は、最適化問題に定式化した際に消去できるので無視してよい。$a$はクラブ, $i$はスポンサー, $t$はシーズンを表す添え字。

 変数を入れ替えたりデータを絞ったりしてモデルを9本も推定するが、これは細かい突っ込みへの防衛策で(スポンサー契約には複数年契約があるじゃんとか、自己相関があるんじゃないのとか)、結果はモデル間でたいして変わらないよという主旨。
 結果は... 距離がすごく効くとか... でもその効き方はクラブの成績や企業の産業によって異なるとか... なんとかかんとか、めんどくさいので省略。結果自体よりもむしろ、こんなでかいモデルをホントに推定できんのかというほうに興味を惹かれるが、Web Appendixをみないといけない模様で、そこまでやる気力はないぞ。

 後半は政策分析(policy experiments)。もしアルコール産業とギャンブル産業のスポンサーシップが禁止されたらなにが起きるかを調べる。
 1990年から2010年までの21の架空市場を想定する。クラブとスポンサー総当たりのペアをつくり、上のモデルで効用を求める。で、完全情報下の協調ゲームとみなしてマッチングの均衡解を求める。さらに、アルコール企業(ギャンブル企業)のスポンサー契約が禁止されている状況での均衡解を求め、差を調べる。
 結果。禁止するとマッチングできない企業が増え、市場全体での効用も下がる。細かくみると、禁止企業と契約しているクラブが割りを食うわけではなく、むしろ、動員数が小さい貧乏なクラブが割を食う。[←なるほどー... これは面白い。もしクラスで一番モテる娘が高校をやめたら、彼女をつくるのが難しくなるのはむしろスクール・カースト底辺の男の子ってわけだ。このへんは反実仮想的な分析の威力だなあ]
 [とはいえ、こういう分析はそれほどストレートではなく、いろいろ突っ込みが可能なようで、論文はここから長い長い防衛戦に突入する。仮にマッチングが成立しなかったら効用は0だといえるか、とか。スイッチング・コストとか自己相関とか複数年契約とかとの関係はどうよ、とか。面倒なので読み飛ばした]

 考察。諸君、two-sidedマッチング・モデルの威力にひれ伏せよ。
 限界:(1)クラブ・スポンサーのforward-lookingな行動を無視している。(2)政策分析でわかるのは禁止の長期的影響であって、短期的にどうなるかは別の問題。(3)市場に新規参入したスポンサーの価値が最小限だと想定している。(4)マッチングを協調ゲームだと捉えている。(5)他の国・スポーツへの一般化可能性はわからない。

 。。。実証研究の文脈で均衡という概念が出てくるといつも思うことだけど、この論文にも、そもそも現実世界が均衡状態にあるっていう仮定には証拠があるの?? という素朴すぎる疑問を感じた次第である。もっとも、この前提からスタートして効用関数を推定し、「クラブのスタジアムとスポンサーの本社が離れているとスポンサー契約の効用が小さい」なんていう、いかにもそれらしい係数を推定してみせているので、うーん、やっぱこれで正しいのか... と説得されちゃうんだけど。でも正直いって、やっぱりモヤモヤが残るんですよね。わたくし、やっぱ頭が固いんでしょうか、それとも不勉強のゆえでありましょうか。

 正直言って方法論に関心があっただけで、エゲレスのサッカー業界がどうなろうが知ったこっちゃないんだけど、スポンサーシップをめぐる消費者サイドの話にはちょっと関心があるので、挙げられていた先行研究をメモしておく。前に読んだNeijens et al.(2009)というスポンサーシップ研究は挙げられてない。かわいそうに。

読了:Yang & Goldfarb (2015) マッチング理論でみたスポーツチームのスポンサー契約 (または: 酒メーカーのロゴを選手のシャツから締め出したら困るサッカークラブはどこだ?)

2015年8月14日 (金)

Bass, F.M., Bruce, N., Majumdar, S., Murthi, B.P.S. (2007) Wearout effects of different advertising themes: A dynamic Bayesian model of the advertising-sales relationship. Marketing Science, 26(2), 179-195.
 仕事の都合で状態空間モデルのことを考えていて、分析例がほしくて手に取ったのだけれど、ぱらぱら読み始めたら、これが予想をはるかに超えて大変面白くて...
 読んでる最中に気が付いたんだけど、筆頭著者はあのBassモデルのBassさん。論文出版の前年にお亡くなりになった由。

 著者らいわく。
 世の中には広告反応モデルが山ほどある。それらはみなこう想定している:広告支出はあるメッセージなりテーマなりを伝播させるために使われているのだと。しかし現実には、企業は同時に複数のテーマについての広告を走らせる。異なるテーマの広告を同時に行うことにはどういう効果があるのか。広告効果逓減(wearout)はどう変わる? それをどうやって測る? 異なるテーマのあいだにはどんな相互作用が起きる? どうやって予算配分したらいい? これが本論文のテーマです。

 先行研究レビュー。6項目に分けて整理する。
 1. 反応モデル。初期のレビューとしてはLittle(1979, Op.Res.)が有名。いわく、集計レベルでの広告反応モデルには次の特徴が求められる。(1)広告効果の非線形性を捉えていること。(2)効果逓減・忘却を捉えていること。(3)競合の広告効果を考慮していること。(4)メディアとコピーの変化による広告効果の変化を捉えていること。[←うわあ... 実務で広告効果モデリングに携わっている方、結構耳が痛いんじゃないかしらん]
 初期の反応モデルは広告支出と売上ないしシェアを結びつけた。さらに分散ラグモデルをつかってキャリーオーバーを捉えた[←たぶんKoyckモデルのことを指しているのだろう]。モデルは利益最大化の観点からの広告支出最適化にも用いられた。レビューとしてはVakratsas & Ambler (1999, Mgmt.Sci.)をみよ。これとは別に、反応関数は凹型かS字型かという議論もあった。理論モデル側はインパルスの効果をS字型に捉えているわけで、これは結構大事な話だ。
 2. wearin/wareout。いろんな要因が効くことが分かっている(広告が感情訴求的か理性訴求的か、etc.)。Naik, Mantrala & Sawyer(1998, Mktg.Sci)いわく、wareoutには広告接触の反復によるものとコピー自体によるものがある。
 3. 忘却。もちろんブランド認知率が下がるというネガティブな面もあるが、広告効果を再活性化させるというポジティブな面もある。実証研究もあるぞ。
 4. テーマによるwearoutのちがい。感情的広告はwearoutしにくいという実証研究がある。
 5. 時変係数の必要性。係数が時間とともに変化しちゃうにちがいないという点は昔から問題になっていた。時期ごとに推定するとか、ランダム係数モデルとか。
 6. 交互作用の必要性。広告と他のマーケティングミクス変数(特に価格)との間に相互作用があることは古くから知られている。

 提案モデル。
 まず、Nerlove-Arrowモデルというのがありまして... 時点 $t$ における広告支出を $A(t)$、好意(goodwill)を$G(t)$として、
 $\frac{dG(t)}{dt} = q A(t) - \delta G(t)$
$q$は広告効果で一定。$\delta$は忘却の効果である。

 Naik et al.(1998)はこのモデルを拡張し、$q$を時変させてwearoutを表現できるようにした。こう考える。
 $\frac{dq}{dt} = -a(A) q + (1-I(A)) \delta (1-q)$
ただし$a(A) = c + w A(t)$。$I(A)$は「いま広告中」のときに1。
 [えーと、広告出稿中の$q$の傾きは $ -(c+wA(t))q$。つまり、その時点の広告支出$A(t)$に反復wearout係数$w$を掛け、コピーwearout係数$c$を足した奴が$q$の減衰率。いっぽう出稿期間が終わると、$q$の傾きは$-cq + \delta(1-q)$となる。つまり、直近の$q$に対し、コピーwearout係数$c$を減衰率として減衰がかかる。いっぽう、忘却係数$\delta$に$(1-q)$を掛けた値が毎瞬間に$q$に乗る。最後のがよくわからないな、なんで$(1-q)$だと考えるのだろう? 広告出稿停止後の$q$の回復が$q$が天井に達するまで続く、といいたいんだろうけど、その天井を1に決める理由がわからない]

 我々はこれをさらに一般化する。広告テーマが$m$個あるとします。$t$の添字表記は省略。
 $\frac{dG}{dt} = \sum_{i=1}^m \left( g(A_i) + \lambda_i \sum^m_{j \neq i} h(A_i, A_j) \right) - \delta G$
ここで$g(A_i) = \ln(1+A_i), h(A_i, A_j) = \ln(1+A_i) \ln(1+A_j)$ と仮定します[はい来ましたよ、しれっとすごい仮定が来たよ!]。セミログモデルはこの分野ですごく一般的な仮定です。交互作用係数を結局テーマごとに一つしか推定しない[$\lambda_i$のことね]けど、これは倹約性の問題です。
 広告効果の時間変化は、Naik et al.(1998)と同様に
 $\frac{dq_i}{dt} = -a(A_i) q_i + (1-I(A)) \delta (1-q_i)$
 $a(A_i) = c_i + w_i A(t)$
$\frac{dq_i}{dt}$はテーマ間で独立とします。
 これをDLM(動的線形モデル)として、Gibbsサンプリングで推定します。

 分析例。あるテレコム企業の電話サービスのデータ。この会社は固定電話で独占状態にあり、競合は携帯電話である。
 週次で分析する。従属変数は、固定回線の国際通話を除く総通話時間。共変量は、通話時間あたり平均価格、回線数、競合の広告支出。
 さて、この会社の広告支出を5つのテーマに分ける:{利用促進、製品オファー、価格オファー、リコネクト、リアシュアランス}。すべてGRPで測定。
 
 モデル推定。ここ、ちょっと関心があるので細かくメモをとろう。原文と感想を分けて書くのが面倒になってきたので、ここからは一緒に書く。

 時点$t$における総通話時間$y_t$について、
 $y_t = G_t + \beta' X_t + \epsilon_t$
原文は$\beta$を転置させてないけど、あとの式との整合性を考えると誤植だと思う。
 $G_t$は好意(goodwill)。$X_t$は3つの共変量のベクトル。誤差は$\epsilon_t \sim N(0, \sigma^2_\epsilon)$とするが、著者いわく、ここには内生性があるかも。誤差項にはそこにはたとえば携帯電話サービスの成長といった因子が含まれているだろうし、かつその因子についての企業の知覚が価格に影響しているかもしれない。そこで、操作変数$W$を使ってこう定式化する。小売価格指標、世帯数、消費者センチメント、世帯支出を道具変数として
 $p_t = p_t (W; \alpha) + \eta_t$
うーむ、この表記、理解できない。$\alpha$ってなんだ。操作変数法の特殊な表記なのかしらん...

 状態空間表記に書き直す。
 まずは測定方程式。
 $y_t = F_t \Phi_t + \beta' X_t + \epsilon_t$
これはまあ楽勝ですね。$F_t$は長さ$m+1$の横ベクトルで、最初の要素が1, あとは0。$\Phi_t$は長さ$m+1$の縦ベクトル、要素は上から順に$G_t, q_{1t}, q_{2t}, \ldots, q_{mt}$。$\epsilon_t \sim N(0, \sigma^2_\epsilon)$。

 はい深呼吸。状態方程式は
 $\Phi_t = H_t \Phi_{t-1} + u_t + w_t$
 簡単なところから片付けよう。
 $w_t$は長さ$m+1$のベクトルで、$w_t \sim N(0, W)$。たぶんNじゃなくてMVNと書くべきところだ。Wは対角行列のはず。
 $u_t$は長さ$m+1$のベクトルで、さっき定式化した$q_t$の差分方程式の第二項を表している。$\Phi$の一番上には$G_t$が入っているから、上から順に、$0, \delta(1-I(A_{1t})), ..., \delta(1-I(A_{mt}))$となる。ここ、原文に誤植があると思うので勝手に直した。

 ああ、ついに来てしまった。$H_t$はサイズ$(m+1, m+1)$の遷移行列。しょうがない、ゆっくりみていこう。
 $H_t$の一行目、左から順に、$(1-\delta), \bar{g}(A_{1t}), \ldots, \bar{g}(A_{mt})$。最初の奴は、Nerlove-Arrowモデルの第二項。二番目以降は、
 $\bar{g}(A_{it}) = g(A_{it}) + \lambda_i \sum^m_{j \neq i} h(A_{it}, A_{jt}) $
関数$g(\cdot), h(\cdot)$は上で定義済み。ああそっか、$A_i, A_j$は広告GRPそのもの、データから得る定数で、だから推定するパラメータは$\lambda_i$だけなのか。
 $H_t$の二行目。二列目にしか式が入らず、あとは0。各広告テーマの効果を表す状態変数は、一次の自己回帰はするけど、クロスラグは持ってないわけね。で、二列目にはいっているのは...
 $(1-a (A_{1t})) - \delta(1 - I(A_{1t}))$
上で定義した$q$の差分方程式がそのまま入っているのね。なるほど。
 $H_t$の三行目は三列目にしか式が入らない。以下同様。

 さあここまで来ると、あと決めなきゃいけないことは、

どうにか決めまして(付録参照とのこと)、MCMCで推定しました、とのこと。これ、カルマンフィルタじゃ推定できないのかなあ...
 識別性のチェックとか、内生性の問題をどう処理したかとか、説明があったけど、省略。

 結果。
 提案モデルと、テーマ間交互作用を抜いたやつ、GRPを全テーマで足し挙げて使う奴、GRPの(対数じゃなくて)平方根を取る奴、線形に扱う奴、を推定。ベイズ・ファクター、予測成績(MADとMSE)、予想成績(60週と100週使ってモデル組んだときのMAPE)を比較。いずれも圧勝。
 共変量では、価格と回線数が効いた。競合の広告は効かなかった。まあ固定回線市場じゃ独占状態だからね、とのこと。
 忘却率$\delta$は0.037。コピーwearout効果 $c_i$は0.16から0.57 [でかいなあ]、いずれも有意。反復wearout効果$w_i$はいずれも負になった。この会社は広告を頻繁に変えているので反復wearoutが起きず、むしろwearinになっているのでは、とのこと。
 クリエイティブの中身を押さえたわけじゃないんだけど、価格オファー広告と製品広告は理性訴求っぽく、残りの3つは感情訴求っぽいと思われる。実際、前者はコピーwearoutが大きかった。云々。
 交互作用効果はみな負。つまり、異なるテーマの広告は互いの効果を軽減してしまう模様。

 広告予算最適化という観点からいうと... [全時点・全テーマの$A_{ti}$を動かして$E(y_t | D_{t-1})$の全時点を通じた合計を最大化する、という非線形最適化問題を解いて見せている。さすがにここまでくると数字の遊びだという気がするので、省略]

 考察。このモデルの限界は、広告を外生変数としてみているところ。今後の拡張の方向としては、コピーごとの最適化とか[そうそう、別に$A_{ti}$の最適値を$t$ごとに決めるこたあないだろうと思った]、メディアへの投資配分とか、テーマxメディアの交互作用とか。

 。。。いやー面白かった。マーケティング・ミクス変数間の交互作用が、集計レベルの市場反応時系列モデルからわかるってわけね。それも効果逓減率を変数ごとに推定し、さらに各変数の効果を時変させながら。すごいじゃん。
 それもこれも、広告効果についてかなり強気な制約をかけているからなんだけど。よくよく眺めていると、実際に推定しているパラメータの中に、時変パラメータは実はひとつもないのだ。
 このモデル、ほんとにMCMC使わなきゃだめかしらん。カルマンフィルタで最尤推定できちゃうような気がするんですが、気のせいでしょうか?

 こうしてみると、いやーマーケティング・サイエンスってのもなかなか面白いじゃんか、と思うのだが、しかし教育産業のテスト部門でお世話になっていたときは「うわあ教育評価って面白い!」と思ってたし、その前はその前でそのときやっていたことが面白かったし... それに、いま20代のまっさらな状態にタイムスリップして「さあなにやりたい?」と訊かれたら、やっぱり心理学だか哲学だかを選ぶだろう。宿命ってやつですね。

読了:Bass, Bruce, Majumdar, Murthi (2007) 異なるタイプの広告を同時に出稿していると何が起きるかを推定する、それも個人データじゃなくて集計データで

2015年8月10日 (月)

Pauwels, K., Currim, I., Dekimpe, M.G., Ghysels, E., Hanssens, D.M., Mizik, N., Naik, P. (2005) Modeling Marketing Dynamics by Time Series Econometrics. Marketing Letters, 15(4), 163-183.
 マーケティングにおける計量経済学的時系列モデルのレビュー。いわばDekimpre & Hanssens (2000)のアップデート版といったところ。2004年の講演を基にしているのだそうだ。

 面白かった点をいくつかメモ:

へー、いろいろあるのね...

読了:Pauwels, et al. (2005) マーケティングにおける時系列モデルレビュー in 2005

Dekimpe, M.G., Hanssens, D.M. (2000) Time-series models in marketing: Past, present and future. International Journal of Research in Marketing. 17, 183-193.
 マーケティング・モデルにおける時系列モデルについての概観。仕事の都合で時系列データについて勉強していて、細かい話にうんざりしてしまったので、ラフな見取り図のようなものが欲しくて手に取った。
 しっかし、2000年のレビュー論文をいま読むなんて、我ながら風雅というか、なんというか。

 歴史
 時系列モデルが用いられる問題は大きく3つあった。

 こういう研究はデータ・ドリブンであった。つまり、標本ベースの自己相関関数とか交差相関関数とかで関数形を同定した(天下りにKoyckモデルを使うとかいうのではなくて)。
 時系列モデルを使う研究の数はあまり多くなかった[著者らによる表によれば論文23本]。その理由は:

 最近の動向
 時系列モデルの使用は増えてきた。理由:

 研究アプローチも、単一データセットに基づく長期変動の記述から広がってきた:

 今後の動向。4点について論じます。

 その1、スキャナ・データなどの充実に伴い、データのサイズがでかくなるだろう。これには4つの面がある。

 (1)変数の数が増える。
 グレンジャー因果性検定で変数を選択することが増えるだろう。ふつうグレンジャー検定は2変量でやるけど、そうすると検定の繰り返しになって重要な変数が落ちちゃうという点が危惧されるので、多変量モデルでやったほうがよい。でも今度はモデルの倹約性が失われる。
 同時的な因果的効果については、事前知識で順序付けすることが多いけど、変数の数が多いとどうしても再帰的になってしまう。VAR残差をMVNと仮定して、関心ある変数へのショックの効果を推定する、というのがよいだろう。
 長期的効果の解釈も難しくなる。N本の単位根時系列の間にはN-1個の共和分関係がありうるわけで、困ってしまう。
 意識・選好などの態度変数が同じ間隔で手に入っちゃう場合も増えてくる。変数によって誤差の構造が違ったりして、難しくなるけど、新しい問題設定もでてくるだろう。短期的顧客不満は長期的売上に効くか、とか。

 (2)時系列が長くなる。
 推定は改善され、戦略的示唆はリッチになり、レジーム・チェンジについての検討が容易になる。Moving-window方式の回帰なりVARモデル、ないし時変パラメータのモデルが活躍するようになるだろう。

 (3)時間間隔が短くなる。
 その有用性は分野によって違うけど、たとえば、TV-CFへの反応の1時間ごとのデータをつかった伝達関数がつくれたら、広告管理へのインパクトは大きいだろう。

 (4)累積のレベルが低くなる。
 個々の消費者レベルとか、店舗レベルとか、SKUレベルとか。なお、同様の動向は選択モデルの分野にもある。新しい可能性が開けますね、云々。
 [ここ、ちょっと面白いので細かくメモ] 累積のレベルが長期的推論に与える影響についてはよくわかっていないことが多い。Pesaran & Smith (1995 JEconSurveys) は、異質性のあるパネルを通じて累積して得た時系列について、仮にミクロのレベルで共和分関係があっても、共和分係数に異質性があるせいで、累積すると長期均衡の存在がわからなくなってしまうことがある、と指摘している。いっぽう、異なる店舗を線形に累積したデータにlog-logモデルを適用した上で得たインパルス応答関数が、線型モデルを適応した場合のそれと強く相関していたという報告もある(線型モデルのほうが累積によるバイアスに強いはず)。
 
 その2、市場環境の変化が速くなるだろう。
 市場反応についてのこれまでの知見はたいてい、定常だと想定されるデータに基づいていた。これからはそうはいかなくなる。とくに競合反応についての研究へのインパクトが大きい。たとえば、最近のメタ分析によれば、価格プロモーションへの競合反応においてもっとも支配的な形式は「なにもしない」である。21世紀のamazonとかの時代にそんなこといってられるか。

 その3,マーケティングとファイナンスの関係に注目が集まるだろう。
 たとえば、広告投資は売上に長期的インパクトをもたらすが短期的には利益を下げる。投資家側はマーケ活動への企業の関与を促進すべきか止めるべきか。企業価値については長期の時系列データがあるんだから、これからはこういう問題で時系列分析が使われるようになる。

 その4,インターネット・データソースの勃興。云々。

 最後のほうは話も駆け足、私も斜め読みになっちゃったけど、まあ読了ということで、次に行こう。
 それにしても、ここでいう時系列モデルというのは基本的にはVARモデルというか、経済時系列分析の話なんですね。状態空間モデルのジョの字も出てこない。そういうもんすか。

読了:Dekimpe & Hanssens (2000) マーケティングにおける時系列モデルレビュー

2015年6月17日 (水)

ホントはこんなことしている場合じゃないんだけど、メモが出てきたので...

Mikulic, J., & Prebezac, D. (2011) A critical review of techniques for classfying quality attributes in the Kano model. Managing Service Quality, 21(1), 46-66.
 久々に狩野モデル関連の論文。著者らはクロアチアのツーリズム研究者で、狩野モデル関連でよく名前を見かける。
 4年くらい前、狩野法に関する資料を集めまくり朝から晩まで読み倒したことがあったのだけど、その際には未読のまま時間切れになっていた奴だ。先日仕事の都合で掘り出してメモを取ったんだけど、記録するのを忘れていた。

 マーケティング・経営の文脈での品質属性の分類手法をレビューする。発想としては、狩野モデルでいう"must-be", "attractive", "one-dimensional" の3分類が前提となっていて、実際に品質属性をどうやって分類するか、というのがお題である。
 イントロは飛ばして...

狩野法。個々の対象者に、「もし(属性)が充足されていたらどう思うか」「もし(属性)が充足されていなかったらどう思うか」と尋ね、2問への回答をカテゴリ化して集計し、属性を分類する。狩野らの元論文に沿って紹介(つまり属性分類まで、Better-Worseマップはなし)。
 ここでなかなか面白い議論になるので、細かくメモしておくと...
 著者いわく。仮に、ある特定の製品・サービス属性が充足している(いない)ということがどういうことかが明確に定義されているならば、その属性についての顧客の感覚を評価する手法として、狩野法の理屈は論理的に妥当である。しかし、「充足」「非充足」の定義があいまいな場合は、深刻な問題が生じる。[←そうそう、そうなのよね... となぜかオネエ言葉に]
 たとえば次のようにいう人がいる。<「魅力的」な品質属性とは、それが達成されたときには顧客満足が引き起こされ、しかしそれが達成されていていなくても不満は引き起こされない属性だ>と。しかし、同じ人が舌の根も乾かぬうちにこんな云い方をする。<「魅力的」な品質属性とは、そのパフォーマンスが高いときにそれが顧客満足に与えるポジティブな影響が、そのパフォーマンスが低いときにそれが顧客満足に与えるネガティブな影響よりも強い属性である>と。さらには、これらの定義を一緒にして次のように述べる人もいる始末である。<「魅力的」な品質属性とは、それが存在するときないしそのパフォーマンスが十分なときには顧客満足を引き起こすが、ぞれが存在しないときないしそのパフォーマンスが不十分であっても不満を引き起こさない属性である>と。
 ここには、ある属性が供給(provision)されているか否かについての消費者の評価は、その属性のパフォーマンスの高さ/低さについての消費者の評価と同一だ(ないし少なくとも類似している)、という暗黙的な仮定があるわけだ。この仮定を受け入れるならば、「充足」「非充足」を存在という観点から定義しようがパフォーマンスという観点から定義しようが、狩野法が提供する属性分類は同じだ(ないし少なくとも類似している)、ということになる。
 さあ、ほんとだろうか。学生を被験者にして次の設問文を試してみた。お題は携帯で使うネット銀行サービス。

a.の設問文だと魅力反応・無関心反応が増え、b.の設問文だと一元的反応・当たり前反応が増えた[つまり、bだとdysfunctional項目でdislikeが増えたわけね]。
 二つの点を考慮する必要がある。(1)「充足」概念の操作的定義をパフォーマンス型で行うとすごくバイアスがかかる。(2)a.とb.はそもそも状況がちがう。a.では属性のパフォーマンスが良いことが含意されているが、b.ではパフォーマンスは良いかもしれないし悪いかもしれない。
 本来、狩野法の属性分類を決めるのは、属性のパフォーマンスではなく、(多かれ少なかれ)期待されているベネフィットが提供されているかいないかである。また、狩野モデルが問題にしているのは客観的パフォーマンスであって知覚されたパフォーマンスではない。パフォーマンス型の方法では狩野法の分類の信頼性が失われてしまう。本来、狩野法の設問文はこうであるべきだ。

もっともこのやり方だと、属性が全体満足に与える影響についてはわからなくなってしまう。つまり、モバイルサービスが不満よりも満足をつくりだす可能性が高いということはわかっても、その属性が口座についての全体的判断においてどのくらい重要かはわからないし、他の属性とどう関連しているかもわからない。

penalty-reward constrast analysis (PRCA)。Brandts(1987) が提案した。個々の対象者に、全体満足と属性のパフォーマンスを聴取する。で、属性のパフォーマンスを「すごく低いか」「すごく高いか」の2つのダミー変数にコーディングしなおす(たとえば、7件法で訊いておいてTopBoxとBottomBoxだけをコーディングする、とか)。で、全体満足を従属変数にし、単回帰なり重回帰なりシャープリー値なりを求める。属性数が多いときは先に因子分析しちゃおうなどという提案もある由(著者は否定的)。
 利点: 属性をその相対的重要性で区別できる。欠点: 存在しない属性は調べられない。また、狩野法が結局は属性の物理的パフォーマンスと属性への満足の関連性を調べているのに対して [←著者の立場からいえばそうなりますね]、PRCAは属性の知覚されたパフォーマンスと全体満足との関連性を調べているわけで、比較にならない。

importance grid (IG)。IBMのコンサルタントが考え出したといわれている。重要性の直接評定を横軸、統計的な重要性 (標準化偏回帰係数とか)を縦軸にとって、属性の散布図を描く。右下はmust-be, 左上がattractive, 右上・左下がone-dimentional。
 利点:直接評定は期待の指標、統計的重要性は満足へのインパクトと捉えられ、その点では狩野法の精神に合致している。欠点:満足-不満の非対称性を捉えていない。相対的な分類であり、属性セットに依存する。

質的データ手法。クリティカル・インシデント・テクニック(CIT)や"analysis of complaints and compliments" (ACC)のこと。信頼性は疑わしいが、特定の製品・サービスに対する満足・不満の源を同定するためには有効。

直接分類。対象者に直接分類してもらう[ははは]。実現しにくいし、信頼性に欠ける。

 というわけで、(狩野法を客観ベースと知覚ベースにわけて) 計6個の手法の星取表を示す。

 考察。属性のパフォーマンスを客観ベースで捉えるか知覚ベースで捉えるかでいろいろ違ってくる。

 。。。うーむ。いろいろ勉強になる内容であったが、著者がいわんとするところがいまいちよく理解できていない。
 狩野法において属性の充足を認知的に捉えるか物理的に捉えるかが論者によって違うという点は、著者は引用してないけどLilja & Wilkund (2006)も指摘していた点であった。ふたつの視点を混在させると困ったことになる。それはわかる。
 これに対して著者らは、狩野モデルにおける属性の充足は物理的概念として捉えるのが「正解」だ、というスタンスを取る。当然ながらそれはさまざまな運用上の問題を引き起こす(物理的充足/非充足を記述するのは結構難しい)。著者らにいわせれば、つきつめていえばそれは狩野モデルの概念的欠陥なのだが、狩野モデル属性の充足/非充足をベネフィットの提供の有無として記述することで克服できる... ということになるのだろう。

 よくわからなかったのは、なぜ属性の充足を客観的に捉えるのが「正解」なのか、という点である。それは分析手法のユーザが決める問題であろう。ここで測定の信頼性の話をするのは本末転倒なのではないか。人は測れるものを測るのではなく、測りたいものを測ろうとすべきではないか。
 物理的品質と知覚品質は異なる。顧客の知覚品質に介入するマーケティング・アクションは製品改善以外にもありうる(コミュニケーションによる期待の操作とか)。だから、著者が何と仰ろうが狩野先生がなんと仰ろうが、私は属性の充足を認知的概念として捉えたい、つまり私がやりたいのは、(期待に依存しない)ベネフィット提供の有無と全体評価との関係という観点からみた属性分類ではなく、(期待からの差異としての)知覚品質と全体評価との関係という観点からみた属性分類なのだ... という人がいても、ちっともおかしくない。この人に向かって「あなたがやろうとしている品質分類は真の狩野モデルじゃない」ということは可能だろう。「あなたがやろうとしていることは真の意味での品質分類じゃない」ということも、もしかすると可能かもしれない。でも、この人に向かって「あなたがやろうとしていることは間違っている」といえるのか、どうか...?

読了:Milukic & Prebezac (2011) 狩野モデルに基づく品質属性分類手法レビュー

神山進(1999) 性の商品化と商品価値:ジェンダーを焦点にして. 彦根論叢, 317, 153-175.
 ちょっと用事があって目を通した資料のひとつ。
 著者いわく、「男性の女性化、女性の男性化によって生み出される性アンドロジニィ(両性タイプ)や性未分化タイプの増加は、伝統的でステレオタイプ化されたジェンダー・カテゴリーからの個人の解放の現れである。また消費が受動的な欲求充足過程であるよりは能動的な自己構築過程であるという傾向も、伝統的なジェンダー・カテゴリーからの解放を促している」とのこと。この引用部分に限らず、けっこう楽観的に捉えておられるところが興味深い。あとで触れている、「自由を手にしたあとで、市場において再度構築された"理想的な"性のイメージに振り回され、逆に人々がジェンダーに強く統制され[...] 自分自身までも商品として消費する」という危険性のほうがまさにリアルな問題だという気がするんだけど。現時点ではどのようにお考えかしらん。

 引用文献をメモ:

読了:神山(1999) 性の商品化と商品価値

2015年6月 4日 (木)

Zeelenberg, M., Pieters, R. (2004) Beyond valence in customer dissatisfaction: A review and new findings on behavioral responses to regret and disappointment in failed services. Journal of Business Research, 57, 445-455.
 前から気になってストックしていたんだけど、このたびちょっと機会があって目を通した。著者については全然知識がないが、Bagozziと共著があるし、雰囲気的にも心理畑の人であろう。google scholar上の被引用回数は結構高め。

 サービス利用を通じて生じた感情は顧客満足やその後の行動にどう影響するか。著者ら (Bagozzi, et al. 2000. in "The why of consumption") の整理によれば、モデル化のアプローチがふたつある。

というわけで、後者を推します、という論文。
 この研究では後悔と失望に焦点を当てる。理由: (1)意思決定において重要だと思われるから。[詳細略] (2)似てるから。(3)著者らがこれまでも研究してきたから。
 なお、顧客不満が失望だけでなく後悔によっても決まるという研究はすでにある。

 概念モデル。不満ののちの行動として次の4つに注目する。

 調査。パネルから961人が参加。モデムで調査票を送り返送してもらった、とある。時代だなあ。
 サービスに不満を感じて後悔した経験を思い出してもらう。後悔してたら失望もしてるだろうが、その逆はいえないだろうから、という理屈[←あれれ...いいのかなあ? 過去エピソードを後悔で足切りしているわけで、選択バイアスが起きないだろうか?]。で、そのときの気持ちについて聴取。後悔、失望、不満について各2項目。その後の行動について、クレーム4項目、クチコミ3項目、スイッチング3項目、慣性2項目。すべて7件法。
 結果。失望と後悔で不満を説明する回帰をやるとどっちも効いている。スイッチング・クレーム・クチコミ・慣性を目的にした多変量重回帰をやると[←それが重回帰の繰り返しよりも偉いのだと一段落使って述べている。微笑ましい]、失望・後悔・不満はすべて有意。細かく見ると、不満と失望はスイッチングとクレームとクチコミに効く。後悔はスイッチングとクチコミに効き、さらに慣性に効く(後悔しているとむしろなにもしなくなる)。クレームには効かない。

 考察。
 特定感情アプローチは有用だ。満足-不満は行動に効く(感情価アプローチで考えられていたよりももっと)。
 さらに、特定感情が行動に直接効く。後悔はスイッチングを引き起こすがクレームは引き起こさない[ここで後悔がクチコミに効いちゃった理由についてごちゃごちゃ言い訳しているが、省略]。失望はクレーム、クチコミ、スイッチングを引き起こす。別の種類の感情もきっと特有の効き方をするだろう。怒りとか。
 この研究では、行動の中に慣性というのを入れてみたが...[ちょっと面白い話だけど、疲れたので詳細略]。
 なお、感情価アプローチがダメだといっているわけではない。Larazus(1991, "Emotion and Adaptaion")がいっているように[←おおっと... こりゃ心理出身の人だな]、感情をグローバルな少数次元で説明するのは倹約的だし、たいてい有効でもある。いっぽう感情をカテゴリで説明する立場だけがもたらすリッチな洞察もある。Frijda(1986, "The emotions")いわく、これら2つの見方はレベルが違うだけだ。特定の行動傾性のレベルでは感情はカテゴリだし、出来事の価値なり緊急性なりへの反応というレベルでは感情は連続的次元の集合だ。云々。

 調査についてはもやもや感があるし(しょせん想起法でしょ? とか、ふつうならもう一指標増やしてSEMでやるよね...とか)、結果は当たり前っちゃあ当たり前なのだが(あるサービスに失望するとクレームにつながるが、そのサービスを選んだことを後悔していてもクレームにはつながらない。そりゃそうだ)、本題は理論枠組みのほうだろう。ストーリーが明快な、良い論文であった。勉強になりましたです。
 実をいうと、感情の話だわ、途中でcognitive appraisalというキーワードが出てくるわで、これは途中から適応論的な話が出てくるんじゃないか... 進化の過程でどうのこうのというお話が始まるんじゃないか... と戦々恐々としていたのだが、出てこなかった。助かった。苦手なんです、ああいうの。

 この論文の考察の焦点は、決定後の感情をポジ-ネガでみるかもっと細かく見るかにみるかという点にある。でもそれはちょっと置いておいて。あたっているかどうかわかんないけど、勝手にこの研究を自分なりに位置付けしちゃうと...
 世の中には顧客満足が大事だという人がいっぱいいる。ところが、実際に顧客満足が高いと儲かるの? 顧客は離脱しないの?といわれると、ああそうだともという説もある一方、そうでもないよ、満足が高くても顧客は平気で離脱するよ、という指摘も多い。これに対するひとつの説明の方向は、満足じゃなくて別の態度指標、たとえば推奨意向を測りなさい、そっちは顧客行動と関連するであろう、という方向で、NPSのライクフェルドさんとかがそうだ。もうひとつの方向は、満足だけじゃなくて別の規定因も押さえなさい、たとえば知覚リスクも測りなさい、という方向。第三に、満足-不満ってのはそもそも多次元的なんだ、という方向に踏み込む手もある。嶋口のアンサティスファクション/ディスサティスファクションの区別がそうだ。
 この論文は、不満だけじゃなくてその規定因であるネガティブ感情の種類を押さえなさいといっていることになるので、2本目のラインだろう。そもそも不満には複数種類あるという3本目のラインにはならないようだ。ストーリー上の細かいちがいかもしれないけど、CS調査を企画する立場からは気になるポイントである。

 もうひとつ、面白いなあと思ったのは、後悔がスイッチングとクチコミに効くがクレームには効かない、という点。もし、サービスの利用経験がネガティブであることを所与として、それを顧客自身の決定に帰属させ後悔へと転化させる手段がありうるならば(PCパーツのメーカーみたいに徹底した自己責任を訴求するとか)、それはマーケティングの上でどういう意味を持つのか。スイッチングは仕方ないけど、少なくともクレーム処理は減らせるかなあ? 後悔が引き起こすクチコミがどういうクチコミかを知りたいところだ。

 本筋からは離れちゃうけど、決定後の後悔って面白い問題だなあ。私が修士の院生のころ、まだ行動経済学のコの字もなかったころにも、すでに不確実下意思決定の後悔最小化理論というのがあって(Looms&Sugdenだっけ...)、当時の友人と、喫茶店のようなところでその含意についてその熱く語り合った思い出がある。なにかCS-ロイヤルティの調査に活かせるような気がするんだけど、よくわからない。だいたい、あれがどこの喫茶店だったかも思い出せない。当時はコーヒー代なんて気軽に払えなかったはずだけど。

読了:Zeeelenberg & Pieters (2004) 顧客不満の裏にある感情の効果

2015年5月 9日 (土)

Barlas, S. (2003) When choices give in to temptations: Explaining the disagreement among importance measures. Orginizational Behavior and Human Decision Processes, 91, 310-321.
 「重要性についての論文をしみじみ読む会」(会員1名)、本年度第5弾。google scholarで引用回数28って、うーん、見なかったことにしようか... と思ったのだが、失礼ながらこれが意外な拾い物であった。
 この論文のキーワードは「重要性についての信念」importance beliefなんだけど、長くて書きにくいので、以下のメモでは「主観的重要性」と略記する。また、観察された意志決定から(重回帰かなんかで)求められた属性の相対的重要性のことを「客観的重要性」と略記する。

 いわく。客観的重要性と主観的重要性とはふつう合致しない。これは人が自分の決定過程について理解していないということの現れだと解釈されてきた[ここでSlovic & Lichtenstein(1971 OBH)を引用]。
 これに対し、主観的重要性と選好を切り離そうという試みもなされてきた。主観的重要性は文化的に学習された規則の表れだとか(Reilly & Doherty, 1992 OBHDP)、課題の認知表象における役割に依存して決まるとか(Pennington & Hastie, 1988 JEP:LMC)、重要性の解釈がコミュニケーション上の目標によって異なるのだとか(Goldstein, Barlas & Beattie, 2001)。こうした試みは散発的で、統一的な理論的枠組みがない。
 本研究ではこう提案する。主観的重要性、それは目標駆動的な知識転移ツールだ。

 ひとは課題に繰り返し接することで課題についての抽象的な知識を構築する。この知識は、未知の選択肢の評価を可能にし、適切な情報の探索をガイドし、選好についての対人的コミュニケーションを促進する。
 この知識のなかに主観的重要性も含まれている。主観的重要性は決定を通じて多彩な機能を果たすので、広範囲な高次目標に、選択そのものよりも強く影響される。また抽象的知識の量は過去経験によっても異なる。従って、決定において観察される相対的重要性と主観的重要性とのずれは、以下の要因に影響される。(1)意思決定者の目標。(2)意思決定者が主観的重要性に従って環境から情報を得ているか。(3)過去の記憶。

 まず目標について。
 通常の意思決定課題では、被験者は属性の束として記述された選択肢を与えられ選択する。このとき、ふつう次のように想定される。まず被験者は選択肢の属性の値を評価する。次にそれらを重要性の信念に従って重みづける。で、それらを結合して選択肢への全体的選好を形成する。[←Fishbeinモデル、というかその俗流版であるBass-Talarzykモデルのことね]
 ここには、決定者は正しく選好するために主観的重要性を形成しているのだ、という暗黙の想定がある。確かにそういう面もある。でも意思決定の目標は目の前の課題の正確な遂行だけではない。課題の因果構造を理解すること自体だって目標のひとつだ。さらに、属性間トレードオフに対する自分の決定を自分と他者に対して正当化するというのも目標のひとつだ。[←深い... Tverskyいうところのreason-based choiceに通じる話だ。Hsee(1995 OBHDP), Jones&Wortman(1973 書籍), Tetlock(1997 in Goldstein&Hogarth(eds.))というのが挙げられている] おそらく決定者は自己イメージの拡張と他者からの承認を促進するような形で属性に主観的重要性を与えるだろう。
 本研究では次の仮説について検討する:合理的な属性は、選択においてよりも重要性判断においてより重視され、誘惑的(tempting)な属性は重要性判断においてよりも選択においてより重視されるだろう。

 つぎに情報収集について。
 次の仮説について検討する:意思決定者は主観的に重要な属性についてより多くの情報を収集する傾向があるだろう。また合理的な属性のほうがより決定正当化に寄与するだろう。従って、合理的な属性のほうがより早くから処理されるだろう。また、決定者が情報のフローを制御している限り、合理的な属性において、客観的重要性と主観的重要性とのずれが小さいだろう[←ここのロジックはいまいちわからない]。

 最後に記憶について。[ここ、よく理解できなかったので逐語訳したが。うーん、やっぱし何言ってんだかよくわからん...]

意思決定者が選択肢の誘惑的側面についての情報を能動的に検索していない場合でさえ、もし決定者が関連する過去経験を持っていたら、[誘惑的属性についての]情報が記憶から検索されるだろう。すでに論じたように、決定者が選択肢についてのより詳細な概念を利用できるようになり、選択肢の評価と情報の探索において重要性についての抽象的な信念に依存しなくなっている場合には、過去の記憶の内容が、重要性の諸指標のあいだの乖離を生みだす主要な原因となるだろう。Loewenstein(1996)が論じたところによれば、誘惑的属性について考慮することにより、ポジティブな経験は頻繁かつ即時的に生じるが、ネガティブな経験はあまり生じないし、即時的に生じることはない。多くの合理的属性についてはその逆が成り立つ。従って、過去の記憶は、誘惑的属性について考慮したことの結果として実際に生じたポジティブな帰結を含むが、合理的属性について考慮しなかったことの結果として生じたネガティブな帰結については含まないものと思われる。結果として、決定における誘惑的属性のインパクトは記憶へのアクセスが促進されたときに増大するだろう。従って本研究の最後の仮説は次のとおりである。先行経験へのアクセスは重要性の諸指標間の乖離を増大させる。

 [まあいいや、ここまでを整理しておこう。理屈はよくわかんないけど、とにかく仮説は3つだ。(1)主観的重要性は合理的属性で高めになり、客観的重要性は誘惑的属性で高くなる。(2)決定のプロセスにおいて、合理的属性のほうが処理のスタートが早く、客観的重要性と主観的重要性のずれが小さい。(3)先行経験にアクセスすると客観的重要性と主観的重要性のずれが大きくなる。]

 というわけで、実験。被験者は学生40名。
 避妊法を選択させる課題[←おっとぉ...]。選択肢は10個: {卵管避妊手術、精管切除、混合経口避妊薬、プロゲスチン単独避妊薬、子宮内避妊器具、コンドーム、ペッサリー/子宮頚部キャップ、フォーム/クリーム/ジェリー、膣外射精、fertility awereness techniques [オギノ式みたいなものだろうか]}。属性は10個、うち5個が合理的属性(病気の予防になるか、とか)、5個が誘惑的属性(使いにくさ、とか)。医師と相談のうえ、各選択肢の属性の値を表す表をつくった。
 要因はふたつ。どちらも被験者間。[おいおい、ってことは1セル10人かよ... コンピュータ実験なのに、しょぼいなあ...]

 課題は4つ。

  1. 選択ないし魅力評価。high control条件では選択肢ペア(総当たりで45ペア)をひとつづつ提示し、好きなだけ情報収集したのちにどちらか選択させたのち、選好の程度を評価。low control条件では表をみせ、各選択肢について魅力評価。
  2. 属性を重要性で順位づけ。
  3. 各属性が選択肢の危険性の指標として役にたつ程度と、喜ばしさ・便利さの指標として役に立す程度を評定。(誘惑的属性と合理的属性の定義が正しいかどうかの操作チェック用)

結果。
 まず対象者ごとに属性の客観的重要性を求める。low control条件では、全体評価に対する回帰のR二乗を客観的重要性とする[←ここ、意味がわからない。もし説明変数10個の重回帰ならば、R二乗ではなく、たとえば投入によるR二乗の増分を使わないといけないし、説明変数はきれいに直交しているわけではないから、変数の投入順序が問題になってしまう。それとも10回単回帰を繰り返しただけ、すなわち単相関の二乗なのだろうか。でも"they were derived from holistic evaluations of the alternatives by means of a regresson analysis"っていっているしなあ...]。high control条件では、ペアのうち選んだ方への選好の強さを目的変数、ペアの属性の値の差を説明変数にした回帰のR二乗を客観的重要性とする[←上と同様の疑問がある]。
 対象者ごとに属性の主観的重要性も求める。こちらは単に重要性の順位。

[ほかに、要因が効いているのは主観的重要性じゃなくて客観的重要性のほうだとか、性差があるとか、いろいろ書いてあるけどパス。書き方がちゅっとわかりにくいよ、これ...]

 考察。いろいろ書いているけど、省略。

 うーん...
 主観的重要性は合理的属性で高めになり、主観的重要性が高い項目はクリックされやすく、クリックさせると主観的重要性に合致した選択がなされやすい、というわけだ。
 この研究、実験だけ見るとあんまり面白くなくて、すごく冷たくいっちゃえば、主観的重要性表明は社会的望ましさバイアスを受ける、情報収集プロセスを顕在化させると情報収集も社会的望ましさバイアスを受ける、よって決定も社会的望ましさバイアスを受ける... という、ごく当たり前の話なんじゃないか、という気もする。情報収集の操作(high/low control)と課題特性(選択/評価)が交絡している点も、なんというか、そんな設計でいいの? という感じだ(考察のところで防衛戦をやっているけど)。
 じゃあ仮説構築までのロジックが面白いかというと、私の頭が悪いだけかもしれないけど、正直なところよく理解できない。すいません。

 私にとってとても面白かったのは、冒頭の課題設定、風呂敷を広げるところであった。
 著者のいうとおり、主観的重要性に関する議論は、それは実際の意思決定を反映しているか?という枠組みになりがちである。私自身そうだ。消費者調査では「Xを買うときになにを重視しますか」というような主観的重要性評定をよく用いるのだけれど、その回答は現実の購買行動や顧客満足における"キードライバー"の特定手段として解釈されるのが普通である。そういう文脈では、じゃあ回帰分析で間接的に推定した重要性とどっちが正しいんだ?とか、やっぱり調査対象者のいうことはあてにならない、アンケートはだめだ、これからはソーシャル・リスニングだ、いや行動経済学だ(←ほんとにこういうことを云う人がいる)... といった、宙に浮いたような話になりがちなのである。
 いやいや、主観的重要性にはもっと積極的な意義があるはずだ。ある人が「Xを買うときにYを重視します」というとき、その発話は消費者を理解する上でなんらかの意味を持つはずではないか。と思うわけだけど、じゃあどんな意味があるの?と訊かれると、ちょっと言葉に詰まる。問題は、主観的重要性判断の心的プロセスについて十分な理論的枠組みがないということである。「主観的判断はバイアスを受ける」という表現自体、プロセスモデルが欠如している現れである(それは回答を真値とバイアスに分解しているに過ぎないわけだから)。
 著者の視点ではこういうことになるだろう。主観的重要性は経験を通じて獲得された抽象的知識の一部である。それは決定プロセス初期の意識的な情報収集を支配し、また決定プロセス後期の正当化にも寄与する。そうそう、こういうのだ。こういう枠組みを考えないといけないんだよな。

 考察に出てきた、ちょっと面白そうな言及をメモ:

読了:Barlas(2003) 「なにを重視しますか」と実際の重視点が一致しないのはなぜか

2015年4月16日 (木)

Greenberg, M., & McDonald, S. S. (1989) Successful needs/benefits segmentation: A user's guide. The Journal of Consumer Marketing, 6(3), 29-36.
 題名の通り、ベネフィット・セグメンテーションについて実務家向けに教訓を垂れる。著者らはコンサル会社National Analystsの人々。この論文の冒頭ページによると、当時はブーズ・アレン・ハミルトン傘下だったらしい。へー。現在はこの論文の第二著者がCEOで、社名はNAXIONというらしい。へー。

 まず概観。
 セグメンテーションのタイプ。ベース変数の種類とその長所・短所の話。略。以下ではカテゴリへのニーズ(ベネフィット)によるセグメンテーションに話を絞ります。
 ベネフィット・セグメンテーションにはperson-basedとoccasion-basedがある[←後者は実はperson-occasion segmentationのことを指している模様。つまり、オケージョンを分類するのではなく、ヒトxオケージョンの組み合わせを分類するセグメンテーション]。ベネフィット・セグメンテーションは頻繁に行われているが、適している場合とそうでない場合がある。たとえば過去ユーザとかスイッチャ―とか購買見込み者に注目している場合には単に購買行動でクロス表をとったほうがよい。云々。
 ベネフィット・セグメンテーションの欠点。調査予算がかかる[←ネット以前の話なので切実だ]。先に定性調査やんなきゃいけないし、時間がかかる。セグメンテーションはステークホルダーが多いので意見調整が大変だし、せっかく作ったのに理解されず書庫にしまわれちゃうこともある[←はっはっはー]。良いセグメンテーションであっても、ターゲットセグメントへのマーケティング活動がうまくなかったら結局は意味がない。
 ここのくだり、ちょっと面白かったのでメモ:

おそらくセグメンテーション・スタディは、それが[組織のなかで]目立つが故に病んでいくのである。セグメンテーション・スタディは組織を先導しようとし、それ故に非現実的な期待を生みだしがちである。セグメンテーション・スタディは[マーケティング戦略の]実行のための詳細なガイダンスをもたらすとは限らないし、創造性の代用品にもなれない。セグメンテーション・スタディの限界を知っている人は、あらゆる意味において、そのプロセスをうまく管理する責任を負う。すなわち、合理的な期待を形成し、セグメンテーションをコンパスではなく地形模型だとみなす人にそれが誤りだと気づかせなければならない。

 後半は、セグメンテーションをめぐる5つの神話を挙げ、それらを否定する。

 マネジリアル・インプリケーション。

 ... 昔の文章ではあるのだが、とても面白かったです。特に後半が。

 その上での、ただの感想なんだけど...
 読んでいて実に実務家らしいなあと思ったのは、(1)セグメンテーションのベース変数としてどういう領域の変数を選ぶかという話と、(2)アプリオリに分類するかアポステリオリに分類するかという話と、(3)クロス表で済むのか多変量解析を用いるかという話とが、ともすればごっちゃに語られてしまっている点。これは過去経験に基づいて教訓を垂れる立場になってみれば極めて自然で、つまりベネフィット・セグメンテーションのような態度の領域の変数によるセグメンテーションは多変量解析を用いたアポステリオリな分類になるのが普通で、デモグラフィクスや購買・消費行動によるセグメンテーションはアプリオリな分類となりクロス表で十分なのが普通である。だからごっちゃになるのは間違ってないです。
 でも、なんだかイライラするんですよね、本質的には違う水準の話を一緒にして語られちゃうと。書き手がどなたであれ、題名が"User's guide"であれ、学術誌の論文であるからには、ただの現象の類型化じゃなくて、世界を捉えるための整理された枠組みを提示してほしいな、なあんて...。 

読了:Greenberg & McDonald (1989) ベネフィット・セグメンテーション・ユーザーズ・ガイド

Dickson, P.R. (1982) Person-situation: Segmentation's missing link. Journal of Marketing, 46, 56-64.
 person-situationセグメンテーションという概念について理論的に整理する論文。消費者の多様性を理解する際には個人-状況の組み合わせを考えないといけないよね、という文脈でよく引用されると思う。実に33年前の論文だ。暇人といわれても仕方ないなあ。
 
 著者いわく。person-situationセグメンテーションという考え方は新しくない。

 理論的整理。

 コトラーいわく、セグメンテーションには測定の容易性、接近可能性、実質性がなければならない。さて、person-situationセグメンテーションでは...

従来よく用いられているサイコグラフィクス特性も、実はその人がおかれた状況にすぎないのかもしれないよ、というような話があって...[←パーソナリティ研究でいう一貫性論争みたいな話ですかね]

 person-situationセグメンテーションの観点からいうと、セグメンテーションのベース変数には、person, situation, person-within-situationの3種類があることになる。この3種類が基盤となって、(下位レベルから順に)ベネフィット・セグメンテーション、製品知覚セグメンテーション、行動セグメンテーションが構築される。云々。

 最後に手順の話。個々の使用状況における対象者のニーズなり製品知覚なり行動なりを調べ、使用状況とヒトの属性を縦横にとったマトリクスを書いてセルを埋めていく、という感じ[←おっと、つまりここではセグメントがアプリオリに決まるタイプのセグメンテーションを想定しているわけか]。著者ら曰く、すべての使用状況をリストアップする必要はない。

 途中からまどろっこしくなって飛ばし読みになっちゃったんだけど、理論的整理のところは明解で、頭の整理になった。こうしてみると、いわゆるoccasion segmentationという表現は、(1)ヒトを単位として、製品への行動・態度を使用状況で分類するセグメンテーション、(2)ヒトx使用状況の組み合わせを単位として、行動・態度を分類するセグメンテーション、のどちらを指しているのかわからない、あまりよろしくない表現だということになると思う。

 歴史的にみると、マーケティングの文脈では、消費者の選好の形成において個人特性と状況要因の交互作用に注目するという発想は70年代になって出てきた... という理解でいいのかしらん? 心理学の文脈でも、パーソナリティの状況一貫性論争は60年代末からだったし、クロンバックが適性処遇交互作用という概念を唱えたのもたしか70年代であった。面白いなあ。

読了:Dickson (1982) ヒトx状況のセグメンテーション

2015年4月15日 (水)

Hoek, J., Gendall, P., Esselemont, D. (1996) Market segmentation: A search for Holy Grail? Journal of Marketing Practice, 2(1), 25-34.
 調べものをしていてたまたま見つけたもの。いちおう論文なんだけど、内容は啓蒙的エッセイという感じ。掲載誌もみたことのない雑誌で(CINIIによれば大学図書館所蔵は3館)、なんだかよくわからん。

 市場セグメンテーションはマーケターの常識のひとつだ。でもビジネスがうまくいかなかった時、その原因はいろんな要因のせいにされるけど、「セグメンテーションが悪かったんだ」って反省することは少ないよね。ほんとはセグメンテーションなんて大概ろくな結果を招かないんじゃないの? と、煽りに近い前振りがあって...

 セグメンテーションにおいてリサーチャーが決めないといけない事項をリストアップすると:

解釈上の諸問題:

 結論。セグメンテーションには主観的判断が多く含まれる。リサーチャーはリサーチの方向性と知見を事前に規定している暗黙的な理論の存在に気が付いていない。必要なのはデータ解析のテクニックではなく、セグメンテーションのためのデータ解析戦略を構築することなのに、リサーチャーはそれに気が付かない。
 マネージャーのみなさん、セグメントの妥当性が確認されるまで結果を信じてはいけません。妥当性が確認されたとしてもアクションは自分で決めないといけません。

 ううむ。。。
 エビデンスに基づき意思決定を支援するという活動に対し、そこには主観的判断が入っているよね? 客観的でないよね? と指摘しても、その活動の価値を下げることにはならないし、改善する必要があるとも言い切れないのではないかと思う。たとえば、その優れた主観的センスを酒造りに生かしてはいるが、実はさまざまな測定機器を駆使しないと手も足も出ない、という新世代型の杜氏さんだっているかもしれない。主観とエビデンスは相互作用しながらひとつのシステムとして機能する。その機能が優れていればなんの問題もないだろう。
 この論文の話題に即して言うと、セグメンテーションのプロセスには、なるほど、さまざまな主観的判断が入っている。だからといって、そのことがセグメンテーションという活動の限界となっているとは言い切れないと思う。著者らは「マーケターはセグメンテーションの結果を懐疑的に捉えないといけない」と仰るし、まったくその通りだと思うけど、そのことと主観的要素の有無とは別の話題だ。正しい主観的判断をうまく引き出せているおかげで、信頼できる結果が得られているかもしれない。あたかも自動販売機のように自動化されたセグメンテーション手続きが開発されたとしても、そのアウトプットはやはり懐疑的に捉えないといけないかもしれない。
 だから、著者らの主旨を勝手に汲み取ると、先生方が本当に主張しないといけないことは、(1)セグメンテーションは主観的な判断を含んでおり(2)「それゆえに」失敗しやすいのだ、ということなのではないかと思うのである。後段を説得的に示すのは、もちろん難しいことではあろうけれど...

読了:Hoek, Gendall, & Esselemont (1996) セグメンテーションという見果てぬ夢

2015年4月10日 (金)

Jenkins, M., & McDonald, M. (1997) Market Segmentation: Organisational Archetypes and Research Agendas. European Journal of Marketing, 31(1), 17-32.
 ちょっと気になることがあって目を通した。論文自体は手に入らなかったが、ネットに落ちてたdraftで読んだ。
 マーケット・セグメンテーションの実践を類型化する(記述的な)フレームワークを提供します、という論文。セグメンテーションに関する資料をみていると、横軸に組織へのセグメントの統合、縦軸に組織の顧客駆動性をとったマトリクスが載っていることがあるけど、その元になった論文らしい。

 まず、セグメンテーションの理論的な「べき」論と実践とはかなりちがうよね、という話があって...
 4つの事例を紹介 (きちんとした事例研究というよりは逸話の紹介)。

というわけで、セグメンテーションの実践にはいろいろあって、次の2軸で整理できる。

というわけで、セグメンテーションの組織論的な元型(archetype)として次の4つを考えることができる:

 インプリケーション。これは記述的枠組みであって、どのタイプのセグメンテーションが望ましいのかは別の問題。今後の研究課題としては...

... イントロにこんなことが書いてあって、すごく面白かった。

この[従来の理論的な]議論は以下の点を想定している。まず、セグメントが客観的で同定可能な実在であり、すべてのマネージャーと組織が、それらの「世の中に」存在するセグメントを利用できる、という想定。そして、セグメンテーションとはマネージャーが市場における自らの効率性を最大化するために取り組むプロセスなのだという想定である。これらの想定に対し、2つのレベルで異議を申し立てることができる。第一に、セグメンテーションへのこうしたアプローチは、組織のケイパビリティや構造について明示的に考慮していない。[...] 第二に、セグメンテーションは実証的分析に先行して行われるプロセスというわけではなく、むしろ市場空間の見る上でのひとつのパースペクティブだとみなしうる場合もある。この観点では、組織は市場を多様なグループに分けることを通じて、自らの環境についての「理解」を得ようとしているのだということができる。

二点目を読んで大喜び。そうそう!そうですよね!
 ときどき、消費者を統計的に分類しようとする私に対して「『実務的』なセグメンテーションには同定可能性と接近可能性と利益可能性と実行可能性が必須だ」なあんて、コトラーの守護霊インタビューのようなことを仰る方がいらっしゃるんですけど、接近可能性や実行可能性がない分類でも、消費者の多様性を理解するための視点として十分に役に立つことがある。それでその場の用が足りてしまうことも少なくない。さらに、その場の用が足りるかどうか、実際に分類してみせるまでは誰も判断できないことさえある。
 別の云い方をすると、実務家が語る実務なるものをあまり信じてはいけない。実務というのは案外実務的ではない。優れた人であっても、自分が本当に行っていること、自分が本当に求めているものは、案外わからないものなのである。

 ところで...
 この論文は、マーケティング実践を記述的に類型化するという視点から組織論に踏み込んでいるところが面白いんだけど、マーケティングについて規範的に語る中で「組織かくあるべし」と踏み込む人も多い。ああいうマーケティング視点からの組織類型って、経営学的にもなんらかの実証的な対応物があるもんなんですかね? たとえば、企業XXX社のデータを集めて調べたところ、消費者視点に基づき顧客セグメントに密接に対応する組織を構築している企業のほうが収益性が高かったですとか、持続的に成長してましたとか、従業員の抜け毛が少なかったですとか(すいません冗談です)、そういう対応関係があったりするのだろうか? 申し訳ないですが、マーケティングの観点から見た組織のありかたの望ましさは、実は企業の業績や運命そのものにはあまり関係していないのではないか、マーケティング学者の「云いっぱなし」的組織論に過ぎないんじゃないか、という素朴な疑念を拭えない...。
 いや、それはそれで別にいいんですけどね。「云いっぱなし」な理念型を提出するのも大事な仕事なのかもしれませんし、経営的なインパクトはとても小さいけどマーケティングの文脈では意義があるという概念だってあるのかもしれませんし。単なる好奇心であります。

読了:Jenkins & McDonald (1997) セグメンテーションの組織論的類型

2015年3月30日 (月)

森脇丈子 (2001) 「消費者」から「生活者」へ--大熊信行氏の「生活者」論を素材として. 立命館経済学, 50(3), 286-303.
 内容はタイトル通り、60年代にマスメディアで活躍した経済学者・大熊信行の「生活者」論についてなのだけれど、書き手はきっと若く意欲に燃えた方で(勘だけど)、紀要誌とは思えない面白さであった。いくつかメモ。

[生活者ということばは、]「豊かさ」を実感できない今日の生活から脱却するには、職業生活の部面における問題の解決努力によっては為されないとみる主張を含んでいる[...] そのように主張することで労働運動や政治運動に対して独自のスタンスを持つイデオロギー集団が形成され、また地方政治において一定の活動基盤や支持基盤を固めるような現実的影響力をもつまでに発展している。これらの動向は、市民社会への発展という意味で評価されるべきであると筆者は考えるが、同時に、資本-賃労働関係という客観的な経済関係から全く離れた、超歴史的な「生活者」としての共通利益に基盤を置けば、今日の社会システムで「豊かさ」が実現できるかのような空想性を持ち、労働運動を軽視するなどの点で、現実的な弱点をもっていると考えられる。
大熊氏の提起した「人間中心」の思想はいかなる意味を持っていたのであろうか。それは、行動経済成長と所得倍増のスローガンのなかで、生産力の増大と所得の増大が第一に追及される社会状況であった1960年代に、大熊氏が人間にとっての生産[=財の生産じゃなくて生命の再生産]第一主義を社会に問いかけた点であるといえよう。[...] ではここで、氏の「人間生命の再生産」論に関して検討するべき問題点をあきらかにしておこう。それは、大熊氏が「生産」の概念を物財の生産とともに人間生命の生産としても捉える際に、両者を平面的・同時的に捉えるという観点についてである。[...]そのことによって労働により人間が成長する側面をすべて否定される点に弱点があるといわざるをえない。[...]氏の概念の把握の特徴は、その超歴史的な把握のしかたにある。[...] 氏には、歴史的経済規定をふまえたうえでものごとの分析をおこなう方法をもちあわせていないから、資本主義の経済規定をうけた労働と労働がもつ人間にとっての普遍的な意味を区別して、正確に把握することはできないのである。
氏の論理を辿ると、資本主義の[=物財の]生産と「生活者」との関連は次のようになっている[...] 資本主義の経済は企業の営利追求のために存在するものであり、人間が営利主義にまみれてしまわないようにするためには資本主義の生産の側面から一歩離れて自覚的な生活を送れるように努力することが求められる。つまり、「生活者」は消費の領域にのみ関心を向け、かつその領域での「必要」を超えた消費に陥らないよう努力することが求められるのである。[...]大熊氏は、資本主義の営利主義を批判しようとした試みとは反対に、その営利主義にメスを入れることはなく、消費面での「生活者」の努力による対抗に限定されざるを得ない新しい経済観の提起におわってしまっているのである。
非歴史的に、「自覚的に生きること」という共通項でくくられた「生活者」には、「消費者」から脱却して「生活者」になる道筋についての条件は示されることはない。この点は、大熊氏の「生活者」論の弱点であると指摘できよう。客観的経済関係に規定された階級、もしくは階級のなかで多分に細分化された階層に属する人々の生活状態の分析こそが、生産第一主義の克服につながるのである。

... 要するに、「生活者ていわはるけどそれなんですねん、アナタ労働者ちゃいますのん」ということであろうか。そりゃそうだよなあ。

読了:森脇 (2001) 「生活者」論批判

奥瀬喜之 (2014) 生存時間分析のPSMデータへの適用の試み. 専修ビジネスレビュー, 9(1), 43-51.
奥瀬喜之 (2015) PSMデータを活用した新たな最適価格測定手法の提案. マーケティング・リサーチャー, 126, 39-47.
価格調査でよく使うPSM (Price Sensitivity Meter)の4項目の回答から、2本のカプラン・マイヤー生存曲線を描く、という提案。昨日からずっとこのことについて考えている...

読了:奥瀬 (2014, 2015) PSMデータで生存曲線

2015年3月27日 (金)

ten Klooster, P.M., Visser, M., de Jong, M.D.T. (2008) Comparing two image research instruments: The Q-sort method versus the Likert attitude questionnaire. Food Quality and Preference, 19, 511-518.
 「重要性についての論文をしみじみ読む会」、本年度第2弾。あんまし重要性とは関係ないけど(なぜリストにこれを入れたのか思い出せない)、まあ主観的重要性測定手法のひとつでもあるし、ということで。
 消費者にイメージを聴取するという場面で、Q-sort法とリッカート項目を比較する。Q-sortとはもちろんクイックソート・アルゴリズムのこと...ではなくて、心理学の分野に伝わるいにしえの聴取手法である。カードをたくさん渡し、両極7件~11件尺度上に、分布が山形になるよう決めた枚数づつ並べさせる。

 対象者はオランダの学生。牛肉のイメージを聴取する。30項目。

 上記の2群は別のサンプルである(あるサンプルを2群に無作為割り当てしているわけではない)。しょぼいなあ。

 で、なにやら結果を比較しているんだけど、結構印象論に近い話だし、どうでもいいような気がしてきたのでパス。項目の平均はどちらも似たようなもんだが、人の分類にはQ-sort法のほうが適していて、対象物のイメージの把握にはリッカート法のほうが適している、とかなんとか...聴取方法だけじゃなくて分析方法も変えちゃってんだから、比べてもしょうがないんじゃないすか? なんだかなー、もー。

 いくつかメモ。

読了:ten Klooster, Visser, & de Jong (2008) Qソート法 vs. リッカート法

2015年3月26日 (木)

最近読んで記録し損ねていたもの。

萩原雅之(2012) データ環境が変えるマーケティングの実践. マーケティングジャーナル, 31(3), 45-57.
前半は概観、後半はコールセンターの話。

丸山一彦(2006) 商品企画におけるマーケティングリサーチの問題点に関する研究. 成城大學經濟研究, 172, 33-55.
JMAのアンケートの話からはじめて、コトラーをディスったのち、市場定義の諸手法とかMRの諸手法とかを紹介。

読了:丸山(2006), 萩原(2012)

2015年2月 4日 (水)

準備中の資料の役に立つかと思って, Ciniiで探して片っ端から目を通したもの;

黒田重雄 (2014) マーケティングを学問にする試み : マーケティングはマーケティング・リサーチのことである. 北海学園大学経営論集, 12(2),141-159.

丸山一彦 (2006) 商品企画におけるマーケティングリサーチの問題点に関する研究. 成城大學經濟研究, 172, 33-55

栗木契 (2007) 構想としてのマーケティング・リサーチ. 国民経済雑誌, 95(5), 39-57.
マーケティング・リサーチの話なのだが、論理実証主義批判からはじまって(哲学史の本以外の場所で「論理実証主義」という言葉が出てきたら9割方悪口である)、ポパーとラカトシュを経由し、しまいにはクリプキとか出てきます。すごいな。

読了: 紀要論文に垣間見るさまざまな人生

2015年2月 3日 (火)

岩崎祐貴, 折原良平, 清雄一, 中川博之, 田原康之, 大須賀昭彦 (2015) CGMにおける炎上の分析とその応用. 人工知能論文誌, 30(1), 152-156.
 ネット上の「炎上」を機械学習で予知するという研究。第一著者は現在サイバーエージェント所属の若い方。

 内容メモ。数式によくわからない箇所があって、表記を勝手に少し変えてます。失礼をお許し下さいませ。
 著者らいわく、ネット上の炎上は犯罪自慢型、Struggles between conflicting values型(「価値観押しつけ」型, SBCV型)、暴露型の三タイプにわけられる。このうちSBCV型の炎上の予測を試みる。具体的にはtwitterの分析である。

 まず、ある所与のトピックについての世評を動的に数値化する方法を考える。時点$t$におけるトピック$I$についてのtweetの総数を$A_I(t)$とする。これを辞書マッチングによって肯定$P_I(t)$, 否定$N_I(t)$, 中立$E_I(t)$に分類する。期間$T$における話題$I$の日次極性を
$DP_{I,T}(t) = \{ P_I(t) - N_I(t) \} / \{ \sum_{i \in T} A_I(i) \} $
とし、これを$T$における最大値で割って $NDP_{I,T}(t)$とする。呟きが炎上するのはその極性がその時点での世評の蓄積と対立しているからだろう、というわけで、過去のNDPの影響を積分した値を持つ指標「割引累積日次極性」DCNDPを定義する。ここの式がよくわからないんだけど、たぶん
$DCNDP_{I,T}(t) = \sum_{i=1}^{\infty} 0.95^{i-1} NDP_{I,T}(t-i)$
という主旨なのであろうと思う。0.95というのは忘却を表す係数。

 つぎに、炎上ツイートを集めるモデルをつくる。SBCV型で炎上したといえる呟き(A)を人力で20件収集。当該の呟きをしたアカウントの2013年上半期の呟きを収集。各アカウントの被RT数の40倍を超えた呟き(B)は123件[どうやらここにはAは含まれていないらしい]。うち17件が炎上している[ちょ、ちょっと待って、ではBでいう炎上の定義は???]
 A20件+B123件=計143件、うち炎上37件。これを学習データとし、決定木(WekaのJ48)に放り込む。説明変数は、アカウントのフォロー数、フォロアー数、平均非RT数とこの正規化、平均非Fav数とその正規化、平均ツイート数(正規化)、当該発言の極性、味方率(当該発言をリツイートした人におけるフォロアーの割合)、有名人か(アカウントがWikipediaに載ってるか)。できた決定木をみると、たとえばフォロアー数11755以下のアカウントの味方率11%以下のツイートは22件中22件が炎上、だそうだ。ひゃー。
 さて、日本のフォロアー数ランキング上位5000アカウントについて、学習データと同じ手順で1533件を収集、ブログ更新情報などでない235件(C)をテストデータにして上の決定木にあてはめると、炎上しているはずのツイートが24件。「真の炎上tweetについて調査したところ、適合率100%、再現率93%であった」とのこと。[←ここもよくわからない。真の炎上tweetはどう定義したのか]

 上のモデルでは「味方率」という説明変数が効くんだけど、これは投稿前にはわからないので、投稿時点のDCNPDに取り換えてモデルを組みなおす[←あ、そういう筋なのね... DCNPDがいつ使われるのかわからず混乱した]。こんどはA+B+Cの378件のなかから53件(うち炎上22件)を抽出し、J48に食わせたところ、発言の極性とDCNDPだけを使う単純な決定木となった。予測精度94%。

 興味深い内容であった。大変勉強になりました。
 提案手法の使い方として想定されているのは、有名人のクライアントが投稿する瞬間に炎上確率を予測し警告する、というような用途ではないかと思う。無名の高校生がバイト先の冷蔵庫に入った写真を投稿して炎上、というようなのは視野の外にある。
 感想:

 この研究によれば「価値観押しつけ型」炎上は投稿内容と世評のposi-nega極性のズレなわけだ。価値観の対立ってのは、発言のposi-nega極性で表現できるような単純なものかなあ? と疑問に思う面もある。
 北朝鮮の拉致被害者が帰国した頃、評論家の故・栗本薫さんが「被害者の方々の北朝鮮での苦難の日々のなかにも、それぞれの豊饒な生があったのではないか」という意味のことを発言して大炎上したことがあった。しかし、おそらく「拉致被害者」についての世評の極性はpositive, この発言の極性もやはりpositiveだろう。極性のズレでは説明がつかない例だ。
 いや待てよ、栗本さんの発言は「被害者の人生は悲劇ではない」という形で流通して叩かれていたような気もする。この形なら、なるほど、辞書マッチング的な意味での極性がズレているわけだ。炎上なんて案外その程度に単純な、言葉尻の問題なのかもな、と思う面もある... うーむ。

読了:岩崎 et al. (2015) ツイッター上の炎上を予知する

2015年1月28日 (水)

Hoeffler, S. (2003) Measuring preferences for really new products. Journal of Marketing Research, 40(4), 406-420.
 本当に新しい製品 (RNP) の消費者評価の正確性を上げる手法を考えました、という論文。資料作成の都合で読んだ。

 先日読んだZhao, Hoeffler, & Dahl (2012)と同じく、イントロの論理構成がつかみにくいのだけれど...
 いわく、製品学習の方法として、カテゴリ・ベース学習、アナロジー、心的シミュレーションがあるだろう[←ここの導入に唐突感があるんだよなあ...]。RNPの場合は後ろのふたつが効くだろう。
 また、RNPの使いやすさ評価の誤差源として、次の3つがあるだろう: (1)不確実性。(2)現在の消費行動に変化が生じる点。(3)意図されたベネフィットを実現されるベネフィットに翻訳する際に、過去経験も不偏な情報源もなく、ネットワーク外部性についてもわからないという点。[←3つある、と云いながら、3つめがやたらに盛りだくさんだ]

 というわけで(どんなわけだ)、研究を3つ。
 研究1. RNPの評価において不確実性は高いか。
 RNPとINP (漸進的新製品)のペアを4つ用意。たとえば「3Dカメラ」と「デジタルコンピュータカメラ」で一ペア。
 MBA学生30名。ひとりの被験者に4ペアからRNPを二個、INPを二個提示。それぞれについて、(1)製品の記述を読ませ、(2)ベネフィットを60秒間think aloud、その後、自分の評価の不確実性などを9件法で評定。(3)欠点を60秒間think aloudし、不確実性などを評定。(4)社会的含意を60秒間think aloudし、また評定。(5)最後に関心とかを評定。[←MBAの学生だから難しいことを尋ねても答えてくれるだろうけど、消費者行動論の研究としてどうなの?]
 結果。ベネフィット評価の不確実性、欠点評価の不確実性、社会的含意の不確実性、メーカーにベネフィットを実現する能力があるかどうかの不確実性、メーカーが欠点を克服できるかどうかの不確実性、メーカが社会的含意に影響を与えられるかどうかについての不確実性、の6項目についてのMANOVA。RNPのほうが不確実性が高い。云々。
 なおthink aloudのプロトコルをみると、RNPではたしかにアナロジーを使ってました、云々。
 [途中から読み飛ばした。論文の構成上必要であることはわかるけど、なんだかタメにする実験という感じで、正直付き合いきれない]

 研究2。ここから俄然面白くなってくる。消費者調査でいうところのホーム・ユース・テストをやるのだ。
 被験者は一般市民(完全に回答したのは44人)。P&GのDryelというRNPと(ドライヤーでドライクリーニングできるんだってさ)、Short WipesというINPを使用。

 実験計画は、心的シミュレーションの操作(4水準, 被験者間), 製品タイプ{INP, RNP}(被験者内), 測定のタイミングが試用{前, 後}(被験者内操作)。[←あれ? INPとRNPは被験者内操作なのか... じゃステージごとに2製品について考えたり聴取したりのかな... なにか読み落としているのかも]
 結果。被験者ごとに、20製品に対する評価の試用前後での相関を求め、これをシミュレーションの水準のなかで平均する。INPでは0.59から0.69, 有意差なし。RNPでは、単なるシミュレーションで0.72, 自由形式アナロジーで0.57, マーケター提供アナロジーで0.55, コントロールで0.61。対比をいろいろつくって検定してるんだけど、要するに試用前評価の予測的な正確さが単なるシミュレーションで上がりアナロジーの追加で下がる、ということであろう。購入意向の変化も調べているんだけど、INPで予測が正確、RNPで不正確、という感じ。
 考察するに、アナロジーが不適切だったんじゃないか。ソース-ターゲット間のマッピングがちゃんとできてなかったんじゃないか。できていたとしても転移ができてなかったんじゃないか。

 研究3.
 被験者はMBAの学生(完全に回答したのは55人)。INPはなしで、IBMのTransNoteというRNPを使う。ラップトップとスキャナが一緒になったようなものらしい。

 実験計画は、心的シミュレーション(2水準, 被験者間), 試用有無(2水準、被験者間), 測定のタイミングが{前, 後}(被験者内操作)。[←試用しない被験者のことをWOM条件とかっこよく表現していて、笑ってしまった。クチコミしてるとは限らないじゃんか]
 結果。面倒なので読み飛ばしたけど、心的シミュレーションによって事前評価の予測力は向上する。試用すると予測力は下がるんだけど、心的シミュレーションをやっているとそんなに下がんない。というような話らしい。
 
 。。。お世辞にも綺麗な結果とはいえない研究なんだけど、実在するRNPを借りてきたり、ホームユースをしたりする手間を考えたら、文句はいえない。論文の書き方がごちゃごちゃして好きじゃないけど、これも好みや慣れの問題であろう。ともあれ、頭が下がりますです。
 気持ち悪いのは、研究2の結果の表をよくみると、RNPの試用後購入意向が心的シミュレーション群で低い、という点。ひょっとして、試用前の心的シミュレーションの影響が6週間後も続いているのではないか。とすると、試用後評価を「正解」と見立てて試用前評価で予測する、という枠組みが疑わしいことになる...

 イントロの部分からメモ:

読了:Hoeffer (2003) 消費者に革新的新製品のコンセプトを評価してもらう際に使用場面を心的にシミュレーションしてもらったら評価が正確になる、といいなあ

2015年1月19日 (月)

Zhao, M., Hoeffler S., & Dahl, D.W. (2012) Imagination difficulty and new product evaluation. Journal of Product Innovation Management. 29, 76-90.
 身体化認知の原稿の都合で読んだ奴。
 仮説に至るロジックが入り組んでいてわかりにくかったのだが(私の知識不足のせいか、眠気のせいであろう)、要するに以下の仮説を検証する。
 H1. 本当に新しい製品(RNP)の消費者評価はイメージ化が困難なときに下がるが、インクリメンタルな新製品(INP)の評価では影響しない。
 H2. RNPにおけるイメージ困難性の効果は、関与が高いときにより大きくなる。

 実験1. 学生83人。(1)架空の製品の広告を見せる。その製品は実は{Thinkpad(INP条件), Sonyが開発中であったAudioPCという初代Kindleのデカいのみたいな奴(RNP条件)}。(2)製品について想像するように教示。手がかりとして使用場面のリストを渡す。たとえば「教室でノートを取ってそのままハンドアウトにコピペする」。リストは{1項目(イメージ化困難), 8項目(イメージ化容易)}。で、目を閉じて2分間考える。(3)質問紙に回答。製品評価9件法とか。要因は、製品の新しさ{INP, RNP}とイメージ化{困難, 容易}、ともに被験者間操作。
 結果: RNPではイメージ化容易な方が製品評価が高いが、INPでは差がない。OAの分析もやってるけど、省略。

 実験2. 今度はイメージ化容易性の操作を提示情報を変えずにやります。学生84人。実験1との違いは、使用場面リストを渡さず、使用場面を{1個(容易), 8個(困難)}考えさせる。
 結果: RNPではイメージ化容易なほうが製品評価が高いが、INPでは差がない。OAの分析は省略。

 実験3. 学生55人。実験2のRNP条件のみ。イメージ化の際の時間制約を外す。
 結果: イメージ化容易条件(1個考える)のほうが評価が高い。

 実験4. 学生113人。(1)架空のRNP製品の広告を見せる(google Glassみたいな自動翻訳機)。教示: {「近々この町で若者にテスト・マーケティングする予定ですので、あなたのご意見が重要です。抽選で5名の方にこの新製品か同等なギフト券をプレゼント」(高関与)、「近々西海岸で高年齢者にテスト・マーケティングする予定なんですが、今日時間が余ったのでついでにあなたたちにもお伺いします」(低関与)}。(2)使用場面を考えさせる: {1個(容易), 8個(困難)}。(3)質問紙に回答。製品評価9件法とか、この製品とギフト券のどっちがいいかとか。要因は、関与{高, 低}とイメージ化{困難, 容易}、ともに被験者間操作。[←おいおい... 高関与群のプレゼントはホントにあげたのかね]
 結果: 高関与条件では、イメージ化容易条件のほうが製品評価が高く、製品選択率も高い。低関与条件ではどちらも差がない。

 うーん、実験4の手続きはどうなの、これ...? 著者らは「低関与条件では差が出ない」という結果で勝負しているんだけど、製品への関与が下がってたからというより、単にいい加減に課題を行い適当に答えてたからなんじゃなかろうか。だって「あなたら向けの製品じゃないけどついでに訊きます」なんて言われたら、学生さんはやる気なくしますよ、ほんとに。この手続きは心理学の雑誌ではちょっと通らないのではなかろうか。←と思ってよく見たら、この操作はPetty, Cacioppo, & Schumann(1983JCR) に拠る由。精緻化見込みモデルのご本家だ。まじっすか...

 この論文の面白かったところは、題名にも入っている「イメージ化困難性」という概念が、ほんとにイメージ化しにくいかどうかではなく、実はイメージ化しにくい「ような気がする」かどうかというメタ認知的な概念だという点。
 身体化認知の文脈で考えると、(A)ある身体動作の容易性と、(B)ある身体動作の心的シミュレーションの容易性と、(C)ある身体動作の心的シミュレーションの容易性のメタ認知とは、ちょっとずつ違うんじゃないか、と思うわけである。製品評価への運動流暢性効果はふつう(B)の効果だと考えられていると思うんだけど、もしそれが実は(C)の効果であるならば、なにかメタ認知を狂わせるような状況を設計し、製品使用動作の流暢性のメタ認知を高めることで、製品評価を高めることができたりしないかしらん。たとえば、使いにくそうな脚立の棚の横で、ジャッキー・チェンの脚立を使ったアクション場面を映す、とか...?

 冒頭部分で、イメージ化とアクセス容易性と関与についてかなり執拗なレビューが行われているんだけど、イメージ化に関する先行研究だけメモしておく。

それにしても、イメージ化というのもそれはそれであいまいな概念ではあることよ。

読了:Zhao, Hoeffler, & Dahl (2012) 本当に新しい製品は、使っているところが想像しにくい「ような気がする」ときに評価が下がる

2015年1月 8日 (木)

Nelson, L.D. & Simmons, J.P. (2009) On southbound ease and northbound fees: Literal consequences of the metaphoric link between vertical position and cardinal direction. Journal of Marketing Research, 46(6), 715-724.
 南北は上下とメタファ的に連合しているので、人は北に移動するのは大変だと感じる、よって南のお店に行きたがる。という研究。
 原稿の準備で目を通した奴。いちおうはマーケティングの話になっているのだが、別にマーケティングの話にしなくてもよかろうに...

 説明の段取りは次の通り。

PSSを説明原理としているが、simulationという言葉は出てこない。ここでPSSはあくまで知識表象の構造の話であって、空間課題遂行時に垂直運動の心的シミュレーションが起こるという主張ではないわけだ。うーむ、この分野は理論的説明が錯綜していて難しいぜ。

 実験は7つ。
 実験1: 説明文を読ませ、二地点間を飛ぶ鳥の飛距離を推定させる。飛ぶ方向を操作: {北, 南}。結果: 北に飛ぶ方が長く評定される。
 実験2: 架空の都市間で、荷物運送料が一番高いペアを選ばせる。要因: {都市名をUSの地図上に南北に配置して提示, 都市名を並べて提示}。結果: 北向きペア, 地図なしペア, 南向きペアの順に運送料が高い。
 こんな感じの実験が続く。面倒なのでメモ省略。

読了:Nelson & Simmons (2009) 南下より北上のほうが大変だという気がする

2014年12月16日 (火)

Krishna, A., Schwarz, N. (2014) Sensory marketing, embodiment, and grounded cognition: A review and introduction. Journal of Consumer Psychology, 24(2), 159-168.
 仕事の都合で読んだ。
 表題通り、この雑誌のこの号はSensory marketing, embodiment and grounded cognitionという特集号で、これは編者の序文。なお、この号への寄稿は以下の通り。

うーむ、sensory marketingっていうと、こんな感じのとりとめもない話になっちゃうのかしらん...
 以下、内容のメモ。

研究小史。70年代、認知への情報処理アプローチが支配的になった。その反動として、社会的認知研究においては認知への感覚・動機づけの統合が試みられたが、感覚や身体情報が(たとえば)意味ネットワークのノードとして取り込まれただけで、アモーダルな表象という基本的想定に根本的に挑戦するものではなかった。この流れは「情報としての感覚」アプローチとして今に至っている[←これはSchwarzという人の言い回しらしい]。
 脱文脈化されたアモーダルな精神という想定に反旗を翻す流れとしては、まず状況的認知とそれに関連した立場。感覚経験と抽象概念が共有しているメタファに注目する立場。そしてすべての心的行為をモダリティ・スペシフィックなシミュレーションとしてみる立場[Barsalouのこと]がある。

情報としての身体経験。[心拍が写真の魅力を増すとか、ペンを咥えてマンガを読むとどうこうといった研究の紹介があって...] よく知られた認知現象も身体的基盤を持っている。たとえば単純接触効果とか。[1]をみよ。
 感覚も外的情報に影響される。たとえば、被験者に広告文章を読ませたあとで食べ物を食べさせると、文章が複数の意味を持つものであったほうが、感覚的な思考が誘発され、食べ物がおいしくなる[どういうことだろう... Elder & Krishna, 2010, JCR]。

感覚経験、心的シミュレーション、刺激属性。消費者の錯覚についての研究は昔からあった。最近では目標指向的行動の観点から錯覚の問題がふたたび注目されている。たとえば、モノの大きさの錯覚がモノの選択には影響するが、モノをつかむときの握力には影響しないとか。バックパックを背負っていると坂は急に見え、友達がいるとなだらかにみえるとか。50年代ニュールック心理学以来の、知覚の動機づけバイアスの再訪だ。[2]はこの系統。
 状況的認知の観点から、知覚が行為をアフォードしシミュレーションを引き起こすという研究も多い。メタ認知的経験の感覚運動的基盤についてもっと検討が必要だ。とはいえ、すべてのシミュレーションが同じルートを辿るわけではない。アフォーダンスで起きることもあれば、共感と感情的処理で起きることもあれば、内省で起きることもあろう。
 食物の概念的処理が味覚を処理する脳領域を活性化させるという話もある。[3]とか。
 刺激の感覚属性が思考・感情・決定に影響するという研究も多い。視覚がいちばん多い。[4][5][6]をみよ。触覚もある。[7][13]をみよ。操作は難しいが匂いもある。

メタファ。一番多いのは物理的暖かさと社会的暖かさの連合の研究。[8][9][10]。また、[5]は明るさと熱と感情、[11]は水とエネルギーとの連合に注目している。
 空間の垂直方向が持つメタファ的連合の研究も多い。[12]をみよ。
 物理的清潔さと道徳的清潔さのメタファ的連合の話は、Zhong & Liljenquist(2006, Science)にはじまる。[13]はこの延長線上にある。
 最後に、[14]はメタファ的意味が創造性を促進・阻害することを示している。[←これってもはや特集の趣旨とずれ始めているのでは...]

結語。情報処理モデルの全面的な対抗案を出せないからと言って研究の価値が下がるわけじゃないだろう。アンドレ・ジイドいわく、浜辺の灯りを見失うことなしに新大陸は発見できない[←大きく出たね...]。
 いっぽう、本特集号に投稿された70本以上の論文のほとんどが、大きな概念的問題を提出しようとしないどころか、自分たちの知見が既存の研究にどのような点で挑戦しようとしているのかを同定しようとさえしていなかった。それはそれでちょっとどうかと思うぞ。[←ははは]

読了:Krishna & Schwarz (2014) センサリー・マーケティングと身体化認知

2014年12月10日 (水)

Meade, N., Islam, T. (2006) Modelling and forecasting the diffusion of innovation - A 25-year review. International Journal of Forecasting, 22, 519-545.
 ちょっときっかけがあって目を通した。
 以前から、マーケティングに関して豊富な経験を自負する方々の新製品・新技術普及についての捉え方が、控えめに申し上げてもかなりナイーブであるような気がしていて、正直なところ少しげんなりしていたのである。消費者のうちイノベータは3%だといわれている、とか。最近新製品が売れないのはイノベータが減っているからだろう、困ったものだ、とか。これは別にマーケティングに限ったことではなくて、さまざまな統計的現象のなかでも、個体間異質性を伴う経時的現象は「経験に基づく直感が無力をさらす」難題のひとつだ、ということではないかと思う。学力発達とちょっと似ている。
 床屋談義に引き摺り込まれないように、たまにはまともな議論に触れておきたいものだ、と思って手に取った次第。幸か不幸か、イノベーション普及は歴史の古い分野で、新製品と新技術の両方で、実証研究がそれはもう山のようにある。

 まずは研究小史。新製品受容に話を絞る。
 横軸に時間を、縦軸に新製品なり新技術なりの累積受容率をとると、累積正規分布曲線のようなS字型の単調増加曲線が描ける。これを時期ごとの増分に落とせば釣鐘型の曲線が描ける。有名なロジャーズのイノベーション普及曲線である。こういう発想は少なくともFort & Woodlock(1960) まで遡れるらしい。
 この曲線をどうモデル化するか。主要モデルは60年代にほぼ出揃っている: Bass(Bass, 1969), 累積対数正規(Bain, 1963), 累積正規(Rogers, 1962), ゴンペルツ(Gregg, Hassel, Richardson, 1964), 時間の逆数の定数倍の指数(McCarthy & Ryan, 1976), ロジスティック(Gregg et al, 1964; 修正版が多数ある), 時間の定数倍の指数の一次変換(Fourt-Woodlockモデルは結局のところこれだそうな)、ワイブル(これは新しくて、Sharif & Islam, 1980)。
 70年代はモデルの修正の季節であった。マーケティング変数の導入(Robinson & Lakhani, 1975), 異なる国・普及段階への一般化(Gatignon, et al, 1989), 技術の新世代ごとの普及(Noron & Bass, 1987)。いずれも予測というより過去の説明が主眼であった。
 80年代以降はレビューがいっぱい出た。メモしておくと:

以下、4つのテーマに分けて論じる。

 テーマ1. 単一市場における単一イノベーションの普及
 そもそも、なぜ累積普及曲線はS字型になるのか。二つの仮説がある。

Van den Bulte & Stermersch (2004, Mktg.Sci.)のメタ分析では、Bassモデルの$q/p$が国の個人主義的特性と負の相関、集団主義的特性と正の相関、権力格差と正の相関、男性性と正の相関、不確実性回避傾向と負の相関を示した。伝染ダイナミクスによる説明と整合する。いっぽう$q/p$は所得のジニ係数とも正の相関を示しており、これは所得の異質性による説明とも整合する。面白いなあ。なお、Rogersは95年の第四版で、受容閾値の分布に不連続性があるような場合、財によってはクリティカル・マスにリーチしないと普及が始まらない、という説明をしているそうで、ダイナミクスを全然考えていないわけではないらしい。
 年収などの社会経済変数の分布データを使って普及を予測するという路線や、異質性に特定の確率分布を仮定したミクロ-モデリングの提案もある(分布パラメータを変えて集団のBassモデル的挙動を再現するわけだ)。ミクロレベルでの異質性を消費者の空間分布で説明しちゃうモデルもある。
 以下、テーマ1に属する7つのトピックを紹介。やばい、軽い気持ちで読みだしたが、これガチの網羅的レビューだ...

 トピック1. 説明変数の導入。価格や広告を入れたモデルをつくれば価格・広告戦略の最適化に使えるじゃん、というわけである。
 典型的には、説明変数を(a)市場ポテンシャル(飽和レベル)の項に入れるか、(b)受容確率なりハザード関数なりにいれるか、(c)両方にいれるか、である。(a)の例は山のようにある。(b)としては、たとえばBassモデルに価格$P(t)$を入れて、ハザードを
 $h(t) = (\beta_0 + \beta_1 F(t)) exp(-\beta_2 P(t))$
とするとか。この路線のさらなる拡張も山ほどある。(c)の例としてはKamakura & Balasubramanian (1988)の... 名前の長さだけでお腹一杯なので省略するけど、この路線も何本かあって... さあ真打ち登場です。Bass, Krishman, & Jain (1994)の一般化Bassモデルは
 $h(t) = (p + q F(t)) x(t)$
ここで$x(t)$は「現在のマーケティング努力」で、$A(t)$を広告, $P(t)$を価格として
 $x(t) = 1 + \beta_1 \frac{\partial P(t)}{\partial t} + \beta_2 max(0, \frac{\partial A(t)}{\partial t})$
なるほどね、うまいものだ。
 なお、こうやって説明変数を入れることで予測が向上するかというと、案外そうでもない、という研究もある由。

 トピック2. モデル推定をめぐる諸問題。非線形モデルだから、いろいろ大変なのである。
 Bassモデルの推定に絞っていえば、オリジナルではOLS推定であった。これが不安定だというのでML推定が提案され、いやパラメータのSEが過小評価されているというのでNLS推定が提案された。どっちがいいとか悪いとか、いろいろ研究がある由。さらに、誤差分散の不均質性を考慮するとか、遺伝的アルゴリズムによるNLSとか... まぁとにかく!OLSが良くないことは確実で、現在はNLSが主流だが、MLも捨てがたい、とのこと。なお、パラメータが時間変動するんじゃないかというので開き直ってカルマンフィルタを使うという提案や、ランダム係数にしてシミュレーテッド・アニーリングを使うという提案もある由。
 現実場面を考えると、累積受容率の時系列がまだすごく短かったり、全然なかったりする段階で普及を予測したいわけである。方法としては、まず時期を短くとって(年次じゃなくて四半期とか)季節調整するという手がある。他の普及曲線と一緒に階層ベイズモデルという手もある(単一曲線のML推定による予測より精度が良いという話もある)。云々。

 (面倒になってきたのでこの辺から駆け足に)
 トピック3. 制約付きの普及のモデル化。たとえばUSの携帯電話の普及には、基地局が足りなかったりサービス地域拡大が遅れたりといった制約があったのだそうだ。こういう制約はビジネス戦略として用いられている面もある。というわけで、モデル化の提案がいくつかある由。

 トピック4. 普及と買い替えのモデル化。初回購買と買い替えを区別して観察できない場合もあるので、モデルで分解するという話。横断データなのに態度変数などで無理やり区別している例もある。世帯にテレビが複数台ある状況下でのテレビの新製品普及、なんていうモデルもあるそうだ...

 トピック5. 複数のサブカテゴリでの普及のモデル化。たとえばiPhoneとandroidの両方で新技術製品が出るとか、正規品と非正規品で新製品が普及するとか。これも結構研究がある模様。よくやるなあ。

 トピック6. モデル選択と将来予測。こうやって頑張って組んだモデルは、季節調整つき線形トレンドモデルみたいな時系列モデルよりも正確だ、と思うでしょう? ところがこれにも諸説あってだね... という話。扱っているデータセットが等質であれば、それらに合った良いモデルをひとつ選ぶことができるんだけど、いろんなデータセットを扱っている場面では、良い予測モデルなんて選べないんだそうだ。
 普及予測に際しては予測区間を示すのが大事。ブートストラップ、カルマンフィルタ、ベイジアンアプローチによる手法も提案されている。

 トピック7. 応用。マーケティングでは、上市前予測、製品ライフサイクルに基づく戦略決定支援、市場参入タイミングの最適化、といったところ。技術研究ではテレコムが最大分野だそうだ。ほかにもいろいろ挙げられているけど、省略。

 (時間が無くなってきたのでどんどんおおざっぱに)
 テーマ2. 複数の国における普及。Bassモデルにリード・ラグをいれた研究が多い。パラメータp, qを国の特性の関数にするという路線もある。イノベーション係数を、ロジャース的な意味での生得的イノベーション性とメンバー間のコミュニケーションに分解したモデルもある。潜在変数をかまして国のセグメントを作った研究もある(Helsen, Jedidi, DeSarbo, 1993, J.Mktg. うわぁ、急に仕事と直結する話になってきた...読まなきゃ...)。
 推定面でのモデル比較もあって、Bassモデルよりゴンペルツモデルのほうが良いという話が合ったり、階層ベイズモデルを使うという話もあったりする(そりゃあるだろうなあ...
Talukdar, Sudhir, Ainslie, 2002, Mktg.Sci.; Desiraju, Nair, Chintagunta, 2004, IJMR)。

 テーマ3. 技術の複数の世代を通じた普及。たとえば携帯とか、PCとか。Norton & Bass (1987)がBassモデルを修正したモデルを提案している。これまた、後続が山ほどある模様。世代間の競合を考える奴もある。全然違う方角から、技術ライフサイクルのモデルを使う提案もある。
 説明変数を入れる提案も山ほどあって... 云々。よくやるよ。全然違う方角から、アップグレードに対する顧客の効用関数を考えるという路線もある。

 テーマ4. マルチ・テクノロジー・モデル。これは著者らの研究の紹介で、ごく短い。ある国における、たとえばファックスの普及と携帯電話の普及の関連性を説明するモデルを組み、これを他の国に適用する、というような話。

 今後の研究の方向性

やれやれ、終わった... 予想外に網羅的・包括的なレビューであった。さらに、予想を超えて研究の蓄積がある分野だとわかった。なめてました、すいません。

読了:Meade & Islam (2006) イノベーション普及研究レビュー

2014年12月 8日 (月)

Urban, G.L., Weinberg, B.D., Hauser, J.R. (1996) Premarket forecasting of really-new products. Journal of Marketing, 60(1), 47-60.
 仕事の足しに読もうと思って積んであった奴。画期的な新製品の売上をマルチメディア・バーチャル環境をつかって予測しましたという、いささか時代がかった研究事例である。時代はマルチメディアだ、イット革命だ、インパクだ。
 関係ないけど、オフィスがある原宿キャットストリートに、先日唐突に裸女のブロンズ像が飾られ、それがいかにも区がお金を出しそうな、品があって危なげのない作品で(吉野毅の作である由)、台座にはなんだか変な詩らしきものが書かれていて、近所の小学生に公募したのかなと思ったら、堺屋太一と署名があった。これが大人の世界か、と思った。

 GMとやった事例で、お題は電気自動車(EV)のコンセプトの消費者評価。要するに、Urbanたちが当時やってたinformation acceralationという調査手法の実務適用事例である。あれこれ手間ひまかけて、実購買場面に近い感じの情報環境を用意する、というやつ。
 実験計画が汚かったり(まあ実事例だからしょうがないんだけど)、結局は電気自動車に試乗させていたりで、途中で心底どうでもいいなという気分になってしまい、ほとんど読み飛ばした。すいません、このたびはご縁がなかったということで。

読了:Urban, Weinber, Hauser (1996) マルチメディアで上市前売上予測

2014年12月 3日 (水)

Van den Bergh, B., Schmitt, J., Warlop, L. (2011) Embodied Myopia. Journal of Marketing Research, 48(6), 1033-1044.
 第一著者はエラスムス大のビジネススクールの先生だが、JEP:LMCやPSPBに論文があるガチの心理学者。タイトルはマーケティング分野で有名な"Marketing Myopia"を意識したものであろう。
 腕の屈伸が時間選好に与える影響を示します、という論文。

 まずは身体化された認知(embodied cognition)について説明。
 身体運動は感覚・思考に影響する(Barsolou 2008 Ann.Rev.Psych., Niedenthal 2007 Sci., Niedenthal et al. 2005 PSPR)。消費者行動分野の先行研究:うなずきが製品への態度を変える(Tom et al, 1991 Basic&Applied Soc.Psych.)、手足を伸ばすと金融面でリスク志向になる(Carney, Cuddy, Yap 2010 Psych.Sci.)、こぶしを握ると利他的になる(Hung & Labroo 2001 JCR)、硬い椅子に座ると商談での柔軟性が減る(Ackerman, Nocera, & Bargh 2010 Sci.)。
 その説明として、経験を通じて動作とその結果のあいだに高次な連合が生じるという説がある(Cacioppo, Priester, Berntson 1993 JPSP)。たとえば腕を曲げる動作は欲しいモノの獲得と連合し、腕を伸ばす動作は要らないモノの拒否と連合する、というわけだ。腕の動作と認知の関連については実証研究もある:消費(Forster 2003 Euro.J.Soc.Psych.), 態度(Forster 2004 JCR)、問題解決の創造性(Friedman & Forster 2000 JPSP, 2002 JESP)、概念的な注意の範囲(Forster et al., 2006 JESP)、長期記憶からの検索(Forster & Stack 1997 PMS, 1998 PMS)。

 仮説
 その1、腕を曲げると選好がpresent-biasedになる。なぜなら:報酬は接近動機づけを高める。delay-of-gratifictionパラダイムを見よ[マシュマロ実験のことね]。子どもに、いますぐマシュマロを一つ食べるのと15分後に二つ食べるのとを選ばせる際、マシュマロが手に届くところにあると子どもは我慢できなくなる。この欲求はドメインを超えて生じる。性的刺激はキャンディーやソフトドリンクへの衝動性を引き起こすし(Van den Bergh et al. 2008 JCR)、美味しい飲み物を与えると食べ物以外の領域でもreward-seekingになる(Wadhwa, Shiv, Nowlis 2008 JMR)。[へー、そんな実験があるのか]。ってことは、腕を曲げると接近動機づけが高まり、報酬に関してpresent-biasedになるはずだ。具体的には、sooner&smallerな報酬への選好、(チョコレートケーキのような)悪徳的商品(vice)への選好が高まるはずだ。
 その2、この効果は接近システム感受性にモデレートされる。なぜなら:マシュマロ実験で子どもが我慢できなくなるのはマシュマロの味を想像できちゃうからだ。これは (Loewenstein & Prelec のような) 効用の時間割引の一般原理では説明できない。Grayの強化感受性理論によれば、報酬への接近システム(BAS)と罰からの回避システム(BIS)は別物で、それぞれの感受性に個人差がある。BAS感受性が低ければマシュマロも我慢できるだろう。
 その3、この効果は利き手のほうで大きい。なぜなら:腕を曲げることと獲得との関連は生得的ではなく、経験に基づく連合だから。

 研究1A。笑っちゃうのだが、実験ではなくフィールド観察である。
 巨大スーパーに出かけ、136人の来店客を勝手に尾行し観察。買い物後に個々の客のpurchase ticketsを集め[←なんのことだろう? レシートのこと?残念ながらよくわからない...]、買い物内容を調べる。で、バスケットを手に持っていた人(すなわち、腕を曲げている!)と、カートを押していた人(腕を伸ばしている!)を比べる。
 結果。レジ前のチョコレート・バーとキャンディーとチューインガムを悪徳商品とみなし、その購入有無を説明するロジスティック回帰モデルを組む。いろいろやってるんだけど、カートをつかっていない人のほうが悪徳商品を買いやすい。店舗滞在時間、総金額、総点数を共変量入れたモデルだと、オッズ比にして6.84倍。
 [いやいやいや... カート使う人と手持ちの人では買い物目的が違うでしょう!そもそも手持ちの人って10人しかいないじゃん! という突っ込みはこの際野暮なのであろう。ちょっと楽しいなあ]

 研究1B。今度は実験。
 被験者31名。食品12カテゴリ名からなる買い物リストを渡す。各カテゴリについて、テーブル上に商品がU字型に並んでおり、被験者はそのなかから一つを選ぶ。被験者はカゴを手に持つかカートを押す姿勢を取らされる(ご丁寧に、取るべき姿勢までリストに書いてある)。調べるのは、「スナック1」としてキャンディーバーとオレンジのどちらを選ぶか、「スナック2」としてチョコとリンゴのどちらを選ぶか。
 結果。反復指標のロジスティック回帰モデル。要因は、{カゴ/カート}、スナック(1/2)、交互作用。カゴ/カートのみ有意。カゴのほうが悪徳商品を買いやすい(オッズ比3.4)。[まじっすか...]

 研究2A & 2B
 被験者22名, 55名。腕曲げ条件と腕伸ばし条件に分ける。腕曲げ条件は、実験のあいだじゅう片手でテーブルを下から押し続け、腕伸ばし条件は、片手でテーブルを上から押し続ける。
 課題は、実験2Aでは「映画のチケットと本のクーポン、どちらを選びますか」など5問。実験2Bでは「今日10ユーロもらうのと25日後に12ユーロもらうのとどちらを選びますか」など8問。100点スケール上で回答。
 結果。ただのt検定。腕曲げ群のほうが、悪徳的選択肢を選びやすく、少額だがすぐにもらえるほうの報酬を選びやすい。

 研究3。モデレータの話。
 被験者105名。要因操作は研究2と同じ。本課題は、「いま15ユーロ = 一週間後にXユーロ」のXを埋めるという質問に、一週間後、一か月後、三か月後、半年後、一年後について回答させる。時間割引関数の下面積を時間割引の指標として使う(0なら最大、つまり現在選好)。その後、テーブル押しはストップさせて、いろいろな質問に答えさせるんだけど、そのなかにSPSRQという尺度が入っている。「あなたは賞賛されることをすることが多いですか」といった48項目で、これから報酬への感受性(SR)のスコアが出せる。
 結果。時間割引を説明するGLM。腕の主効果はなかったが、腕とSRの交互作用があって、報酬に敏感な人は腕曲げ条件で現在選好になるが、敏感でない人は腕を曲げても伸ばしても変わらない。[←あまりにきれいな結果が出ていて、ちょっと目を疑う感じ]

 研究4。今度は利き手で押すか利き手でないほうで押すかを統制する。[どうやら研究2,3の時点では利き手のことまで考えていなかったようで、教示のイラストが右手で押してる絵になってたからたぶん右手で押してたはず... というようなことが書いてある]
 被験者120名。実験条件は、{利き手/利き手でない方の手}でテーブルを{上から/下から}押す、ないし統制条件(テーブル押しなし)で、計5水準。課題は研究3をちょっと簡略化したような奴[省略]。
 結果。時間割引を説明するGLM。統制条件を外し、{利き手/利き手でないほう}、{上から/下から}、SR、そして全交互作用を投入。手の主効果が有意、弱い3元交互作用がみられた(有意じゃないけど)。利き手かそうでないかでばらしたGLMでみると、利き手では押す方向とSRの交互作用が有意で、研究3を再現。非利き手ではどの効果も消える。統制条件ではSRの効果なし。[←ちょっと結果が綺麗すぎて、引いちゃうなあ...]

 考察

 感想がいっぱいありすぎて、ちょっと書ききれない。も・し・か・し・て、このネタはいっけん馬鹿馬鹿しくみえて、実はものすごく面白いかも...

読了:Van den Bergh, Schmitt, Warlop (2011) 身体化された近視眼

2014年11月27日 (木)

 巷には殺伐とした話が溢れているが、マーケティング分野における「殺伐とした用語」ナンバーワン、それは「顧客生涯価値」だと思う。こないだスタバでおっさんが若者に「マーケティングは愛だ」と熱く語っていて閉口したが、ああいう人に一度訊いてみたいものだ、顧客にとってのサービスや製品の価値ではなく、「企業にとっての顧客の価値」を問う人の、どこにどのような愛があるというのか、と...

Jain, D. & Singh, S.S. (2002) Consumer lifetime value research: A review and future directions. Journal of Interactive Marketing, 16 (2), 34-46.
 サツバツ上等!東京砂漠オッケー!というわけで読んでみたもの。仕事の足しになるかと思って。

 著者曰く...
 顧客生涯価値(CLV)の研究には主な方向が3つある。(1)個々の顧客ないし顧客セグメントのCLVを算出するモデル。(2)顧客ベース分析。将来の取引を予測する。(3)経営上の意思決定支援。企業利益に対するロイヤルティプログラムの効果とか。

 まずはCLV算出モデルについて。以下の4種類に分けられる。

 顧客ベース分析のモデル。以下の2つに分けられる。

 意思決定支援のための規範的モデル。

 これからの研究の方向。

Reinartz & Kumar (2000)って、なにやってんだかさっぱりわからんが、面白そうだなあ。いつか読んでみよう。(と思うだけで、実際には読まないけど)

読了:Jain & Singh (2002) 顧客生涯価値研究レビュー

Zenobia, B., Weber, C., Daim, T. (2009) Artificial markets: A review and assessment of a new venue for innovation research. Technovation, 29, 338-350.
 技術イノベーションの研究における、エージェント・ベースの市場シミュレーションについてのレビュー。全然知らない分野なので、メモを取りつつ真面目に読んだ。

1. イントロダクション
 人工市場(AM)はエージェント・ベースの社会シミュレーション(ABSS)のひとつで、消費者や企業を表すエージェントを相互作用させる。主な特徴として以下が挙げられる。なお、本論文では主に消費者エージェントに焦点をあてる。

2. AM研究の近年の発展
 Epstein & Axtell(1996, 書籍)のSugarscapeモデルが嚆矢。たいていの研究は過去5年以内。3年前から急増した。経済学、マーケティング、地理学での研究が多い。初期のAMとしては:

3. SWOT分析
 強み。もともと技術の受容・普及の予測においては、変数とリンケージを数学的な式なりシミュレーションコードなりで内生的に特徴づける説明モデルが用いられてきた。このクラスに属するモデルが、AMやシステムダイナミクスモデルである。AMとシステムダイナミクスモデルは、個体の行動が単純なときは似た結果に至るが、複雑になると異なる結果に至る。さて話をAMの強みに戻すと... [BASSモデルの話がひとしきりあって...] AMは消費者心理のような複数の変数を同時に表現できる。
 機会。技術イノベーション研究における有望な応用としては以下が挙げられる。

弱み。5つの分野に分けて述べる。

脅威。

4. 結論と推奨事項

はあ、そうですか... 研究例についてよく知らないので、いまいちピンとこない話が多かった。まあいいや、次に行こう。

読了:Zenobia, Weber, & Daim (2009) エージェント・ベース・シミュレーションによる技術イノベーション研究レビュー

2014年11月19日 (水)

Kreuzbauer, R., Malter, A. (2005) Embodied cognition and new product design: Changing product form to influence brand categorization. Journal of Product Innovation Management. 22, 165-176.
 ちょっと用事があって目を通した論文。

 デザインはブランドにとって大事だ。なぜか。(1)魅力的な製品デザインはブランド評価を上げる。(2)そもそもデザインというのは、製品とブランドのカテゴリ化を促進し消費者の信念を形成するための主要な武器だ。
 本論文はさらに次の点を主張する。(3)デザインは、人が製品とどのように物理的に相互作用できるかを伝達する。消費者は環境の物理的な諸特徴から、行為のタイプがアフォードされているのを知覚しているのであり、製品・ブランドのアフォーダンスが、製品の知覚やブランドのカテゴリ化において重要な役割を果たしている。だから製品デザイン要素を通じてブランドのカテゴリ化を変えることができる。
 この提案の背後にあるのがembodied cognitionである[ここでGrenberg(1997BBS), Glenberg et al.(2003BBS)を挙げている]。この理論によれば、知識・思考は環境との相互作用から生じる。知覚から行為まで、あらゆる認知活動はすべて環境との相互作用であり、みんな同じ原理を共有しているのだ。

 ブランド拡張の研究によれば、親ブランドと拡張ブランドが同一のカテゴリのメンバーだと知覚されたとき、両者は「適合」する。でも認知科学者いわく、カテゴリってのは文脈依存なものだし[Barsolou(いろいろ), Cohen&Basu(1987JCR), Ratneshwar et al.(1991JMR)]、メンバーが増えればカテゴリ知識も変わる。
 物理的なモノのカテゴリ・メンバーシップは主に形で決まるといわれている[Barsalou(1992,"Cognitive Psychology")]。ってことは、新製品は既存製品と形が似ているときにそのブランドのファミリーとして受け入れられやすくなるのではなかろうか[Block(1995,J.Mktg), これ面白そう]。

 視覚的デザイン属性がブランド認知やカテゴリ化に影響するかどうか、従来のブランド研究では説明できない。なぜなら従来、ブランド知識は連想的意味ネットワークであると考えられており、その意味内容は抽象的であってモダリティを欠いているからだ[←ずいぶん荒っぽいご批判のような気がするけど...エピソード記憶の意義を無視する人はいないだろうに]。いっぽうembodied cognitionの理論によれば[ここで挙げているのは、Barsolou(1999BBS, PSSを提唱した論文), Edelman(1992, "Bright Air, Brilliant Fire"), Grenberg(1997BBS), Zaltman(1997JMR)]、ブランド知識が意味ネットワークとして表象されているわけがない。モノと状況の意味ってのはそれらと身体との相互作用に基づいているのだ。だからそのブランドのアフォーダンスを理解することが大事なのである。
 ここで役立つのがBarsolouのPSS(知覚シンボルシステム)理論である。いわく、知覚シンボルとはモノを知覚したときに生じる神経活動の記録であり、モーダルなシンボルであって、フレームとして組織化されている。それは全体論的なものではなくて要素的なものだ。たとえばバイクのデザインは、記憶において「バイク全体」として保持されているのではなく、ドアとかフェンダーといった知覚シンボルからなるフレームとして保持されている。フレームは(属性ー値)のセットからなる構造であり、構造的不変性を持っていて(椅子の背中は絶対にシートより上、とか)、属性の値は互いに相関している(丈夫な靴は高い、とか)。認知システムがシミュレーションを行うことができるのはフレームのおかげだ(クルマのフレームのおかげで、たとえば新しいデザインをつくったりすることができる)。

 実験。バイクに詳しい人に集まってもらい、バイクのキー・デザイン要素を表す(属性-値)のセットを決めた。たとえば「エクゾーストパイプの形」というのが属性で、まっすぐな形やまがった形が値である。6個の属性、各属性につき値が2水準、これでバイクのデザインをだいたい表せる。各属性の2つの値はそれぞれオフロードっぽいやつとシティバイクっぽいやつである。[写真を見てもさっぱりわからん。まあ信じるしかなさそうだ]
 仮説1. あるカテゴリを示す値を多く含むデザインは、そのカテゴリのメンバーであると知覚される。
 仮説2. アフォーダンスと関係ない属性を加えても、メンバーシップはかわらない。
 属性を操作してバイクのシルエットを4枚つくった。A.タイヤはシティバイクでフェンダーはオフロード。C.両方オフロード。D.両方シティバイク。B. Dと同じだが色が違う。被験者は学生43名、ひとりに4刺激を提示し、それぞれについてオフロードかシティバイクかを両極7件法で評定させた。
 結果。D, A, C&Bの順にシティバイクだと評定された(仮説1を支持)。BとCには差がなかった(仮説2を支持)。

 。。。この論文のなにが衝撃的かといって、風呂敷が広い割に、実験が息を呑むくらいにチャチである点だが(単に「オフロードバイクっぽい形のバイクはオフロードバイクだと評定されました」という話ではないですか)、きっとこの業界の慣習かなにかで、形だけでもデータを取らないといけないとか、なにかそういうヨンドコロない事情があるのだろう。実験のくだりはみなかったことにしたい。
 えーと、前半の理屈の部分はとても興味深く読んだ。"embodied cognition"というのは認知科学における一種の流行語であったかと思うのだが、この概念のもともとの面白さは、「クールに心的表象を操作しているだけのようにみえる認知活動が、実は身体と深く結びついているのよ、いやー意外だよね」という点にあったのではないかと思う。いっぽう、探してみるとマーケティング分野でもたまにembodied cognitionという言葉が使われているようなのだが、そこではこのようなニュアンスが失われ、単にsensoryとかperceptualというような意味で用いられている模様で、うむむむむ、と思っていた。やっぱしこういう視点もあるのね、よかった。
 著者らの主張に照らしていえば、モノの形のちがいであっても身体的相互作用において意味を持たないちがいはカテゴリ化に効かないはずだ(奥さんのほうのTverskyの80年代の研究にそういうのがあったと思う)。また、身体動作の心的シミュレーションを促進したり抑制したりする実験手続きもありそうなものだ。いろいろ面白い実験ができるだろうに。
 話の筋からいえば、なにもBarsalouのPSSという難しい概念を用いなくてもよかったのではないかと思うのだが、それはこの論文のコアの主張に限ればの話で、著者らは認知的アーキテクチャまで含めたビジョンを提示したかったのだろう。

 考察で触れられていた面白い話。新製品デザインのプロセスにおいて身体化された制約をイメージすることでデザインの魅力が増す、というような研究があるらしい。Dahl et al.(1999JMR)。 この路線の話、ひょっとしたら面白いかも...

読了:Kreuzbauer & Malter (2005) 身体化された認知と新製品開発

長沢伸也, 大津真一 (2010) 経験価値モジュール(SEM)の再考. 早稲田国際経営研究, 41, 69-77.
 これもちょっと用事があって読んだのだけれど、話がいきなり意外な方向に向かうところがあって(あくまで私にとって意外だというだけだが)、とても面白かった。

 「経験価値」っていう有名な概念があるけど、「経験が価値を提供する」のであって、経験そのものは価値じゃない[←納得!]。シュミットのいう経験とは、スキナーいうところのprivate eventsだ[なぜここでスキナーが...]。
 経験はどうやって引き起こされるか。シュミットは経験を生む刺激の戦術要素をExperience Provider(ExPro)と呼んだ。たとえば「コミュニケーション」「製品」「コブランディング」「人間」というようなのがExProである。また、Brakusという人がギブソン流の説明を行っていて[in "Handbook on Brand and Experience management", 2008. $182か...]、いわく、ExProが経験をアフォードする由。
 マーケターができるのはExProの管理だ。いっぽうシュミットが言う戦略的経験モジュール(SEM)ってのは経験のモジュール、つまりマーケターの「狙い」のほうだ。云々。
 ... なるほどねー。勉強になりました。

読了:長沢・大津 (2010) 経験価値とはなんのことか

大津真一, 長沢伸也 (2011) 消費者の行動経験による差異化戦略: 身体性認知(Embodied Cognition)と行動的経験価値. 早稲田国際経営研究, 42, 145-152
 ちょっと用事があって読んだ。第一著者の修論かしらん?

 シュミット「経験価値マーケティング」に出てくる、消費者の経験価値を5つのモジュールに分けて理解するという話があるけど(Sense, Feel, Think, Act, Relate)、そのうちAct、すなわち行動的な経験価値を提供するためにはどうすればいいか。
 シュミットはこれをギブソンに由来する「身体性認知」概念から導いている。そういうわけで、行動的経験価値を「消費活動の中で消費者自身の行動と行動に伴って生じた生理的・心理的活動」と再定義しましょう。
 その構築のためには製品側にアフォーダンスをデザインすることが大事だ。[←真正のギブソニアンが聞いたら怒り出しそうだが... かつてD.ノーマンが考えたようなperceived affordanceのことを仰っているのだろう]
 その方法としては、製品・サービス自体をうまくデザインするやり方と、消費活動の際の状況をうまくデザインするやり方があるだろう。後者はつまり非常識・非日常的な特別な状況をつくるということだ[←そ、そうかなあ... うむむ]。あえてaccessibilityを下げるってのはどうだろうか。云々。

読了:大津・長沢 (2011) 行動的経験価値をどうやって構築するか

LaBarbera, P.A., Mazursky, D. (1983) A longitudinal assessment of consumer satisfaction/dissatisfaction: The dynamic aspects of the cognitive process. Journal of Marketing Research, 20(4), 393-404.
 顧客満足(CS)の生成とその効果を、複数回の購買にわたって縦断で調べた研究。いまなんでこんなの読んでんだかわかんないんだけど、かなり前に途中で忙しくなって中断したままになってた奴で、整理がつかないので、仕方なく。

 CS研究の先達Oliverさんいわく、満足ってのはexposure前後の(たとえば購入前後の)態度変容のメディエータである、と。では、その満足ってのはどうやって決まるか。80年代、Oliverさんは心理学の順応水準理論でもって満足を説明しようと提案した。過去の経験が順応水準を形成しているというわけである。(←順応水準!! なんとまあ、懐かしい... 私が学部生のときでさえ、いまなんでこんな勉強をせねばならんのかと思った話題だ。古色蒼然、なんていったら叱られちゃうかしらん)
 満足を説明する別の枠組みとしては比較水準理論がある(←Thibaud & Kelley. 社会的交換理論ってやつね。またもや古い話を...)。満足は結果と比較水準の乖離から発生し、比較水準を修正する、というわけである。

 (以下、怪しげな数式風表記が頻出して頭が痛くなってくるのだが...)
Oliverさんなり、Howard&Shethモデルなりに基づいていえば、時点 t における態度水準を ATT_t, 消費における満足の水準を SAT, 再購入意向を I_t として、
 I_t = f(I_{t-1}, SAT, ATT_t)
である。しかしSATとATTが区別できるかどうかについては諸説あるので、ここではもっと単純に、次のように考えよう。購買行動を表すカテゴリ変数をP_tとして、パス図は
 I_{t-1} → P_t → SAT → I_t → P_{t+1}
つまり
 P_{t+1} = f(I_t, SAT, P_t, I_{t-1})
意図の変化は満足の関数で、満足は事前の意図の関数なので
 I_t = g_1 (I_{t-1}, SAT)
 SAT = g_2 (I_{t-1})
ブランドのリピート購買者を P_{t+1} = RP, スイッチ者をP_{t+1} = SWとする。前者のほうが再購入意向も満足も高かろう、よって
 \bar{I}_t | RP > \bar{I}_t | SW
 \bar{SAT}_t | RP > \bar{SAT}_t | SW
 \bar{I}_t | RP > \bar{I}_t | SW
再購入意図はRPで高くなりSWで低くなるだろう、よって
 \bar{I} | RP > \bar{I}_{t-1} | RP
 \bar{I} | SW > \bar{I}_{t-1} | SW
再購入意図の差はどんどん開くだろう、よって
 (\bar{I}_t | RP) - (\bar{I}_t | SW) > (\bar{I}_{t-1} | RP) - (\bar{I}_{t-1} | SW)

 消費者を電話でリクルートし、5か月間にわたって隔週で調査を掛ける。当然どんどん脱落していくわけで、180名からはじめて最後まで残ったのは87名。各調査では、ティッシュ、コーヒー、洗剤など日雑24カテゴリのうち3つについて、現使用ブランドとか満足とか再購入意向とかを訊いた。うちマーガリン、コーヒー、トイレットペーパー、ペーパータオル、マカロニについて分析。同一カテゴリを2期連続で購入した2568ケースを分析する(←ヒトは無視するのか... 荒っぽい手口だ...)。
 結果。ブランドスイッチ者よりもリピート購買者のほうが、再購入意向、満足、一期前の再購入意向が高い。再購入意図はリピート購買者で上がりブランドスイッチ者で下がる(果てしなく t 検定を繰り返しておられる...昔はよかったねえ)。で、カテゴリごとにパスモデルを組んだり、なんだり...。
 ほか、満足が購買に効くかといった分析をやっているけど、嫌になっちゃったのでパス。
 考察。満足は意図や行動の変化のメディエータになっている。云々。

 いやー、つくづく体質に合わないタイプの研究であった。とにかく仮説の立て方が気色悪くて、途中でついていけなくなった。せっかくのパネルデータなのに、なぜretrospectiveな仮説(結果で原因を条件づけた仮説)を立てるのだろうか。素直に、「満足度が高いとリピート購買確率は上がるか」と云う風に問えばいいじゃん? 行動が違う群を一緒にするわけにはいかない、という発想なのかもしれないけど...
 そんなこんなで、読んだとは到底言い難いのだが、すいません、ご縁がなかったということで。

読了:LaBarbera & Mazursky (1983) 顧客満足の縦断研究

2014年8月29日 (金)

Ishihara, M. & Ching, A. (2012) Dynamic Demand for New and Used Durable Goods without Physical Depreciation: The Case of Japanese Video Games. Working Paper, Rotman School of Management, December 15, 2012.
 ちょっときっかけがあって目を通した論文。ほとんどの部分をすっ飛ばしてめくったのだが(すみません)、正直、圧倒的な知識不足のせいで、8割くらいは理解できない感じだ。8割っていうと、10行に8行は墨塗りされている状態ですからね。敗戦直後の教科書よりすごいぞ。

 CD・DVDとかビデオゲームとかは、中古品の市場のせいでメーカーの利益が低下してるんじゃないか(代替効果)という見方と、消費者は先々に売ることを見越して買うから新品の売上はむしろ伸びてんじゃないか(転売効果)という見方があるんだそうだ。面白いっすね。
 というわけで、消費者の新品・中古品の売買についてのモデルを組む。といっても、日頃おなじみの、個人レベルの購買行動データなり調査データなりコーザルデータなりを組み合わせてSEMのモデルを組みましたという牧歌的な話ではなく、まず個人の最適行動の動的モデルをも・の・す・ご・お・く苦労して作り、最後にパラメータを累積レベルのデータから推定する... なんというか、そういう大変難しい奴である。

 消費者をi, ゲームのタイトルをg, 時点をtとする。t=1が発売時点で、当然ながら消費者はタイトルgを持ってないし、中古品も売られていない。
 ある時点において、ある消費者は、あるタイトルについての決定を行う。その時点でそのタイトルを持っていない消費者の決定を j = {0,1,2} で表す。0は「買わない」、1は「新品を買う」、2は「中古品を買う」である。持っている消費者の決定を k = {0, 1} であらわす。0は「売らない」, 1は「売る」である。
 あるタイトルを売った消費者はそのタイトルの市場から消える。また、あるタイトルの市場は t = T において閉鎖される (実際、チャートをみると、ゲームというのは発売した週にどかんと売れ、急激に下がって、発売10週くらいで全然売れなくなるらしい。おそろしい世界だ...)。
 添え字を省略して、新品の価格をp_1、中古品の価格をp_2、中古の引取価格をrとする。業者の中古品在庫量をY、購入からの経過時間を \tau とする。えーと、需要と供給にunobserved shockがあると考え、新品需要で\xi_1, 中古需要で\xi_2, 中古供給で\xi_sとする。そのタイトルが発売されてから発売されたゲームのタイトル数をCとする。
 消費者は各時点で割引期待効用を最大化するように決定すると考える。

 ある時点でのあるタイトルの効用とはなにか。
 時点 t において手持ちのタイトル g から引き出せる主観的価値を v^g (t, \tau)とする。つまり、価値はタイトルの特徴、発売からの時間、購入からの時間で決まり、新品で買ったか中古で買ったかとは無関係だ、というわけである。個人差も無視する。
 v^g (t, \tau)をどう定式化するか。発売時点で買ったときの価値を v^g(1, 0) = \gamma^g とする。で、購入が遅れるごとに目減りすると考える。割引率を\varphi(t)として、v^g(t+1, 0) = (1 - \varphi(t)) v^g(t, 0)。
 割引率についてはこう考える(論文にはもっとかっこよく書いてあるけど、私向けに平たく書き直します)。まず発売の翌時点については、
 \varphi(1) = logit^{-1} (\phi_1)
それ以降は
 \varphi(t) = logit^{-1} (\phi_2 + \phi_3 ln(t-1))
logitの逆関数 (すなわち exp(x) / {1+exp(x)}) で変換しているのは、要するに0から1の間に落としたいからであろう。発売の次の時点だけ特別扱いしているのは、実際にゲームの売り上げって発売から少したつと売上ががた落ちするから。
 次に、持っている期間による目減り。割引率を\kappa(X_{g\tau})として、
 \kappa(X_{g\tau}) = logit^{-1} X'_{gr} \delta
X'_{gr}は製品特性のベクトルで、具体的には、ゲームが物語に基づいているか、マルチプレーヤーか、批評家の平均評価、ユーザの平均評価、そして\tau そのものであるとのこと。

 買いの決定によってその時点に得られる効用 u^g_{ijt} について考えよう。

なお、誤差項\epsilon^g_{ijt}は極値分布に従うと考え(あとでロジットモデルに入れる気だからでしょうか)、消費者と時点を通じてはIIDだけど、選択肢 j を通じては相関があると考える。ええと、まず買うか買わないか決めて、次に新品か中古か決める、というネステッド・ロジットの形にするそうです。詳細略。

 さあ、今度はもっているタイトルの効用だ!くじけるな!
 購入から \tau 経過した手持ちタイトル g から得られる当期の効用 w^g_{ikt}(\tau) について考える。

なお、誤差項e^g_{ikt}はIIDに極値分布に従う。

 以下、添字g は適宜省略する。
 ここまではある時点の効用である。でもややこしいことに、消費者は決定にあたって先読みするので、その価値を考えないといけない。さあ、深呼吸して...
 まず売りの決定から。関係するパラメータは引取価格 r_t, 在庫量 Y_t, 供給ショック \xi_{st}, 時点 t , 保有期間 \tau だ。これをベクトル s_{t, \tau} にまとめる。
 選択肢 k の価値を W_{ik} (s_{t, \tau})とする。で、"the integrated value function(or Emax function)" をW_i (s_{t, \tau})とする。なんと訳すのかわからないが、「売る」(k=1)ことの価値と「いまは売らない」(k=0)ことの価値をひっくるめたもの、というような意味合いらしい。素養がなくてわからないが(ベルマン方程式というそうだ)、結局
 W_i (s_{t, \tau}) = ln {\sum_k W_{ik} (s_{t, \tau})}
となる由。要するに合計みたいなもんだろう。わかりました、信じます。

あああ、気が狂う。まあとにかく、これでそれぞれの選択肢の価値がわかった。選択確率はふつうの選択モデルみたいに、
 Pr (k | s_{t, \tau}; i) = exp(W_{ik} (s_{t, \tau})) / (分子の和)
 とする。

 買いの決定。パラメータは新品価格 p_{1t}, 中古価格 p_{2t}, 引取価格 r_t, 在庫量 Y_t, 競合量 C_t, 需要ショック(\xi_{1t}, \xi_{2t}), 時点 t。これをベクトル b_t にまとめる。"integrated value function"を V_i(b_t), 各選択肢の価値を V_{ij}(b_t)とする。今回も
 V_i(b_t) = ln {\sum_j exp(V_{ij}(b_t))}
となる。よくわかんないけど、はい、信じます。

選択確率は、3択の選択モデルではなく、まず買うか買わないか決める、次に新品か中古か決める、という2段階の選択と考える。ややこしいので略。

 最後に、売上のモデル化。
 消費者がタイプ1, 2, ..., l に分かれていると考える。タイプlの割合を\psi_lとする。タイプlのまだ買っていない消費者のサイズをM^d_{lt}とする。これは各期の購入率Pr(1|b_t; l)+Pr(2|b_t; l)ぶんだけ目減りしていくんだけど、同時に市場が大きくなって新規参入する人もいるとする。市場への新規参入者はタイプ別割合\psi_lを守って各タイプに参入してくるものとする。そのサイズをN_{lt+1}とする。結局
 M^d_{lt+1} = M^d_{lt}(1-\sum_{j=1}^2 Pr(j|b_t; l)) + N_{lt+1}
 タイプlの所有者の、所有期間別のサイズを M^s_{lt}(\tau)とする。まず \tau=1の場合。非所有者に購入確率をかければ良い。すなわち
 M^s_{lt+1}(1) = M^d_{lt} \sum_{j=1}^2 Pr(j|bt; l)
\tau>1になると、これが徐々に目減りしていく。あっ、そうか... tではなく\tauについて考えているからそうなるんだ。頭いいなあ。
 M^s_{lt+1}(\tau) = M^s_{lt}(\tau-1) Pr(k=0 | s_{t, \tau-1}; l)
 というわけで、時点 t における新品・中古品の需要は、上のM^dに購入確率をかけ、タイプを通じて足し上げ、誤差をつけたものになる。いちおうメモしとくと
 Q^d_j (bt) = \sum_l M^d_{lt} Pr(j, b_t; l) + \epsilon_{jt}
 うわー、ほんとに累積レベルの売上にたどり着いてしまった。魔法を見ているようだ。

 データ。2004-2008年に日本で発売された20個のビデオゲームに注目。各タイトルの新品・中古価格の売買数量などなどを、週刊ファミ通のバックナンバーなどから収集。ゲームとは縁がないので見当がつかなかったんだけど、平均価格は新品7600円くらい、中古品4500円くらい、買上価格は2800円くらい、中古品の売上数量は新品の1割くらい、だそうだ。へええ、本とはずいぶん違うんだなあ。古本屋さんが7600円の本を2800円で引き取ってくれることはなさそうだ。

 推定方法はパス(読んだところで理解できそうにない)。推定結果もパス(すいません、力尽きました)。結論によれば、新品と中古品にはあんまり代替性がないことがわかったんだそうです。いっぽう転売効果はあって、だから単純に中古品取引を禁止しちゃうとメーカーの利益も下がりかねない由。

 マーケティングサイエンスにおける構造推定アプローチ(っていうんでしょうか?)ってどんなものなのか、という好奇心から手に取ったのだが、仕事に生かせるかどうか別にして、モデリングの発想がとても面白かった。商品間の選択はモデル化せず、個別の商品のことだけ考え、新品を買う、中古を買う、買わない、売る、売らない...という決定の合理的なモデルを時間軸に沿って考えていくのだ。ほとんど魔法を見ているようであった。経済学者の先生って、物事をこういう風に考えるのか-。すげーなー。

読了: Ishihara & Ching (2012) ビデオゲームの動的需要モデル

2014年8月11日 (月)

Verworn, B., Herstatt, C., Nagahira, A. (2008) The fuzzy front end of Japanese new product development projects: Impact on success and differences between incremental and radical projects. R&D Management, 38(1), 1-19.
 前に調べものをしたときに見つけて積読の山のなかに入れていた奴。別にいま読まんでもいいのだが、整理がつかないのでざざーっと目を通した。著者らについても雑誌についても全く見当がつかないが、google scholarさんによれば引用件数131件。第三著者は東北大教授の長平彰夫さんという方だそうです。
 
 新製品開発の初期段階のことをfuzzy front endっていうけど (Smith & Reinertsen, "Developing Products in Half the Time", 1991 というのが初出らしい。翻訳はなさそうだ)、日本企業の新製品開発におけるFFEの影響を定量的に調べました、という研究。
 背景のお話は3つ。(1)新製品開発においてFFEが重要だという研究は山ほどあるが、それらの多くは理論研究か探索的研究である。(2)ふつうの漸進的な新製品開発のfuzzy front endと、ほんとにイノベーティブな新製品開発のそれとがどう違うか、という点が問題になっている。(3)日本企業はドイツの企業と比べ、fuzzy front end における不確実性を減少させるためによりフォーマルなアプローチをとっている、という指摘がある。

 えーっと、まず先行研究に基づき概念モデルをつくる。これがどのくらい説得力のあるモデルなのか、私には皆目わからないんだけど、とにかくこういうモデルである。
 FFEについて3つの因子を考える。(1)市場の不確実性の減少。つまり、顧客のニーズ・ウォンツや価格感受性を理解すること、また市場の魅力を理解すること。(2)技術的な不確実性の減少。(3)計画立案におけるインテンシブな議論。
 いっぽう、新製品開発の成功についての2つの因子を考える。(4)効率性。つまり、FFEにおいて計画されていた財務的・人材的資源が、実際に必要となった資源と一致していた程度。(5)有効性。つまり、利益目標に到達した、顧客満足を得た、競争優位性を得た、といったアウトカム。
 で、モデルは:

 新製品開発を漸進的な奴とラディカルな奴に分ける。ここでは、コスト削減、リポジショニング、製品改善を前者、全くの新製品の場合を後者とし、ライン拡張は除外する。

 実証研究。要するに質問紙調査である。
 日本の製造業のR&Dディレクターに対する郵送調査、497票を分析。各因子につき数個の項目を7件法で聴取している。
 で、AmosでSEMのモデルを組む。あれれ、効率性って2項目しか指標がないけど、大丈夫なのかなあ(説明を見落としているかもしれない)。因子間パスがH1~H8に対応しているわけだが、H1以外は全部支持。H1が支持されなかったのは(市場理解が新製品開発の効率性を上げなかったのは)、回答者の多くが産業材メーカーで、新製品開発が顧客との協同で進められているからだろう、とのこと。
 次に、ケースを漸進的新製品開発とラディカルな新製品開発に分け、群間で各項目を比較。t 検定をひたすら繰り返す。えええ、多群分析するんじゃないの? それに多重比較法も使わないの? と面食らったけど、このへんは分野によってカルチャーも違うんでしょうね。ちゃんと読んでないけど、H9はある程度支持、H10は不支持、H11は支持、とのこと。H10に関しては、ラディカルな新製品開発のほうが出発時点では技術的不確実性が高いんだけど、FFEを通じて減るんじゃないか、云々。
 まとめとしては... FFEは新製品開発の成功の一定部分を説明する。漸進的新製品開発もラディカルな新製品開発も、FEEはそんなに変わらないんじゃないか。云々。

 全くのど素人なので、ちゃんと理解できているかどうかわからないのだけど、フガフガと楽しく読了。世の中にはこういう研究をしている方々がいらっしゃるんですね、勉強になりましたです。
 それにしても、「新製品開発」というのがどこまで等質的なカテゴリなのか、だんだんわかんなくなってきた。著者らも最後に触れているけど、なんてったって産業財と消費財では、メーカーの市場理解も開発プロセスも違うだろう、という気がするわけで...。

 本筋とは全然関係ないけど、非回答バイアスは大きくないですという主張のために、郵送回収が早かった票と遅かった票を比べて違いがないことを示している。うむむ。昔そういう考え方があったと聞いてはいたが、実物を見るのははじめてだ。Armstrong & Overton (1977, JMR)が挙げられている。

読了: Verworn, Herstatt, Nagahira (2008) 新製品開発の初期段階とその後の成功との関係

2014年8月 6日 (水)

Popper, R. (2008) How are foresight methods selected? Foresight, 10(6), 62-89.
 役所や研究機関や企業が未来予測 (foresight) を行うことがあるけど、EUの欧州委員会の下に世界中の未来予測を集めてデータベース化している機関があり、そのデータベースを使って「未来予測の手法がどうやって選ばれているか」を調べました、という論文。いささか酔狂な問題設定のような気もするが、まあこんな研究はそうそうできないだろう。
 調べた未来予測事例は886件。なにをもって一件と呼ぶのか、具体例がないのでピンとこないんだけど、たとえば文科省の科学技術予測調査を一件と数える、という理解で正しいかしらん。それとも、あるアドホックなプロジェクト(ナンタラ審議会の提言とか)をもって一件と数えるのかなあ。

 各事例は単一ないし複数の未来予測手法を使っている(平均6個だそうだ)。
 さて、著者は未来予測の手法を整理する枠組みというのを持っていて("Forecast Diamond")、それによれば、これらの事例で使われていた手法は24個に分類される。それぞれの手法は、定性的手法、定量的手法、準定量的手法、に分類できる(「性質」)。さらに、それぞれの手法について、情報源がcreativity, expertise, interaction, evidenceのどれか(4つを足すと100%)という特徴が与えられている(「ケイパビリティ」)。この枠組みに基づいて件数を集計しましょう。

 さらに、各事例にも属性をふる。

 で、各属性ごとに件数を集計しましょう。

 結果はいろいろと長いのだが、申し訳ないけど本題にはあんまり関心がないので省略。チャートをみていると、アジア(日韓)はあんまり文献レビューをやらず、ブレインストーミングやモデリングやインタビューが大好きなんだそうです。

 というわけで、後半はパラパラめくっただけで済ませたんだけど、むしろ関心があるのは、24個の未来予測手法、そしてそれを整理する著者の枠組み "Foresight Diamond" である。事例において使用頻度が高い順に、Diamond上の位置を拾っていくと...

へー。いろいろあるものね。

読了: Popper (2008) どんな未来予測でどんな予測手法が使われやすいか

2014年7月25日 (金)

少し前に読みかけて忘れていた奴。整理がつかないので、残りにざざっと目を通した。

Baldinger, A.L., Cook, W.A. (2006) Ad Testing. in Grover, R., Vriens, M. (eds.) "The Handbook of Marketing Research", Chapter 23.
いわゆる広告テストについての概説。仕事の関連で、ちょっと頭を整理したくて読んだもの。第一著者の肩書はコンサルタント。第二著者はARFのえらい人らしい。
内容は...

どうでもいいけど、主要な広告調査会社として脚注で挙げられていたのは以下の会社であった:

2006年刊の本に挙げられているリストでこれなんだから... 諸行無常って感じですね。

読了:Baldinger & Cook (2006) 広告テスト概説

横尾淑子(2014) 世界における予測活動の最近の動向. 科学技術動向, 144.
 調べものをしていてたまたま見つけた短い記事。科学技術予測調査という、国が昔からやっているデルファイ法を使った調査があるけど、あれを実施しているのが文科省直轄の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)というところで、掲載誌はそこが出している隔月刊誌、著者は科学技術予測調査の担当者の方らしい。
 えーっと、予測活動は技術フォーキャストからイノベーション・フォーサイトへと移行しているのだそうである。へー。

読了:横尾(2014) 未来予測の動向

2014年7月11日 (金)

Hu, Y., Du., Y., Damangir, S. (2014) Decomposing the impact of advertising: Augumenting sales with online search data. Journal of Marketing Research, 51(3), 300-319.
 先日読んだDu & Kamakuraが勤務先の仕事にジャストミートだったので、関連した論文を探していて見つけた、同じ著者の論文。ここでもGoogle Trendを使って分析してみせているのだが、さらに斜め上というか、なんというか。
 背景・目的をすっとばして内容からいえば(だって著者らの発想からいえば、目的なんか後付けですよきっと)、売上を広告支出で説明する市場反応モデルの中間変数としてGoogle Trendの時系列データを使う、という論文。よくもまあ、そういう変なことを...

 著者ら曰く、売上反応モデルに態度・行動変数を統合しようという提案はすでにある: Srinivasan, Vanhuele, Pauwels (2010, JMR), Bruce, Peters, Naik (2012, JMR)。調査ベースの指標を統合し、購買の手前の思考・感情への広告の影響をモデル化している。これに対し本研究では、購買の手前の情報探索への広告の影響に注目する。だからGoogle Trendを使うのだ、という理屈である。
 Google Trendを使った先行研究:

 モデル。例によって自動車メーカーのGoogle Trendの時系列を使う。
 時期 t において ブランド j を検索した未購入者数を Q_{jt} とする。Q_{jt} のうち当該時期に j を買った人の割合を R_{jt}, 人数を Y_{jt} = Q_{jt} R_{jt} とする。二台買う人はいないと考え、また検索しないまま買っちゃった人 Q'_{jt} も無視すれば、Y_{jt} が売上である。
 Q_{jt}としてGoogle Trend(検索量)を使いたいんだけど、もちろん検索量がすべて購入検討者の検索というわけではない。ではどうするかというと、これが案外人を食っていて、Google Trendで"(ブランド名) -used -parts -recall -repair" と入力した由(ははは)。さらに、"Autos & Vehicles"というカテゴリを選ぶか、もしくは"Vehicle Shopping"というフィルタをかける。前者の結果をG_{jt}, 後者の結果をS_{jt}とする。
 以下、I_{jt} = ln(Q_{jt})とする。つまり、購買と関連した関心の強さを表す潜在変数である。で、以下のモデルを立てる。
 ln(S_{jt}) = I_{jt} + v^S_{jt}, ただし v^S_{jt} \sim N(K^S_j, V^S_j)
 ln(G_{jt}) = I_{jt} + NI_{jt} + v^G_{jt}, ただし v^K_{jt} \sim N(K^K_j, V^K_j)
NI_{jt} というのはまた別の潜在変数で、購買と関係のない関心の強さである。
 さらに、検索から購買へのコンバージョンについて
 ln(R_{jt}) = C_{jt} + \varphi_j I_{jt} + v^Y_{jt}, ただしv^Y_{jt} \sim N(0, V^Y_j)
時系列的に変動するベースラインCから、I_{jt}の何割かが引かれる、という発想である(つまり、\varphi_jは負だと期待されている)。たとえばキャンペーンなんかで関心が高まっても、関心から購買へのコンバージョンは高くならない、むしろ落ちる、と考えているわけである。

 で、I, NI, Cに時系列構造を入れます。
 I_{jt} = \alpha^I_{jt} + \beta^I_j X_{jt}
\alpha^Iがトレンド項。X_{jt}は外生変数ベクトルで、前期売上 Y_{j, t-1} の対数、消費者信頼感係数、ガソリン価格、季節調整項が入っている。ここで前期売上を入れるのは、購入者が検索しそうだから。
 \alpha^I_{jt}
 = \delta^I_{j1} \alpha^I_{j,t-1}
 + \delta^I_{j2} \sum_{j' \neq j} \alpha^I_{j',t-1}
 + \delta^I_{j3} ln(A_{jt})
 + \delta^I_{j4} ln(\tilda{A_{jt}})
 + w^I_{jt}
さあ、深呼吸して... 第一項は前期の\alpha^Iで、つまり基本的には一次の自己回帰モデルである。第二項は前期の他のブランドの\alpha^Iの総和で、競合への関心からのラグつきのスピルオーバーを表す。第三項のA_{jt}は自社の広告支出。第四項の\tilda{A_{jt}} は他社の広告支出の総和。第5項は攪乱項で、\sim N(0, W^I_j) と書いてあるんだけど、いっぽう競合への関心からのラグなしスピルオーバーは w^I_{jt}とw^I_{j' t} の相関で表すと説明している... 最後に状態空間表現に書き換えたときに共分散を考えているらしい。
 NI_{jt}, C_{jt} についても、I_{jt} と同形のモデルを組む。パラメータの上添字が全部変わるだけ。

 自社広告支出 A_{jt} は、前期の売上や上のモデルと同じ外生変数の影響を受ける。つまり内生性の問題が生じる。しょうがない、A_{jt}もモデルを組もう、というわけで、
 ln(A_{jt}) = \alpha^A_{jt} + \beta^A_j X_{jt} + v^A_{jt}, ただし v^A_{jt} \sim N(0, V^A_j)
\alpha^A_{jt}が広告支出のトレンド項。もう一度深呼吸!
 \alpha^A_{jt}
 = \delta^A_{j1} \alpha^A_{j, t-1}
 + \delta^A_{j2} ln (Y_{j, t-1})
 + \delta^A_{j3} ln (\tilda{A_{j,t-1}})
 + w^A_{jt}
1次の自己回帰に、前期売上と前期の競合広告支出の総和が乗っている。あれれ? 前期売上の対数 ln (Y_{j, t-1}) は外生変数ベクトル X_{jt} にも入っているから、\beta^A_j の当該要素か \delta^A_{j2} を固定しないと、これ識別できないんじゃない? なにか誤解しているのだろうか...。

 以上のモデルとは別に、Google Trendを使わない売上モデルもつくる。省略。
 モデルの推定は、状態空間表現に書き換えて、ベイジアン動的線形モデルとみなし、Gibbsサンプラーを用いて... 云々云々。そんなん、いちいち読んでたら死ぬ、悶え死ぬ。パス。

 データ。自動車21ブランド。月次売上はAutomotive Newsというサイトから、月次広告支出はKantor Media様から、検索量はGoogle様から、消費者信頼感係数はミシガン大から、ガソリン価格は役所から、季節調整項はそれぞれの変数の自動車全体についてのデータから、頂いてくる。

 結果。Google Trendを使わないモデルよりも優れている(AICと予測性能を比較)。パラメータを読んでいくと、

 ううむ。正直いって、モデル自体にはあまり魅力を感じない。自分で代替案を出して推定できるわけでもないのに、ハタから好き勝手いうのは、品がないかもしれないけれど...。
 著者らも脚注で触れているけど、モデルのうち G や NI は本質ではなく、なんなら省略できる部分である。さらに広告や外生変数の効果を取り除き、モデルの根幹を見ると、著者らは、あるブランドへの購買関連的関心の高さ (I) と、関心から購買へのコンバージョンしやすさ(C)という2つの潜在変数を考え、「購買関連的検索量は Iが高いと高くなる」「購買関連的関心から購買へのコンバージョンは C が高いと高くなり I が高いと低くなる」と考えているわけである。
 ちょっといやらしいなあ、と思うのは後者の発想である。マクロレベルでの現象としては、確かにそうだろう、キャンペーンなどによる関心者の一時的増大は購買へのコンバージョン率を下げるだろう。でもこのモデル、もはや消費者行動のモデルではなくなってきているように思う。本来は、もともとのブランド・エクイティが高い人ほど、関心も持ちやすくコンバージョンもしやすいはずである。
 こういう奇妙な話になるのは、消費者の異質性を正面からモデル化していないからである。潜在顧客のブランド j に対する事前のエクイティ x_j を確率変数と捉えて分布を考え(たとえばベータ分布とか)、個人の検索確率をその人の x_j と広告効果で説明し、個人において検索が生起した際の購買の条件付き確率を その人のx_j と広告効果で説明する... というモデルを立てて、データからx_j の分布パラメータと広告効果の時系列モデルを推定するほうが、ずっと素直なんじゃなかろうか。

 それはともかく、発想自体はすごく面白いと思った。売上に対する広告効果モデルに、中間変数として調査データの指標を入れようというのならまだしも、Google Trendの時系列を入れちゃおうという発想は、たとえば私などがたまたま口走っても、そんなん誰が検索してんのかわかんないじゃん、と鼻で笑われてしまうだろうと思う。こういう自由な発想を持ちたいものだと思う。

読了:Hu, Du, & Damangir (2014) 売上への広告の効果をGoogle Trendを使って分解する

2014年7月10日 (木)

仕事関連で目を通した論文のメモを総ざらえ。これでたぶん全部だと思うんだけど...

Brown, S.P., Stayman, D.M. (1992) Antecedents and consequences of attitude toward the ad: A meta-analysis. Journal of Consumer Research, 19, 34-51.
 有名な雑誌に載っていた広告プリテストに関する研究報告に目を通してみたら、これがもうなにがなんだか分からない内容で、お嘆きであった皆様(俺だ)、お待たせしました。類似した問題を扱っている断然マトモな論文を発見。救われた思いである。

 たとえばARF copy testing projectの研究報告では(←こないだ読んだ奴だよ、全くもう)、広告効果の最良の指標は広告への好意度であると示唆された。ああいう報告はどのくらい頑健なのか。広告への態度がブランドへの態度に及ぼす影響は、なにに媒介されていて、どのくらい強いのか。メタ分析しましょう。という論文。

 広告への態度を測っている43本の論文を集めた。ここ、ちょっと面白いのでメモしておくと... 集めた期間は1981年から1991年6月まで。なぜ1981年かというと、広告への態度という構成概念が登場したのが、Mitchell & Olson (1981, JMR), Shimp (1981, J.Adv.)なのだそうである(←意外に歴史が浅い...)。まずは、JCR, Adv.Cons.Res., JMR, J.Adv., J.Adv.Res., J.Mktg, J.Acad.MS., Current Issues & Res. in Adv. の8誌から集めた。さらにABI InformとPsychlitを探したが、もう見つからなかった(前者はProQuestが持っているDB。後者はかつてAPAが出してたPsycLITのことでは?)。さらに、bibliographiesや個人的伝手で探したのを追加した。とのこと。
 研究の数は47個。2変数の関連性の効果量指標として単相関を使う。不幸にして単相関が報告されていない場合は検定統計量から無理矢理でっちあげる(詳細略)。

 研究の特性として次の11点に注目する。(1)広告への態度を測っている項目は単一か複数か。(2)対象者は学生か。(3)広告への感情(feeling)を操作しているか、個人差を調べているだけか。(4)単一の感情を調べているか、複数の感情を調べているか。(5)提示するブランドは既知か。(6)製品は一般的な反復購買製品か。(7)広告は印刷物かTVか。(8)広告は他の材料のなかに埋め込まれているか。(9)広告に対するあなたの反応を調べますと教示しているか。(10)被験者内計画か被験者間計画か。(11)研究の関心の中心は広告への態度か。

 結果。
 関連性を検討されることが多い5つのペアについてみると(研究数は12~33件)、測定誤差修正後の相関係数の中央値は、<広告への態度-ブランドへの態度>間で0.68, <感情-広告への態度>0.55, <広告の認知-広告への態度>0.48, <広告への態度-購入意向>0.36, <広告への態度-ブランドの認知>0.32。(←ここでいう認知(Cognition)って、どういう項目なんだろう?)
 相関係数の等質性を調べると、どのペアでも等質性がない。そこで、11個の特性のそれぞれで研究を分割し、サブグループごとに相関の分布を調べて比較する(←分割した結果、研究数1なんて箇所も出てくるんだけど、結構強気に読み解いている...)。その結果は:

 以上を回帰分析で再検討(省略)。また、4つのパスモデルを比較して、dual mediation 仮説というのを支持している。すなわち、広告認知→広告態度というパスと、ブランド認知→ブランド態度→購入意向というパスがあって、広告態度からブランド認知とブランド態度の両方にパスが刺さる(でもブランド態度からの広告態度への逆向きのパスはないし、広告態度から購入意向へのパスもない)、というモデル。

 dual mediation 仮説という考え方のどこが面白いのかピンとこなかったのだが、考察を読んでみると、どうやら対抗馬としてフィッシュバイン・モデルがあるようだ。ああそうか、フィッシュバイン流にいえば、ブランドへの態度はブランド属性についての信念と評価で形成されるわけだから、広告への態度からブランドへの態度に直接パスが刺さるという示唆はこれに反するわけだ。とはいえ、このパスはあまり強くない点に注意せよ、むしろブランド認知を経由した間接効果が大きいのだ、とのこと。
 その他、結果のひとつひとつについて丁寧に考察しているけど、省略。

 なるほどねえ。。。
 この論文だけでは、個別の構成概念を測定している項目についてイメージしにくいのだけれど、それは私がこの種の研究を読みつけていないからであろう。この論文でのメタ分析の手法が現在でも通じるかどうか、よくわかんないけど、まあそれも枝葉の話だ。ともあれ、頭がすっきりしました。
 だいたい「広告プリテストで得られる指標のうち購入意向と最も関連しているのは広告への好意度か?」なんて、ああいう問いの立て方自体が軽薄なんだよな!と意を強くした次第である。実務家だからどんなナイーブな問いを立てても良いってことにはならないですよ。答えはブランドの既有知識によっても広告メッセージの精緻化レベルによっても財の性質によっても変わってくる。その構造を理解することが、結局は実務的にも有用な示唆をもたらすのだ。うむ!

読了:Brown & Stayman (1992) 広告への態度は何に影響され何に影響するのか

2014年6月24日 (火)

Halay, R.I. & Baldinger, A.L. (2000) The ARF copy research validity project. Journal of Advertising Research, 40(6), 114-135.
 アメリカの広告業界団体ARFが、80年代、広告クリエイティブのプリテスト(コピー・テスト)の妥当性を検証する委員会というのを設け、3年間かけて実証研究をやった、その総括。仕事の都合で目を通したのだが、これがもう、辛い辛い論文で...

 冒頭にあるいきさつによれば、最初は各企業が持っているデータを集めようと思ったんだけど、やはり無理だった。次に、ある広告についていろんな種類のプリテストをやって、その結果とその後の売上との関係を調べようとしたんだけど、それも無理だった。結局、「その後の売上が良い広告と悪い広告」のペアを作り、それらについていろんなテストをやる、という形にした。
 その後もいろいろあって(資金が尽きたとかなんとか、実に言い訳がましい)、結局は5つのTV CFのペアを使用。ブランド名は非開示だが消費財。ペア内でブランドは同じらしい。要するに、CFのsplit cable test(地域で分けたA/Bテストであろう)をしているメーカーを探し、データを出してもらった、ということだと思う。

 実験したテスト手法は6通り。うち3つがon-air test、これが上記のデータであろう。詳細は公開できない由。ほか3つはoff-air test, こっちはこの委員会が自分たちで会場調査したもので、
方法1. 提示→説得指標を聴取→再生課題→診断指標を聴取
方法2. 提示→programについて質問→再提示→説得指標を聴取→再生課題→診断指標を聴取
方法3. 説得指標を聴取→提示→説得指標を聴取→再生課題→診断指標を聴取
 提示するのは10分間の番組で、そのなかに当該CFと別のCF2本がはいっている。説得指標とはブランド選択とか購入意向とか(つまり、方法3はpre-postデザインなのだ)。再生課題とは、製品カテゴリ名を提示してブランドを再生させる、など。診断指標とは、役に立つ広告でしたとか、退屈な広告でしたとか。
 というわけで、(CFが5ペア) x (手法が6個) =30セル。対象者はセルあたり400ないし500人。予算も尽きるわけだ。

 結果。これがまた、実務家向けチャートはこっちで研究者向けチャートはこっち、なあんてごちゃごちゃと言い訳がましいのである。出してくる数字もなんだかわけがわからない。各ペアの差について有意水準0.20で検定しまくり、有意になったペアの割合を0.20で割る、なんていう指標を作っている。有意差が出るチャンスレベルが0.20だから、とのこと。理解に苦しむ。この時代にはメタ分析という概念はなかったのかしらん?
 まあいいですよ。研究者向けと称するチャートから主な結果をピックアップすると、

 そのほか、指標を組み合わせて売上の良し悪しを判別してみたり、因子分析してみたり... 面倒なのでスキップ、スキップ。
 手法に関しては以下の通り。on-airとoff-airを比べると、off-airは売上を予測しました、on-airはよくわかりません(ごちゃごちゃ言い訳)。pre/post比較よりpostのみのほうがよさそうでしたがよくわかりません(ごちゃごちゃ言い訳)。複数回見せるのはいいことかもしれないしそうでもないかもしれないです(ごちゃごちゃ言い訳)。いやー好意度って大事ですね。とかなんとか、とかなんとか。
 ええい!!!スキップだーーー!

 この人たち、なんでこんなにダラダラした文章を書くのか? なぜ実験結果について述べている途中で昔話を割り込ませたりするのか?
 というわけで、心底イライラし、後半2/3は読み飛ばした。読了とは言い難いが、悔いはない。おしまい! 次に行きましょう次に!

 追記: この論文、1991年に発表されたもので、私が読んだのはこの雑誌の2000年の「古典的論文」特集での再録らしい。古典ねえ...

読了: Halay & Baldinger (2000) ARF広告プリテスト妥当性プロジェクト

2014年6月21日 (土)

芳賀麻誉美(2005) 調査は製品開発に役立つか? 3-step researchによる統合的製品開発. マーケティング・ジャーナル, 98, 48-69.
ずっと前に読んでいたのだけど、このたび仕事の都合で再読。著者は市場調査分野では知らない人のいないアクティブな研究者である。

 著者いわく、製品開発に役立つリサーチが行われない理由は:

 で、3-step researchというフレームワークの提案。製品開発のためのリサーチを、質的発見のステップ、消費者の評価構造を探索し市場を把握するステップ、効果を確認するステップにわけて考える。調査手法のカタログをつくるんじゃなくて、まず製品開発の一般的プロセスを考え、フェイズを特定し、各フェイズにツールをテンタティブにくっつけていく考え方で、グローバル消費財メーカーさんが整備しているプロトコルに近い。
 最初のステップで紹介されている手法は評価グリッドとテキストマイニング。次のステップは、いわゆるU&A調査とベンチマーク調査にあたるものだと思う。3番目のステップはいわゆるアセスメント・テストなんだけど、単なるgo/no-goゲートウェイの役割だけじゃなくて、2番目のステップで同定した消費者の評価構造を使った選好シミュレーションまでをスコープとする。
 後半は実例の紹介。前に読んだときも思ったんだけど、これ、ほんとに勉強になります。

 最初のステップの実例で、ラダリングで得た評価構造を図にしたり、QFDでいうところの品質表に整理したり、消費者言語の辞書にしたりグラフにしたりしている例を紹介しているのだけれど、共通部分を抜き出すことだけでなく、数名しか挙げていない評価項目を把握することも大事である、という説明がある。そうだ、まさにそこんところが課題なのだ...

※発行年が誤っていたので修正しました。失礼しました!

読了:芳賀(2005) 製品開発のための 3-step research

杉田善弘(2003) 新製品開発のマーケティング. 学習院大学経済論集, 40(3), 211-223.
 仕事の都合で目を通した。新製品開発の初期段階、いわゆるfuzzy front endに関するマーケティング観点でのレビュー。
 ビジネス書にありがちな逸話の羅列ではなく、市場機会発見、アイデア創出、アイデア評価に分け、プロセスの特徴と成功率との関係についての実証研究を概観している。そんな研究があるのか... と、勉強になりました。Goldenberg et al.(2001, Mgmt Sci.)というのを読むと良さそうだ。
 展望のところで、von Hippelのリードユーザ分析が紹介されている。von Hippel(1986, Mgmt Sci.)というのが挙げられている。先端的消費者に注目しようというアイデアが、そんな昔からあるとは、ちょっとびっくり。

読了:杉田(2003) 新製品開発初期段階研究レビュー

2014年5月28日 (水)

Carlson, B.D., Suter, T.A., Brown, T.J. (2008) Social versus psycholoical brand community: The role of psychological sense of brand community. Journal of Business Research. 61, 284-291.
 先日唐突に訪れたベネディクト・アンダーソン「想像の共同体」の一大ブームのあおりで、「読みたい資料」の山に追加したもの。整理のためにぱらぱらめくっていて、気になってつい最後まで読んでしまった。

 最近のブランド研究では、みなさんブランド・コミュニティに注目しておられますが(Muniz&O'Guinn(2001)が提唱した、ブランドを中心としたコミュニティとでも呼ぶべき現象のこと。企業が構築するブランド・ユーザ・コミュニティのことではない)、実際にメンバー間の相互作用があるコミュニティだけではなく、相互作用を伴わない、単なる想像されたコミュニティも大事なんですよ。という主旨の調査研究。
 以下、実際に社会的相互作用を伴うタイプのブランド・コミュニティを社会的ブランド・コミュニテイ、単にメンバーがコミュニティの感覚を持っているというだけで実際には社会的相互作用は起きていないタイプのブランド・コミュニティを心理的ブランド・コミュニティと呼ぶ。

 Muniz&O'Guinnはブランド・コミュニティの構成要素として、意識の共有、儀式の共有、道義的責任可能性の3点を挙げている。でも心理的ブランド・コミュニティにおいてはこの3つは必須でない。ここの説明、大事なのにさらっと書かれているので訳出しておくと、

たとえば、心理的ブランド・コミュニティのメンバーはそのブランドの他のユーザが存在することを知っているが、自分たちを内集団の一部として分類したり外集団と区別したりしているとは限らない。コミュニティの感覚の背後にある起動力(impetus)は、コミュナルな関係や意識の共有ではなく、ブランドである。さらに、共有された儀式と伝統はコミュニティの文化を維持し適切な振る舞いの規準を提供する助けになるだろうが、心理的コミュニティにおいては必須でない、なぜなら社会的相互作用は生じないかもしれないからである。最後に、道義的責任可能性の感覚は社会的ブランド・コミュニティにおいては見つかるだろうが、心理的ブランド・コミュニティとはあまり関連していない。それ[道義的責任可能性の感覚]が表しているのは「コミュニティ全体に対する、そして個々のメンバーに対する、義務・責務の感覚」(Muniz & O'Guinn, 2001, p.413)である。これらの責務の下にあるのは、ブランドの使用を助けることと共に、メンバーを統合し維持することであろう。[いっぽう]心理的ブランド・コミュニティは、本質的に、そのconstituents[メンバーのこと?]によって持続されるような実体ではない。

 。。。うーむ。まあとにかく、著者らは、従来のブランド・コミュニティってのは社会的ブランド・コミュニティのこと、それに対して心理的ブランド・コミュニティはもっと広い概念だと考えているわけである。

 で、著者らいわく、従来指摘されていたブランド・コミュニティのベネフィットは、心理的ブランド・コミュニティにおいても得られる。つまり、大事なのはブランド・コミュニティという心理的感覚 (PSBC)、すなわち「ある個人が他のブランド・ユーザと関係的な絆を知覚している程度」である。

 というわけで、因果モデルを作ります。
 PSBCを生みだすのは、ブランドそれ自体への自己同一化、そしてそのブランドのユーザ集団への自己同一化であろう。なお、自己同一化については認知的に捉え、自己スキーマと対象スキーマの重複の程度とみなす。というわけで、
  H1. ブランドとの自己同一化はPSBCにポジティブな影響をもたらす。
  H2. ブランドのユーザ集団との自己同一化はPSBCにポジティブな影響をもたらす。
 リレーションシップ・マーケティングでは関与(commitment)が大事だといわれている。関与をもたらすのはきっとPSBCであろう。というわけで、
  H3. PSCBはブランド関与にポジティブな影響をもたらす。
 image congruence 仮説によれば(Grubb & Grathwol(1967)というのが挙げられている)、個人の消費行動は、象徴的意味をもたらす製品の消費を通じて自己概念を拡張させる。また、自己定義的欲求が満たされる時、消費者のブランドに対する自己同一化はしばしば消費者とブランドの強い関係をもたらす。とかなんとかというわけで、
  H4. ブランドとの自己同一化はブランド関与にポジティブな影響をもたらす。
 先行研究によれば、ブランド・コミュニティのメンバーは集団の規範と整合的な行動・意図を示す。たとえば当該のブランドを選好するし、イベントに参加するし、クチコミするし、ブランドの歴史を称える。というわけで、
  H5. ブランド関与は、ブランド選好、ブランドのイベントへの参加意向、クチコミ、ブランドの歴史の称賛にポジティブな影響をもたらす。
 社会的ブランド・コミュニティが存在するときは、そうでないときに比べ、ユーザ集団との自己同一化の影響がより大きくなるだろう。というわけで、
  H6. H1の効果は社会的ブランドコミュニティが存在するときに小さくなる。
  H7. H2の効果は社会的ブランドコミュニティが存在するときに大きくなる。
 というわけで、出来上がったモデルは次のとおり。外生変数は、ブランドとの自己同一化と、集団との自己同一化。この二つがPSBCに効く(H1, H2)。効き方は社会的ブランドコミュニティによって異なる(H6, H7)。PSBCとブランドとの自己同一化がブランド関与に効く(H3, H4)。ブランド関与がブランド選好、イベント参加意向、クチコミ、ブランド史称賛に効く(H5)。多母集団の4層逐次モデルである。

 実証。面倒になってきたので早送りで...
 USのとあるテーマパークを対象とする(ディズニーランドかなあ...)。調査項目は、PSBCは7件リッカート尺度で6項目。ブランド同一化と集団同一化は各2項目、ブランド関与5項目、選好4項目、イベント参加以降1項目、クチコミ3項目、ブランド史称賛2項目、これらは先行研究から引っ張ってくる。
 研究1. ユーザが勝手に作ったオンライン・グループから対象者をリクルートしてweb調査。結果: 適合度は良好。構造モデルのパス係数は、H1は有意でなかったがH2, H3, H4, H5で有意。なお、PSBCから4つの結果変数に直接パスを引くと適合度がもっと上がる。
 研究2. このテーマパークの来場者をリクルートして郵送調査。結果: 適合度は良好。H1は有意、H2は有意でない。PSBCから結果変数に直接パスを引いても適合度は上がらない。
 2つのデータを合わせて分析して、H6, H7を支持している。面倒なのでパス。

 考察。PSBCはブランド関与を高め、ブランドとの関係を促進する。PSBCを高めるためには、社会的ブランド・コミュニティがあるときにはそのコミュニティに関連したマーケティング・アクションが有効だし、ないときにはブランドイメージの操作が有効だ。云々、云々。

 うーむ。。。私がなにか誤解しているのかもしれないけど。。。感想が2点。

 まず、コミュニティという概念について。
 コミュニティという概念に関する著者らの論点は2つある。(1)ブランド・コミュニティはメンバー間の相互作用を含むとは限らない。(2)Muniz& O'Guinnが挙げた3要件はブランド・コミュニティの必須要件ではない。
 ちょっと混乱があるのではないかという気がする。Muniz&O'Guinn(2001)がいっていたのは、「現代社会においてはブランドの周りに、コミュニティと呼び得るようなナニカが生じていますね」ということだったのではないか。彼らが挙げた3つの要件とは、そもそも私たちがある現象をコミュニティと呼び得るのはどんなときか? という一般的要件で、彼らの主張は「ほらブランドの周りにあるナニカはこの3つの要件を満たしていますよ、だから(伝統的な意味でのコミュニティらしくはないけれど)コミュニティと呼んでいいのではないですか?」というロジックに沿っていたと思う。
 このロジックに従えば、実際の社会的相互作用があろうがなかろうが、コミュニティ感覚が存在していようがいまいが、この3つの要件を満たしていないナニカはコミュニティではない。従って、著者らの考える「心理的ブランド・コミュニティ」は、Muniz&O'Guinnが考えるところのコミュニティでないことになると思う。その理由は、実際の社会的相互作用を伴っていないからではなくて、3つの要件のうちいくつかを満たしていないからである。
 つまり、著者らがいうところの「コミュニティ」はMuniz&O'Guinnのいう「コミュニティ」よりも広い概念である。結構。では著者らのいう「コミュニティ」とはなにか。著者らいわく、社会的アイデンティティ理論によれば、社会的相互作用がなくてもコミュニティ感覚は存在しうる(そりゃまあそうだろう)。で、著者らはこのコミュニティ感覚(PSBC)をもって「心理的ブランド・コミュニティ」を特徴づけている。ううむ。いまブランド・コミュニティ研究のいきさつを抜きにして、いきなり「コミュニティの感覚を持っている人たちのことをコミュニティと呼びます」と宣言したら、(アンダーソンを含めて)たいていの社会科学者は、そのあまりに広範囲な定義に呆れちゃうんじゃないだろうか。

 まあこれは「なにをコミュニティと呼ぶべきか」という論点、社会科学において長い伝統を持つコミュニティという概念を心理主義的に再定義しちゃっていいのかという話であって、それはそれでとても大事だけど、ちょっと横に置いておくこともできるだろう。よし、横に置くぞ。

 2点目。ふらっと一本論文を通読しただけで、プロの研究者の方に対して大変失礼な言い方だと思うけれど、これ、「横断調査を一発やってSEMでモデリングしました」的研究の典型だと思う。
 まず、ある心理学的なダイナミクスを想定する。そこから、心的構成概念間のスタティックな関連性についての統計的仮説を生成する。それぞれの構成概念を複数の調査項目で測定する。潜在変数モデルをつくり、潜在変数間に仮説に従ってパスを引き、パス係数やモデルの適合度で仮説を支持してみせる。
 その限りにおいては美しい。でも問題は、仮説を支持することが理論を支持する証拠になっているのか、という点だ。
 第一に、全然別のダイナミクスから、ほぼ同一の統計的仮説を演繹することができるかもしれない。たとえばこの論文とちがって、「ブランドへの選好がブランド関与の基盤となる」というダイナミクスを考えたとしても、ほぼ同じパス図が得られる。矢印は一か所逆向きになるけど、データに基づき矢印の向きを検証するのは困難だ。
 第二に、そもそも構成概念自体が理論に基づいている。たとえばこの論文では「PSCBがブランド関与に影響する」というダイナミクスを考えているわけだけど、想像するに、「ブランド関与」なる構成概念を用いたこれまでの研究を調べれば、その測定項目のなかにPSBCに相当する項目(ブランド・ユーザのコミュニティという感覚について問う項目)を含めている研究が、きっと見つかるだろう。ブランド関与とPSBCは異なる構成概念か? この理論に言わせれば異なる、でもほかの理論に言わせれば同じことかもしれない。それは測定モデルの比較を通じて決着をつけるべき問題だ、なんていうのはあまりにデータ分析寄りな見方であって、実のところ、潜在変数の弁別的妥当性なんて言うのは項目選択しだいでどうにでもなっちゃうのである。

 もちろん、SEMで理論的主張が検証できないというわけではない。たとえば、ある包括的な理論的枠組みの下で構成概念の測定モデルが構築できます、さて構成概念間の因果関係の特定の部分について対立する2つの下位理論がある、そこでそれぞれの下位理論に沿ってモデルを構築し、パス係数やモデル比較で決着をつけましょう、というような使い方もあるし、そういうのならば納得しやすい。
 しかし、この研究のように、ある理論的主張を行います、そこから仮説を引き出します、仮説をモデルで表します、うまくいきました、よかった... というタイプのモデルは、よほど精緻に積み上げないと、理論的主張を支持する証拠にはならないように思う。

 世の中には「SEMってのを使うと好き勝手なことが云える、実に恣意的だ」と毛嫌いする人がいるようだが、それはあまりに短絡的だと思う。統計モデルが恣意的だと感じられるのは、統計モデルを根拠づける理論に説得力がないからであって、モデルのタイプ自体に罪はない。
 でも、プロの研究者の方によるこういう研究をみると... いえいえ価値がないとは申しません、一連の研究の流れのなかでそれぞれに価値があったりなかったりするのだと思いますが... ちょっぴり、SEMかあ、ナンダカナア、と思ってしまう。

読了: Carlson, Suter, Brown (2008) 大事なのは社会的ブランド・コミュニティじゃない、心理的なブランド・コミュニティ感覚だ

Trusov, M., Rand, W., Joshi, Y.V. (2013) Improving prelaunch diffusion forecasts: Using synthetic networks as simulated priors. Journal of Marketing Research, 50(6), 675-690.
 上市前販売予測に社会ネットワークを使うという論文。当面の仕事とは関係ないけど、先日友人といろいろ議論していて、社会ネットワークの話は読んでおいた方がよいと思ったので、隙をみて目を通した。

 先行研究レビュー。社会的相互作用ネットワークがマーケティング戦略に与える影響についての研究としては以下がある:

 で、この研究の特徴は: 複数の製品の集計レベルの普及曲線(つまり、横軸が上市からの時間、縦軸が購入経験者数を表す曲線)から、その製品カテゴリの消費者相互作用ネットワークの性質を推定する。つまり、普及曲線そのものではなく、普及曲線のパラメータの確率分布を推定するわけである。これを使って予測の精度を上げる。

 えーっと... 大変面倒な話だし、詳細は本文には書いてないのだけど(Appendixを読めとのこと。勘弁してください)、かみ砕いてレシピ風にいえば、こういうことだと思う。
 まず、シミュレーションでデータベースみたいなものをつくっておく。

  1. 架空の消費者のネットワークをつくります。格子型、ランダム型、スモール・ワールド型、preferential attachment型(スケール・フリー性を持つ)、の4タイプのネットワークを考える。著者いわく、この分野ではこれだけ調べれば十分なのよ、とのこと。それぞれについて、エッジの密度を4水準で動かして、ネットワークを生成する。4x4=16個のネットワークが手に入る。なお、いずれもノード数は1000とする。
  2. 新製品の普及(拡散)をシミュレーションします。それぞれのネットワークについて、まず、製品が普及しうるノードを一定割合ランダムに選ぶ。で、ある時点におけるあるノードの製品普及をSIRモデルで表す。SIRモデルのパラメータは受容係数と社会的汚染係数のふたつ(えっ、そうだっけ? 感染率と隔離率だと習ったけど。あとでよく考えてみよう)。つまり、ノードの割合、受容係数、社会的汚染係数の3つのパラメータがあるわけだ。これをいろいろ変えて、計193,600通りのシミュレーションを行い、普及曲線を得る。
  3. ネットワークごとに普及曲線の分布を調べます。まず、一本一本の曲線にBassモデルをあてはめる(いきなり古い話になるので、ちょっとガクッとなりましたが、それで構わないんでしょうね)。Bassモデルには3つのパラメータがあるけど、そのうち p と q に注目する (もうひとつのパラメータは普及可能者割合の推定だから)。こうして、たくさんの(p, q)が手に入る。で、ほんとはあるネットワークから(p, q)を得るパラメトリックなモデルを作りたかったそうなんだけど、うまくいかないので、pを11階級、qを10階級に切って二次元のヒストグラムを描く。このヒストグラムが4x4=16枚。これを「拡散超立方体」と呼ぶことにする。途中からローテクな割には、やたらにかっこいい名前だ。

 次に、実データを使った分析を行うのだが、モデルの立てつけはこうなっている。
 ある普及曲線のパラメータ(p,q)は、上の2次元ヒストグラムのどこかのビンに落ちるわけだ。ビンは11x10=110個ある。だから、あるカテゴリで観察された複数の普及曲線のパラメータは、長さ110の頻度ベクトルで表現できる。これを Y とする。
 ある製品カテゴリの消費者ネットワークは、上の16個のネットワーク M_1, ..., M_{16} のどれか M_k であると考える。
 さあ、Yを生成するモデルを考えよう。

 さて、ある製品カテゴリについて、それが消費者ネットワーク k を持ち、普及曲線のパラメータについての事前確率 \theta_k を持ち、実際の普及曲線のパラメータが Y となる同時確率は
 f( Y, \theta_k, M_k) = \Psi (Y | \theta_k) × \varphi (\theta_k | M_k) × p(M_k)
ここから、消費者ネットワーク k の下で普及曲線のパラメータ Y を得る確率は、\theta_kについて積分して
 p(Y | M_k) = \int_{\theta_k} \Psi (Y | \theta_k) × \varphi (\theta_k | M_k) d\theta_k

オーケー、いま Y が手に入ったとしましょう。その製品カテゴリが消費者ネットワーク k を持っている事後確率は
 p(M_k | Y) = {p (Y | M_k) × p(M_k)} / (分子の総和)
\theta_k の事後分布は
 \tilda\varphi (\theta_k | M_k, Y) = \Psi (Y | \theta_k) × \varphi (\theta_k | M_k) / p(Y | M_k)
これから発売される製品から手に入るパラメータの分布 Y* の予測分布は
 p( Y* | Y ) = \sum_K p(M_k | Y) × \int_{\theta_k} \Psi(Y* | \theta_k) × \tilda\varphi (\theta_k | M_k, Y) d\theta_k
Y*から(p, q)の平均を求め、普及曲線のパラメータとする。というわけで、過去製品群の普及曲線から、新製品の普及曲線を予測できたわけです。

 この方法を通じて、ある製品カテゴリが持っている消費者ネットワークを正しく推測できるとは限らないのだけれど(たとえば低密度なランダム・ネットワークとスモール・ワールド・ネットワークは区別しにくい)、予測の精度は上がるとのこと。

 実証研究。2007年から2008年にかけて登場したFacebookアプリ900個の日次インストール数を用いる(どこがデータを持っていたのかしらん...)。それぞれのアプリの普及曲線をBassモデルに当てはめ, パラメータの分布 Yを得た。
 なお、p(M_k | Y)を推定したところ、低密度のpreferential attachment型ネットワークにおいて 1 に近い値が得られた。これは社会的ネットワークについての先行研究と合致している (と、バラバシを引用)。Facebookの先行研究では、友達ネットワークは高密度だといわれているが、いま調べているのはアプリ普及の基盤にあるネットワークであって、友達ネットワークそのものではないから、これは矛盾ではない。それに、そもそもネットワークの特性を推測したいわけじゃないので、まあどうでもよい。本題は予測である。
 第一試合。600個のアプリをホールドアウトしておき、残りの300個からランダムに選んだアプリ群をテストに用いる。3つの予測方法を比較する。

 予測の良さの指標は、(p, q)の予測分布とホールドアウトの分布とのK-Lダイバージェンス。結果: 提案モデルの勝ち。ナイーブモデルはわずかに劣る(そうか、消費者ネットワークのトポロジーや密度を頑張って推測したけど、そこには大した旨味はないわけだ)。サンプルサイズが大きくなると差が小さくなる。
 第二試合。集計レベルの普及モデルによる予測と勝負する。選手入場です。

各アプリのマーケット・サイズを過去データから推定する場合と、別の方法で調べておいてモデル推定の際には既知だとみなす場合の両方を試す(後者の手順についていろいろ説明してあったが、面倒なのでスキップ)。結果: 提案モデルの勝ち。以下、おおまかに、Bassモデル、ゴンペルツモデル、ガンマモデルの順に良い。

 考察。クチコミが影響するカテゴリで予測精度はより向上するであろう。今後の課題: マーケット・サイズを拡散超立体に組み込む; 消費者間異質性を組み込む; 学習データになんらかの外的な重みをつける; 製品特性を組み込む。

 なるほどねえ...
 具体的な場面に当てはめて考えてみよう。これからあるカテゴリのある製品を発売します。マーケット・サイズは消費者調査かなにかで見当がついています。配荷率もわかってます。発売3ヶ月後の普及率(購入経験者率)を予測したいんです。という場面について考えてみる。
 まず思いつくのは、インテージ様なりマクロミル様なりにお願いし、過去にその会社が発売した製品だか、競合を含めた全製品だかの月次トライアル購買率のデータをもらってくる。で、普及曲線をBassモデルに当てはめ、そのカテゴリでの標準的な普及曲線を求め、これを使って予測する、という方法である(第二試合のBassモデル)。もしそれで当たるってんなら、それでよろしい。
 次に思いつくのは、過去に発売された製品の普及曲線をBassモデルに当てはめ、それぞれの製品についてパラメータを求め、このパラメータの分布を求め、これを使って予測する、という方法である(第一試合のカリブレーション・モデル)。過去の製品の数が何百個もあるのなら、これでよろしい。
 ところが、過去の製品の数は数十個しかない、と。そこで提案モデルの登場である。まず著者らのレシピで「拡散超立方体」をつくる。これはコンピュータ・シミュレーションによって作り出された、製品カテゴリと無関係な、普遍的なデータベースであって、消費者がもし(クチコミやらなにやらで)こんな風に相互作用するならば、トライアル率はこんな風に増えますわね、という無数のシナリオを含んでいる。で、過去データとこのデータベースを併用し、上記の謎の数式(p( Y* | Y )の式)に当てはめると、消費者間相互作用について特段の洞察が得られるわけではないんだけど、予測の精度は上がる。というわけである。もちろん、考察で著者も触れているけれど、精度が向上するというのは製品普及にクチコミが影響するカテゴリでの話であろう。

 なるほどー。こりゃあ面白いなあ。
 実務的には、著者のいうとおり、マーケット・サイズについての確率的推測も同時にできると助かる。また、たとえば発売3ヶ月後の普及率予測に発売1ヶ月後の普及率を使えると便利だ。当該カテゴリの新製品購買におけるクチコミの重要性についてのデータ(リサーチデータやSNSでの出現率)を使えば、わざわざこのモデルを使うべきかどうかを決める手助けになるだろうし、M_kの事後確率推定にも役立つかもしれない。普及曲線を消費者のデモグラフィック属性別に切って調べるのも、精度向上の役に立ちそうだ。などなど。。。いずれも、簡単に拡張できそうだ。
 「社会ネットワークを使います」という割には地味な展開の論文なんだけど(消費者相互作用自体について知見を得ようとはしないから)、でもすごく面白かった。

読了: Trusov, Rand, Joshi (2013) 社会的ネットワークで新製品普及予測を改善する

2014年4月 4日 (金)

Cayla, J., & Eckhardt, G.M. (2008) Asian brand and the shaping of a transnational imagined community. Journal of Consumer Research. 25. 216-230.
 先日読んだアンダーソン「想像の共同体」がむやみやたらに面白くて、私のなかでブームを巻き起こしてしまい、そのあおりで読んだもの。なにやってんだか。
 アンダーソンいわく、近代国民国家という想像された共同体の成立は、「我が国の言語」による出版資本主義の発達を基盤として可能になった。同様に、国レベルのブランドではなく地域レベルのブランド、たとえば「アジアのブランド」が基盤となって、異なる国の人々のあいだに共通の想像された共同体(「私たちアジア人」)が形成されている。というような主旨の論文。面白いことを考えるものだ。

 シンガポール、上海、シドニー、香港、ハイデラバード、クアラルンプールで働く、マーケティング・マネージャーやプランニング・ディレクターなど、23人にインタビュー。アジア各国で展開しているリージョナル・ブランドの構築に関して取材する。とくに、タイガー・ビールとZujiという旅行ポータルサイトに焦点を当てる。知らなかったんだけど、タイガー・ビールってシンガポールのブランドなのだそうだ。
 で、地域ブランド構築のプロセスを、3つの軸に沿って記述する。
 (1)文化的近接性の構築。それぞれの国の歴史を切り離し、アジア共通の未来のイメージを構築する、というような話。
 (2)ブランドからの場所性の剥奪。どこの国ともしれない、都市的なアジアのイメージを構築する。
 (3)アジア文化のモザイクの創造。たとえば、Zujiというブランド名は北京語でfootprintという意味なんだけど、多くの国ではその音の響きからして日本語だと思われている由。ロゴはモダンな感じにして、色使いはタイっぽくて、タレントはチョウ・ユンファで、タグラインは"Your Travel Guru", これはインドっぽい由。
 
 正直、途中から適当に読み飛ばした。すいません。こういう事例記述って、どう読めばいいのかだんだんわかんなくなってしまうのである。

 本筋とは関係ないけど、Panalozaという人がこんなことをいっているのだそうだ。「消費者研究者たちは、消費者行動研究をマーケティング活動の研究から切り離されたものにしようとするあまり、市場において消費者とマーケターが相互の関係のなかで文化的意味について駆け引きする(negotiate cultural meanings)ありかたが見えなくなっているのではないか」。
 そうそう、これは数年前に講義の準備で消費者行動論の教科書を並べてめくったときに感じたことであった。なんであれディシプリンの成立は抽象化を伴うわけで、抽象化自体を批判するのは筋違いだと思うけど、マーケターの役割をいったん脇において消費者の認知・行動モデルをつくるということについて、消費者行動の研究者の人たちは日頃どう思っているのだろうか、という疑問があった(少なくとも日本では、心理学の観点から消費者行動に関心を持つ人より、マーケティングの観点から関心を持つ人のほうがずっと多いようだから)。やっぱりこういうことをいう人もいるのね。もっとも、この人がどういう人なのかはわからないけれど。

読了:Cayla & Eckhardt (2008) ブランドによる「想像のアジア共同体」の構築

2014年4月 2日 (水)

Roberts, J.H., Kayande, U., Stremersch, S. (2013) From academic research to marketing practice: Exploring the marketing science value chain. International Journal of Research in Marketing.
 マーケティング・サイエンス(MS)はマーケティング実践にインパクトを与えているか、という実証研究。ただの引用分析ではなく、調査をやっている。妙に面白かった。

 まずフレームワークとして、MSバリュー・チェーンなるものを提示する。それは次の3つの要素からなる。

 ここで仲介者(intermediaries)というのは、リサーチ・ファーム、戦略コンサル、マーケティング・コンサル、企業のMS部門。きっと日本でこの研究やったら、市場調査会社は外されて代わりに広告代理店が入るでしょうね。悔しいのう、悔しいのう(はだしのゲン風に)

 論文もツールも意思決定もたくさんあるので、絞り込みを行う。
 まず意思決定。MSのジャーナルや教科書をみてリストを作り、体系をつくって、実務家や専門家と相談して、次の12エリアに絞った由: ブランド、新製品、マーケティング戦略、広告、プロモーション、価格、販売、営業部隊、チャネル管理、顧客選択、顧客関係、マーケティング投資、品質管理。
 つぎにツール。同じやり方で次の12個に絞る: セグメンテーション、知覚マッピング、調査ベース選択モデル、パネルベース選択モデル、発売前市場モデル、新製品モデル、マーケティング反応モデル、営業部隊配置モデル、顧客満足モデル、ゲーム理論モデル、顧客生涯価値モデル、メトリクス。
 最後に論文。この手続きがすごくしつこくて可笑しいのだが(本文中の数式の本数を数えてみたり、専門家にアンケートしたり...)、要するに、影響力のある論文を100本選び、さらに実務と研究の両方でインパクトがありそうな上位20本を選ぶ。ここ、面白いので、全部挙げます。

ちなみに、研究方面のインパクトと実務方面のインパクトを比べると、研究で高く実務で低い例は、20本には選ばれてないけどMorgan & Hunt (1994)「リレーションシップ・マーケティングの関与-信頼理論」。研究で低く実務で高い例はAaker&Keller (それ、なんとなくわかるなあ...)。どちらでも高い例はGuadagni & Little (1983)。だそうだ。
 上位20本、テーマがかなり重複しているけど、そういうものなのかしらん。同じ著者が複数回でてくるのもちょっと不思議だ(Fornellが3回、KellerやHauserが2回)。案外に研究者の層が薄い世界なんかもしれない。それにしても、いやー、こうやって無責任に高いところから眺めるのはなんだか楽しいなあ。日本の先生方も、ひとつ頑張ってくださいまし。(←大きな態度)

 で、調査。

結果。すごくこまごまと書いてあるので(気持ちはわかる。データ収集大変だったもんね)、ポイントだけ。

 考察。MSは大事な分野でお役にたっている模様です(楽観的な主旨であったか...)。研究者のみなさん、インパクトのある研究を追求するのは悪いことじゃありません。トップ20論文の著者様たちにいわせれば、コンサルティングとの共生、そしてgoing againt the grain at the right time が大事みたいですよ (←良いタイミングで時流に抗する、というような意味合いかしら)。云々。マーケティング・マネージャーのみなさん、本論文をMSの入門資料として役に立ててください。云々。

 というわけで、細かいところは飛ばしてざっと目を通しただけだけど、読み物として楽しく読了。
 感想。実践者が研究者に期待するのは、現在の業務に寄与するfirmな理論的基盤や有用なツールである場合もあれば、通念を揺り動かす斬新な洞察や問題提起である場合もあるだろう。だから、研究者があさっての話をしていると実践家が「いや今日や明日の話をしてくださいよ」と思うこともあるし、逆に研究者がよかれと思って一生懸命すぐに役立ちそうな話をしているのに、実践家が「いや今日・明日のことは我々のほうが良く知っている、中途半端に現実に色目を使った話をしないで、むしろあさって・しあさってのことを考えてくださいよ」と思うこともある。こういう行き違いは実践と研究が接するどの分野でも起きることで、マーケティングも例外ではないと思う。
 この論文は、研究についても実践についても今日・明日のレベルに注目していて、筋が通っていると思う。でもこれとは別に、あさって・しあさってのレベルに注目することもできるのではないか。つまり、MSがビジネスを変えることがあるか、実践家はビジネスの変革に際してMSになにか期待するか... という問題設定もありうると思う。

読了:Roberts, Kayande, Stremersch (2013) マーケティング・サイエンスはマーケティング実践にインパクトを与えていると思いますか

2014年3月26日 (水)

Hui, S.K., Huang, Y., Suher, J., Inman, J.J. (2013) Deconstructing the "First moment of truth": Understanding unplanned consideration and purchase conversion using in-store video tracking. Journal of Marketing Research. 50(4), 445-462.
 スーパーの買い物客にビデオカメラをつけるという研究。聞くだけで面白そうですね。

 本研究の関心は非計画購買にある。というわけで、まずは非計画購買についての先行研究概観。
 買い物前後の聴取に基づく研究:

 買い物の最中を追いかける研究 (おそらく全部著者らの仲間うちではないかと思うけど):

 これらに対してこの研究は、購買の手前にある考慮のステップを捉えているのが新しい由。

 で、調査。実査は2009年。いやー、さすがだ。
 スーパーの入り口で来店客をリクルート。96個の製品カテゴリのリストを見せ(「野菜」から「練炭」まであるぞ)、買おうと思っている奴をチェックさせる。これが購買計画の有無になる。さらに、予算、買い物リストの有無、連れの有無、来店頻度 etc. を聴取。買い物リストを持ってる人は37%だそうだ。日本とはずいぶん違いますね。
 で、装置を着用させる。ヘッドセットみたいなのにカメラがついていて、対象者の視界が記録される。また、店舗内のRFIDタグをつかって位置が記録される。さらに、ロボコップみたいな格好になるので悪を倒せる。それは嘘ですけど。撮った動画の例がこちら。卵を買うとき、ちゃんとパックを空けて中をチェックするんですね。なかなか楽しい。まだ120viewしかないので、万一このブログをお読みの奇特な方がいらっしゃいましたら、ひとつ観てあげてください。
 買い物が終わったら出口調査。デモグラとか、衝動買い傾向尺度とか。店舗のご協力でレシートも集める。その日その日の店内ディスプレイももちろん記録してある。分析対象者は237人。すげえな。

 さあ、録りまくった動画をどうやって分析するか。人がいちいち観てコーディングするのである。大変だなあ。
 動画から「考慮」の期間を切り出す。基準は次の通り。次の3条件がそろったら「考慮」の開始とする。(1)あるカテゴリの棚に向かっている。(2)移動が止まるか、遅くなっている。(3)視界がそのカテゴリに固定されている。で、次のどちらかで「考慮」の終了とする。(1)移動の再開。(2)視界が別のカテゴリに移る。
 こうして切り出された考慮の回数は、0回から26回まで、平均13.1回。うち非計画考慮 (=入口調査でチェックしてなかったカテゴリについての考慮)は5.6回。

 お待ちかね、モデリングの時間です。別に待ってないけど。
 対象者を i, カテゴリを j, 購買計画有無を s_{ij}, 考慮有無を r_{ij}とする。以下、原文では記号に片っ端から右肩に(r)がついているんだけど(考慮のモデルであることを示している)、省略。
 まず、非計画考慮をモデル化する。非計画の状態 (s_{ij}=0) における「考慮することの潜在効用」 u_{ij} を考え、これが正だったら非計画考慮が生じると考える。この u についてモデルを組む。説明変数は、個人特性、カテゴリ特性、カテゴリのプロモーション、カテゴリ間の相補性。
 u_{ij} = \alpha + \tau_i + v_j + m_{ij} \varphi - \eta d_(j, s_i) + \epsilon_{ij}
 \epsilon_{ij} \sim N(0,1)
個人特性 \tau_i、つまり個人 i の非計画考慮傾向は、デモグラ特性のベクトル z_i で説明する。
 \tau_i = z'_i \gamma + \zeta_i
 \zeta_i \sim N(0, \sigma^2_\zeta)
カテゴリ特性 v_j は、カテゴリのhedonicity (別の研究からとってくる)、{要冷蔵/要冷凍/ほか}、の2要素からなるベクトル c_j で説明する。
 v_j = c'_j \Psi + \delta_j
 \delta_j \sim N(0, \sigma^2_\delta)
書いてないけど、m_{ij} は来店日のチラシ掲載有無であろう。
最後に相補性。パスタの購買を計画している人はパスタ・ソースを非計画考慮しやすいだろう、という話である。カテゴリが散布する2次元空間を考え、カテゴリ j, m 間のユークリッド距離 dist(j,m) がカテゴリ間の相補性を表しているものとする。対象者 i の購買計画ベクトル s_i にはいっているすべてのカテゴリと、カテゴリ j との距離の最小値を d(j, s_i)とする。
 以上を力づくで推定します! もちろんMCMCで!!

 やれやれ。。。
 結果。チラシ掲載は非計画考慮にすごく効く。女性、高年齢者、予算に余裕がある人、買い物リストを持っていない人、店になじみがない人は非計画考慮しやすい。ヘドニックなカテゴリ、要冷凍のカテゴリでは非計画考慮が生じやすい。カテゴリ間相補性の空間も解釈容易(一番近いのは「カット済み野菜サラダ」と「米/豆/パスタ」だそうな)。

 では、計画考慮と非計画考慮はどうちがうのか。また、非計画考慮のうち購買につながったやつとつながらなかったやつはどうちがったか。
 それぞれの考慮について以下をコード化する。(1)時間: 滞在時間のなかのどのへんか。(2)場所: 店のどこにいるときか。(3)カテゴリ: ヘドニックである程度、要冷蔵、要冷凍。(4)関与。考慮の時間と、製品に触った回数(購買を除く)。(5)考慮の深さ。棚を見た回数と、棚と身体との距離。(6)外的情報へのアクセス。スタッフとのやりとり、ショッピングリストを見たか、店内表示を見たか。コーダーさんに深く同情いたします。
 結果。非計画考慮は、買い物の後半戦で生じやすく、購買につながる確率は低く(83% vs. 63%)、陳列棚(aisle)で起こりやすく、関与は浅く(製品接触回数が少ない)、考慮も浅く(棚との距離は長め)、外部情報へのアクセスは少ない。カテゴリがヘドニックかどうかは関係ない。
 非計画考慮のなかで購買につながる奴は、つながらない奴に比べ、陳列棚で生じやすく、ヘドニックなカテゴリで生じやすく、関与は深く考慮も深く外部情報アクセスが多い。

 というわけで、今度は非計画考慮のみを対象に、購買のモデルを組む。いやあ、すごい、肉食人種だ。
 新しい変数は次の2つ。(1)その時点での予算の残り金額。(2)その前の非計画考慮で購買したか。(3)考慮中の動画からコーディングした行動変数(関与、考慮の深さ、外部情報へのアクセス)。あとは同じ建付けのモデルである。
 結果。購買にチラシは効かない。店内ディスプレイは逆効果(非計画考慮の下での条件つき確率をモデル化しているので、筋は通っている)。陳列棚で生じやすい。デモグラ、カテゴリ特性はほぼ効かない。残り予算は効く。直前の非計画考慮で買っていると次の非計画考慮では買いにくい(なるほどね、これは面白いなあ)。などなど。
 相補性マップで一番近かったのは卵と調味料だったそうだ。こっちの相補性マップは、どう使えばいいのかピンとこないなあ。

 考察。今後の課題として、(1)調査協力者のバイアス。(2)入り口でカテゴリのリストを見せちゃっている点。(3)視界がわかるだけで見ているかどうかはわからない。(4)人力のコーディングは大変。(5)<考慮→購買>という図式が当てはまらないこともある。(6)非計画購買の動因として、ニーズを忘れていたのか、その場で発生したのかを区別すること。(7)別の業態。
 
 ううむ。この論文は非常に面白かった。データの充実、論旨の明確さ、展開の論理性、どこをとってもプロの研究者の論文である。このたび読んだ事情のほうの役には立たなかったんだけど、良いものを読んだ。
 アウトプットのなかで、非計画考慮の生起を説明するカテゴリ間相補性マップというのが一番面白いと思った。著者らも書いているけど、バスケット分析ではわからない、店内配置やクーポン発行への示唆が得られそうだ。

読了:Hui, Huang, Suher, & Inman (2013) 買物客の行動データで非計画購買を解剖する

2014年3月24日 (月)

 どうでもいい話だけど、今月は私の中でちょっとした「想像の共同体」ブームが起きていて(ほんとに面白い本だったのだ)、アンダーソンと関係しているものなら何でも読む!という状態だったのである。で、「いつかすごくヒマな時に読む資料」リストのなかにアンダーソンを引用しているのがみつかり、急遽昼飯のお伴に昇格させたのであった。

Muniz, A.M., O'Guinn, T.C. (2001) Brand Community. Journal of Consumer Research, 27(4), 412-432.
 ブランド・コミュニティと呼ぶべきものが存在しますよ、という論文。いまはやりの、企業がつくるブランド・コミュニティの話ではない。ブランド研究に新領域を切り開いた画期的な論文、らしい。
 アメリカの中産階級の4世帯を中心にしたエスノグラフィ。Ford Bronco, Macintosh, Saab の3ブランドについて、ブランドを中心にしたコミュニティと呼ぶべきものが生じている、ということを示す。コミュニティと呼ぶべきだという理由は、次の3つを満たしているから。

  1. ユーザの consciousness of kind. (いま調べたら「同類意識」と訳すらしい)。
  2. 儀式と伝統。Saab同士ならお互い手を振るとか、ブランド・ストーリーを共有しているとか、そういうの。
  3. moral responsibility。ユーザ同士助け合うとか。

 考察のところからいくつかメモ:

 前説と考察のあたりは気取った文章でうんざりしたけど、全体としてはとても面白い内容であった。最初は特殊なブランドの特殊な話だと思ったんだけど、なるほど、まあ確かにそういうのをコミュニティと呼んでもいいかもね、と説得されてしまった。新しい領域を切り開くというのはこういうことか。

 マーケティングという観点からはブランド視点で関心が持たれるところだと思うけれど、論文を読んでいて関心を引かれたのは、個人に視点をおいたとき、個々の消費者が参加するブランド・コミュニティはどういう組み合わせを持つだろうか、という点。コカ・コーラのコミュニティに参加する人はほかにどういうコミュニティに参加しやすいか。マクドナルド? ひょっとして、サントリーだったりして...
 その手前の問題として、そもそもブランドのコミュニティという共同幻想に参加しやすい人と、そうでない人がいるのではないか、とも思う。早い話、私は事例記述を読んでいて、正直なところ非常にあほらしいと思ったのだが(すいません)、それは私の広い意味でのパーソナリティの問題かもしれないし、私がおかれた社会文化的状況が私にそういう余地を与えていない、ないし必要を与えていない、のかもしれない。

 それにしても、 消費を手がかりにしてはじめて饒舌に自分を語り、消費を手がかりにしてはじめて他人とつながることができる、そういう私たちの姿は、なにやら言い知れぬ哀しみを誘うなあ、と思うのだけれど... きっとこの論文の著者たちは、そもそも交換を含まないコミュニティなんてない、哀しんでないでこの新手の現象が持つ可能性に注目しろよ、と答えるんでしょうね。

読了:Muniz & O'Guinn (2001) ブランド・コミュニティ

2014年3月 5日 (水)

 消費者行動論の教科書をめくると、かつて精神分析の影響を受け、深層的動機づけによって消費者行動を理解しようという立場がありました、しかしやがて廃れました。というような記述がみつかる。しかし面白いことに、市場調査の周辺で働いてみてわかったのは、そういう深層心理学的(ないし、疑似-深層心理学的)な消費者理解の枠組みが、案外な規模のビジネスになっている、ということである。
 調査会社のなかには、深層的動機づけのなんらかのモデルに基づき、調査手法を体系化しパッケージとして提供しているところもある。TNS(Kantar Group)が提供するNeedScopeと、Ipsosが提供するCensydiamが有名であろう。どちらも、あらゆる消費者行動の背後にある潜在的動機づけを二次元空間で理解するという枠組みに基づき、定性・定量両面での豊富な調査方法論を提供している。好き嫌いはありましょうが、こういうソリューションを提供できるのは、さすがグローバル・ファームだと思いますです。
 それにしても、ああいったソリューションで想定されている二次元空間って、いったいどういう背景から生まれてきたものなのだろうか? ... という疑問を抱いてはや数年。紆余曲折あって、ついに下記の文献を発見したはいいものの、今度は入手の方法がなくて...

Heylen, J.P., Dawson, B., Sampson, P. (1995) An implicit model of consumer behavior. Journal of the Market Research Society, 37(1), 51-67.
 散々苦労してようやくコピーを手に入れた。この雑誌、泡沫誌ではないはずだが(IJMRの継承前誌)、電子サービスが閉鎖的なのである。
 論文といっても著者らは実務家で、要するにこの分野はアカデミックな消費者研究と少し離れているということであろう。Webであれこれ調べた結果、第一著者のHeylenはヨーロッパ出身、ニュージーランドで市場調査の専門家として活躍。90年代にはHeylen Research Centreという会社を経営していたが、1994年に清算したらしい。HeylenさんはIMPSYSという定性調査ソリューションを開発、NFOという調査会社にライセンス提供していたようだが、2003年にNFOはTNSに買収され、2008年にTNSはWPP傘下のKantar Groupに買収される。さて、1994年にはニュージーランドのFocusという会社(現存する)がNeedscopeを開発、どこかの段階でTNSに売却かライセンス提供したらしいのだが、2004年の記事によれば、TNSはNeedscopeとIMPSYSを併合して販売するとあるから、結局IMPSYSはNeedScopeの前身ということになりそうだ(間違っていたら申し訳ないです)。この論文のなかの図にはIMPMAPという商標がついているが、IMPSYSとの関係はよくわからない。なお、Heylenさんは2003年のインタビュー記事があるし、Heylen Internationalという会社は現存している模様

 著者らいわく:
 消費者のニーズと行動の基本的ダイナミクスを構成するのは、生得的で潜在的な内的エネルギーである(←言い切ってる!いとも軽々と!!)。その同定と理解こそが、マーケット・リサーチがもっとも優先すべきことなのだ。ところが、その発見のために定性リサーチャーが行ってきた手法は体系的・客観的・科学的基盤を欠いている。
 そこでThe Implicit modelを提案する。このモデルによれば、すべての消費者行動は生得的な生物エネルギー原理、フロイトのいうリビドーに起因する。意識下において、この原理と発達を通じて獲得された社会化との間の緊張が生じる。この緊張が適応的フィルターを通って、情緒的反応(イメージとか)、行動(購買とか選好とか)、認知的反応(信念とか価値とか)、の3つのかたちで発現する。
 意識下の生物力動的動因は、表出・外化されるか、抑圧・内化されるかのどちらかである。また外化・内化を問わず、それは能動的・自己主張的なモードをとるか、受容的・社会親和的なモードをとるかのいずれかである。というわけで、あらゆる行動がそこに含まれる2次元空間を考えることができる。縦軸は生物学的次元(北が表出, 南が抑圧)、横軸は社会的次元(西が能動的, 東が受容的)である。
 この空間をピザみたいに8分割し、名前をつける。北から時計回りに、extroverted, warm, affiliative, subdued, introverted, cool, assertive, energeticである。
 この枠組みにしたがって、投影法のような定性的データ収集を体系化できる。定量的データ収集も体系化できる。
 このシステムは神経解剖学とも関係していて... (なんだか読んでて切なくなっちゃうので省略。諸行無常の響きあり。まあとにかく、大脳皮質だけが脳じゃない、というようなごくごく大雑把な話)

 ようやく現実的な話になりまして...
 すべての製品カテゴリについて、「理想のブランドの位置」も現実のブランドもコンセプトもパッケージも名前も広告も、はたまた属性セットも、この8つの領域からなる潜在的空間に位置づけることができる。ただし、そのためにはカテゴリごとの再解釈が必要である。たとえばビールのベネフィットならこんな感じ。

 この空間は、カテゴリを問わず一定、また製品開発プロセスのフェイズを問わず一定なので、便利である。
 定性的データ収集は投影法で行う。道具として、ascription sets(ヒトの顔写真)、gratification sets(絵のセットらしい)、animation set(動物や架空世界の絵らしい)を用いる。定量的データ収集にもこれらの道具を用いる。
 定性調査での解釈はこのモデルのダイナミクスの完全な理解を必要とする。定量調査の分析アルゴリズムは我々が開発済みである。
 云々。

 えーっと、その、。。。
 論文というより営業資料に近い内容だが、いやいや、文句を言ってはいけない、こういうドキュメントを残してくれただけでありがたい。発想がわかって勉強になりました。
 まあ、とにかく!こういう普遍的な概念枠組みを持っているというのは立派である。それに、あらゆる製品カテゴリで余人に代えがたい洞察を発揮する口八丁手八丁のスーパースター的リサーチャーが所長をやっていても、リサーチ・ファーム全体の消費者理解の質が上がるとはいえないわけで、大事なのは方法論の体系化である。その意味で、モチベーションというレベルにおいて消費者理解のための共通言語を作ろうとするこういう発想は素晴らしいし、そこにこそ有用性があるのだと思う次第である。たとえ2軸に納得できなくとも、たとえ8領域に納得できなくても。たとえ「すべての消費者行動は生得的エネルギーに基づく」と無根拠に言い切られようが、たとえリビドーがどうこうという反証不能な理屈を持ち出されようが。たとえ「縦軸はゾロアスター教、横軸はアメリカ・インディアンの聖なる教えに由来します」と云われようが。(すいません冗談です)

読了: Heylen et al. (1995) 消費者モチベーションの空間モデル

2014年2月27日 (木)

桑島健一 (2002) 新製品開発研究の変遷. 赤門マネジメント・レビュー, 1(6).
 なぜなのか全然思い出せないんだけど、PDFを持っていたので、整理の都合と称して目を通した。
 えーっと... 新製品開発研究には経済学ベースのやつと組織論ベースのやつがあって、後者をレビューします、という論文。
 いわく、研究アプローチからみると3期に整理できます:

で、90年代以降に台頭したアプローチとして、

 というわけで、各アプローチの代表的な研究が紹介されている。

 全くもって知識のない分野の話なので、興味本位でフガフガと楽しく読み終えた。
 なんでも、「競争優位の源泉の源泉」という研究があるんだそうだ。たとえば製薬企業では「サイエンス・ドリブン」という呼ばれる手法が競争優位の源泉になるんだそうで、でもその手法の採用がうまくいく企業とそうでない企業がある、その差はどこから生まれてくるのか? というような研究らしい。なにが強みになるのかという話じゃなくて、その強みを生み出すものは何かという話なのであろう。へー、面白いなあ、いろんなことを考える人がいるものだ。Cockburn,et al.(2000)というのが挙げられている。

読了: 桑島 (2002) 新製品開発研究の変遷

2014年2月18日 (火)

 流れ流れて市場調査関係の仕事をしているが、この分野には、市場にある製品に対する消費者の知覚を二次元空間の布置で表現して(「知覚マップ」などという)、製品開発やら広告やらに役立てよう、という発想がある。調査に基づき製品が布置する空間をつくっておいて、消費者に好まれている製品は西の方角にあります、この方角に新製品を投入すれば売れるでしょう、とか。現行製品はもうちょっと北に動かしたほうがいいんじゃないですか、とか。もっと図々しく、知覚マップ上の位置で上市後のシェアを説明しちゃおう、なんていう考え方もある。そういうわけで、消費者調査データの空間表現という課題は、単に多変量データの視覚化というだけにとどまらない深刻さを持っている。
 そういう文脈でよく引き合いに出されるのが、現在ある外資系市場調査会社が提供しておられるPERCEPTORなるソリューションで、これは元をたどれば製品開発研究の神様 Glen Urban の論文に始まっている。なんでも、Urbanの弟子Blanchardが起こした会社がNovaction、彼はのちにこの会社を上述の会社に売った、といういきさつだそうです。

Urban, G.L. (1975) PERCEPTOR: A model for product positioning. Management Science, 21(8), 858-871.
 というわけで、仕事の関係で興味をひかれ、Urbanの元論文に目を通して見た。とはいえ、もう40年近い月日が経っているから、現在PERCEPTORという名前で売られているソリューションとはほとんど関係ないだろう。ほとんど考古学的な興味である。

えーっと... まずシェアを分解する。ある新製品が獲得する長期的な市場シェアをm, ターゲット集団におけるトライアル購買率を t, トライアル購買者におけるシェアを s として
m = ts
認知・配荷の下でのトライアル確率を q, 長期的な認知率を w, 長期的な配架率を v として
t = qwv
2状態マルコフモデルを考える。ブランド番号 i を買った人が、次に j を買う確率を p_{ij}とする。世の中に、当該の新製品 1 と, そのほかすべて 2 しかないとしよう。ブランドスイッチによって購買頻度が変わったり買いたい製品がなかったりしないと仮定すると、トライアル購買者におけるシェア s はマルコフモデルの定常状態、すなわち
s = p_{21} / (1 + p_{21} - p_{11})
になる由。そうなんですか、はい、信じます。

 では、どうやってqを求めるか。
 製品と知覚のジョイント・スペースを考える。ブランド b の認知-未購買者からみた、ブランドbの次元 y における座標を x_{by}、理想点の座標をI_yとする。製品座標x_{by}は非計量MDSなり因子分析なり判別分析なり、どうやって求めてもいいんだけど、因子分析で求めるならば
x_{by} = \sum_a f_{ya} r_{ba}
ただし、aは属性, f_{ya}は因子得点の係数、r_{ba}は標準化した平均評定である。理想点座標 I_yのほうは、Carrol & ChangのPREFMAPなり、「理想のブランド」についての評定値の因子分析なりで求めるがよろしい。
 このくだり、消費者間異質性は一切考えていないわけだけど、考えたかったら適当にグループ分けしてやんなさい、とのこと。この時代の論文なので、異質性をモデルに組み込む気はないわけだ。
 で、この製品のトライアル購入確率は、理想点からの平方距離 d^2_Bの一次関数だと考える。
q = \alpha_0 + \alpha_1 d^2_B
ただし、この距離はさっきの知覚空間ではなくて、それをT_{yz}で回転した空間から求めるとのこと。すなわち、
x'_{bz} = \sum_y x_{by} T_{yz}
I'_z = \sum_y I_y T_{yz}
と回転しておいて、各次元に重み h_z をつけて
d^2_B = \sum_z h_z (x'_{bz} - I'z)^2
だそうである。回転行列 T_{yz} と重み h_z はPREFMAPで求めよ、とのこと。うーん、ここでわざわざ回転するくらいなら、最初からPREFMAPで空間をつくっておけばいいんじゃないかしらん...?

 リピート購入確率 p_{11} も、同じやり方で認知-トライアルの空間を作っておいて、
p_{11} = \tilde\alpha_0 + \tilde\alpha_1 \tilde{d}^2_B
と考える。なお、p_{21}は「経験的に決定される」。つづきを読んでわかったが、直接聞いちゃうのである。

 こうして新製品の長期的市場シェア m が推定される。では、そのシェアはどの競合製品からやってくるのか。
 まず、想起集合に入りやすい競合製品は、その分シェアが奪われやすい。また新製品に近い奴は、その分奪われやすい。というわけで、既存ブランド b のシェアの低下 k_b は、その想起率を e_b, マップにおける新製品との距離をD^2_{bB}として
k_b = m * (e_b / D^2_{bB}) / (分子の合計)
うーん... ここでいうマップってのは、誰にとってのマップなのだろうか。トライアル購買者かなあ...

 後半は実例。まず、データ収集。
 6つの製品カテゴリについて、想起ブランド数、想起集合サイズ、売上の80%を占める上位ブランド数を調査。シャンプーだと、想起ブランド数30, 想起集合サイズの中央値4, 上位20ブランドで売上の80%、だったそうだ。
 次に、想起集合にあるブランドについて、一対比較の類似性判断、選好判断、ブランド評価を聴取する調査。
 で、インタビューでもって、obtain bipolar brand rankings on the scales generated by the semantic procedures だそうだ。よくわかんないけど、要するにSD法的なブランド評価項目群を作るんでしょうね。ここまでが準備。
 いよいよベース調査。対象者に、想起集合、類似性判断、既存ブランドのsemantic scales上での評定、選好評価(恒常和法でやるらしい)、ブランド選択、を求める。
 で、コンセプト・テスト(concept awareness surveyと呼んでいる)。別の対象者に、新製品の絵とコンセプト文を見せて、この新製品と既存製品についてベース調査と同内容を聴取。
 最後に、いわゆる使用後評価(if the brand idea looks reasonable after the concept surveyと書いてある。どうやらコンセプト・テストの対象者とは別らしい)。新製品を実際に使用させた後、ベース調査と同内容を聴取。選択課題で新製品を選ばなかった人に、購入確率を直接評定 (これが p_{21}になる)。

 推定。
 さっきの説明とダブっているんだけど、著者いわく、まずは知覚の異質性を考えなきゃいけない。そこで、等質な対象者群をつくってそれぞれについて分析しなさい。方法は、非計量データのINDSCALで得たウェイトで人をクラスタリング (類似性判断の非計量MDSをやるということであろう)、評定データから得た因子得点のクラスタリング、ないしQ-type 因子分析。ううむ、時代だなあ...
 知覚マップは、類似性判断の非計量MDS、ないし、行を人x認知ブランド, 列をブランド評価項目にとったデータの因子分析で求めるのがよい、両方やって比較しなさい。実例としては、たとえばカテゴリ「カナディアン・ビール」で(←それってカテゴリなのか?)、8製品、17項目の評定を求め、2因子を抽出、ヴァリマクス回転でpopular軸とstrong taste軸を得た。因子得点の平均を製品の座標にした。いっぽうMDSもやって... 云々。
 で、PREFMAP。理想点モデルとベクトルモデルを試す。よくわからないんだけど、理想点モデルには3通りのオプション(Phase I, II, III)がある、云々。ビールの例では、どのやりかたでもpopular軸が選好にとって重要であった。
 最後にシェアのためのパラメータの推定。ブランドをケース、選択率を従属変数にして回帰する。マップ自体は市場の平均的知覚であり、実際には個々人の想起集合が異なるので、なんか掛けたり割ったり工夫しているけど、まあいいや、省略。
 最後に、実際のシェアとの比較。だいたい当たった由。

 いやー、細かいところはよく理解できなかったし、いずれにせよ仕事の足しにはならないけれど、時代のちがいが感じられて面白かった。
 なにしろ話が素朴すぎて、これじゃ学術論文なんだか実務家向けガイダンスなんだかわからない。こんな論文は、いまMarketing Science誌をめくっても絶対載っていない(現代の論文は、よく言えば、非常に高度に洗練されている)。マーケティング・サイエンス黎明期の息吹を感じますね。この頃はきっと面白かっただろうなあ。
 PREFMAPの細かい話が説明もなく引き合いに出されて、よく理解できなかったのだけど、おそらく当時においては常識的な知識だったのだろう。関係者も少なく、ソフトも少なく、みんなが同じソフトを使っていたのかもしれない。

 特に関心をひかれたのは、ブランド評定が人xブランドx項目の三相データになっているのを、人xブランドを行、項目を列にして縦積みしなさい、とはっきり書いているところ。Srinivasan, et al. (1989)いうところの total analysis, Dillon, et al.(1985) いうところの extended data matrix アプローチである。いまどきこういう縦積みを推奨する専門家はいないんじゃないかと思うが、マーケティング・リサーチの実務ではですね、これが今でも広く、ひろーく使われているように思うのです。ああいうの、UrbanさんやHauserさんが源流じゃないかと思っているのだけれど、よくわからない。因子分析の歴史ということでいえば、50年代にはすでにOsgoodらが三相データを散々分析していたはずだが、あれも縦積みしていたのだろうか。
 ブランドの項目評定の因子分析と類似性評定のMDSを比較して一致することを確認すべし、なんてアドバイスも、初めて聞いた(どっちでもいいから良いほうを使いなさいという話ではなく、手続きとして比較が推奨されているのである)。それとこれとは全然別物だろうと思うんだけど。多変量解析手法ユーザのこういうスタンスも、案外、時代とともにどんどん移り変わっていくものなのかもしれない。

読了:Urban (1975) 製品ポジショニングの最新鋭モデル PERCEPTOR

2013年11月10日 (日)

Rust, R.T, Inman, J.J., Jia, J., Zahorik, A. (1999) What you don't know about customer-perceived quality: The role of customer expectation distributions. Marketing Science, 18, 1, 1999.
 ちょっと顧客満足関連の調べ物をしていて、資料の綴りを引っ張り出したら、この論文を半年くらい前にファイリングしているのを発見。「必ず読むこと」というタグがついている。困ったことに、なんでそう思ったのかさっぱり思い出せないんだけど、自分に義理立てして目を通した。

 世の中には顧客満足が大事だっていう人がいっぱいいるが(Fornellとか)、実際には満足している顧客があっさり離脱したりするじゃんか、というシビアな突っ込みもある(Reichheldとか)。これにどう答えるかという点がひとつの課題となっていると思うのだけれど、著者らの戦略は、それは知覚品質についての顧客の確信度 (知覚リスクの低さ) について考えてないからだ、というもの。前に読んだChandrashekaran, Kristin, & Tax (2007) と似た路線である。

 あるブランドの平均的な品質をQとする。Qについての顧客の知識は、平均 \mu, 分散 \tau^2 の正規分布 \pi (Q) で表現できるものとする。 顧客が知覚する品質を X とする。Xは平均 Q, 分散 \sigma^2 の正規分布に従うと仮定する。
 顧客が X の実現値 x_t を受け取り、\pi (Q) をベイズ更新すると考える。スケールを\sigma-2 + \tau^2 = 1とし、「案外よかった」程度を\delta_t = x_t - \mu と書くことにして、\pi (Q) の事後分布は平均 \mu + \delta_t \tau^2, 分散 \sigma^2 \tau^2 の正規分布になり、x_{t+1} の予測分布は同じ平均で分散 \sigma^2 + \sigma^2 \tau^2 の正規分布になる由。導出過程は追いかけてないけど、仰ることは信じますよ、先生。
 xの効用関数 U(x)は二階微分可能で単調増加でconcaveであると仮定する(上に凸ってことね)。xの予測分布をp(x)として期待効用は V = \int U(x) p(x) dxだが、もし効用関数が指数関数だったら V = \alpha_1 + \alpha_2 \mu - \alpha_3 \sigma^2 となる由 (ふうん。Jia & Dyer, 1996, Mgmt.Sci. というのが引用されている)。当該ブランドの選択確率は多項ロジットモデルに従うものとする。
 このモデルから以下の命題が導出される由。

  1. 選んだ選択肢が期待を上回ったら、それを選択する確率は増す。
  2. (A) 選好されていた選択肢が選択されたとき、それが期待通りだったら、それを選択する確率は増す。(B)選好されていなかった選択肢が選択され、それが期待通りだったら、それを選択する確率は増す。(※話の都合上AとBに分けてある)
  3. 合理的な消費者ならば、値段が同じで期待される品質が低いほうの選択肢を選ぶことがある。(予測分布の分散が小さいほうを選んでリスク回避することがあるから)
  4. 品質が期待よりも低いということがわかったせいで、その選択肢の選択確率が増すことがある。(同上)
  5. 品質が期待よりも高かった時より、期待よりも低かったときのほうが、選好の変化は大きい。(効用関数がconcaveだから)
  6. 品質が期待とちがっていたせいで生じる選好の変化は、経験のない顧客で大きい。

 で、実験を2つ。

■実験1. 製品を選ぶ→品質がフィードバックされる、という繰り返しをシミュレートする。被験者は学生160名。

  1. まず "経験3"。「あなたは最近カメラを買いました。そのカメラのバッテリーは特別なタイプのもので、ブランドが3つあります。それぞれのブランドの製品を3つづつ使ってみたら、持ち時間はこの表のようになりました。」 ここで表は固定。たとえばブランド1は、72時間, 59時間, 67時間である。「では、あなたが次にそれぞれのブランドを選ぶ確率は? それぞれのブランドのバッテリーの期待される持ち時間は? (\mu) 。それぞれのブランドのバッテリーの持ち時間は、95%の確率で○時間から○時間まで持ちます、さあその範囲は? (知覚された分散 \sigma^2)」 。
  2. "経験4"。「さて、あなたはなにか事情があってブランド X を買いました(Xはランダム)。使ってみたら、持ち時間はコレコレでした。では、あなたが次にそれぞれのブランドを選ぶ確率は? ... ありがとうございました。なお残りの2ブランドの持ち時間はコレコレとコレコレでした」 ここでコレコレのところが操作される(D_1)。その水準は、どのブランドも{期待より10時間長い、期待ぴったり、期待より1時間短い、3時間短い、10時間短い} の5水準。
  3. 短い妨害課題。
  4. "経験6"。各製品について2つづつ結果を追加する。これも固定。たとえばブランド1は74時間、57時間。で、\muと\sigma^2を再聴取。
  5. "経験7"。「さて、あなたは今度はブランド Y を買いました(第4実験とは異なるブランド)。使ってみたら持ち時間はコレコレでした」以下、経験4と同じく、コレコレを制御し(D_2)、選択確率を聴取する。
  6. 短い妨害課題。
  7. "経験10”。各製品について結果を3つづつ追加。\mu, \sigma^2, 選択確率を聴取。

えーっと... 提示刺激は被験者の反応とは無関係に固定されており、その意味では意外に単純な実験だ(被験者はどう思っているのだろう?)。要約すると、測定するのは、経験3で選択確率と予想品質、経験4で選択確率(1ブランドのみ)、経験6で予想品質、経験7で選択確率(1ブランドのみ)、経験10で選択確率と予想品質。要因は、経験4の品質(D_1, 5水準)と経験7の品質(D_2, 5水準)、ともに被験者間で動かしている。
 分析方法についてきちんとした説明がなくて参った。10分ほど考え込んだが、推測するにこういう分析だ。おそらく、経験6でも各ブランドの選択確率を聴取しているのだろう(本文中に記載がないが)。で、個々の被験者について、(1)経験4で聴取した選択確率から、経験3での同ブランドの選択確率を引いた値、(2)経験7での選択確率から経験6での同ブランドの選択確率を引いた値、の2個を求める。これを(被験者を無視して)縦に積み、計320個。それらを5水準に分け、それぞれの水準内で検定する(ANOVAではない)。その検定とは、なんと、母平均=0 を棄却する t 検定。うーん... そんな分析でいいのかと不安なのだが、そういう細かいことを気にしていると、この分野では偉くなれないんでしょうね、きっと。
 まあいいや、結果だ。

■実験2. 被験者は学生220名。「キャンパスのちかくにコーヒーショップができました」と教示し、過去の店舗利用における知覚品質のチャートを示す(ははは)。知覚品質は100件法で表示(Boulding, Kalra, Staelin, & Zeitham, 1993, JMRというのが引用されている)。で、その店の知覚品質を聴取(たぶんチャートは隠して、次回利用時の品質を予想させるのだと思う)。次に、新たにその店舗を利用した際の知覚品質を示して、予想を更新させる。で、知覚品質、disconfirmationの主観的な大きさ、再利用意向など、いろいろ聴取。
 要因は2つ。

結果は... 更新後の知覚品質についてのANCOVA。投入するのは、更新前の予想品質、更新前の利用経験、更新時の知覚品質、更新時の主観的disconfirmation(これ、いれちゃうんだ...?)。予想品質は、ネガティブ条件のほうが大きく更新され(そりゃそうだ)、低経験のほうが大きく更新される。交互作用もあって、低経験条件のほうがゼロ/ネガティブ間の差が大きい。再利用意向についてもちょっと分析していて、Baron&Kenny流のやり方で調べたところ、disconfirmationの影響は知覚品質の更新に媒介されていた、とかなんとか。

 実務家向けの示唆:

 品質研究者向けの示唆:

 うーん、よくわからない...

 最初に華麗なモデル構築が行われるんだけど、意外にも、そのモデルで実験結果を定量的にシミュレートしてみせるタイプの論文ではない。話の組み立てはこうだ。(1)顧客経験による選好形成を説明するモデルをつくる。品質についての知識の変化を確率分布のベイズ更新として表現するところが新しい。(2)そのモデルから定性的な仮説を引き出す。(3)実験で仮説を支持する。

 その限りにおいて筋は通っている。でも、モデルから引き出した定性的仮説は、そのモデルからでないと引き出せない仮説なのか、という点がどうもよくわからない。「いっけんよさそうな新製品だけど、ひょっとしたらいまいちかもしれないから選びにくい」という事態は容易に想像できる。著者らは引用してないけど、ブランド論の文脈にだって、ブランドってのはシグナリングだ、ブランド・エクイティってのは結局知覚リスクの減少だ、という見方があるらしい(Erdem & Swait, 1998)。つまり、知覚リスクという概念自体には新味がないはずだ。だったら、信念の分布のベイズ更新というアイデアを持ち出さなくても、この仮説は導出できたのではないか((1)がなくても(2)は手に入るのではないか)。いいかえれば、著者らの知見は著者らのモデルを支持する証拠になっているのか、どうか((3)が(2)を支持しているからといって、(1)を支持しているといえるのかどうか)。

 ひょっとするとこの疑問は、私の知識不足と関係しているのかもしれない。
 たとえば、まず「知覚品質が期待を上回ったとき、その時に限り選好が向上する」と主張するような有力な先行モデルを名指しで紹介し、次にそれが(2)の仮説と矛盾することを指摘し、(2)を支持する知見を示して先行モデルを血祭りにあげる、という筋ならば大いに納得する。ところが、礼儀正しいんだか面倒くさいんだか知らないが、その仮想敵の名前を著者らは挙げてくれない。
 ひょっとするとこの分野の研究者のかたは、たとえば「ああFornellが仮想敵なのね」とか、そういう風に勝手に読み込むのかもしれない(Fornellのモデルが仮想敵になりうるのかどうか知らないけど)。でも私には、そのような先行モデルがこれまでにあったのかどうかがわからない。だから、これって性質の悪い藁人形論法なんじゃないか、実は誰も反対しない仮説群を支持して見せただけなんじゃないかと疑うわけである。
 別の言い方をすれば、素人だからって舐められてるんじゃないか、と警戒しているのである。このように、素人は素人でなかなか気苦労が絶えないのであります。

読了: Rust, Inman, Jia, & Zahorik (1999) きみたちは知覚品質の真実について知らない

2013年8月 6日 (火)

Gustafsson, A., Johnson, M.D., Roos, I. (2005) The effects of customer satisfaction, relationship commitment dimentsions, and triggers on customer retention. Journal of Marketing, 69, 210-218.
 顧客満足(CS)が大事だってよく言いますけど、じゃCSが高かったら顧客はほんとに離脱しないの? というのを(企業レベルじゃなくて)顧客レベルで調べました、という有名な論文。数年前にCS関連の論文を山積みにして狂ったようにめくりまくったことがあって、そのときに目を通したはずだが、このたびちょっと都合があって再読。 

 顧客維持の規定因として、著者らは次の3つに注目する。

 スウェーデンのある通信サービス会社の、固定電話・携帯電話・ネットサービスにおける顧客の維持/離脱に注目する。謝辞から勘繰るにTeliaという会社らしい。調べてみたところ、現時点でのこの会社のシェアは固定電話61%, 携帯電話40%, ブロードバンド38%で、いずれも1位。この研究は2003~2004年にデータをとっているが、このころのシェアはどうだったんだろう。
 まず、この会社からの離脱経験者にインタビューしてトリガーを収集する。状況的トリガーとしては「電話を掛ける必要が減少した」「長距離電話を掛ける必要が増大した」「ネットに契約する必要が生じた」、反応的トリガーとしては「サービスが利用できなくなった」「サポートがひどかった」などがあった由。
 次に、この会社が定期的にやっている月次顧客調査に乗り込んでいって、以下の項目を突っ込む: CS関連を3項目、情緒的コミットメントを4項目、計算的コミットメントを3項目、状況的トリガーの有無、反応的トリガーの有無。全部10件法。CS関連項目はFornellらのスウェーデンのでの研究から引用(SCSBっていったっけ? 1992, J. Mktg.)。コミットメント項目も先行研究から集めてきている。トリガーの有無は、ありそうなトリガーをずらずら並べて「こういうようなことありました?」とSAで10件法評定させるというちょっと無理矢理な聴き方で、笑ってしまった。
 回答から信頼性と弁別的妥当性を調べているけど、省略。さすがに、Fornellが推しているAVEを駆使しておられる。世間ではCronbachのアルファを定型的に報告する人が多いが、この方面の通の皆さんの間ではアルファは意外に評判が悪いのだ。

 さて、ここからが本題。調査対象者2,734名を追跡して、調査回答月以降9ヶ月間のあいだの契約維持期間 Churn_{t+1} を調べる。で、これを従属変数としたモデルをつくる。独立変数は、まず調査時点のCS, 情緒的コミットメント(AC), 計算的コミットメント(CC), 状況的トリガー(CT), 反応的トリガー(RT)。CS, AC, CCは因子得点である。そして、調査回答月より前の4ヶ月間において契約していなかった月数(Churn_{t-1})、サービスの種類を示すダミー変数。
 モデルはOLS回帰。以下の4本を推定する。記号を省略して右辺の項だけ並べると、

モデル1と2はわかりやすい。モデル1では、CSと調査前非契約月数が有意。モデル2では、CS, 計算的コミットメント、調査前契約月数が有意。情緒的コミットメントが有意にならないのは、やっぱりCSと相関が高いからだ、という理屈を捏ねて、以降のモデルからはACを抜く。
 モデル3では、CSと調査前非契約月数との交互作用を推定、有意。つまり、直近チャーン歴がある顧客はCSの効き目が小さい。
 モデル4ではトリガーを放り込んだが、主効果も交互作用も有意にならなかった。

 というわけで... やはり満足しているお客さんは離脱しにくいようです。CRMマネージャのみなさん、CSと競合環境(計算的コミットメント)をきちんと監視しましょうね。また、(チャーン歴の有無といった)消費者の異質性に気をつけましょうね。云々。

 読み直してみて、やはり納得できないところがあって...
 まず、Churn_{t+1} の平均が3.52ヶ月だというのは一体どういうことか。スウェーデン人ってどんだけ移り気なんだろうか? ひょっとして、9ヵ月間離脱しなかった顧客を抜いて集計しているのかしらん。それとも、この会社はものすごい顧客流出に直面していたのかしらん。
 第二に、会社側はおそらく各対象者の契約時点を知っているだろうから、調査参加月から離脱までの月数を従属変数にしたOLS回帰モデルじゃなくて、契約から離脱までの時間を従属変数にした生存モデルをつくったほうがよかったんじゃないのか。モデル1で調査前非契約月数が有意ということは、離脱発生率が契約からの経過時間の関数になっていることでもある。それに、いくらなんでも9ヶ月間離脱しない顧客くらいはいただろうし、そういう右側打ち切りのケースが多いほど、持続時間に対するOLS回帰は不適切になるはずだ。このへん、私がなにか読み落としているか、勘違いしているのかもしれないけど...。
 第三に、調査前非契約月数とCSとの交互作用は、たぶん著者らのいうように「チャーンの傾向性における消費者間異質性を捉えている」のだろうけれど、論理的には、契約してまだ日が浅い人にとってはCSの確信度が低く、行動に影響しようがないということを意味している可能性もあるわけで、もうひとつなにか別の分析が必要であるような気がする。
 第四に、トリガー(すなわち、広義の顧客経験)が有意でないのは、著者らがいうように「トリガーの効果をみるには9ヶ月は短すぎた」からじゃなくて、モデル4にCSが入ったままだからではないか。サポートで不愉快な目にあったり、毎月金払ってんのにあんまり使わなくなったりしたら、そりゃCSは下がるでしょう。トリガーの効果はモデル上はCSの効果として推定されるはずだ。
 第五に、なんでSEMにしないかなあ? トリガー→ CSのパスを組み込めるし、せっかく多重指標になっているんだし...

 と、いろいろ疑問はあるのだが、やはり勉強になる論文である。それに、課題が明確かつ手法がローテクで、読んでいて気分が良い。こういう研究自体当時はフロンティアだったんだろうなあ、などと考えると、なかなか楽しい。
 こういう研究があるいっぽうで、「CSが高い顧客が平気でブランド・スイッチする」という報告もいっぱいあるわけで、消費者の態度-行動リンク(顧客満足-顧客維持のリンク)の経験的な強さそれ自体については、残念ながら、財の性質や市場環境によって決まるとしか言いようがないだろう。

読了:Gustafsson, Johnson, Roos (2005) 満足しているお客さんは去っていかないか

2013年7月18日 (木)

Simonson, I., Carmon, Z., O'Curry, S. (1994) Experimental evidence on the negative effect of product features and sales promotions on brand choice. Marketing Science, 13(1), 23-40.
 製品になにか新しい特徴を付け加えれば(販促を含む)、その特徴がネガティブなものでない限り、売上は伸びこそすれ落ちはしないだろう。という常識に反論し、無害な特徴でさえ、それを追加したせいで売上が下がってしまうことがある、と主張する論文。著者らが持ち出す理屈は、晩年のTversky先生が唱えた reason-based choice 説である。

 「無害だが不要な製品特徴の追加が売上を低下させる」現象に対する説明として、著者らは以下の6つを挙げる。

 実験は3つ。
 実験1。被験者はサンフランシスコの科学ミュージアムにやってきた老若男女のお客さん。選択課題を4つ用意する。

結果は...

実験2。被験者は実験1と同様。下記の2群に分ける。

結果は...

実験3。「要らない販促」じゃなくて「要らない製品特徴」を追加する。被験者は学生。課題は計5問。まず、{腕時計、計算機、CDプレイヤー}について各1問。2つのブランドを価格と説明つきで提示し、選択させる。さらに、{歯の保険、ビデオカセットレコーダー}について各1問。ブランド名はないが、2つの選択肢を提示し、特徴を細かく説明する。2つの選択肢のうち片方に、おそらくはたいていの人にとって不要であろう特徴が付与されている(「2つの時間帯を同時に表示できる腕時計」とか)。で、正当化の必要性(2水準)を被験者間で操作する。低群では、「回答は秘密にされます」と教示し無記名で回答させる。高群では、「あなたたちの消費者としての効率性を調べる調査です」「あとで選択の理由について質問するかもしれませんのでよろしく」などと散々脅したうえで記名回答。
 結果は実験1を再現。不要な特徴の追加は選択率を下げる。正当化の必要性が高いと低下の幅は大きくなる(→reason-based choice説を支持、注意説への反証となっている)。自由記述も調べてるけど、省略。

 関連した話題について:

 振り返ると、「不要な製品特徴の追加による売上低下」という現象に対する多様な対抗説明のうち、この研究で上手く叩けているのは、注意説、平均化説、リアクタンス説という小者たちであり、最大の強敵・消費者推論説に対する直接的な反証は提供できていないように思う。その点がこの論文のひとつの焦点になると思うのだが、著者らの説明は、「消費者推論が働く場面があることも否定しないが、それだけでは説明できない現象がある。現にこの実験の課題は、もともと消費者推論説ではうまく説明できないよね」というものである。たとえば「Pillsbury社はお皿を提供しているぞ、きっとそのためにケーキミクスの品質を下げたり価格を上げたりしているにちがいない」と勘繰る消費者はそうそういそうにないでしょう? という理屈である。うーん、そうかなあ。「Pillsbury社がお皿を提供しているのは、きっとそうでもしないと売れないからで、利益を削ってでも在庫を処分しようとしているのだろう」といった推論は、十分にありうると思うのだが。
 考えるに、ある現象を支えるメカニズムが複数個あってもちっとも不思議じゃないわけで、reason-base choiceというヒューリスティック的な処理が走ることもあれば、消費者推論というもっと認知資源を食う処理が走ることもあるだろう。こういう実験研究ではどっちかを推さなくてはいけないわけだけど、読み手の側としては、どっちが正しいかと問うよりも、どんなときにどっちがどうなるか、と問うほうが生産的だという気がする。

 というわけで、面白い論文でした。マーケターへの実務的な示唆がシンプルかつ強力であるところも面白い。セグメントAに刺さる訴求は、それが刺さらないセグメントBの消費者にとっては、合理的に考えれば自分にとってどうでもいい訴求なのに、なぜかネガティブになるかもしれないのだ。

Simonson, Carmon, O'Curry (1994) どうでもいいプロモーションや製品属性が害をなすとき

2013年6月19日 (水)

Parkin, K. (2004) The sex of food and Ernest Dichter: The illusion of inevitability. Advertizing and Society Review. 5(2).
 モチベーション・リサーチの祖アーネスト・ディヒターについて調べていてみつけた論文。掲載誌がどういう性質のものなのかよくわからない。電子ジャーナルだが、オープンではなさそう。

 50年代アメリカ、かのフロイトの威光を着て、ディヒターは広告界に強い影響力を持っていた。彼は消費者にとって食品には性別があると主張した(ケーキは女性でステーキは男性)。1955年、ある企業への報告書で、ディヒターはこんなことを書いているそうだ。

ある有名な外科医によって行われた実験で、食べ物が性を持っていることが発見された。その優れた医師は、食道検査のためにバリウムを飲ませる際、女性の患者に「サラダ」という言葉を聞かせると、食道が拡張し、バリウムが通過しやすくなることを見いだした。男性の患者に「ステーキ」という言葉を聞かせても、同様の反応がみられた。しかしこれを逆にすると、男性でも女性でも食道は変化しなかった。食品の広告主は、もっとも効果的な訴求を行うために消費者の性別を考慮しなければならない。

 ほんまかいなと思うけど、とにかくこのようにディヒターは、食品には必然的に性的イメージが伴うと主張し続けた。実証性がないという批判を浴びても。モチベーション・リサーチは62年の段階ですでに滅びたと評されていたそうだが(意外に早い)、それでもディヒターはこういうリサーチで大儲けを続けた。

 著者いわく、現代に至るまで状況はかわらない。食品の広告は性的なイメージに満ちている。広告代理店は「サイコグラフィクスは時代遅れだ」とかいいながら、モチベーション・リサーチの調査手法を使い続けている...と、ここでGrey WorldwideのEmotional Trigger Pointsという手法と、Young & Rubicam の BrandAsset Valuator の名前が挙がっている。前者はWPP傘下の広告会社だが、ETPというのは探してもみあたらない。BrandAsset Valuatorはバリバリの現役ですね。
 というわけで、批判というよりは広告史探訪という感じの文章であった。

読了: Parkin (2004) セックスと食べ物とアーネスト・ディヒター

2013年6月14日 (金)

久野愛 (2009) ベティ・クロッカーの表象とアメリカ社会の変遷, アメリカ太平洋研究, 9, 128-140.
 モチベーション・リサーチの祖ディヒターについてあれこれ探していてたまたま見つけ、ついつい読みふけってしまった。掲載誌は東大の紀要。著者の修論であろう。
 ベティ・クロッカーとは米ゼネラル・ミルズ社のケーキミクスのブランド。このブランドはパッケージの白人女性の肖像で知られていて、このキャラクターの変遷を通じてアメリカ消費文化の変容を辿る。というような意図の文章であった。実はこの話題、2005年に"Finding Betty Crocker: The Secret Life of America's First Lady of Food"という研究書まで出ている模様。えええ、よくもまあそんなテーマで... と面食らったが、こうして書くからにはきっとなにかオリジナルな要素があるのだろう。

 想像に難くないが、1921年の登場以来、ベティさんの肖像画は時流に適応して変貌していく(写真を載せないことには話にならないと思うのだが。仕方がないのでwebで画像を探して見比べながら読みました)。50年代には(急速な都市化と核家族化にあわせて) 優しい母親風。60年代はジャッキー・ケネディそっくり。70年代はキャリア・ウーマン。もっとも第二波フェニミズム運動に性差別・人種差別だと訴えられたり、なんだかんだと大変で、実は60年代半ば以降、パッケージに肖像画は載せてなかったのだそうだ。それでも肖像のイメージは広く知られていたというのだから、たいしたものである。ボンカレーの松山容子のようなものかしらん。

 著者の意図とは関係ないだろうけど、企業が擬人的なブランド・イメージを構築することの得失についてあれこれ考えさせられた。この論文では、アメリカ近代における消費財ブランドの擬人化されたイメージを、消費者と企業の仲介者として捉えているんだけど、SNS時代のブランド擬人化との違いはなんだろうか。ローソンのあきこちゃんとか...

 ゼネラル・ミルズのケーキミクスといえば、消費者心理の専門家ディヒター先生がフロイト的観点から「母親は手間を掛けずに愛を注ぎたいんだから、乾燥卵は抜いて、消費者に卵を自分でいれさせなさい」とアドバイスし、おかげですごく売れた。とか、消費者心理の専門家ディヒター先生がフロイト的観点から「母親にとってケーキ作りとは新しい生命をつくることなのだ」と喝破し、そこで赤ちゃん風のキャラクターをつくったらすごく売れた。とか、そういう成功譚があっちこっちに載っている。いずれも落ちは「すごく売れた」であるところ、マーケティング系の与太話の共通項である。ちょっとできすぎていると思う。どれも元はディヒター本人の自慢話なんじゃないかという気がしてきた。
 この論文では、ディヒターは「恐慌期のイメージは戦後の好況にふさわしくない」と肖像画の変更を提言した「心理学者」として登場する。出典は前掲の"Finding Betty Crocker"。ちょっと読んでみたい。

読了: 久野 (2009) ベティ・クロッカーさんの変遷

2013年6月12日 (水)

Stern, B. (2004) The importance of being Ernest: Commemorating Dichter's contribution to advertising research. Journal of Advertising Research, 165-169.
 いくら待っても計算が終わらないので、山積みの資料のなかから適当に選んでもう一本読んだ論文。(なにが起きているか薄々気づいているんですが。Muthen先生はかつてこういっていた。モデルの推定が収束しない最大の理由、それはモデルの誤りである、と...)

 広告研究の専門誌に載った、アーネスト・ディヒターの業績を振り返る文章。いわく、アカデミズムにおいてディヒターが急速に忘れられたというのは本当で、消費者行動論の教科書を15冊調べたが名前が載っていたのは3冊。200年に出た"The Why of Consumption"という論文集で彼の名前が出てくるのは最初と最後の頁だけ。でもモチベーション・リサーチは広告の実務家たちに受け継がれ、マーケティング業界の「コード」となっている。名前は忘れられていても、「モチベーションの源としての無意識について論じるとき、そこにはいつもディヒターがいる」。。。という、いささか格好良い文章であった。

 どうでもいいけど、面白かった話:

 いま気が付いたけど、この論文の著者こそ、さっき読んだ論文に出てきたBarbara Sternではないか... 調べてみたら、マーケティングの有名な研究者で、数年前に亡くなっている。

読了: Stern (2004) アーネスト・ディヒターへの頌歌

松井剛 (2004) 消費社会批判の4類型. 一橋大学研究年報: 商学研究. 45, 171-196.
 計算の待ち時間に読んだ紀要論文。「本読みました」という感じのレビューだけど、勉強になりました。
 えーっと、著者によれば、消費社会批判には大きく4つある。

  1. 文化の画一化とアメリカナイゼーションへの批判。アドルノとか、マルクーゼとか(フランクフルト学派っていうんですかね)、フロムの「破壊」に出てくる「マーケティング的性格」とか。
  2. 企業による消費者欲求の操作に対する批判。パッカードのモチベーション・リサーチ批判とか、ガルブレイスの「ゆたかな社会」とか。この種の批判に対する反論としては、「そんなにうまく操作できてないからいいじゃんか」説と(は・は・は。メディア強力効果説にニュースキャスターが反論するようなもんですね)、「操作じゃないよ教えたげたんだよ」説がある。
  3. 欲求が社会システムによって構造的に規定されている、という批判。Offe (1984) "Contradictions of the Welfare State"という本が挙げられている(クラウス・オッフェ、ハーバーマスの弟子らしい)。それから、「マクドナルド化」とか、ボードリヤールとか。これに対して著者の方は「自らの行為を規定する社会システムからの圧力を知りつつも、その行為を選び取るという主体性がないとは言い切れないだろう[...] むしろ考えるべきなのは、主体的な行為が社会構造を再生産し改変するという逆方向のプロセスだろう」と述べているけれど、うーん、これがリッツァやボードリヤールへの批判として成立しているのかどうかよくわからない。まあとにかく、私はシステムと主体のインタラクションを見たいんだ、という、著者の方の気持ちのあらわれなんでしょうね。其の言や善し。
  4. 最後に、ヴェブレンとかジュリエット・ショアのような、競争的な浪費への批判。著者いわく「消費者間相互作用に着目するがゆえに、企業やメディアといった消費社会を構成する様々なプレイヤーの利害関係がどのようなものであり、それがどのような問題を生みだすのかという視点に欠けている」とのこと。なるほど、それはそうかも、と納得。とはいえ、それは大河小説を書くような、とても難しい作業になるんでしょうけど...

 よく教科書などに「かつてモチベーション・リサーチというのがあったけど大昔にすたれました」って書いてあるけど、すたれたってのはホントなのかなあ、という疑問があって、なんとなくwebを検索していたときに見つけた論文であった(と、読み終える間際に思い出した)。Barbara Sternという人が、広告会社ではずっと現役だったと指摘しているらしい。やっぱそうですよね。読んでみようかな、と題名をみたら、文学理論からみたマーケティング、なあんて書いてある... 死ぬほどめんどくさそうだ...

読了: 松井 (2004) 消費社会批判の4つのタイプ

2013年5月 7日 (火)

Tadajewski, M., (2006) Remembering motivation research: Toward an alternative genealogy of interpretive consumer research. Marketing Theory, 6(4), 429-466.
 たまたま市場調査の会社にお世話になったせいで、仕方がないからまあその方面の教科書などを読んだりしたわけですが、どの分野でもそうであるように、本に書いてあることと実際のビジネスとはちょっとズレがある。たとえば、市場調査の教科書にはモチベーション・リサーチについての記載は少ないし、消費者行動論の教科書でも過去の歴史的遺産扱いだが、実際の調査ビジネスでは現役だと思うんですけどね。コカ・コーラのブランド管理の話などは有名であろう。フロイトとユングに由来する普遍的な消費者理解システム、なあんていう調査パッケージを売っている会社だっていくつかある。
 このズレはどこから出てくるんだろうなあ、と前に不思議に思ったことがあって、そのときに読みかけて数ページで挫折した論文。モチベーション・リサーチの歴史を辿るという酔狂な内容。
 英語がやたらに回りくどいし、妙にペダンチックなので、全然頭に入らない。整理の都合上読み終えたことにしておくけど、勘弁してほしいよ、もう... みんなが英語が達者というわけじゃないんだから...
 いくつかメモ:

読了: Tadajewski(2006) モチベーション・リサーチ、その勃興と衰退

2013年4月20日 (土)

Ferjani, M., Jedidi, K., Jagpal, S. (2009) A conjoint approach for consumer- and firm-level brand valuation. Journal of Marketing Research. 46(6), 846-862.
 ちょっと関心があってめくった論文。大上段から話が始まるし、聞き慣れない経済学の用語が出てくるし、本筋を見失いそうになったが、要するにこういう話だ。(1)コンジョイント分析でブランド名と属性と価格の部分効用を推定する。(2)そこから消費者ベースのブランド価値を求める。(3)さらには企業ベース(収益ベース)でのブランド価値まで求めてしまう。

 序盤はわからないなりに丁寧に読んだので、メモをとっておくと...
 消費者 i が ブランド j の属性 m について感じる知覚価値を \tilde{x}_{ijm}, イメージ次元 k に対する連想の強さを z_{ijk} とする。ブランド j の価格を p_j とする。
 いま消費者 i が ブランド j を 1 個買おうかしらどうしようかしらと考えているとしよう。消費者の選好は準線形な効用関数で表され、消費者 i にとっての現状は単価 p^w_i, 購入個数 q_i の合成財の購入で表現できるとしよう (合成財とは、要するに「そのほか」を表す架空のブランドのことであろう。むやみに経済学の用語を使うのはやめてほしい... こっちは素人なんだから)。
 消費者 i の効用関数を U_i (n_{ij}, q_i) とする。n_{ij} は消費者 i がブランド j を選んだときに1, そうでないときに0になる変数。予算を w_i とする。で、すべての消費者が、予算を使い切って U_i (n_{ij}, q_i) を最大化する、と仮定する。つまり、q_i は「残りのお金で合成財があと何個買えるか」である。
 j を買う場合の間接効用 U_i (1, q_i) について次のように考える (間接効用というのは、どうやら価格と予算で条件づけた効用のことをいうらしい。もっと易しく書いてくださいよ... 経済学部の奴ってほんとにいやらしいなあ)。それは z_{ij1}...z_{ijK}と, \tilde{x}_{ij1}...\tilde{x}_{ijM}と、「残りのお金で合成財があと何個買えるか」と、切片と誤差の線形結合であると考える。めんどくさいから式は書かないけど、切片は (i,j) ごとに、zの係数は(i,k) ごとに、xの係数は(i,m)ごとに、「あと何個買えるか」の係数 b^p_i は i ごとに、それぞれ決まる。いっぽう、j を買わない場合の間接効用 U_i (0, q_i) は、「合成財を何個買えるか」と誤差の線形結合である。係数はさっきの b^p_i。

 さて、著者らはブランドの知覚価値やイメージ連想について消費者に訊くつもりはさらさらない。代わりに、ブランド属性の客観的なデータが手に入っている場合について考える。ブランド j の属性 m における客観的な値を x_{jm} とする。\tilde{x}_{ijm}は、客観的値 x_{jm}と、価格 p_j と、切片と誤差の線形結合で決まるものと考える。切片も係数もすべて(i,j,m)によって決まるものとする。
 これを U_i に代入して一本の式にすると、すごく長くて退屈な式になる。ところが... 著者いわく、要するにブランドの価値がわかればいいんだから、ある人があるブランドについてどういうイメージをもっているかなんてどうでもいいでしょう、と。だから z の効果はすべて、(i,j)によって決まる切片に放り込んでしまう。どんどん簡略化して、結局
U_i (n_{ij}, q_j) = \beta_{ij0} + \sum_{m} b^x_{ijm} x_{jm} - \beta^p_{ij} p_j + \epsilon_{ij}
と書ける(最初からそう書いてよ...)。著者曰く、これは属性からベネフィットへという一般的な情報処理方略を表し、ブランド・エクイティの多様な発生源を捉えたモデルである (壮大な言い回しだなあ...)。

 このモデルを、選択型コンジョイント課題での各試行の選択にあてはめる。対象者 i は試行ごとに、U_i (n_{ij}, q_i) が最大でありかつ U_i (0,q_i) よりも大きくなるような s を選ぶ (なかったら「どれも選ばない」を選ぶ) と考える。b^x_{ijm}と \beta^p_{ij}が部分効用になる。i の間で部分効用がMVNに従うと仮定しベイズ推定する。
 無事推定できたとして、消費者レベルのブランド価値は、そのブランドの WTP と、同じものが「ノーブランド」である場合のWTPとの差として推定できる。それはブランド自体の価値、その属性による価値、そのブランドの価格感受性、に分解できる。
 いっぽう、企業レベルのブランド価値は、そのブランド名を使った時の利益と、使わなかった時の利益の差である。利益の算出のためには、売上数量とシェアと単価と製造コストとマーケティング活動費があればよいが、利益の差を出すためにはさらに「ブランド名を使った時の売上数量」「ブランド名を使わなかった時の売上数量」が必要になる。それを認知率と配荷率から求めていくんだけど、力尽きたので飛ばし読み。「使わなかった時」の認知率と配荷率について、目標値を使う、PBの値を参考にする、ゲーム理論で求める、の3つの方法がある由。
 実例は、ヨーグルトのコンジョイント課題。属性はブランド名、フレーバー、価格。いくつかモデルをつくってベイズファクターを比較して、結局はブランドの効用(個人別)、ブランドとフレーバーの交互作用の効用(個人別)、価格(これは全体レベル) がはいったモデルを採用する。消費者レベルのブランド価値と企業レベルのブランド価値を求めておられるが、飛ばし読み。

 かなり幻惑されたが、冷静に考えると、(1)コンジョイント分析でブランドの効用を推定、(2)消費者ベースのブランド価値を求める、(3)企業ベースでのブランド価値を求める ... のうち、

というわけで、きっと(3)が新しいんだろうと思う。よく理解できないけど。
 しっかし、ブログでこういう正直な感想を書いて無知をさらすのって、どうなんでしょうね...

 正直いってだんだん関心を失ってしまったのだが(すいません)、読み始めたきっかけは、コンジョイント課題で「ノーブランド」というブランドをどうやって提示するんだろう、という変なところに興味があったからであった。著者らは、ダノンやヨープレットのような実在する主要ブランドと並べてSemsemという架空のブランド名をしれっと提示し、当たり障りのないコンセプト記述をつけている。名前からの推論が気になるんなら、複数の架空ブランド名を使えばいいんじゃないですか、とのことであった。なるほどね。とはいえ、著者らも最後にちょっと触れているけど、消費者調査での「ノーブランド」の提示の仕方って、なかなか難しい問題だと思う。
 消費者ベースのブランド・エクイティをコンジョイント分析やブラインド・テストのような消費者テスト・データから直接測る、というのは、私の仕事の関係でもかなり大事な話で、前職で学会発表をさせてもらったこともある。考えてみれば、ああいうデータはある程度大きな調査会社の人でないとアクセスできないし、いろいろな付加価値にもつながっていくんだから、そういう立場にある皆様はもっと頑張ればいいのに、と思うんだけど、まあどうでもいいや。Iyengar, Jedidi, Kohli (2008, JMR)がテレコム分野でそういう分析をしているそうだから、いずれ読んでみよう。

読了: Ferjani, Jedidi & Jagpal (2009) 消費者ベースのブランド価値はおろか、企業収益上のブランド価値まで、コンジョイント分析一発で調べてみせましょう

2013年3月18日 (月)

Wallendorf, M. & Arnould, E.J. (1988) "My favorite things": A cross-cultural inquiry into object attachment, possessiveness, and social linkage. Journal of Marketing Research, 14, 531-547.
 ちょっと自分とは縁遠い感じの人類学的研究だけど、多少は仕事の足しになるかと思って、ぱらぱらと目を通した。著者らはマーケティング研究者と人類学者らしい。
 研究の目的は:

 調査地はアメリカ南西部(著者所属から見てアリゾナかしらん)、そしてアフリカのニジェール(どうやら第二著者のフィールドらしい)。データ収集は... アメリカでは、(1)質問紙調査、(2)MFTを写真に撮ってもらう。ニジェールでは、(1)アメリカと同様の質問紙調査、(2)FGI。なおアメリカのみ、MFTはリビングにあるものに制限。
 結果は... アメリカ人のMFTは思い出と結びついていたのに対して、ニジェール人のMFTは道具としての効率性に依存していた(すぐに換金できるとか)、綺麗なモノだったりした。その他、性差とか年齢差とかいろいろ議論していたけど、飛ばし読み。
 考察は:

云々。ふーん。

 気楽に読み流してしまった。こういうタイプの研究を読みつけていないので、良し悪しはさっぱりわからない。
 アメリカで集めた写真の分析方法、いまいちよくわかんなかったんだけど、写真における対象者とMFTとの物理的近接性をコーダーが5段階評定したんだそうだ。「あなたとあなたのお気に入りのものが両方うつっている写真をください」とでも教示したのかしらん。Collier & Collier (1986) "Visual Anthropology: Photography as a Research Tool" という本が引用されている。
 Chiksezentmihalyu & Rochberg-Halton(1981) は、「私は物質主義的じゃありません、だって特別な意味を感じるモノなんて持ってないですから」と主張する人は親友がいない、と書いているのだそうだ。ひえー。翻訳書を読んでみないといけないな。

読了: Wallendorf&Arnould (1988) 「マイ・フェイバリット・シングス」の文化差

2013年3月14日 (木)

Vincent, J. (2005) Emotional attachment to mobile phone: An extraordinary relationship. in Hamill, L., & Lasen, A. (eds.) "Mobile World: Past, Present and Future." Springer.
 昨年暮れに目を通した Vincent (2006) とほぼ同内容かもしれないが (正直、良く覚えていない)、まあもう一度ちゃんと読んでおこう、と思ってめくった。

 モバイルはいまやomnipresentだけど、その歴史は浅いし、音声通話を除けば旧技術から断絶している。よって使用のエチケットがもともと存在せず、人々は無線通信と固定電話の経験を参照せざるを得なかった。
 携帯電話使用の大部分は既存の社会的結合の維持である。2000年頃のUKでの著者らの調査では、モバイルは同僚・家族・友人との間では良く用いられていたが、仕事の客先とのあいだではあまり使われていなかった。公共空間での一部ではモバイル機器の使用が禁止された。Katz(2003)は、公共空間での携帯電話使用のありかたを、モバイル通信の「コレオグラフィー」と呼んだ(振付ってことですかね。上手いことをいう)。
 モバイルを持っていない人はいるけれど、いまやモバイルを持っていないということに意味が生じている("absent presence"。社会構成主義のGergenの言葉らしい)。
 人々は自分の携帯について語るとき、パニック、違和感、カッコよさ、不合理性、スリル、不安といった感情的用語を多く用いる。こうした感情は、モバイルとユーザの結合から生まれてきたもので、モバイルが社会的結合をどれだけ助けているか、モバイルが社会参加のためにどれだけ重要か、を示している。他のICTと異なり、モバイルへの感情的愛着はデバイス自体にではなく、デバイスが可能にする内容と対人接触、デバイスに貯蔵されている情報に対して生じている (あれれ、この先生が他の場所で書いてたこととちょっと違うような気が...)。
 感情的表現の背後にあるユーザとデバイスとの心理的関係については、いろいろ研究がある。まず、モバイル通信が社会的ボンディングを促進しているという研究。Ling&Yttri(2002, in Katz&Aakhus)は、ノルウェーのティーンエイジャーがSMSを一種の贈与システムとして用いていることを示している(ああ、これは面白そう)。ほかに、Puro(2002, in Katz&Aakhus), Kopomaa(2000, 書籍), Taylor&Harper(2003, CSCW), など。
 ユーザとモバイルの間には感情創造のプロセスが反復されているのだが、社会的結合の要求だけでは、なんでモバイルに限って強い感情的愛着が生じるのかの説明になっていない。ここにはおそらく行動と技術のsynthesisがあるわけで、この点について理解するにはオートポイエシスの概念が役に立つであろう(で、出たあ...)。
 モバイルへの感情を有効活用するというのは難しい問題だけど、これからの製品・サービスにとってはすごく重要だ。まずはユーザの感情についてもっと理解しないといけない。たとえば、SMSをただのコミュニケーション技術だと思ってはいけない。過去の個人的なメッセージを蓄積していることが感情的に価値があったりするのだ。
 云々。。。

 この先生の文章がなんで頭に入ってこないのか、やっとわかった。この先生、現象観察が大好きな人に時々みかける、ちょっとまとまりのない文章を書く人なのだ。

読了:Vincent (2005) 携帯電話への感情的愛着

de Vries, I. (2005) Mobile telephony: Realising the dream of ideal communications? in Hamill, L., & Lasen, A. (eds.) "Mobile World: Past, Present and Future." Springer.
仕事の足しになるかと思って先日買った論文集の第一章。著者はユトレヒト大のメディア研究者。電信、電話、ラジオ、テレビ、そしてモバイルと、通信技術の発達を概観する、いささかのんびりした内容であった。こんなの読んでる場合じゃないんだけどな、と焦りながら一読。
 通信発達の社会史は、天使のような完全な意思伝達という夢と、その失敗による失望との繰り返しだった、というようなことをJohn Petersという人が"Speaking into the air"(1999)という本の中で云っているのだそうだ。たとえばラジオの登場は電波による死者との対話という試みを生んだ(エジソンだって霊界通信機をつくった)。この本、面白そうだなあ。英語がスラスラ読めたらいいのだけれど。

読了:de Vries (2005) 電信からモバイルまでの社会史

2013年3月13日 (水)

Lasen, A. (2005) Understanding mobile phone users and usage. Wireless Future Studies, No.4. Vodafone Group R&D.
 イギリスのSurrey大学というところに、Vodafoneが金を出しているDigital World Research Centreというのがあって、そこに属していた研究者によるモノグラフ。固定電話網と携帯電話網の社会的形成の歴史的比較、ロンドン・マドリード・パリの携帯電話使用の比較、デジタル機器と感情、の3部構成。全部で200頁近いので、第3部だけめくった。
 社会学系の研究者が書いたこういう文章って、実証と思弁をわざと複雑に混在させているような気がして、どうにも苦手なんだけど、まあそれは私の側の問題である。
 ユーザと携帯電話との感情的関係の発現として、著者は以下を列挙している。

 後半は「未来のaffective mobile phoneはこうなる」というような話になっちゃったので斜め読みで済ませたが、それはそれで面白かった。

読了:Lasen (2005) 携帯電話ユーザを理解する

2013年2月 8日 (金)

 ここんところ、問題Aについての資料を手当たり次第に集め、読み切らないうちに全く無関係な問題Bについての資料を手当たり次第に集め、読み切らないうちに... というドタバタの繰り返しであった。我ながら、なにやってんだろうかという感じだ。

Frank, D., Riedl, P. (2004) Theoretical fundation of contemporary qualitative market research. Forum Qualitative Sozialforschung. 5(2).
 著者はドイツの市場調査会社の経営者で、大学でも教えている、という人。掲載誌はオンライン・ジャーナルで、どういう性質のものなのかわからない。ちょっと調べたいことがあって目を通した。その役には立たなかったけど、次に読むべきものがわかったので、良しとしよう。

 著者いわく... 市場調査における定性調査には、ヨーロッパの人文主義的な分析を受け継ぐ人々と、観察と証拠に重きをおき心理学的専門性と技能に欠けるように思われるアメリカン・スタイルの人々が混在しており(←著者はドイツ人)、そのために、

定性調査の玉石混交なプロバイダーを見渡し提案の質を判断するのが難しくなっている。クライアントは、マーケット・リサーチの国内・国際組織の企業住所録をめくり、CLT会場を持っていますとか、伝統的なフル・サービスをご提供しておりますとか、定性調査に特化している会社ですとか、その他無数の『ワンマン・ショー(ないしワン・ウーマン・ショー)』をみつける羽目になる。どれもこれも、提供しているサービスは基本的にみな同じだというふりをしている。

だってさ。はっはっはー。
 というわけで、各社のPR上の差別化の向こう側にある、定性調査におけるいくつかの"schools of thinking"とそのちがいについて解説しましょう、という論文。態度がでかくて楽しいぞ。

 現代の定性調査の理論的基盤として、著者は5つ挙げている。

 というわけで、いろんな立場があるが、広い視野でみれば共通点もある。

 で、ここから著者らの統合的アプローチの説明になるのだが、雲をつかむような壮大な話なので、パス。なんでも、外的刺激に対してmeaning checkをし、それを通過した刺激に対してprobability checkをし、その結果として生じる行為がmeaning checkにフィードバックされるようなサイバネティック・モデルなのだそうだ。斜め読みだけど、まあとにかく一種の二重過程論なのであろう。最後に、著者らがお使いの独自手法の紹介。デプス・インタビューやFGIで、ブランドのマッピングをしてもらう際の手続きの話。この分野に疎いもので、どこが新しいのかちょっとわからなかった。

 最後の独自手法の話、著者らの会社の日本法人で開発したとのこと。Global Dynamics Japanという社名だが、webで探しても見当たらない。畳んじゃったんでしょうか。

読了:Frank & Riedl (2004) 定性的マーケティング・リサーチの理論的基盤

2012年12月25日 (火)

Vincent, J. (2009) Emotion, my mobile, my identity. in Vincent, J. & Fortunati, L. (eds.) "Electronic emotion: The mediation of emotion via information and communication technologies." Peter Lang.
 この人のチームは,欧州で携帯電話使用者についての定性調査を2002年から積み重ねていて,この論文はその紹介。著者はもともと通信会社にいた人らしいのだが,出自は社会学のほうらしく,そのせいか,論旨の運び方が私にはどうもぴんとこない。
 携帯電話はただのコミュニケーション・デバイスではなく,社会関係の維持に欠かせないもの,その意味で自己の延長になっている。また,記憶の代替,愛する人の代替,(ほしくもない連絡をもたらす)侵入者の代替といった,ユーザのintra-mediatorとして機能している。云々。
 携帯には,たとえひとりになりたいときでも電話がかかってくるわけだけど,その際に電話の相手に自分の気持ちを悟られないように振る舞うことを,著者はホックシールドのいう感情労働の一例として説明している。うーん,そういう見方もできるか。

読了:Vincent (2009) 携帯電話とアイデンティティ

Vincent, J. (2006) Emotional attachment and mobile phones. Knowledge, Technology, & Policy. 19(1), 39-44.
携帯電話への愛着についての、すごくざっくりとした総説,なんだけど,全然記憶に残っていない。いきなりオートポイエシスとか出てきちゃって、ちょっと困惑したことだけ覚えている。

読了:Vincent (2006) 携帯電話への愛着

2012年12月 4日 (火)

鹿志村香、熊谷健太、古谷純(2011) 「エクスペリエンスデザインの理論と実践」, 日立評論, 2011.11.
 日立の社内誌のXD特集号の巻頭論文。著者らはみな日立の社員の方。第一著者はUI研究で有名な人だと思う。
 エクスペリエンス・デザインを実践するアプローチとして、人間中心設計プロセス、ワークショップと思考の外在化、将来像を描く、の3つを挙げている。で、具体的なテクニックとして、エスノグラフィー調査、エクスペリエンス・テーブル(みんなでつくるシナリオみたいなもの。時間の流れに沿ってビジョンを表現する)、ビジネス折り紙、が紹介されている。この折り紙っていうの、いいなあ。

読了:鹿志村ほか(2011) 日立のエクスペリエンス・デザイン

ここんところ大変バタバタしていたせいで,記録を取り損ねていたのだが,覚えている範囲で...

Markowitz, L., Alvarez-Chavarria, L., Garau, B. (2012) What's a nice insight like you doing in a concept like this? How marketers can avoid wasting good insights on poorly articulated concepts. ESOMAR Congress 2012, ESOMAR.
 先日のESOMAR Congress (市場調査の国際会議) での発表。著者らはIpsos社の製品開発系リサーチの偉い人。
 消費者インサイトを見つけるのは結構だが、せっかくみつけたインサイトをうまく製品化できていないんじゃないですか? というわけで、自社がやったテストのデータベースから、消費者インサイトのスクリーニング・テストを通過したインサイトに基づきコンセプトをつくってまたテストした約100事例を引っ張り出し、インサイトの評価とコンセプトの評価を比べてみたら、あまり相関がありませんでした。スタートが良いからといって安心してはあきませんね、製品開発プロセスのあいだじゅうトラッキングしとかんとあきませんね。という主旨。
 ここでいうインサイトとは、消費者は(自分では気が付いていないけど)ほんとはこんなものを求めている、という知見のこと。であるからして、むしろインサイトの有望性について消費者に尋ねるってのがヘンなんじゃないすかね... という点がいささか疑問なのだが、細かいところはこのペーパーだけではよくわからない。まあ、とにかく勉強になりましたです。

読了:Markowitz, et al.(2012) 消費者について理解すればよい製品ができるのか

2012年10月26日 (金)

Travis, K.M. (1982) Price sensitivity measurement technique plots product price vs. quality perceptions. Marketing News. May 14, 6.
 えーと、市場調査で、製品なりサービスなりの価格についての消費者の知覚を調べるときに、オランダのvan Westerndorpという人が考えたPSMというテクニックを使うことがある。これがもう、海原雄山なら座敷ごと破壊しちゃいかねないくらいに、なんだかさっぱりわからない代物なんだけど...
 そのPSMをアメリカではじめて紹介した文献としてよく引用される資料。入手してみたら、AMA(米マーケティング協会)の一般向け雑誌のたった1pの記事であった。別にいま読む必要もないんだけど、積読リストを短くするためにさっさと読了。著者はplog research という会社の人で、検索するとTNS plog researchという会社がある(あった?)ようだから、TNSに買収されたのかしらん。
 PSMのチャートを描く際、価格を横軸にして「安すぎる」「安くない」「高くない」「高すぎる」の累積分布曲線を描く場合と、「安すぎる」「安い」「高い」「高すぎる」の累積分布曲線を描く場合とあるけれど、この説明では前者であった。またPSMの改訂を提案した山川・佐々木(2004)は、もともとvanナントカさんご自身が「曲線の交点だけじゃなくて曲線自体に注目しよう」と仰っておられたのだと紹介していたように思うが、この記事の時点ではもはや交点だけに焦点が当たっている感じだ。

読了:Travis (1982) アメリカよ、これがPSMだ

2012年10月 1日 (月)

 先日、勤務先の仕事の関係でお会いした方に、突然にこんなことを云われて面食らった。「フィッシュバイン・モデルをご存知ですか?」え、えーっと、それ、なんでしたっけ... と、数秒間アタマが真っ白になった。すいません、すいません。
 心理学者Fishbeinの名前は、社会心理学の厚めの教科書を探せば出てくるかもしれないけど(たぶん態度のところで)、あまり有名とはいえないだろう。しかし、マーケティング系の人が関心を持つ消費者行動論の文脈では、ブランド選択・購買の背後にある態度形成についての古典的なモデル(多属性態度モデル)の提唱者として、それはもう大変なビッグネームなのである。

 思わぬ名前が思わぬところで勤務先の仕事と関係してきたので、これを機に、以前非常勤先の講義でFishbeinモデルについて触れた際に疑問に思ったことを、ちょっと調べてみようと思った次第。ほんとは、こんなことしてる場合じゃないんだけど...

 態度形成のモデルとしてのFishbeinモデルは、どのように説明されているだろうか。
 たとえば、いまgoogleで最初の頁に出てきた解説はこうだ。日本の伝統ある市場調査会社のひとつ、マーケティング・リサーチ・サービスの方による解説である。

ある商品例えばケーキに対する態度Aは、このモデル式によれば「栄養価が高い」という認知Pと「そのことは価値がある」という 重要度Iとを掛け合わせた値を、他の属性(味、見栄えなど)についても求めて、それらを加算した結果A=ΣPIで決まるとする。 提唱者の名をとってフィッシュバイン・モデルとも呼ばれる。

書き手のかたが云わんとしているのは、おそらくこういうことだろう。いまここにケーキがある。話を単純にするために、ケーキの属性として「おいしさ」と「見栄えの良さ」だけを考えよう。花子さんからみて、このケーキの「おいしさ」の認知は20, 「見栄えの良さ」の認知は10。いっぽう花子さんにとって、「おいしさ」の重要度は+1, 「見栄えの良さ」の重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。
 Fishbeinモデルは大筋このように説明されている。ところが。。。さまざまな説明をよく見比べてみると、説明の仕方が微妙に、しかし決定的に、異なるのである。

1. 教科書におけるFishbeinモデル

 ためしに、いま書棚にある消費者行動論の教科書をめくって、Fishbeinモデルについての説明を抜き書きしてみよう。
 どの説明も、ある対象とその属性群についての、ナニカとナニカの積和がその対象に対する態度である、という点では共通する。説明の間の主な相違点は3つある。

 抜き書きにあたっては、もしその本のなかにFishbeinモデルを数式でフォーマルに説明している箇所があったら、その部分を優先的に抜き書きすることにする。

タイプA. 対象×属性についての「信念の強さ」と、属性への「評価」 の積和
対象がある属性を持っているという「信念の強さ」と、その属性そのものに対する「評価」(対象間で共通)の積和、という説明。このタイプの説明が一番多い。

タイプAの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, 見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、任意のケーキが「おいしい」という属性を持っているということに対する評価は+1, 「見栄えの良さ」については+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

杉本徹雄(編著)(2012)「新・消費者理解のための心理学」p.119 (執筆: 杉本徹雄)

$A_j = \sum_{i=1}^n a_j b_{ij}$
ただし、
$A_j$ = ブランド$j$ に対する全体的態度
$a_i$ = 属性 $i$ の評価的側面
$b_j$ [原文ママ] = ブランド $j$ が属性 $i$ を有することについての信念の強さ
$n$ = 属性の数

下から2行目の $b_j$ は$b_{ij}$ の誤りであろう。

上記引用のほか,Sheth & Mittal (2004) "Consumer Behavior: A Managerial Perspective", 2nd edition., Blackwell, Miniard, & Engel (2006) "Consumer Behavior", 10th edition., 井上崇通(2012)「消費者行動論」, 守口剛・竹村和久(編著) (2012)「消費者行動論」の説明もこのタイプであった。

タイプB. 対象×属性についての「信念の強さ」と、対象×属性への「評価」 の積和
対象が属性を持っているという「信念の強さ」と、その対象におけるその属性に対する「評価」の積和、という説明。A.とのちがいは,「評価」が対象ごとに異なるという点である。

タイプBの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, このケーキは見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、このケーキのおいしさに対する評価は+1, 見栄えの良さに対しては+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

田中洋(2008)「消費者行動論体系」pp.96-97.

Attitude = $f(\sum_{n=1} b_i e_i)$
態度は態度の対象への感情(affect)の独立変数である。
$b_i$は信念の強さであり、主観的な度合いとして表現される。態度の対象が i 番目の属性について持っている信念。たとえば、コカコーラの味が甘いと思っている程度。
$e_i$はその $i$ 番目の属性について持っている評価的側面。たとえば、コカ・コーラの味が甘いことがどの程度良いあるいは悪いか。
$n$ は態度対象の顕出属性 (salient attribute) の数である。
[...] ある対象に対する態度はその新商品を学習する過程で自動的に修得されるものであり、その学習の結果は商品属性についての信念という形で表されるのである。[...] さらに、消費者はこれらのブランド属性についてある評価を持っている。これらは「ミニ態度」とでも呼ぶべき存在であり、こうしたミニ態度は感情(affect)である。[...]
フィッシュバインの理論における信念の強さと属性評価は、たとえば、つぎのような質問によって測定される:
 
信念の強度を説明する質問の例:「パブロンには風邪の解熱成分が含まれている」
選択肢の例:まったくそう思う~まったくそう思わない(7段階あるいは5段階評価)
 
属性評価を測定する質問の例:「パブロンに含まれる風邪の解熱成分についてあなたはどう思いますか」
選択肢の例:とても良い~とても悪い (7段階あるいは5段階評価)

上の説明をよく読むと、「評価」のほうは、属性そのものについての評価(風邪薬に解熱成分が含まれていることの良し悪し)ではなく、対象が含んでいる属性についての評価(パブロンに含まれている解熱成分についての評価)となっている。ただし、この本では上記の説明のあとに、属性の「評価」が対象間で共通であるような分析例も紹介している。

 上記引用のほか,Peter & Olson (2001) "Consumer Behavior and Marketing Strategy", 6th editionもこのタイプであった。

タイプC. 対象×属性についての「信念の強さ」と、属性の「重要度」 の積和
A. と似ているが,属性の「評価」が「重要度」と言い換えられている。

タイプCの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, このケーキは見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、任意のケーキにおいておいしさという属性が持つ重要度は+1, 見栄えの良さという属性が持つ重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

清水聡(1999)「新しい消費者行動 」pp.123-124.

Fishbeinは、過去の態度形成の理論から、①消費者は、ある対象に対して多くの信念を持ち、その信念は、対象に関連したコンセプト・価値・目標で、対象とその信念の間との繋がりの強さが重要であること、②その信念のなかでも、評価的反応を持つ信念のみが、態度を形成すること、従って、③対象と信念の結びつき、その信念に対する評価の積和が、ある対象への全体的態度を引き出す、ということを導いた。式で示すと、
$A_o = \sum_{i=1}^n B_i a_i$
ただし、
$A_o$: 対象 $O$ に対する全体的態度
$B_i$: 対象 $O$ とその信念(属性) i の繋がりの強さ。即ち対象 $O$ が属性 $i$ とが [ママ]、どの程度結びついているのかを示す尺度
$a_i$: $B_i$の評価側面、即ち信念(属性) $i$ の重要度
となる。

ここでは「重要度」という言葉が「評価」と同義に用いられている。説明事例からみて、$a_i$は対象間で共通である。

上記引用のほか,Solomon (2009) "Consumer Behavior: Buying, Having, and Being", 8th editionもこのタイプ。

タイプD. 対象×属性についての「信念の強さ」と、「重要度」(何についてのかはっきりしない)の積和
「重要度」が対象によって異なるか,対象間で共通なのか、解説だけではわからないケース。

タイプDの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, このケーキは見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、(任意の、ないし、この)ケーキにおいておいしさという属性が持つ重要度は+1, 見栄えの良さという属性が持つ重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

青木幸弘ほか(2012)「消費者行動論」pp.72-73 (執筆: 青木幸弘)

このモデルでは、ある対象に対する個人の態度は、ある属性を当該対象が有すると思う個人の確信度(=期待)と、その属性の重要度(=価値)との積を、すべての属性について合計した総和に等しいと考えている。これを数式で表せば、
$A_o = \sum_{i=1}^n b_i a_i$
ただし、
$A_o$: ある対象 $O$ (製品やブランド) に対する評価 (全体的評価)
$b_i$: 対象 $O$ が属性 $i$ を備えている確信度 (信念の強さ)
$a_i$: 属性 $i$ の評価的側面 (重要度)
$n$: 属性の総数

上記引用のほか,杉本徹雄(編著)(1997)「消費者理解のための心理学」の説明(執筆:中谷内一也)もこのタイプ。つまり,この定評ある教科書におけるFishbeinモデルの説明は,1997年に出版された際はこのようにDタイプだったが,2012年の改版では上述のようにAタイプとなったわけだ。

タイプE. 対象×属性の「評価」と、属性の「重要度」の積和
ここまでの解説と大きく異なるのは,対象×属性の「信念の強さ」が「評価」と言い換えられている点。

タイプEの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキのおいしさについての評価は20, このケーキの見栄えの良さについての評価は10。いっぽう花子さんにとって、任意のケーキにおいておいしさという属性が持つ重要度は+1, 見栄えの良さという属性が持つ重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

平久保仲人(2005)「消費者行動論」pp.218-219

同じ地域のレストラン3店が検討集合に選ばれたとしよう。ある購買者が意思決定に影響を及ぼす属性として、内装、サービス、駐車場の広さ、レストランまでの距離、そして味を挙げたとする。まず、各属性の重要度を決める(1-5: 1=重要でない、5=とても重要)。次に各店をそれぞれの属性で評価する(1-5: 1=劣っている、5=優れている)。最後に属性の重要度と評価値を掛け合わせて、それら合計の最も高いブランドが選ばれるのだ[...]

いやあ、ちがうもんですね。AからEまで、実に5タイプのバリエーションがみつかった。

まとめると、Fishbeinモデルについての説明は、次の3つの点で揺れ動いている。

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「信念の強さ」(A,B,C,D)か、「評価」(E)か
  2. もう一方の要素は、「評価」(A,B)か、「重要度」(C,D,E)か
  3. 後者は属性についてのものか(A,C,E)、対象×属性についてのものか(B)、はっきりしないか(D)

 些細な違いにみえるかもしれないが、Fishbeinモデルは概念枠組みであるだけでなく、調査データを当てはめて活用するためのモデルでもある。調査項目を作る立場になって考えると、このちがいはなかなか馬鹿に出来ない。
 なんでこんな揺れが生じてしまうのだろうか。手元にある限りの資料で調べてみると...

2. 本家Fishbeinモデル

 まずはFishbeinさんご自身の定義から。このモデルの初出は、どうやらHuman Relationsという学術誌に載った1963年の論文らしい(もとは博士論文らしい)。この論文が手に入らないので、かわりにFishbein & Ajzen (1975)を探してみると、次のように説明されている(pp.222-223)。

[我々が提案したモデルは] さまざまな信念、そしてそれに関連している属性の評価が、結合ないし統合され、その対象の評価へと至る、そのありかたを記述するものである。[...] ある対象、行為、ないし出来事についての態度をAとする。その対象の属性についての信念、ないしその行為の帰結についての信念を b とする。その属性ないし帰結についての評価を e とする。統合のプロセスは下式で記述される:
$A = \sum_{i=1}^n b_i e_i$

 なお、この部分のすぐ後で、著者らはbを「対象がその属性を持っている主観確率」「行動がその帰結につながる主観確率」と言い換えている。
 ここでいう信念とは、その対象における顕著な信念(salient belief)のことである。それは人によっても対象によっても異なる。その数には限界があり、「全体での評価では、ふつう5個から9個の信念に落ち着く」。
 なお実証研究として、Fishbein(1963)は"Negroes"への態度について調査している(そ、それって...倫理的にどうなのかしらん...?!)。対象者群に、"Negros"の特徴を挙げるように求め、10個の属性を集める(dark skinとか、tallとか、uneducatedとか... エエエエ?!)。別の対象者群にそれらの属性を呈示し、

を求める。(a)を足しあげて「評価」、(b)を足しあげて「信念の強さ」、(c)を足しあげて"Negroes"への態度とする。評価と信念の強さの積和は、態度と高い相関を持ちました、とのこと(p.225)。いやあ... 現代の目からみると、あんまりな調査だなあ。

 というわけで、Fishbein先生みずからの説明は...

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「信念の強さ」
  2. もう一方の要素は「評価」
  3. 「評価」は属性についての値

 ただし、ポイント3についてはよくわからない。Fishbein(1963)では、評価は属性名のみについてに対して聴取しているようだ("Negros"がdark skinであることについての評価ではなく、dark skinそのものの評価を聴取している)。これを真面目に受け止めればタイプA の説明 に合致する。しかし、この研究では対象は"Negroes"しかないので、どうもはっきりしない。もしかするとFishbeinは、ほかに複数の対象を扱う実験をやっていて、そこではタイプBの説明のように、対象と属性の組み合わせごとに「評価」を聴取しているのかもしれない。

3. 後続研究における"Fishbeinモデル"

 さて、Fishbeinのモデルはたくさんの後続研究を生んだ。清水(2006)によれば、Kassarjianという人は、Fishbeinモデルを用いた研究は1980年までに100件以上にのぼる、とレビューしているのだそうだ(Kassarjian, 1982, Annual Rev. Psychology)。ひゃー。
 そのなかのひとつに、当のFishbeinさんと揉めているのがある。Bass&Talarzyk(1972)は、Fishbeinモデルでブランドの選好を予測しますという論文で、こう述べている。

For the purposes of this research, Fishbein's model is represented quantitatively as:
$A_b = \sum_{i=1}^N W_i B_ib$
where:
$A_b$ = the attitude toward a particular brand b
$W_i$ = the weight or importance of attribute i
$B_{ib}$ = the evaluative aspects or belief toward attribute i for brand b
$N$ = the number of attributes important in the selection of a given brand in the give product category

 平気な顔で Fishbein's model is represented as ... っていっているけど、よく見ると、本家と全然ちがう内容である。実証データをみてみると、対象×属性の「評価」「信念」は、たとえば「ミニッツメイドの味は?」という項目に対する「とても満足」から「とても不満」までの6件法で聴取されている。また属性の「重要度」は、オレンジ・ジュースのブランド選択における重要度の順に「味」「価格」などの属性を並べる、という課題で聴取されている。
 というわけで、Bass & Talarzyk (1972) が定式化するところの"Fishbeinモデル"はこういうモデルだ。

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「評価」「信念」
  2. もう一方の要素は「重要度」
  3. 「重要度」は属性についての値

 ずいぶん変わったものですね。タイプEの説明に近い。
 「信念の強さ」が「評価」に、「評価」が「重要度」に変化している点もさることながら、「信念」という言葉がFishbeinとはかなり違う意味で用いられている点も面白い。Fishbeinの場合、「信念」は対象がどんな属性を持っていると思うかを指している。いうなれば、「信念の強さ」は事実判断であって価値判断ではない。価値判断は別途、属性の「評価」として得られるのだ。それに対しBass & Talarzykは、「信念」という言葉を「評価」とパラレルに用いている。事実判断と価値判断は切り離されない。
 
4. 本家,お怒りになる

 これに対して、ご本家はさすがにお怒りになり、批判論文を発表する(Cohen, Fishbein & Ahtola, 1972)。この論文はBass & Talarzyk(1972)のほかに、Sheth & Talarzyk (1972)という別の研究もひっくるめて批判しているので、前者に対する批判のみ抜き書き。

 単に「おまえらのモデルはもうFishbeinモデルじゃねえよ」と怒っているのではなく,モデルを構成する概念に踏み込んで批判している点が興味深い。「重要度」という概念が不適切である理由について,Fishbein & Ajzen (1975)の説明を聞いてみよう。
 著者らにいわせれば、態度のモデルに「重要度」の出る幕はない。そもそも、重要度という言葉の指すところには次の3つがある(p.211)。

 (1)の意味でいえば、「重要な属性はふつう、重要でない属性に比べてよりポジティブないしネガティブに評価される(すなわち、より極化する)。同様に、人々はふつう、自分たちにとって重要な物事についてより多くの情報をもっており、したがって、重要でない属性についてより重要な属性についてより確信があり、より強い信念を持っている。重要度、評価、信念の強度の間に一対一の関係はないが、近年の証拠によれば、$b_i e_i$ の絶対得点と重要度判断の間には高い相関があると示唆されている」(p.228)。
 (2)の意味の重要度は、対象と属性のあいだの結びつきの主観確率、すなわち「信念の強さ」に近い。
 (3)の意味での重要度評定は、(重回帰などで得られた)実際の決定における重みづけと対応していないことがわかっている。

5. 分家,反論する

 この批判に対し、Bass, Sheth, Talarzykはそれぞれ回答を寄せている。ほんとはSheth(1972)の回答がいちばん戦闘的で面白んだけど、話がそれるので省略して、Bass(1972)の回答は:

 Talarzyk(1972)の回答は:

 いずれにせよ、モデルのなかの重要な概念がすり替わっちゃっている点については反論しないわけだ。

6. 本家に忠実な使い方とは?

 BassやTalarzykがいうように、ブランドに対する態度の予測というマーケティング的課題においては、Fishbeinモデルはそのままでは適用しにくいのだろうか。いやいや、そんなことないわよ、というわけで、Tuck(1973)は本家Fishbeinモデルに忠実な適用事例を示している。
 その手続きは次のとおり。調査対象はHorlicksという"bedtime drink"。wikipediaによれば、欧米では有名な商品で、粉末の麦芽飲料で(ミロみたいなものかしらん)、寝る前にお湯に溶かして飲むんだそうだ。いまでも現役の商品らしい。へー。
 まず、Horlicksのヘビーユーザー、ライトユーザー、オケージョナルユーザー、ノンユーザー各50人に、「夜Horlicksを飲むことについて考えたとき、心に浮かぶことを教えてください」とインタビューし、顕著な信念(salient belief)の項目セットをつくる。各群ごとに6~7項目。たとえば「Horlicksを夜に飲むと安眠しやすくなる」というような項目であるとのこと。
 次に、別の対象者の4群に質問紙調査を行う。

 予測された態度と実際の態度の相関は、ヘビーユーザー群から順に.51,.55,.68,.68と、十分に高かった、とのこと。
 Tuckさんいわく、大事なのは次の2点である:

 前者の指摘は、Bass-Talarzykに限らず多くの人にとって耳が痛いところであろう。自分の身の回りを振り返ってみても、ブランド選好という言葉はあまりに柔軟に用いられているように思う。あるブランドが好きかどうかと、そのブランドを使用することが好きかどうかは、おそらくは異なる事柄なのだ。
 いっぽう後者の指摘に対しては、おそらくBassさんたちはちょっと異論があるのではないだろうか。ブランドによって信念リストを変えると、予測された態度をブランド間で定量的に比較するのが難しくなってしまいそうだ。

 ともあれ、Tuck(1973)が定式化するところの"Fishbeinモデル"は...

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「信念の強さ」
  2. もう一方の要素は「評価」
  3. 「評価」は属性についての値

 当然ながら、Fishbein先生みずからの定式化に近い地点に引き戻されている。ポイント3については本家よりも明確になっており、タイプA の説明に合致する。

7. Fishbeinモデルってどんなんだっけ

 というわけで、"Fishbeinモデル"を名乗る実証研究のなかでさえ、モデルの定式化においてズレが生じていたことがわかった。
 Fishbeinモデルくらいに有名なモデルになってしまうと、Fishbeinさん本人がどういったかだけではなく、研究史のなかでどのように受け取られたかも大事になってくるだろう。消費者行動論の教科書におけるFishbeinモデルについての説明の揺れは、"Fishbeinモデル"を活用した実証研究における定式化のズレを、そのまま反映しているのかもしれない。

※読んだ論文は:
Bass, F.M., Talarzyk, W.W. (1972) An attitude model for the study of brand preference. Journal of Marketing Research, 9(1), 93-96.
Cohen, J.B., Fishbein, M., Ahtola, O.T. (1972) The nature and uses of expectancy-value models in consumer attitude research. Journal of Marketing Research, 9(4), 456-460.
Bass, F.M. (1972) Fishbein and brand preference: A reply. Journal of Marketing Research, 9(4), 461.
Sheth, J.N. (1972) Reply to comments on the nature and uses of Expectancy-value models in consumer attitude research. Journal of Marketing Research, 9(4), 462-465.
Talarzyk, W.W. (1972) A reply to the response to Bass, Tararzyk, and Sheth. Journal of Marketing Research, 9(4), 465-467.

2012/10/11追記: 毒を食らわば皿まで、というわけで、下記の論文も読んだ。これに伴って、「本家に忠実な使い方とは?」の項を追加。
Tuck, M. (1973) Fishbein theory and the Bass-Talarzk problem. Journal of Marketing Research., 10(3), 345-348.

2012/10/20追記: 読み返したらあまりに冗長なので,教科書の引用を絞りました。やれやれ。

2016/06/29追記: 数式をMathJax表示にしました。ついでに説明をちょっぴり追加。

読了:Bass & Talarzyk (1972) ほか:Fishbeinモデルってどんなんだっけ

2012年8月14日 (火)

 ブランド別購買確率が消費者間で異なるとき,その分布にディリクレ分布を当てはめることがあるけど、あれってなぜなんだろう、と前々から疑問に思っていた。と、こういうことをおおっぴらに書くのは、こっぱずかしいことなのかもしれないんだけど... わたくし、もともと根っからの文系なんです、勘弁してください。

 ディリクレ分布を使うのは「ベイズ統計の観点から見てディリクレ分布は多項分布パラメータの事前共役分布になっているからです」... というようなテクニカルな理由であれば、それはそれで納得する。でも、ブランド購買のモデル化にディリクレ分布を使うというのは、二昔ほど前,購買行動の分析が集計値レベルでのモデル化に焦点を当てていた頃のアイデアではないだろうか。もっと実質的な理由があるのではないかしらん?

Goodhardt, G.J., Ehrenberg, A.S.C., & Chatfield, C. (1984) The Dirichlet: A comprehensive model of buying behaviour. Journal of the Royal Statistical Society. Series A (General) , 147(5), 621-655.
 というわけで、当時の研究で,いまでもよく引用されているらしい論文を読んでみた。主に好奇心からなのだが、この分野についてきちんと勉強しないとなあ... という焦りも、少し働いている。マーケティング・サイエンスの新しい本だと、個人レベルの分析の話が中心で、集計レベルの分析の話がなかなか出てこないように思う。でも,地を這う虫のように零細なデータ解析で糊口を凌いでいる立場から見ると,集計値のモデリングにはいまでもニーズがある。

 そもそもディリクレ分布というのは多変量化されたベータ分布のこと。著者らが提案するモデルは,ひとことでいえば,ブランドの売上頻度にディリクレ分布を,カテゴリの売上頻度に負の二項分布を当てはめるものである。

 以下の5つの仮定からなるモデルを構築する。
 ブランド選択についての仮定:
  • (A1) i番目の個人のブランド選択は、購買の繰り返しを通じてあたかもランダムであるかのようにふるまう。g 個のブランドから j 番目のブランドを選ぶ確率を (p_j)_i とする。これらの確率は時間を通じて固定されており、繰り返される購買においてブランド選択は独立である。したがって、個人 i が n_i 回の購入においてそれぞれのブランドを購入する回数は、パラメータ n_i, (p_1)_i, ..., (p_g)_i の多項分布によってモデル化できる。
  • (A2) 確率 (p_j)_i は個人によって異なり、次の同時密度関数を持つ多変量ベータ分布(ディリクレ分布)に従う:
      C p_1^{\alpha_1-1} ... p_g^{\alpha_g-1}
    ただし、p_j ≧ 0, \sum \p_j = 1, C=\Gamma(S) / \prod (\Gamma \alpha_j), S=\sum \alpha_j, \alpha_j > 0 である。ブランド j を選択する確率は、 j 番目の周辺分布、すなわち単純なベータ分布
      C p_j^{\alpha_j-1} (1-p_j)^{S-\alpha_j-1}
    となる。この分布の平均は \alpha_j / S 、すなわちこのブランドの市場シェアである。伝統的な書き方でいえば、ベータ分布のパラメータを\alpha, \betaとして、S=(\alpha+\beta)である。
 A1とA2が述べているのは、全消費者による様々なブランドの購買の同時分布が、多項分布の,ディリクレ分布に従う混合分布によって与えられるということである。g=2の場合、この式は良く知られているベータ二項分布に還元される。
 製品クラスにおける購買生起についての仮定:
  • (B1) 個人 i の購買の繰り返しはあたかもランダムであるかのようにふるまい、独立である。ある「単位」期間 (購買間時間の最小値よりも長いある期間。通常は週) における率の平均は定数 \mu_i である。従って、長さTの期間内の購買数 n_i は、平均 \mu_i T のポアソン分布に従う。
  • (B2) 購入率の平均 \mu は個人によって異なり、次の密度関数を持つガンマ分布にしたがう:
      \frac{ e^{-u K / M} \mu^{K-1}}{(M/K)^K \Gamma(K)}
 B1とB2が述べているのは、全消費者によるある製品の長さTの期間内の購入数が、平均MT, 指数K の負の二項分布(NBD)に従うということである。
 (A)と(B)の関係についての仮定:
  • (C) ブランド選択確率の分布と購入頻度平均の分布は、独立である。
 仮定(A),(B),(C)に基づき、あるひとつのモデルを導くことができる。これをNBD-ディリクレ分布、あるいは単にディリクレと呼ぶことにする。

で,各仮定の論拠は以下の通り。

 ... なんだか疑問が解決しちゃったので,あとは流し読み。集計データに当てはめる例が紹介されているが,パラメータ推定は簡単には解けず,近似計算が必要になるような気配だ。たいそう面倒そうな話なのでパス。
 モデルの使い道としては次の4つが挙げられている。(1)市場が定常だと仮定しノームを設定する。(2)変化を解釈するためのベースラインを設定する。(3)診断的につかう(実例を読んでいないのでぴんと来ない)。(4)モデルに基づき市場の一般的性質を理解する。
 末尾に識者との質疑応答がついているんだけど,そっちもパス。結局,数割しか読んでないけど,まあいいや,整理の都合上読了にしておく。

読了:Goodhardt, et al.(1984) 購買のディリクレ・モデル

2012年8月 4日 (土)

Rubinson, J. & Pfeiffer, M. (2005) Brand key performance indicators as a force for brand equity management. Journal of Advertising Research, 45, 187-197.
 消費者・顧客ベースのブランドエクイティ調査をどのように活用していくか、という実践的手引き。著者らは実務家で、第一著者は調査会社NPD Group出身。目新しい話はないが、調査担当者の自己研修資料としては最良の部類であろうと思う。(←おお、偉い人みたいな言い回しだ)
 論文後半では、携帯電話会社のブランドエクイティ管理について実例を挙げていて、目標売上をリテンション・新規・アップセルに分解し、そこからトップダウンで、KPIと目標設定へと落とし込んでいく。自社ブランドのイメージ「顧客に気配りしている」のtop2box%がいま45%なのを、来期は65%に向上させる、「金額ぶんの価値がある」を52%から67%に向上させる... 以上5つが目標だ、全部達成したら市場シェアは8%伸びるぞ。というところまで、CS調査データと統計モデルに基づいて追い込んでいくのである。うーむ... ひとつのケース・スタディなんだろうけど、ここだけ読むと、「そこまでやりますか」というか、奇妙な殺伐さと非現実的雰囲気を感じる。フィジビリティとかサステナビリティという視点はどこで入ってくるのか? 組織ってのはそんな風に動かせるものか? ここに欠けているリングはなんだろう?。。。などと、あれこれ思い惑いつつ読了。ともあれ、勉強になりましたです。

読了: Rubinson & Pfeiffer (2005) ブランド調査はこう使え

2012年8月 3日 (金)

奥村学(2012) マイクロブログマイニングの現在, 第3回集合知シンポジウム, 電子情報通信学会・言語理解とコミュニケーション研究会.
twitterを中心にしたマイクロブログの分析についてのレビュー。今年2月に新潟で開かれたカンファレンスでの招待講演の資料らしい。勉強になりました。

読了: 奥村(2012) つぶやき分析レビュー

先週の「ブランドエクイティ測定祭り」(なんだそれは) で手に取った論文の記録。

Shocker, A.D., Srivastava, R.K., & Ruekert, R.W. (1994) Challenges and opportunities facing brand management: An introduction to the special issue. Journal of Marketing Research, 31(2), 149-158.
 94年,JMRのブランド管理特集号の巻頭論文。ブランド管理をとりまく環境要因を5つ挙げ(グローバル化とオープン化、技術の進歩、流通の支配力の増大、投資家からの圧力、消費者の変化)、それぞれについて近年の状況と影響を概観。
 もう眠くて眠くて眠くて... 数行ごとに意識がどこかに飛んでしまっていた。これは私の側の問題で、論文のせいじゃないです。

読了: Shocker, Srivastava, & Ruekert (1994) ブランド管理の現状と課題

2012年8月 2日 (木)

Erdem, T. & Swait, J. (1998) Brand equity as a signaling phenomenon. Journal of Consumer Psychology, 7(2), 131-157.
 現在のブランド論の主流であるところの認知心理学的観点ではなく、情報の経済学におけるシグナリング理論の観点からブランド・エクイティを捉えます、という論文。
 先日読んだレビュー論文で紹介されていて、興味を引かれて読んでみたのだが、これが面白くて、取り急ぎ読む必要はないのに読みふける羽目になった。

 著者らいわく、市場には情報の非対称性がある。たとえば、企業側が「うちの製品って実はいまいちなんだよねー」と知っていても、消費者側は必ずしもそれを知らない。この非対称性はマーケティングミクス戦略と相互作用する。たとえば、消費者にとって不確実性が高いカテゴリでは品質の保証が促進されるし、品質の保証は非対称性を縮小させる。
 ブランドは企業の過去・現在のマーケティング戦略を体現・象徴しており、それゆえに、情報の非対称性を縮小させるためのシグナルとして働く。たとえば、ブランドは製品空間における当該製品のポジションのシグナルとなる。ブランドというシグナルが消費者に伝える情報は、そのブランドのマーケティングミクス要素の特徴によって決まったり(例, 高価格→高品質)、過去・現在のコミュニケーション内容によって決まったりする。
 シグナルにはclarityという側面とcredibilityという側面がある。clarityとは、ブランドが伝える情報が曖昧でないことで、マーケティングミクス要素間の整合性や、メッセージの経時的な一貫性によって決まる。credibilityは、ブランドが伝える情報が本当らしくあてになるということで(その情報の中身は問わない。つまり、ブランドが信頼できるという意味ではない。「確実性」とでも訳すのがよさそうだ)、clarityと同じく整合性・一貫性によっても影響されるし、またclarityによっても影響される。さらに、ブランド・ロゴやらスポンサーシップやらブランド広告やらに企業が投資している(と感じられる)と、その投資を回収するために企業は約束を守ろうとするだろう、また守られない約束のせいで自分の評判を傷つけるのは避けようとするだろうと感じられるから、credibilityは高くなる。
 さて、消費者は不完全な情報しか持たず、知覚リスクを抱えている。知覚リスクを低減するためには情報コストがかかる。ブランドというシグナルは、消費者の知覚リスクと情報コストの両方を低減させる。さらに知覚品質も向上させる。よって期待効用が向上する。このようにして上積みされた価値がブランド・エクイティだ。従って、ブランド・エクイティを決めるのは、ブランドというシグナルのclarityとcredibility、特にcredibilityである。

 ...この考え方のどこが新しいかというと、アーカー先生に代表されるブランド論のように、消費者の長期記憶に貯蔵された多面的なブランド知識から話を始めるのではなく、ブランドというシグナルの情報的な特性からスタートするという点である。そのせいで、いくつか新しい含意が生まれてくる:

 実証研究は... クロスセクショナルな調査を一発掛けて、SEMのモデルを構築する。ジュース5ブランド(ドール、ミニッツメイド、etc.)とジーンズ5ブランド(カルヴァンクライン、ギャップ、etc.) についての質問紙調査。学生を対象に、ブランドあたり92票ないし86票を集め、縦積みにして分析する(調査研究としては意外にしょぼい...)。
 調査項目は25項目(主に9件法)で、{知覚されたブランド投資、整合性、clarity, credibility, 知覚リスク、知覚品質、情報コストの節減、期待効用}の8つの潜在変数に割り当てられている(測定モデルとしても案外しょぼい...)。
 潜在変数間のパスは、上の理屈に従い、{整合性, 投資}→{clarity, credibility}→{知覚リスク, 情報コスト節減, 知覚品質}→期待効用、という感じの逐次モデル。ブランドはダミー変数にしていれている(ブランドごとに潜在変数の平均を推定しているということであろう)。係数のブランド間異質性は気にせんでええんかいなと思うが、SASのPROC CALISでやったというし、まあサンプルサイズがこんなんですし。
 推定結果は上記理屈のとおりで、期待効用にはcredibilityが強く影響する。カテゴリ別に推定すると、ジーンズではcredibilityは情報コストの節減を通って期待効用に効くが、ジュースでは知覚品質を通って期待効用に効く。飲めばすぐわかるので、情報コストがもともと低いからだろうとのこと。また、ジュースではブランド投資がcredibilityに効くがジーンズでは効かない。飲料ではばんばんブランド投資しているが、ジーンズではそうでもないんでしょう。云々。

 いやあ、この論文は面白かった。実証の部分はともかく、考え方が。知識不足のせいでナイーブな反応をしているのかもしれないけど、とにかく私にとっては大変に面白く、途中でちょっと鳥肌が立ったほどである。
 ブランドの研究者の方が書いたものを読んでここまで面白いと思ったのは、書籍を含めれば石井淳蔵という先生の本を読んで以来、論文に限ればこれがはじめてだ。ブランドの研究というのは、アーカーとかケラーというようなビッグ・ネームが経験的知識を美しく体系化し、他の研究者はみなそれを現場にあてはめて一生を終えるのかと思っていた(そういう知的営みにももちろん価値があると思う)。私が悪うございました。イノベーティブな視点、オリジナルな理論展開というのがありうる分野なんですね。感動。

 特に感銘を受けた理由がふたつある。ひとつには、以前「アメリカのプライベート・ブランドのブランド・エクイティが低いのは、消費者に品質が低そうだと思われているからではなく、品質が髙いか低いかよくわからないと思われているからだ」という実証研究を読んだことがあり(あ、同じ著者だ!!)、それって腑に落ちる説明ではあるけど、(よくそのへんの本に書いてあるように)ブランド・エクイティが消費者の知識そのものなのだとしたら、あるブランドについてよく知らないことがエクイティの低さにつながるという理屈はなんだか変だなあ、と思ったことがあったからである。なるほど、シグナリングという考え方に立てば筋が通る。
 もうひとつには、週に一度くらい、ブランドは私たちを幸せにするのだろうか、と考えるからである。マーケティングの基礎知識が社会人の常識となり(そうあるべきだと主張する人は少なくないですね)、ブランド構築という考え方が広まり、身の回りの商品やサービスがことごとく髙いブランド・エクイティを誇るものばかりになったとして、それは社会にとっては良いことだろうか? 直観的には、それって壮大な無駄遣いじゃないかと感じるのだが、そう思う理由がうまく整理できず、もやもやとしていた。この論文を読んで思うに、高等教育についての議論にはよくスペンスのシグナリング仮説というのが出てきて、この仮説に従えば、大学教育が個人の能力を全く高めなくても学歴は価値を持ち続けるし、その意味で、高等教育は社会的浪費になりかねない。そうだ、あの話と同じように考えればいいのだ。急に霧が晴れたような気分である。

 この論文では、主張のユニークさを示すために従来の"認知心理学的"ブランド観との違いを強調しているけれど、どちらにしても長期記憶におけるブランド関連知識がブランド・エクイティを支えているわけで、その意味ではどちらの立場も、ブランドという社会現象を心的メカニズムで基礎づけようとしているのだと思う。この論文の特徴は、ブランド知識がエクイティを生み出すプロセスについての説明にあるが、さらに、ブランディングが成立する条件や、ブランドの社会的インパクトについて情報経済学の概念を引き込めるところが面白いと思う。著者らも論文の最後に書いているように、従来のブランド観と対立する視点というより、相補的な視点だと考えたほうがよいのだろう。

読了:Erdem & Swait (1998) シグナリング現象としてのブランド・エクイティ

 先週、仕事の都合で、ブランドエクイティ測定に関する資料をオフィスの机の上に山積みにし、朝までひとりで読みまくるという、奇妙な一夜を過ごすことになった。いったいなにをやっているのか。×十年前の修士課程時代からまったく進歩していない。
 めくった資料のうち、論文で覚えているものをいくつかメモ。他にもあったのだが、忘れてしまった。途中からすさまじい眠気に襲われ、さっぱり頭に入っていない。

Keller, K.L. (2006) Measuring brand equity. in Grover & Vriens (eds.), "The Handbook of Marketing Research." Sage.
 ケラーの分厚い教科書の、8,9,10章の簡略版だと思う。なのでちゃんと読んでないけど、どこを眺めても、論旨が明晰で助かる。この章に限らず、このハンドブックはいざというときにとても便利だ。
 えーっと、ブランド価値のソースの測定方法として、質的方法として自由連想法、投影法、ブランド・パーソナリティ評価、エスノとか観察とかを紹介。定量的手法として、ブランド認知の測定(再認とか再生とか)、ブランドイメージの測定(連想とかパフォーマンス評価とかブランドに付随するイメージとかなんとか)を紹介。ブランド価値の結果指標として、比較法(ブランドベース比較、マーケティングベース比較、コンジョイント分析)、全体的方法(残差アプローチ、価値評価アプローチ)を紹介。で、ブランド・バリュー・チェーン(マーケ投資→ブランド知識→市場でのパフォーマンス→投資価値ってやつ)の紹介。ブランド価値管理システム(監査とトラッキング)の紹介。

Leiser, M. (2004) Understanding brand's value: Advancing brand equity tracking to brand equity management. Handbook of Business Strategy, 5(1), 217-221.
 所収のHandbook of ...というのは書籍というより年鑑のようなものらしい。著者は実務家。ブランド・エクイティの諸次元をただトラッキングするのではなく、そのブランドにとってなにが大事なのかをプロファイリングしなさい,というような主旨。

 それからErdemという人の論文。これがやたらに面白かったせいで、ずいぶん時間を無駄にしてしまった。メモは別のエントリで...

読了:Leiser (2004) ブランドエクイティ管理; Keller(2006) ブランドエクイティ測定

2012年7月 2日 (月)

Christodoulides, G. & de Chernatony, L. (2010) Consumer-based brand equity conceptualisation and measurement: A literature review. International J. Market Research, 52(1), 43-66.
 消費者ベースのブランド価値(CBBE)の測定についての文献レビュー。ちょっと用事があって読んだ。前に一度ざっとめくってあったのだけど、内容を全然覚えていなかった。
 いくつかメモ:

 著者らによる研究者・実務家へのアドバイス:

  1. ブランド価値は多面的概念であって、どういう指標を選ぶべきかはそのブランドのビジョンによって決まる。高級スーパーは安売りスーパーより知覚品質に関心を持つだろう。
  2. ブランドが製品経験全体に寄与しているそのあり方を知ることが大事だ。
  3. 指標はカテゴリによってちがって当然。ユニバーサルなブランド価値指標なんて意味がない。(→はっはっは)
  4. ブランド価値測定は知覚と動機づけによって構成されるべき。行動指標じゃなくて。
  5. 機能的側面、感情的側面、経験的側面のすべてを含めることが大事。
  6. マネージャーが短期的な財務指標に注目しすぎている昨今、ブランド価値が金銭的な儲けにつながっているんだということ、そういう諸側面を評価することが大事だということ(そしてそれを維持する方法)を心して説くべきである。

読了:Christodoulides, G. & de Chernatony, L. (2010) 消費者ベースのブランド価値測定

2012年6月14日 (木)

Gayo-Avello, D. (2012) "I Wanted to Predict Elections with Twitter and all I got was this Lousy Paper" -- A Balanced Survey on Election Prediction using Twitter Data. arXiv:1204.6441v1
 twitterによる選挙結果予測研究のレビュー。4月にarXiv (プレプリントサーバ。もちろん査読なし) に載ったもの。「お好きな方のためにあとで先行研究を挙げるが、ご多忙な読者のために、twitterデータを用いた選挙予測の「現状」に伴う主な諸問題について私が要約しよう」なあんて書いてある。論文というより、カジュアルなメモという感じ。
 著者いわく、twitterで選挙結果を予測する先行研究には以下の問題点がある。

 後半は先行研究17件をコメントつきで列挙。面倒なのでパスしたが、発表媒体は学会のProceedingsがほとんどで、さすが工学系という感じ。International AAAI Conference on Weblogs and Social Media というのが多かった。
 なんだかしらんが、頭もよくて威勢もよい若い人たちがガンガンやってる分野なんだろうなあ。くわばらくわばら。

読了:Gayo-Avello (2012) twitterによる選挙結果予測はくだらない(いまのところ)

2012年6月12日 (火)

Plummer, J. et al. (2007) "Measures of Engagement." Volume II. Advertising Research Fundation.
 市場調査会社や広告代理店が提供している、広告・ブランドに対する消費者の関与(engagement) の測定手法についての資料集、64頁。アメリカの広告業界団体ARFの分科会がまとめたホワイトペーパーらしい。この前年に出たVolume I の続編である由。いまみたら、どちらも結構な値段で売られている(なぜ私の手元にあるんだろう...いきさつが思い出せない)。
 
Chap.1. Engagement Framework: How do we predict attention and Engagement? (Heath, R.)
 前文というか、巻頭言みたいな章。著者はIJMRとか J. Advertising Researchなんかに論文があって、どうやら広告の研究者らしいんだけど、むこうの人は研究者と実務家の区別がつきにくくて、どうもよくわからない。Heath, Brandt & Nairn(2006, J. Ad. Res)という研究の紹介から話が始まるのだが、測定手法に"TM"と添え字がついていたりなんかして、もうね、そういうの、やめてほしいなあと...
 まあとにかく、ご研究によれば、ブランドへの好意に影響するのは広告の合理的内容ではなく感情的内容だ。ザイアンス先生いわく、感情は前認知的で回避不能で言語不要で測定困難だ。ダマシオ先生もザルトマン先生もそうおっしゃっているぞ。云々。
 ソマティック・マーカー仮説でいえば、感情的反応が意思決定のゲートウェイになるはずだが、そういう健常者実験が消費者行動研究にもあって、Shiv&Fedorikhan(1999, JCR)という研究は時間制約下の決定が感情的になるということを示している由(この説明だけでは、精緻化見込みモデルとどう違うのかわかんないけど...)。
 まあそんなこんなで、<感情→意識下での思考→潜在的ブランド態度変容→決定>という注意資源を必要としないルートと、<意識下での思考→意識的思考→顕在的態度→潜在的ブランド態度変容>という注意資源が必要なルートがあると考えましょう。で、関与水準を「広告が処理される際の意識下の感情の量」、注意水準を「広告が処理される際の意識的思考の量」と定義しましょう。云々。
 後半は、アイカメラを使って新聞広告とTV CMを比較した話とか、感情的内容の広告は必ずしも注意を引かないけど(作業記憶を食わないから)でも好意度は高い、とかなんとか。
 この文章の主旨じゃないんだろうけど、いかに実務家向けとはいえ、ある程度は厳密な議論をしてくれないと、はあさようですか、という感想しか持てない...

Chap.2. Engagement measures of brand message.
ここから先は、各社の手法の紹介。各社から集めた原稿をそのまま載せているようで、会社によってはただの宣材という感じだ。

Chap.3 Engagement Measures of Context.

Chap 4. Engagement Measures of Brand Idea.

読了:Plummer, et al. (2007) 広告・ブランド関与の測定手法集

2012年5月24日 (木)

Dubow, J.S. (1992) Occasion-based vs. user-based benefit segmentation: A case study. Journal of Advertising Research, 32(2), 11-18.
 occasion-based segmentation について書いている資料を探していて見つけた論文。検索でヒットするのは食品関係の資料ばかりで,マーケティング一般の問題として紹介しているのはなかなか見つからない。
 ここでoccasion-based benefit segmentation といっているのは,対象者に製品カテゴリの使用オケージョンを聴取し,さらにオケージョンごとにベネフィットを聴取して,(対象者ではなく) 対象者とオケージョンの組み合わせを単位として分類する,というアプローチのこと。そういうアプローチが有益なのはどういう状況においてか,という点の一般化に関心があったのだが,常識的に思いつくようなことしか書いてなかった。ま,いいや。

 紹介されている事例そのものよりも,思い出話が面白かった。著者は食品マーケティングが専門の大学教員だが,前職は米コカコーラだった由。
 1973年,コカコーラでは自社ブランドのロイヤルティ低下に悩んでいた。ソフトドリンク飲用者が,一日のなかでさえブランドをどんどんスイッチしちゃうのである。
 で,調査チームのメンバーであるStephen Turnerという人が,のちに「ニード・ステーツ仮説」と呼ばれることになるアイデアを産んだ。彼いわく,生じているのはバラエティ・シーキングではない。消費の場面場面によって,ニーズの状態の「パッケージ」がちがうのだ。だから,ニーズ状態のパッケージ別にブランドシェアを調べ,ニーズ状態のパッケージによって人とオケージョンをセグメンテーションしよう。
 というわけで,調査対象者にオケージョンごとに動機の重要性を評定させ,その人のそのオケージョンでの消費ボリューム(オンス) を動機に割り振ってシェアを出し,対象者xオケージョンを行にとったシェアの行列をk-means法で分類する ... というような方法で分析した。どうみてもムリヤリな分析手法だと思うが,ま,肝心なのはテクニックじゃなくてアイデアですよね。著者いわく,Turnerさんはその後すぐに会社を辞めちゃったもので,世間には知られていないのだが,occasion-based segmentationという発想を産んだのは彼である。
 幸いこの調査プロジェクトは成功を収めた。このときのサプライヤーが,National Analyst (コンサルらしい) ,マッキャン・エリクソン,そして調査会社Market Factsであった(後のSynovate,いまではIpsosですね)。
 さて,コカコーラは当時Wine Spectrumという会社を持っていたので,ワインについても同じ調査をやった。その後コカコーラはWine Spectrumをシーグラムに売り,シーグラムはさらにVintnersという会社に売った。1989年,著者はコカコーラを辞めて大学に移り,Vintnersに問い合わせたら,あの調査はもう古いから公開しちゃっていいよ,とのことであった(それがこの論文で紹介されている調査結果)。で,著者は分析結果のファイルを追い求め,Market Facts の廃棄書類から無事回収することができた。数日後に焼却する予定だったのだそうである。
 というわけで,集計結果しか残ってないので,クラスタ分析を再現することはできない由。ちょっと笑ってしまった。

 えーっと,あとはGelman-Hills本のChap. 3を読了。まだ本題に入ってないんだけど,交互作用項入りの回帰モデルでは係数の解釈が難しい,というくだりがちょっと面白かった。でも,あの本,くどい。とにかくくどい,死ぬほどくどい。

2015/05追記:上記論文に登場する、occasion-based segmentationを最初に思いついたStephen Turnerさんという人、名声をつかみ損ねてかわいそうに... と思っていたんだけど、ひょんなことからその後が判明した。アメリカの市場調査実査会社の会長になっておられるようです。いやー、よかったですね。

読了:Dubow (1992) 消費オケージョン・ベースのベネフィット・セグメンテーション

2012年5月23日 (水)

American Marketing Association (eds.) (2005) AMA Core Marketing Knowledge: Segmentation. American Marketing Association.
 数年前に社内研修資料を作る際に入手して、そのまま読まずに放置していたもの。これ、たぶんAMAがトレーニング用教材としてwebで配っていたものと思うのだが(もしかすると有料で)、このたび探してみても全然みつからない。万物が流れゆくこの社会においては、7年前の資料なんてもう誰も見向きもしないということだろうか。よくわからん。
 マーケターとリサーチャー向けの、セグメンテーションについての全9章からなる解説、全78頁。各章はおそらくAMAの雑誌 (Marketing Researchとか) に掲載された記事の再録などだと思う。各章の内容をメモ:

"Principles of Market Segmentation" (W.D. Neal) ... セグメンテーションの4要件、アプリオリ vs ポストホック、ベース変数のいろいろ、構築時の注意点、分類手法のいろいろ。

"Beyond Segmentation" (M.E.Raynor & H.S.Weinberg) ... あるセグメントから他のセグメントに進出するときになにに気をつけないといけないか。NicheとFootholdはちがう。云々。飛ばし読み。

"Defining Your Target Audience" (クレジットなし) ... ターゲット消費者のことをよく知りましょう。云々。飛ばし読み。

"Segmenting the Sales Force" (T. Grapentine) ... STPの考え方で営業スタッフを管理する、という話。組織コミットメントとか成績とかで分類して、面接とか調査とかやって、採用試験やら研修やらに生かす。云々。飛ばし読み。

"Identifying and Reaching Influencers" (P.M.Rand) ... クチコミの重要性は増している;インフルエンサーは大事だ;インフルエンサーはこんな人が多いという調査結果の紹介(結婚してて子供がいる由。ホンマカイナ); インフルエンサー("Bee")の周りにはアルファと呼ばれる消費者がいて情報を媒介している;メーカーも対インフルエンサー対策を始めている;云々。なんというか、そのー、時の流れを感じますね。

"Maladies of Marketing Segmentation" (T.Grapentine & R.Boomgaarden) ... この章は大変面白かった。読み手をメーカーの調査部門に絞って書いているからだと思う。
 著者いわく、セグメンテーションがうまくいかない理由は主に4つある。

  1. ターゲットセグメントとのコミュニケーションがうまくいかない。
    • →対策(1): ターゲットセグメントをデモグラ変数で特徴づけられないのはごくありふれた話だ。まず定性調査やっとけ。創造的になれ。
    • →対策(2): データベース上でターゲットセグメントを同定できないのもよくある話だ。プロジェクトを始める前に、ターゲットセグメントについてのマーケターの期待を理解し、期待値を下げておけ。新規顧客対象の簡単な調査を続けてデータを貯めて、ターゲットをデータベース上で判別できるような仕組みを時間をかけてつくる、というのも手だ。
  2. マネジメントの組織構造が柔軟性を欠いている。短期的・戦術的なインプリケーションを得るためのセグメンテーションならいいけど(タグラインを変えなさいとか)、長期的・戦略的なセグメンテーションは往々にして既存の組織構造を脅かすものだ。
    • →対策(1): 調査部門は組織構造を変えられないが、社内クライアントを教育することはできる。頑張れ。さらにいえば、戦略レベルのセグメンテーションより、個別の製品について戦術レベルのセグメンテーションをやったほうが生産的だぞ。(いやあ、身も蓋もないなあ)
    • →対策(2): 販売部門とマーケ部門の政治的な押したり引いたりは、うまくいえば健康的で実り豊かだが、リサーチャーにとっては時として地雷原である。たとえば、販売主導の会社で、リサーチャーが「最近の消費者は販売店にあまり影響を受けないようです」という知見を得てしまったとして、販売チャネル向けの広告費や販促費を減らしましょうなどというリコメンデーションを出すのは、相当な抵抗を受ける。できることはただ一つ、プロジェクトを始める前に上級管理職を味方につけておけ。それが無理なら、調査の焦点をもっと狭くしておけ。
  3. マーケッターがターゲットを絞れない。いろんなセグメントに売りたがる。
    • →対策:STPという考え方を教育しろ。(いやはや)
  4. マーケッターに経験が足りない。セグメンテーションしたいと言っておきながら、そのあとでどうしたらいいのかわからない。
    • →対策:事前にマーケターの経験と本気度を瀬踏みしろ。もし足りなさそうな場合には、自分がこれから先生役をするだけの能力があるかどうか考えろ。

 というわけで、セグメンテーションに際しての調査部門の心構えは次の4つ。

  1. 社内クライアントのコンサルタントになりなさい。まずはこんな風に問いなさい:「もし調査の結果、顧客へのコミュニケーションを変えないといけないとわかったら、どうしますか?」
  2. 上級管理職の「チャンピオン」を探しなさい。
  3. セグメンテーション調査にはコストがかかるということを率直に伝えなさい。
  4. ノーということを学びなさい。時には戦略的セグメンテーションを避け、戦術的でアプリオリなセグメンテーションで済ませなさい。

 。。。はっはっは。調べてみたら、著者は自営のコンサルタントで、この章はMarketing Research誌の2003年の記事だった。

”Refining the Research Microscope" (T.Grapentine & M.Klupp) ... セグメンテーションができたとして、各セグメントの中心的なメンバーをどうやって同定するか、という話。
 中心的メンバーを決めたくなる理由は3つある。

  1. 結局のところ、どんなセグメンテーションだってセグメント内部に異質性を抱え込んでいるわけで、中心的メンバーと周辺的メンバーの間には重要なちがいがあるだろうし、マーケティングミクスを最適化するためにはその違いが重要になるだろうから。
  2. 面接とかしたくなるから。
  3. ターゲットセグメントの中心的メンバーにおけるブランドロイヤリティを調べたいから。

 中心的メンバーを決めるためには、まずは所属セグメントについてのフィッシャー判別関数を求めなさい。SPSSは各対象者について、セグメント所属確率とかセグメント重心に対するマハラノビス距離の二乗とかを出してくれます。云々。急にデータ解析初歩コースみたいな話になるので、ちょっと笑ってしまった。著者は経験豊かな実務家らしいが、統計家ではなさそうだ。

"Better Than Sex: Identifying within-gender differences creates more targeted segmentation" (Q.Chen, et al.) ... 項目数の少ない gender尺度を作りましたという話。パス。

"Guided Selling" (L.B.Arthur) ... インターネット時代のマーケティングは、顧客に紐をつけて引っ張ってきて販売に渡すのが仕事じゃなくて、顧客に価値ある情報を与え教育して販売プロセスに導いてやるのが仕事だと考えねばならない。これからのマーケターは、販売部門と手を取り合って、顧客の声をもっと聴かなきゃならない。これがguided sellingという新しい考え方なのだっ。とかなんとか。斜め読み。

読了: AMA編 (2005) セグメンテーション教室

Beane, T.P., Ennis, D.M. (1987) Market Segmentation: A review. European Journal of Marketing, 21(5), 20-42.
 仕事の都合で、消費者調査に基づくマーケット・セグメンテーションについて概観した資料を集めていて、Beane&Ennis(1993) というのがよく引用されているようなので、PDFを買ってみた。中身もわからんのに高い金を出すのも怖いけど、時間もないし、まあ経費でどうにかなるだろう、と。
 で、読み進めるにつれ気が付いたのは、やたらに話題が古い。なんだかおかしい。もういちど調べたら、これ、87年の論文ではないか。出版社がデータベースに間違った発行年をいれているのだ(上のDOIリンクからだと正しいけど)。くっそーーーー。こんなこともあるのか。。。!
 さらに、87年刊としてみても、やはり相当古臭い内容の論文で、引用している文献はほとんど60-70年代のものばかり。わたくし、歴史家でも好事家でもないので、いまさら近代マーケティング勃興期の若々しい息吹を感じさせられてもですね。。。あああ、悔しい。。。カネ返して。。。

 見出しのメモだけとっておくと (内容をちゃんと読む気力はない。わがモチベーション地に落ちたり)

 ま、どうでもいいや! 次に行こう、次に!!

読了: Beane & Ennis (19xx) マーケット・セグメンテーションの超最新動向

2012年5月10日 (木)

Varki, S. & Chintagunta, P.K. (2004) The augmented latent class model: Incorporating additional heterogeneity in the latent class model for panel data. Journal of Marketing Research, 41(2), 226-233.
 購買記録データをもとに世帯をセグメンテーションする際に、「世帯のなかには、どこかひとつのセグメントに属している世帯と複数のセグメントに属している世帯があるのだ」と考えるモデルを提案する論文。なんでそんなケッタイなことを考えるのかというと、たとえば一人暮らし世帯なら、きっとどこかひとつのセグメントに属しているだろうけど、夫婦世帯の場合は、夫が買い物する時と妻が買い物するときで属しているセグメントがちがうかもしれない、でもどっちが買い物したかはデータからはわからない... というような問題意識があるらしい。なるほど。ご苦労様なことだ。

 Kamakura & Russell(1989)のモデル(LCM)から出発する。セグメント s に属する世帯 h が買い物 t においてブランド j を選択する確率を多項ロジットであらわす:
  \lambda_{h|s \times jt} = exp(\nu_{h|s \times jt}) / \sum_m exp(\nu_{h|s \times mt})
ここで\nu_{hsjt}は 効用 (から誤差項を抜いたやつ) で、
   \nu_{h|s \times jt} = \gamma_{sj} + X_{jt} \beta_s + Z_{hjt-1} \eta_s
 ただし、\gamma_{sj}はセグメント s のメンバーにとってのブランド j の固有の効用、X_{jt}はマーケティング変数のベクトルで \beta_s は係数ベクトル、Z_{hjt-1}は前回の買い物で j を買ったかどうかを示すダミー変数で \eta_s は状態依存性を示す係数、である。
 いっぽう著者らのモデルでは... 世帯のうち一定割合(q)は上記のモデルに従うが、残りの世帯(1-q)の選好は、各セグメントの選好の加重混合分布だと考える。つまり、世帯 h はセグメント s に対して重み g_hs を持っており(sを通じた合計が1になる)、買い物 t で ブランド j を選ぶ確率は、各セグメントのメンバーが持つ選択確率の重みつき合計だと考える。で、重みのベクトルはディリクレ分布に従うと仮定する(そろそろ蕁麻疹が...)。
 著者らはこれを ALCMモデルと呼んでいる。よくわかんないけど、simulated MLで推定できるんだそうだ。
 適用例は、スキャナー・パネル・データ、ピーナッツバター(4ブランド)とケチャップ(4ブランド)の2カテゴリ。マーケティング変数は価格と店頭プロモーション有無。各カテゴリのデータに、LCM, ALCM, 連続的なランダム効果モデル、それにrandom-shockがついてるやつ(Erdem, 1996 Marketing Sci.)、の4つを当てはめる。holdoutの予測はALCMで優れている、とかなんとか... 面倒なのでスキップ。

 この数値例では、qはピーナッツバターで.58, ケチャップで.40と推定されたそうだが、真の q がどんな値でも、このモデルはうまくいくのだろうか。直観的には、もし多くの世帯が一人暮らしだったら、こんな工夫をすることにあまり意義がなくなり、むしろパラメータ数が増える分だけ損するだろうと思う。逆に、もしほとんどの世帯が夫婦ものだったら、なにがなんだかよくわからないセグメンテーションになっちゃうんじゃないかしらん。

読了:Varki, S. & Chintagunta, P.K. (2004) 一部の世帯が複数セグメントに所属することを許す購買行動セグメンテーション

2012年5月 9日 (水)

 前々から不思議に思っているのだけれど、ID-POSデータやスキャナー・パネル・データを使って特定の製品カテゴリの購買を分析する際、往々にして、対象カテゴリの購入記録だけを抽出して分析しているように思う。ほんとは「今日はどれも買う気にならないや」という選択行動だってあるはずなのに、それはあらかじめデータから除外してしまっているわけである。しかし、「どれも買う気にならない」理由は、その日の虫の居所だけではなく、価格やプロモーションとも関係しているだろう。カテゴリ購入決定の要因とブランド選択の要因は重なっているわけだ。つまり、カテゴリ非購入はただのランダム欠損ではない。分析対象から単に除外してしまっては、ブランド選択の諸要因の効果測定にバイアスが生じるのではないかしらん?
 ネット調査によればインターネット使用率は100%近かった、なんていう調査結果に対しては鬼の首を取ったようにあざ笑う、意識の高い皆様が、販売記録に基づくブランド価値推定やプロモーション効果測定には特に異議を申し立てない。本質的には、どちらもinformative missingnessという問題を抱えていると思うんだけど。。。私にはどうもよくわからない。

Chib, S., Seetharaman, P.B., & Strijnev, A. (2004) Model of brand choice with a no-purchase option calibrated to scanner-panel data. Journal of Marketing Research, 41(2), 184-194.
 題名の通り、「買わない」選択肢つきの選択モデルを購買記録データに当てはめる、という論文。カテゴリ非購入の来店が取り除かれてしまっているデータの正しい分析方法がわかるかも、と期待していたのだが、そうではなくて、カテゴリ非購入が含まれているデータで、カテゴリ購入有無とブランド選択の両方を適切にモデル化する、という話であった。
 世帯 h が買い物 t においてあるカテゴリの製品を購入したかどうかを表す二値変数を y_{ht}、購入したときにそのブランド番号(1...J)を表すカテゴリカル変数を y*_{ht} とする(非購入時には欠損値を持つ)。価格を P_{htj}, 店内ディスプレイ有無をD_{htj}, チラシ広告有無をF_{htj}とする。
 まず、カテゴリの効用 z_{ht} を想定し、z_{ht}>0 のときに y_{ht}=1になると考える。で、z_{ht}は{切片項、J 個のブランドのPとDとF, 買い置きの量, 誤差} の線形和であると仮定する。誤差項を別にすれば 3J+2 個の係数が登場するわけだが、それらはすべて世帯によって異なると考え(うわあ...)、\gamma_{1h}, \gamma_{2h}, ... と呼ぶ。また長さ(3J+2)のベクトルとみなして \gamma_hとも呼ぶ。誤差 v_{ht}はN(0,1)に従うものとする。
 次に、ブランド j の効用 u_{htj} を想定し、それが最大であるブランドが y*_{ht} として選択されると考える。で、u_{htj}は{切片項、P, D, F, 誤差} の線形和であると仮定する。4つの係数はすべて世帯によって異なると考え、
  u_{htj} = \alpha_{hj} + \delta_{2h} P_{htj} + \delta_{3h} D_{htj} + \delta_{4h} F_{htj} + \eta_{htj}
とする(識別のために \alpha_{h1}=0とする)。きちんと定義してないけど、(J-1)個の\alphaと3個の\deltaからなる長さ(J+2)のベクトルを\delta_hと呼んでいる模様。誤差 \eta_{htj} からなる長さ J のベクトル \eta_{ht} は、平均0, 共分散行列 diag(1, \sigma_{22}, ..., \sigma_{JJ}) の正規分布に従うものとする。えーと、ブランドレベルの誤差はブランド間で独立とみなしているわけだ。
 識別の都合上、上の式を次のように書き換えておく。世帯h, 買い物tにおける各ブランドのP, D, F, \etaとブランド1のそれらとの差を、それぞれP', D', F', \eta'とし、
  u'_{htj} = \alpha_{hj} + \delta_{2h} P'_{htj} + \delta_{3h} D'_{htj} + \delta_{4h} F'_{htj} + \eta'_{htj}
とする(ただし j = {2, ..., J})。\eta'_{ht} の分散共分散行列は、対角要素が(1+\sigma_{22}, 1+\sigma_{33}, ..., 1+\sigma_{JJ}), 非対角要素がすべて1になる。
 ここに仮説をふたつ付け加える。第一に、カテゴリレベルの誤差 v_{ht}と、ブランドレベルの誤差\eta'_{ht2}, \eta'_{ht3}, ... が、共分散 \rho_{12}, \rho_{13}, ...を持つと仮定する。えーと、ブランドレベルの誤差はブランド間で独立だがカテゴリ-ブランド間では独立でない、と考えているわけだ。第二に、カテゴリレベルの係数ベクトル \gamma_h とブランドレベルの係数 \delta_h を縦に積み、驚くなかれ、共分散行列をそっくり自由推定してしまう。

 。。。このやったらにリッチな、パラメータ数の多いモデルを,力づくでMCMC推定してしまう。著者らは先行研究でのいくつかのモデルを紹介し(多項ロジットモデルに「買わない」選択肢を追加するのとか、nested logitモデルとか、効用最大化のGEVモデルとか)、それらよりもこのモデルのほうが柔軟だと述べているが、細かいことはわかんないんだけど、さもありなんと思う。草木を薙ぎ倒し小川を踏み潰し、MCMCという名の重戦車で近隣諸国を蹂躙する、という感じだ。なんだかなあ、もう。
 適用例は、コーラのスキャナー・パネル・データ、対象店舗(2店舗)のいずれかでコーラを買った人を対象する。コーラを買ってなくても、店舗来訪じたいは別カテゴリの購買記録でわかる。買い置き量は過去の買い物記録から推定する。ブランドはシェアの順に、ペプシ、コカコーラ、RCコーラ、PBの4つ。
 モデルを当てはめた結果、holdoutデータへの説明率はnested logitモデルより改善した由。で、推定したパラメータについて細かく議論している。カテゴリ購入に効くのはペプシの値下げだ、とかなんとか。

 私が理解し損ねているのかもしれないが、個々の消費者の選択行動という観点に立った時、モデルの組み方がなんだかぴんとこない。このモデルでは、各世帯においてブランドの価格がそのブランドの効用に与える価格の効果はブランド間で等しいことになっているが、価格弾力性がどのブランドでも共通だという仮定はちょっと直観に反すると思う。またこのモデルでは、各世帯においてどのブランドの価格の変化も大なり小なりカテゴリの効用に影響することになっているが、買わないブランドの価格がカテゴリ購買決定に影響するものだろうか。うーむ。

読了:Chib, Seetharaman, & Strijnev (2004) スキャナー・パネル・データのための「買わない」選択肢つきブランド選択モデル

2012年4月27日 (金)

Erdem, T., Zhao, Y, & Valenzuela, A. (2004) Performance of store brands: A cross-country analysis of consumer store-brand preferences, perceptions, and risk. Journal of Marketing Research, 41(1), 86-100.
 ストア・ブランド(PB)のシェアは、ヨーロッパで高くアメリカで低いのだそうだ。その理由をホーム・スキャン・パネル・データだけで突き止めます、という論文。
 こういう研究をする人って、ほんとに問いから出発しているのだろうか? それとも、データを入手できて高度な分析モデルを作れる人が、研究のために問いを探すのだろうか? どちらともいえないんだろうけど、この研究に関する限り、後者の色合いが強いんだろうなあと思う。

 いやあ、難しかった、読み通すのがホントに、ホントに大変だった。主因はもちろん私の能力不足だが、いっちゃなんだけど、ちょっとわかりにくいと思うんですよね、と小声でぼやいたりなんかして...
 モデルについての説明を抜き書き。ほんとはナショナル・ブランド群とストア・ブランド群の話を並行して進めていくのだけど、仕組みはまったく同じなので、ナショナル・ブランドについての説明のみ抜き出す。各ナショナルブランドを表す添え字は原文では j_n だが、簡略のために j と書く。分散パラメータ\sigma^2_Aや\sigma^2_xにも、原文では添え字A, x にさらに添え字 n がついているのだが、略記する。Eの添え字の順番が途中で入れ変わっているけど、原文ママである。

 消費者は不完全な情報しか与えられておらず、したがって製品の品質についてuncertainだろう。[...] そこで以下のように定義する。
  X_{ijt} = A_j + x_{ijt}
 ただし、X_{ijt}は消費者 i が時点 t において仮にナショナル・ブランド j を買っていたらそのときに感じていたであろう全体的品質水準、A_j はナショナル・ブランド j の(真の)平均的な品質水準、x_{ijt}はi.i.d.な偶然誤差項である。x_{ijt}は、ある消費者が偶然に「不良品」ないし「もうけもの」を得ることを表しうるだけでなく、消費者が品質水準を完全に評価できないというinabilityをも表しうる。[...]

 消費者はナショナルブランドの品質水準の平均(A_j)についてベイズ更新によって学習する、と仮定する。[...] また、品質水準A_jについての消費者の事前分布は、t=0の時点では正規分布に従うと仮定する。
  A_j \sim N(\bar{A}_j, \sigma^2_A)
ただし、\bar{A}_jはナショナル・ブランド j の知覚品質水準の事前平均であり、各消費者において E_{0i}[A_j] = \bar{A}_jとなる。 \sigma^2_Aは、消費者 i が時点 t=0 において知覚した、このナショナルブランドの品質水準の事前分散である。[...] \sigma^2_Aは、ナショナルブランドについての消費者の初期状態でのuncertanity(知覚品質水準についての初期状態の分散、ないし事前分散)を捉えている。[...]

 消費者の潜在的属性(品質)知覚に付随する偶然誤差項は次のように分布する:
  x_{ijt} \sim N(0, \sigma^2_x),
ただし\sigma^2_xは、ナショナルブランドに共通な、経験の変動性である。x_{ijt}は消費者、ナショナルブランド、時点を通じてi.i.d.であると仮定する。[...]

 消費者はベイズ更新器のようにふるまうのだから、潜在属性水準(たとえば品質)への消費者の期待は、以下のように表現できる:
  E_{it}[ A_j ] = A_j + z_{ijt},
  z_{ijt} \sim N(0, \sigma^2_{A_{ijt}})
ここで \sigma^2_{A_{ijt}} は、消費者 i の時点 uにおけるナショナルブランド j についての期待誤差であり、\sigma^2_{A_{ijt}}=E[(A_j - E_{ti}[A_j])^2]である。\sigma^2_{A_{ijt}}は、消費者 i が時点 t においてブランド j に対して持つ期待の誤差について消費者 i が持っている分散を示している。それは消費者の品質についての(ないし不完全にしか観察されない属性についての)信念のばらつきを反映し、消費者への知覚されたリスクを表している。[...]

 時点 t において消費者 i は、ブランド j の経験における驚きの諸要素から、そこに含まれる情報を受け取り、それによって品質水準の平均 A_jについての期待を更新する。したがって、ベイズルールによれば
  E_{ti}[ A_j ] = E_{t-1, i} [ A_j ] + \sum_{j=1} D_{ijt} \beta_{ijt} (X_{ijt} - E_{t-1, i}[ X_{ijt} ])
[サメーション記号のインデクスがサメ―ションの外側の添え字と同じになっているので、わけがわからない。おそらく、サメーションの内側の j はすべて同一の別の記号に書き換えたほうがいいのだろう]
ただしD_{ijt}は、消費者 i がナショナルブランド j を使用したときに1, そうでないときに0 となる。[...]

 \betaはカルマンゲイン係数で、カルマンフィルタリングのアルゴリズムから得ることができる。
  \beta_{ijt} = \sigma^2_{A_{ijt}} / ( \sigma^2_{A_{ijt}} + \sigma^2_x )
ここで\beta_{ijt}は、消費者 i が時点 t においてナショナルブランド j の品質水準を評価するとき[正しくは「任意のナショナルブランドの品質水準を比較するとき」だと思う]、ナショナルブランド j の過去の購入から得た情報に与える重みである。[...]
 消費者 i は、時点 t において j の品質水準の分散 \sigma^2_{A_{ijt}}も更新する。
  \sigma^2_{A_{ijt}} = (1-\beta_{ijt}) \sigma^2_{A_{ijt-1}}
 [...]

 先に述べたようにz_{ijt} = E_{ti}[A_j] - A_j である。さらに、x_{ijt} の平均は 0 だから、E_{t-1, i}[X_{ijt}] = E_{t-1,i}[A_j]である。したがって
  z_{ijt} = z_{ijt-1} + \sum_j D_{ijt} \beta_{ijt} (x_{ijt} - z_{ijt-1})
である。

 ああでもないこうでもないと、まるまる一晩悩んだんだけど、やっぱり理解できなかった。特に理解できないのは、A_j と E_{ti}[ A_j ]という記号の意味である。こういうことを書き留めると嗤われちゃうかもしれないけど、のちのちのために、現時点での混乱ぶりを正直にメモしておくことにする。

 心のなかで有力な解釈は、いまのところこういうものだ。

 ブランド j の品質を、N(\bar{A}_j, \sigma^2_A)に従う確率変数 A_j で表す。もちろん品質は消費者や使用状況に対して相対的に決まるものだが,その分布は個別具体的な使用経験からは独立に、アプリオリに決まっている。つまり、A_j は信念ではない。個別の使用経験におけるブランド j の知覚品質は、A_j にホワイトノイズ x_{ijk} が乗ったものである。つまりこのモデルでは、ブランド j の知覚品質は、ブランド j についての個々の消費者の信念とは無関係に決まっている。

 消費者 i が時点 t において持っているブランド j の品質についての信念を確率変数 E_{ti}[ A_j ] で表す。ここで E というのは確率分布の平均を表す記号でなくて、A_jとは別の確率分布を表す記号なのだ(←え?)。t=0 におけるその分布は、なぜかA_j の分布に一致する(←えええ?)。著者は E_{0i}[A_j] = \bar{A}_j と書いているけど、これはなにかの間違いで、ほんとは E_{0i}[A_j]=A_j と書くべきだ。

 信念を表す確率分布 E_{ti}[ A_j ] は、使用経験に伴って更新される。これを,A_j に z_{ijt}が乗った分布として捉えることができる。z_{ijt}の分散は時点とともに小さくなる。

 。。。うーむ。かなりおかしい。この解釈だと、あらゆる使用経験の背後にある不変な品質が、時点0での信念に一致する、という奇妙な話になる。Eが期待値の記号じゃないというのも無理がある。

 もうひとつの解釈はこうだ。

  ブランド j の品質についての信念を確率変数で表す。その分布は個々の消費者の使用経験に従って更新されていく。それはほんとは A_{ijt} とでも書かないといけないんだけど、論文ではめんどくさいのでA_j と略記している (←まさか...)。個別の使用経験におけるブランド j の知覚品質は、そのときどきの信念 A_j (本来はA_{ijt}と書くべき) にノイズ x_{ijk} が乗ったものである。

 t=0における A_j (本来はA_{j0}とでも書くべき)の分布はN(\bar{A}_j, \sigma^2_A)に従う。
 消費者 i が時点 t において持っている信念 A_j (本来はA_{ijt}と書くべき)の分布の平均を E_{ti}[ A_j ] と表す。ここで E というのは、確率分布の(条件つきの)期待値を表す記号である。

 信念を表す確率分布 A_j (本来は A_{ijt} と書くべき)は、使用経験に伴って更新されていく。これを,初期分布 A_j (本来はA_{j0}とでも書くべき) が左右にz_{ijt}だけ動いた分布として捉えることができる。z_{ijt}の分散は時点とともに小さくなる。著者は E_{it}[ A_j ] = A_j + z_{ijt} と書いているけど、これはなにかの間違いで、ほんとは E_{it}[ A_j ] = \bar{A}_j + z_{ijt} と書くべきだ。

 。。。うーむ。これもなんだかおかしい。話の筋は通るけど,まさかそんな変な書き方はしないだろう。

 。。。私の手に負えない、あきらめよう。とにかく、話のポイントはこうだと思う。このモデルでは、消費者は各ブランドの知覚品質についての期待を時点ごとに更新していく。しかし、あるブランドの使用時の知覚品質が良かったときにそのブランドへの期待が上がるのではなく、あるナショナル・ブランドの使用時の知覚品質が良かったときにはすべてのナショナル・ブランドへの期待が上がり、あるストア・ブランドの使用時の知覚品質がよかったときにはすべてのストア・ブランドへの期待が上がる。

 ここまでのところで疲れ切ってしまったので、あとは簡単に...
 消費者 i にとっての時点 t でのブランド j の効用 U_{ijt} は知覚品質 X_{ijt} と価格P_{ijt} で決まると考え、
  U_{ijt} = \alpha_i P_{ijt} + \omega_i X_{ijt} + \omega_0 \gamma_i X^2_{ijt} + \epsilon_{ijt}
と仮定する。係数は基本的にランダム係数で、正規分布を仮定。知覚品質をわざわざ二次にしているのは、リスク志向性の個人差を表現したいからである (\omega_0 \gamma_i が正だったらリスク志向的)。上の式から\epsilon_{ijt}を取り除いたやつをV_{ijt}として、消費者の選択をE[V_{ijt}]をつかった多項ロジットでモデル化する。
 このモデルをいろんな国のスキャン・パネル・データに当てはめる。同定のための制約をいくつかつければsimulated MLで推定できるのだそうだ。カテゴリは、洗剤(米・英・スペイン)、トイレットペーパーとマーガリン(米・スペイン)。国xカテゴリごとに4~7ブランド、うちひとつがストア・ブランド。で、以下の指標を比較する。

どの指標も、大きいときにストアブランドが不利になるはずの指標である。
 その結果... どの国 x ブランドでも、消費者はリスク回避的。事前のuncertainty は0でない。どの5つの指標も、米・英・スペインの順に大きいのだが、r_1, r_2, r_3での差がすごく大きい。つまり、米のストア・ブランドは、品質について確信が持てず、使うたびに良かったり悪かったりするし、そもそも米の消費者は価格感受性に比べてリスク回避的だ、というわけだ。

 あああ、疲れた。。。苦労して読んだ結果,何を得たのかよくわからないが,カルマン・フィルタについての知識が足りないことがわかったので,よしとしよう。
 アメリカのストア・ブランドは、品質が低そうだという意味でエクイティが低いのではなく、むしろ品質がよくわからないという意味でエクイティが低いのだ,という知見が面白いと思った。実のところ、英のストアブランドは高品質路線、スペインのストアブランドは低品質路線なのだそうだ。とにかく整合的なポジショニングが大事なのであり、アメリカのストア・ブランドはそれができていない、ということらしい。たった数カテゴリの知見でなにを偉そうに,というツッコミは野暮というものであって,そんなことが購買データだけでわかるなんてすごいなあ,と素直に感心するのが正しい読み方であろう。

読了:Erdem, Zaho, & Valenzuela, A. (2004) アメリカでPBが売れない理由を購買データだけで突き止める

2012年4月21日 (土)

van Heerde, H.J., Gupta, S., Wittink, D.R. (2003) Is 75% of the sales promotion bump due to brand switching? No, only 33% is. Journal of Marketing Research, 40(4), 481-491.
 ええと、話の発端としては... ブランドの売上の弾力性は、カテゴリ購入の弾力性、ブランド選択の弾力性、購入数量の弾力性、の3つに分解できる。
 ある世帯である機会にカテゴリ購入が生じる確率を P(I), カテゴリ購入が生じた場合のブランドjの選択確率を P(C_j | I), ブランドjの購入が生じた場合の購入数量を Q_j とする。ブランドjの売上数量 S_j はこの3つの積になる。すなわち
 S_j = P(I) P(C_j | I) Q_j
 価格弾力性について考えよう。ある購入時点でのブランドjの価格と、ブランドjの標準価格との比を D_j とする。売上数量の価格弾力性は、-(売上の変化率/価格の変化率)、書き換えると-(もとの価格水準/もとの売上水準)(売上の変化量/価格の変化量)である。これを偏微分で表して
 \eta_{S_j} = (\partial S_j / \partial D_j) (D_j / S_j)
このS_j にさっきの式を代入して下式が得られる:
 \eta_{S_j} = \eta_{I_j} + \eta_{C_j} + \eta_{Q_j}
右辺の3つの項はそれぞれ、ブランドjの価格に対するカテゴリ購入の弾力性、ブランド選択確率の弾力性、購入数量の弾力性である。おお、分解できている。このうちカテゴリ購入と売上数量を一次需要効果、ブランド選択を二次需要効果という。
 Gupta(1988, JMR)という研究がプロモーションの効果にこの分解を当てはめ、以来たくさんの研究者がいろんなカテゴリについてこの分解を試みている由。コーヒーでは14:84:2だとか(Gupta, 1988)、ヨーグルトでは15:40:45だとか(Chintagunta, 1993)。概してブランド選択確率の弾力性が占める割合が大きいといわれている。
 問題はこの割合をどう解釈するかである。たとえばGupta(1988)はこういっているのだそうだ:「プロモーションが引き起こした売上増のうち、84%以上がブランド・スイッチングに由来している」。著者らは先行研究での文言を一覧表にしているのだが(暇だねえ)、多くの研究者が、この割合を売上数量に占める割合と解釈している。プロモーションによって売上が100個増えたとして、そのうち84個が他ブランドからのスイッチだ、という解釈である。
 この解釈は間違っています、というのがこの論文の主旨。やれやれ、疲れた。

 どこが間違っているかというと、プロモーションによってブランド売上だけでなくカテゴリ売上も増えるからである。著者らの説明は以下の通り。
 各週に購入機会が1000回生じ、カテゴリ購入率が20%、購入が生じた場合の購入数量は1個、購入が生じた場合のあるブランドの選択確率が18%だとする。ある週のカテゴリ売上は1000*20%=200個、うち当該ブランドの売上は200*18%=36個である。
 いま、ブランド売上の弾力性が0.248のブランド・プロモーションを行う。その弾力性が14:84:2に分解できるとしよう。つまり、カテゴリ購入0.034、ブランド選択0.210、購入数量0.004である。
 プロモーションの結果、ブランドの売上は1.248 * 36 = 45.2個となり、9.2個増える。さて、この9.2個はどこから来たか?
 まず、ブランド選択確率は1.210 * 18% = 21.8%であり、もとの200個のうち当該ブランドの売上は200*21.8%=43.6個である。他ブランドから7.6個奪ったわけだ。これは増加した9.2個のうち83%にあたり、弾力性の分解と対応している。
 ところが問題は、カテゴリの売上も増えているという点である。カテゴリ購入率は1.034*20%=20.7%、カテゴリ売上は1000*20.7%=207個、つまり7個増えているのだ。この7個のうち、7 * (100%-21.8%) = 5.4 個は他ブランドに流れる。他ブランドの立場に立つと、7.6個減って5.4個増え、差し引き2.2個の減少である。つまり、当該ブランドの増加9.2個のうち、他ブランドからのスイッチは、84%どころか、たったの2.2/9.2=24.3%だったことになる。

 というわけで、著者らは(売上の弾力性ではなく)売上数量の変化を分解する方法を提案し、実データ(世帯パネルデータ)への適用例を示している。面倒なので飛ばし読み。実務的な示唆としては、販売プロモーションの効果に占めるブランド・スイッチングは、売上数量ベースで考えるなら、いままで思っていたよりずーっと小さかった、という話である。

 どういう事情だったのかさっぱり忘れちゃったけど、この論文、前に仕事の都合で「お前らこれを読め」と回覧されてきて、しかしいざ他人に読めと言われると面倒くさくなってしまい、結局読まずじまいだった奴だ。その節はどうもすいませんでした。

読了:van Heerde, Gupta, & Wittink (2003) 販促の効果に占めるブランドスイッチングは君が思うよりずっと小さい

2012年4月20日 (金)

Pauwels, K., Hanssens, D.M., Siddarth, S. (2002) The long-term effects of price promotions on category incidence, brand choice, and purchase quantity. Journal of Marketing Research, 39(4), 421-439.
 価格プロモーション(要するに値引きのことですね)の影響を、{カテゴリ購入、ブランド選択、購入数量}における{即時的、調整的、永続的}効果に分類し、この3x3=9マスの全てについてひとつの枠組みで検討いたします、という論文。ここで調整的効果というのは、値引き実施時に生じた変化が、値引き終了後に元のレベルに戻ったり、新しいレベルに落ち着いたりするまでに生じる効果を指している。従来のモデルではこの調整的効果と永続的効果を区別できていなかった由。

 値引きが即時的には売上にポジティブな効果をもたらすのはいいとして、調整的効果・永続的効果について考えると、著者らいわく、その背後にありそうなメカニズムは山ほどある。

 以上に基づき、著者らは値下げの調整的効果はカテゴリ購入についてポジティブ、ブランド選択についてネガティブだと予測している。うーん、前者のロジックがいまいちわからない。ポジティブなメカニズムもネガティブなメカニズムも想定できるし、どちらが勝つかわからないと思うんだけど。
 そんなこんなで、著者らは仮説として次の10個を挙げている:

  1. 即時的効果はポジティブであり、カテゴリ購入・購入数量よりもブランド選択において大きい。(Bell et al., 1999 Marketing Sci. による)
  2. 調整的効果は、カテゴリ購入についてはポジティブ、ブランド選択においてはネガティブである。(←上述の理屈による)
  3. 永続的効果は存在しない。(←えーっ、つまんないの)
  4. 全部合わせた効果は、カテゴリ購入・ブランド選択・購入数量の全てにおいてポジティブだ。
  5. 全部合わせた効果は、カテゴリ購入において一番大きい。
  6. 買い置き可能な製品では、全部合わせた効果はブランド選択においてよりも購入数量において大きい。
  7. 買い置き不能な製品では、全部合わせた効果は購入数量においてよりもブランド選択において大きい。
  8. 全部合わせた効果は、購入数量においては買い置き不能な製品よりも買い置き可能な製品のほうで大きく、カテゴリ購入・ブランド選択においては差がない。
  9. カテゴリ購入・ブランド選択・購入数量のいずれにおいても、効果は四半期(13週)以内に消える。(←永続的でないという主旨)
  10. 調整的効果の期間は買い置き可能な製品において長い。

 Journal of Marketing ResearchやJournal of Consumer Researchの論文や、マーケティング系の消費者行動研究の発表を聞いていて、何度か不思議に思ったことがあるのだが、この分野の研究者の方は、なぜか執拗なまでに仮説検証型研究の論述スタイルに従い、仮説H1, H2, ...をインデントしてリストアップしたがる傾向があるように思う。よくよく読むと、仮説を導出するロジックがあいまいだったり、仮説そのものが定性的だったりして(まさにこの論文がそうだ)、むしろ作業仮説を踏まえた探索研究という感じなのだから、H1, H2だなんて堅苦しい書き方をしなくてもいいんじゃないかと思うのだが。こういう書き方については、心理学の基礎研究のほうがかえって自由であるように思う。もしかすると、消費者行動研究のほうがrigidな方法論から遠い(と思われてんじゃないかしらと研究者が気にしている)ぶんだけ、スタイルにはこだわる、というような歴史的いきさつがあるのかもしれない。

 それはまあどうでもいいや。問題は分析手続きである。バリバリの経済時系列分析。苦手分野なので、読み通すのが大変だった。
 ホーム・スキャン・データを使っているにも関わらず、世帯レベルではなく店舗レベルの時系列データを分析している。2年3ヶ月間のデータを用い、スープ缶(買い置き可能)とヨーグルト(買い置き不能)の購買記録を、店舗xブランド別に集計する。スープ缶について4店舗(各店舗について3ブランド、延べ12ブランド)、ヨーグルトについて3店舗(各店舗について5~6ブランド、延べ17ブランド)に注目し、週ごとに、カテゴリ購入者数、ブランド選択率(指標としてシェア/(1-シェア)を使っている)、購入者あたり平均購入数量を算出する。えーと、全部で29x3本の多変量時系列だ。
 分析を3つのステップに分ける。ステップ1では、個々の時系列について、それが定常かどうかを片っ端から単位根検定(ADF検定)で検討する。いくつか有意にならなかった時系列があるのだが、個々にケチをつけて分析から除外し、すべて定常ですと結論する(仮説3を支持)。なお価格の時系列も、缶スープはトレンド定常、ヨーグルトは(新製品参入による影響をダミー変数で説明すれば)定常だったそうだ。
 ステップ2では、カテゴリx店舗xブランド別に二次のベクトル自己回帰(VAR)モデルを構築する。たとえばスープ缶、店舗1、ブランド1については、{カテゴリ購入者数、ブランド1選択率、ブランド1購入数量、ブランド1価格、ブランド2価格、ブランド3価格} の6つが内生変数、各ブランドのfeature有無とdisplay有無(なんて訳せばいいんだろう)が外生変数。価格を内生変数にしているのにはびっくりしたが、競合の反応やパフォーマンス・フィードバックをモデルにいれようとしているわけだ。
 ステップ3では、構築したVARモデルから、当該ブランドの価格をいきなり1SDだけ下げたときになにが起きるかを表すインパルス反応関数を導出する。ここの手順は難しくて理解できなかった。えーと、その結果、即時的効果は3つの指標ですべてポジティブ、弾力性はブランド選択でもっとも高かった(仮説1を支持)。調整的効果はだいたい2週間くらい続き(仮説9を支持)、購入数量における効果はスープ缶で長かった(仮説10を支持)。弾力性はカテゴリ購入についてはポジティブ、ブランド選択についてはネガティブ(仮説2を支持)。即時的効果と調整的効果を合計すると、どの指標でもだいたいポジティブで(仮説4を支持)、3つの指標における弾力性を比に直すとスープでは66:11:23、ヨーグルトでは58:39:3 (仮説5,6,7を支持)。スープ缶のほうが購入数量の弾力性が高かった(仮説8を支持)。云々。
 ご丁寧にも、同じデータに世帯レベルのモデルを当てはめ、推定された弾力性を比較したりしている。面倒なので省略。

 上記のメモは全部読み通してからまとめたのだが、論文は手法と結果をこれまたrigidに分けて説明していて、手法のところには「もし時系列が定常でなかったら共和分分析で長期均衡が存在するかどうか調べなきゃ」とか「その際にはVARモデルではなくベクトル誤差修正モデルを構築しなきゃ」とか、エライ難しそうな話が書き連ねてあり、肝が冷えた。結果として定常だったから、結局VARモデルしか使っていないのだが。あー、怖かった、脅かさないでほしい。
 ともあれ、時系列データの分析手法について、とても勉強になった。しかし冷静になってみると、要するにこの論文は「ある店舗のあるブランドの売上の時系列は長期的には平均に収束する性質を持っていました、ゆえに、価格プロモーションには永続的効果がないものと思われます」と主張しているわけだ。ケチをつけるわけじゃないけど、ブランド価値を棄損しちゃったり内的参照価格を変えちゃったり競合を巻き込んじゃうような破壊的な値引きが、たまたまこの観察データ内になかった、ということに過ぎないのかもしれないですね。さらにシニカルにいえば、価格プロモーションの効果が総体としてポジティブであるという知見も、価格プロモーション自体の性質というより、観察した店舗とブランドに関して、関係者が価格プロモーションを上手く使ってた、という話かもしれない。著者らはマネジリアルな示唆として「実務家のみなさん、価格プロモーションも悪くないっすよ」と述べているのだが、あんまり真に受けるのもどうかと思った。

読了:Pauwels, Hanssens, & Siddarth (2002) 値引きの長期的功罪

2012年4月12日 (木)

Dillon, W.R., Frederick, D.G., Tangpanichdee, V. (1985) Decision issues in building perceptual product spaces with multi-attribute rating data. Journal of Consumer Research, 12(1), 47-63.
 消費者調査の分野でよく登場する,製品ないしブランドの知覚マップのつくりかたについての解説。製品の多属性評価データに基づくマッピングを前提に,データ入力,データの相(mode),事前処理,選好のモデル化,技法,解,の6つの段階に分けて,問題と注意点を列挙している。
 仕事の足しになるかと思って読んだ。なにぶんにも20年近く前の論文なので,いささかout of dateなところもあるのだが,こういうレビューは頭の整理になるような気がする。
 列挙されている注意点をメモしておくと:

 製品開発やブランドに関わるサーヴェイ調査データは,ヒト x モノ(製品ないしブランド) x コト(属性)の3相データになることが多い。測定値は立方体の形に並ぶわけだ。仕事の関係で調査データの分析レポートを目にする機会があると,ついつい「この業者さんは3相データをどう処理しているかな...」とチェックしてしまうんだけど,対象者xモノを行,項目を列にとった縦積みのローデータを因子分析して,因子得点で重回帰して... っていうの,非常に多いですね。Srinivasanらのいうtotal analysis, この論文でいう extended data matrixアプローチである。
 それがまずいという指摘はこの論文に限らず時々見かけるし,仕事のなかで頻繁に議論になる問題である(月に一回くらいの頻度でこの話を誰かに説明しているような気がする)。以前,説明の際のネタにしようと思い,このアプローチを採用している(いわば悪役の)実証研究を探してみたことがあるのだが,うまくみつけられなかった。この論文では,Hauser & Koppelman (1979, JMR), Huber & Holbrook(1979, JMR)が挙げられているけど,うーん,もっと新しいのはないかしらん。

 ところで... 以前,社内研修で3相データの扱いについて話す際,この立方体になんかステキな愛称がつけらんないもんかしらんと首を捻ったことがあったのだが(そういうくだらないことばかり考えているからいけないのかもしれない),この論文によれば,なんと! すでに50年代に,R. CattellがこれをBDRM(Basic Data Reduction Matrix) と呼んでいるのだそうだ。し・ら・な・か・っ・た! 70年前後にCattellが多相データについて論じる際,"Data Box"という言い回しを使っているのは見かけていたのだが。。。
 Cattellは知能研究の話には必ず出てくるビッグ・ネームで,私も心理学の講義をやっていた時分には,あたかもその研究について知悉しているかのように紹介していたものだが,恥ずかしながら通り一遍の知識しかなく,院生のころに聞いた先輩の「キャッテル先生,ペット飼ってますか?」「うんキャッテル」という冗談だけが妙に印象に残っている。ごめんなさいごめんなさい。
 それにしても,Cattellの名前にこんなに動揺したのが,我ながら可笑しい。仕事がらみの資料をフガフガと気楽に読んでいて,いきなり心理学者の名前が出てくると,ある町を散歩していたら不意に別の町に着いたような気がするのである。

読了:Dillon et al. (1985) 製品マップのつくりかた

2012年3月30日 (金)

Russell, G.J., & Petersen, A. (2000) Analysis of cross category dependence in market basket selection. Journal of Retailing, 76(3), 367-392.
 複数カテゴリ購買の確率モデル。仕事の都合でこの種の論文を何本か集めたのだが、これはコピーだけとって読んでなかった。仕事のほうは一段落しちゃったんだけど、せっかくだからざっと目を通した。

 いろいろ理を尽くして説明してるけど(ページ数が増えるわけだ)、要するに多変量ロジスティック回帰である。消費者 k が買い物 t においてカテゴリ i を買ったかどうかを表す二値変数を C(i,k,t)、その背後にある効用を U(i,k,t)とし、
 U(i,k,t) = \beta_i + HH_{ikt} + MIX_{ikt} + \sum_j \theta_{ijk} C(j,k,t) + \epsilon(i,k,t)
とする。HHは世帯特性、MIXはマーケティングミクス変数。CとUはlogitでつなぐ。このモデルから交差価格弾力性が導出できる由。
 モデルの適用例として、ペーパータオル、トイレットペーパー、顔用ティッシュ、紙ナプキンの4カテゴリについてのホームスキャンデータを分析。HHは前回購入からの期間とロイヤルティ。MIXは価格(その時点、その地域での購買価格を平均しているらしい)。\theta_{ijk}はカテゴリ(i, j)間の関連性の係数(世帯間で共通)と、世帯k における平均バスケットサイズに分解する。で、もっと簡単なモデルと比較して、データへの当てはまり(BICとhold outでの対数尤度)が良いことを示している。
 推定された交差価格弾力性はだいたい負だったが(つまりカテゴリ間には相補性があったが)、案外小さかった由。先生、もうちょっと別のカテゴリでご研究なさったほうが面白いんじゃないですかね。
 こういうモデルを組まずに、2^(カテゴリ数)の組み合わせに対するバスケットの経験分布をカテゴリ間が独立だったときに期待される分布と比べることを、affinity analysisというのだそうだ(wikipediaにも載っていた。やれやれ)。そういう視点から上記データを分析すると、2カテゴリ併買のバスケットが期待より少ない、つまりカテゴリ間には代替性がある、という知見が得られてしまう。これはマーケティングミクス変数や消費者異質性を無視したせいで生じる誤りだ、云々。なるほど。

 分析例では全カテゴリについて同時にML推定しているようで、どうみてもスケーラビリティがなさそうな話だなあと思ったのだが、著者いわく、カテゴリ数が多くなったらば、まず個々のカテゴリについて推定し、それからMCMCで全バスケットの分布を推定すればよろしいんじゃないですか、とのこと。ふうん...?
 ところで、購買におけるカテゴリ間関係についての説明には、この論文のようなモデル(著者らは大域的効用モデルと呼んでいる)のほかに、店舗選択モデルというのもある由。なるほど、「カテゴリXとYが同じバスケットに入りやすい」という関連性は、その時々の店舗選択によって生じるartifactという面もあるだろう。先行研究として、大域的効用モデルではHarlam&Lodish(1995,JMR), Erdem(1998,JMR), Marchanda et al.(1999)、店舗選択モデルではBell & Lattin(1998, Marketing Sci.)というのが挙げられている。

 これまでに読んだ論文を比べてみると,どれもよく似ている。いずれも、複数カテゴリのバスケット分析を目的とし、世帯レベルの購買データに、ある買い物における複数カテゴリの購買有無を従属変数群、世帯変数とマーケティングミクス変数を独立変数群にとった多変量回帰モデルをあてはめている。ちがいは、

Marchanda et al. (1999)Russell & Peterson (2000)Chib et al. (2002)Boztug & Hildebrandt (2005)感想
カテゴリ間の相補性・代替性をモデルでどう表現するか他カテゴリのマーケティングミクス変数を独立変数にし、さらに残差共分散を自由推定他カテゴリの購買有無を直接に独立変数にする残差共分散を自由推定他カテゴリの購買有無を直接に独立変数にするモデルに入れちゃうのと、誤差扱いするのと、どっちがいいんだろうか?
バスケットサイズの扱い当該世帯の平均購入点数を独立変数にする当該の買い物における購入点数を独立変数にするBoztug方式は許されるのか?
マーケティングミクス変数の効果の異質性ランダム係数にし、デモグラ特性で階層回帰無視ランダム係数にしている無視
二値データへのリンクprobitlogitprobitlogitランダム係数があったらprobit, なかったらlogitってことだろうか。それとも、残差共分散を推定したかったらprobit、そうでなかったらlogitということだろうか。よくわからない
論文の印象態度がデカい妙にくどい難しいけど親切謙虚先生ならChibさんたち、友達ならBuztugさんたちがいいなあ

読了:Russell&Petersen(2000) 複数カテゴリ購買の確率モデル・最終章

2011年12月22日 (木)

Manchanda, P., Ansari, A., Gupta, S. (1999) The "Shopping Basket": A model for multicategory purchase incidence decisions. Marketing Science, 18(2), 95-114.
 複数カテゴリの購買を一気に説明する統計モデル。仕事の都合で読んだ。
 世帯 h がある買い物 t においてカテゴリ j を買ったかどうかを表す二値変数を y_{hjt}, その背後にある効用を u_{hjt} とし (分散を1,閾値を0とする)、
u_{hjt} = \beta_{hj0} + \beta_{hj1} (own effects) + \beta_{hj2} (cross effects) + \epsilon_{hjt}
とする。own effectsはカテゴリ j のマーケティングミクス変数, cross effectsは他のカテゴリのマーケティングミクス変数。誤差項のベクトルは多変量正規分布に従うものとする (\epsilon_{ht} ~ MVN[0, \Sigma])。要するに、各カテゴリの購買をマーケティング変数で説明する多変量プロビットモデルをつくり、cross effectsと残差共分散行列の両方でカテゴリ間の関係を表そうという作戦である。著者らはカテゴリ間でマーケティング変数のcross effectsがあることをcomplementarity, 残差相関があることをco-incidenceと呼んでいる。前者は販促に、後者は売り場配置に役立つでしょうとのこと。
 次に、世帯レベルのパラメータベクトル \beta_h = {\beta_{h0}, \beta_{h1}, \beta_{h2}}について
\beta_h = (デモグラ変数) \mu + \lambda_h
とする。で、\lambda_h ~ MVN[0, \Lambda] とする。えーと、要するに2段目のランダム回帰係数を1段目で説明する階層回帰モデルだ。
 これをMCMCで推定する。事前分布として\muにはMVN, \Lambdaには逆ウィシャート分布を与える。\Sigmaの事前分布の話とMCMCの具体的な手続の説明は難しくてよくわからなかった。まあいいや。
 分析例は、洗濯洗剤、柔軟剤、ケーキミックス、ケーキフロスティングの4カテゴリの購買データ。たぶんホームスキャンパネルデータだと思う。えーと、ただいま調べたところ、フロスティングってはケーキの表面に塗る甘い奴のことらしい。俺はあまり好きじゃないが、アメリカ人は好きそうですね、あれ。マーケティング変数としては価格と販促有無を使っているのだが、実際の推定時には販促有無に対する係数はh,tを通じて等値にしてしまっている。デモグラ変数は世帯人数と買い物回数。もっとシンプルなモデル(complementarityやco-incidenceを抜いたモデル)と比べて、ホールドアウト・データに対する予測が優れている由。

 Marketing Science誌というのは,心理学でいうところのJEP:Generalのような,日本人が一度載せたら人生変わっちゃうような超一流誌だろうと思うのだが、たまにこの雑誌の論文を読んでいると、不思議の国に迷い込んだような気がすることがある。
 この論文の場合でいえば、正直なところどこがどうすごいのか、素人の俺にはよくわからなかった。問題は新しくないと思うし、モデリングの発想は比較的に素直なものだと思うし、分析例はたった4カテゴリで実用性に乏しいし、どんどんスケールアウトできるモデルでもなさそうだし、いろいろごちゃごちゃ言い訳も多いし。。。俺が理解していないだけで、数理技術的にすごいのだろうか? それともこの論文の時点では、そもそも階層モデルのMCMC推定自体が新しかったのだろうか?
 もうひとつ疑問なのは、結局このモデルはカテゴリ間に観察された購買共起関係をマーケティング変数の交差効果と残差相関に分解しているわけだけど,その分解がどれだけロバストなのか、という点。分解のしかたが違うのに同じような予測を返す複数のモデルが作れるはずで、だからホールドアウトに対する予測の良さは証拠にならないと思う。交差妥当化をやっていれば納得したけれども。直感的には、ML推定では絶対identifyできないモデルを最新技術で無理矢理推定しといて、そのパラメータを実質的に解釈するという点が気色悪い。事前分布次第でどうとでもなるんじゃないかと。
 だいたいですね、本文15頁の論文にアブストラクトが丸々1頁あるってのはどういうことかと。要約という概念を打ち砕くつもりか。縦読みすると真の要旨が浮かび上がるとか? そんなこんなで、頭にいっぱいハテナマークを浮かべながら読了。

読了:Manchanda et al. (1999) 複数カテゴリ購買生起モデル

2011年12月10日 (土)

Chib, S., Seetharaman, P.B., Strijnev, A. (2002) Analysis of multi-category purchase incidence decisions using IRI market basket data. "Econometric Models in Marketing," volume 16, pp.55-90. Elsevier Science.
 延々と探しつづけた末,もはやタイムリミットかというときになってようやく巡り会った,求めていた通りの論文。アブストラクトを読んで,ほんのちょっと目頭が熱くなりました。あああ,長かったあああ。
 いや,まあ,探し方が悪かったんですけどね。というか,自分がなにを探しているのか,自分でよくわからなかったのである。門外漢の辛いところだ。

 カテゴリ間に補完性と代替性があるにちがいないがどこにあるのかはわからない,という複数カテゴリの購買パネルデータを用い,データマイニング的な手法を使わず,カテゴリ間の補完性・代替性と効用の消費者間異質性を一発推定する,という論文。各カテゴリの購買有無を従属変数,マーケティング変数を独立変数にとった多変量プロビットモデルをつくり,従属変数の共分散を総当たりで推定し,しかも効用はカテゴリx世帯ごとにランダム。そんなモデル,まともに同定できるわけがないが,そこでMCMCの登場である。
 補完性・代替性を無視したり異質性を無視したりすると,マーケティング変数のパラメータ推定が歪み,間違ったビジネス決定を招きます,というわけで,IRIからもらってきた同一のスキャンパネルデータに,このモデルともっとシンプルなモデルを当てはめ,いかに推定結果が異なるかを示している。御説ごもっともだが,シニカルにいえば,著者らお勧めの完全なモデルの適用例だって,元のデータに含まれている25カテゴリから12カテゴリを選んで分析しているんであって,その段階で大事な補完性・代替性が失われているかもしれないわけである。結局の所,なにが正解かなんて誰にもわかんないですよね。。。などとぶつぶつ呟きながら読んでいたのだが,それはそれとして,とにかく大変勉強になった。
 MCMCの技術的な説明のところ,残念ながら私には難しすぎる。理屈はいいから,誰かコード例を見せてくれないかしらん。。。

読了:Chib, Seetharaman, & Strijney (2002) 複数カテゴリ購買の多変量プロビットモデル

2011年12月 6日 (火)

Seetharaman, P.B., et.al. (2005) Models of multi-category choice behavior. Marketing Letters, 16(3/4), 239-254.
 複数カテゴリ商品の選択モデルについて、9人が連名で書いているレビュー論文。いやあ、これをもっと早く見つけていればよかったのだが。検索ワードがわからなかったせいで、ずいぶん遠回りをした。
 関心あるところをメモ:

 ほかに店舗選択のモデルもちょっとレビューされていたが、そっちはあまり関心ないので省略。

読了:Seetharaman, et al. (2005) 複数カテゴリの選択モデルレビュー

2011年12月 5日 (月)

Boztug, Y., Hildebrandt, L. (2005) A market basket analysis conducted with a multivariate logit model. SFB 649 Discussion Paper, 2005-028. Humboldt-Universitat zu Berlin.
 仕事のことなのであまり具体的には書けないが,ここしばらく延々と頭を抱え続けていた問題があって,いっくら探しても文献が見つからず,途方に暮れていたのである。abstractがそれらしい論文をみつけては驚喜して入手,中身を読んでは意気消沈,の繰り返しであった。ついに,ようやく,探している話にかなり近い話を見つけることができた(要するに探し方が悪かったのである)。薄ーい内容の論文だが,とにかく手がかりを見つけたという点が嬉しい。
 「複数カテゴリからの任意個の商品選択」を説明する数理モデル。意外なことに,あまりややこしいことは考えず,基本的には各商品の購買有無を従属変数にとった多変量ロジットモデルをつくってしまうアプローチである(そんなんでいいんすか,と拍子抜け)。ただし独立変数として,世帯変数とマーケティングミクス変数のほかに,併買商品数(バスケットのサイズ),ならびに他カテゴリ商品の購買有無を入れ込む。えーと,逐次モデルにはならないんだけど,同時推定できるみたいですね。
 バスケットのサイズは購買行動の所与の性質であるという側面と,個々のカテゴリについてのマーケティングミクスの結果という側面もあると思うので,このように外生的に扱って良いのか,俺にはどうもよくわからないんですが。多変量ロジットだなんて親しみが持てる手法じゃなくて,もっと小難しい感じの手法があるような気もするんですが(著者は今後の課題として一般化加法モデルの適用を挙げている)。いやいやそんなことより,消費者の異質性をモデルに入れないことには,ちょっと商売にならないんですが。。。などなど,いろいろ思うところあるが,とにかく先行研究をまとめて,論文の形にして,俺のような素人に見つけさせてくれたことに大感謝。

読了: Boztug & Hildebrandt (2005) 多変量ロジットモデルでバスケット分析

2011年6月24日 (金)

Chandon, P., Wansink, B. (2002) When are stockpiled products consumed faster? A convenience-salience framework of postpurchase consumption incidence and quantity. Journal of Marketing Research, 39(3), 321-335.
 特売でビールの6本パックを買っちゃったのが間違いのもとで、ついつい毎晩飲んでます... というように、あてのない買い置き(外生的買い置き)は消費を促進する場合がある。そのメカニズムについてモデルを提案し検証いたします、という論文。

 モデルといってもかんたんなパス図のようなもので、「買い置き」と「製品の消費容易性」(食品でいえば、個別包装になっているかとか) が、「消費時点での顕著性」「知覚されたコスト」を通じて消費の「頻度」と「量」に影響する、というもの。
 モデルから出てくる仮説が3つ:

P3. がちょっとわかりにくいのだが、「買い置きする」→「製品の顕著性が高まる」→「消費発生率が高くなる」という仕組みがあるものの(ここで顕著性はメディエータ)、消費容易性が低い製品では顕著性が高まっても消費発生率が高くならない(消費容易性はモデレータ)、という理屈らしい。有名な純米酒が安売りだったので思わず買い求め、心はもうすっかり日本酒モードなのだが、しかし日本酒はうかつに開封すると風味が落ちるからじっとがまん、よって消費発生率は増大しない、というようなことですかね。

 で、まずP1を世帯スキャンデータで支持する(研究1)。ジュース、クッキー、洗剤について、ある購入における購入量を次回購入までの期間で割った値を消費速度の指標とみなしてこれを従属変数とし、「外生的買い置き」「内生的買い置き」を表す2つのダミー変数を独立変数にした回帰モデルを作ったら、ジュースとクッキーにおいては外生的買い置きによる消費速度の増大がみられました、とのこと。気になるのは独立変数の作り方だが、「プロモーション・パックだけを買った」ら外生的買い置き(あてのない買い置き)、「レギュラーパックを含んだ買い物で、しかも普段よりも量が多い」のは内生的買い置き(あてのある買い置き)、なのだそうだ。訳あって多めに買う際にはきっとバラエティ・シーキングするでしょう、という理屈である。こ、これは... かなりな無理筋ではないでしょうか。 「孫が遊びに来ているからジュースを多めに買っとこう」というのは内生的買い置きだが、その際おばあちゃんが孫の好むブランドのLLサイズを買ったとしても、なんら不思議ではないだろう。この理屈、この業界では通るのかしらん?
 まあいいや、本命は実験のほうだ。研究2はフィールド実験。クラッカー、グラノーラ・バー、フルーツ・ジュース(以上が消費容易性=高)、麺、オートミール、電子レンジ用ポップコーン(以上が消費容易性=低)の6製品の詰め合わせを56世帯にプレゼントする。その詰め合わせには、3製品(買い置き=高)が12個づつ、3製品(買い置き=低)が4個づつ入っている。で、冷蔵庫に紙を貼り、2製品(顕著性=妨害)についてその消費履歴を日々書き付けるよう頼む。ところがこの紙には、この2製品の写真のほかに、なぜかほかの2製品(顕著性=高)の写真も載っている。対象者はこの4枚の写真を日々眺めて過ごすわけで、顕著性も高くなろうというものでしょう、という理屈である。2週間後に予告なく調査票を送りつけ、全製品の消費履歴を聴取する。妨害条件の2製品のデータを捨て,世帯当たり4件のデータを得ると考えると、買い置き(高/低) X 顕著性(高/低) X 製品の消費容易性(高/低) という3要因デザインである。で、消費回数、一回当たり消費量、全消費量を従属変数とし、要因やら製品名のダミー変数やら世帯特性やらを独立変数に放り込んだ回帰モデルをつくり、P2を支持してみせる。1世帯から複数件のデータを取っているので、ほんとは階層回帰モデルじゃないといけないような気がするのだが...ちゃんとやっているのかしらん。
 研究3は実験室実験。学生に台所の棚の写真を見せる。それはオレオやらキットカットやら計8ブランドのスナック菓子が詰まっている棚で、うち4ブランドは16個づつ(買い置き=高)、残り4ブランドは4個づつ(買い置き=低)入っており、また4ブランドは上の棚(顕著性=高)、残り4ブランドは下の棚(顕著性=低)に入っている。で、1週間のテレビ番組表を渡してどの番組を見たいか尋ね(これはダミー課題)、ついでに各曜日に消費したいお菓子のブランドと数量を答えさせる。一人あたり8件のデータを得ると考えれば、買い置き(高/低) X 顕著性(高/低) という2要因デザイン。で、消費回数の回帰モデルで買い置きと顕著性の交互作用を出してP3を支持し、さらに顕著性をモデルに出し入れしてそれがメディエータであることを示す。研究4もそんな感じの実験室実験(面倒なのでスキップ)。

 いろんなアプローチの実証研究を繰り出すところが面白かったんで、ついつい最後まで読んでしまったが、考えてみると、個別の知見自体はまあ当たり前な話ばかり、という気もする。いろんな話をひとつのモデルで整理しているところが偉いのであろう。

読了:Chandon & Wansink (2002) 買い置きを使ってしまうのはいつ?

2011年6月15日 (水)

 前の勤務先で働き始めてしばらく経った頃、新しいサービスの利用経験者がそのリリース日から徐々に増加する、というようなことについて調べる消費者調査を手伝ったことがあって、利用経験者の増加が描く曲線はなにかの理屈で説明したり予測したりできるんじゃないか、どう思いますか、という話になった。ナントカモデルを使えばいいんじゃない、と電話会議装置ごしに誰かが云うのが聞こえたのだが、英語だったせいもあって聞き取れず、いちいち聞き返すのも恥ずかしい。そうですね、考えてみます、と平然と安請け合いした。
 で、横軸に時間、縦軸に経験者数をとればどうせS字型になるだろうから、ロジスティック関数でも当てはめようか、それとも治癒率・致死率ゼロな伝染病の感染だと思えばいいか... とあれこれ考えていて、試しに本を調べてみたら、なんのことはない、ちゃんとモデルがあるではないか。マーケティングの世界では常識に属する話らしい。知りませんよ、そんなの。

 新製品の上市からの時間 t を横軸、購入経験者数 N(t) を縦軸にとった曲線について考える。天井をN*、時点 t に未購入者が購入者に転じる率を g(t) とすると、まだ買っていない人は N*-N(t) 人だから、時点 t での新規購入者数は n(t) = g(t) [N*-N(t)] となる。ここまではまあ、思いつく話だ。
 で、この g(t) を定数とみる手もあれば、「みーんな持ってるよ、ねえ買ってよお母さん」を念頭に、購入経験者の割合 N(t)/N* に比例して速くなると考える手もあるだろう。そこで、欲張ってこの二つを足し合わせ、g(t) = P + Q[N(t)/N*] と考える。うまくしたもので、曲線 N(t) はS字型の関数になるし、パラメータの推定も容易だ(n(t)はN(t)の二次式になる)。なんといっても、単に適当なS字型関数を当てはめるのとちがい、パラメータの意味を解釈することができるところが良い。Pは周囲と関係なく購入する程度だからinnovation係数、Qは周囲につられて購入する程度だからimitation係数という。提案者の名前を取ってこれをBassモデルという由。やるなあBassくん、君はなかなか頭がいいぞ。

Chandrasekaran, D. & Tellis, G.J. (2007) A critical review of marketing research on diffusion of new products. in Malhotra, N.K. (ed), "Review of Marketing Research," vol. 3, 39-80.
新製品普及モデルのレビュー。仕事の都合で読んだ。

 著者らによれば、Bassモデルに美点は多々あれど、以下の欠点もある。まずモデリング自体についていえば、

どの点についても、モデル拡張の提案が山のようにある。なんと、初回購入でない売上が含まれたデータもBassモデルの拡張でどうにかしちゃおうとする提案があるのだそうだ。耐久財の買い替えを含めたモデルは Kamakura & Balasubramanian(1987, J. Forecasting)、消費財のリピート購入を含めたモデルはHahn, et.al.(1994, Marketing Sci.)。
 パラメータ推定の面では、

これも新提案が腐るほどある模様。非線形最小二乗法はもちろんのこと、たくさんの新製品の曲線を用意し一気に階層ベイズモデルを当てはめるとか、遺伝的アルゴリズムで推定するとか、増補型カルマンフィルタでほにゃららするとか(ナンダソレハ)。

 いっぽう、Bassモデルとは別の系統の新製品普及モデルとして以下のものがある由。

 このほか、takeoff や slowdown が生じる時点のみに注目した研究もある由。slowdownのほうが研究の歴史が短い(「キャズム」とか「情報カスケード」とか)。この辺、面倒になってきたので流し読み。

 論文の本筋も大変勉強になったが、注釈で紹介されていた画期的新製品の販売予測の話(Urban et.al., 1997, JMR)が一番面白かった。これはどうしても読まないといけない。

読了:Chandrasekaran & Tellis (2007) 新製品普及モデルレビュー

2011年6月 7日 (火)

Bell, D.R., Iyer, G., Padmanabhan, V. (2002) Price competition under stockpiling and flexible consumption. Journal of Marketing Research, 39(3), 292-303.
 値引きに伴う基本需要増大を考慮した、価格競争のゲーム理論的モデルをつくりました、という論文。
 ある商品を値引きすると、ブランドスイッチが起きるだけでなく、カテゴリの基本需要も増える。後者には、純粋に買い置きされるという面と、消費が増えるという面がある。つまりカテゴリによって、買い置きのみ増えたり、消費のみ増えたり、両方増えたり、するわけである。なるほど、安売りのティッシュを山ほど買っても鼻をかむ回数は変わらないが、格安ワインを「買い置きするだけよ」と買ってもついつい飲んでしまうものだ。こうした買い置きと消費増大の両方を考慮します、というのがこの研究の売りである模様。
 論文の前半では、ものすごく抽象化した状況を考えてゲーム理論的モデルをつくる。著者様には誠に恐縮だが、全然関心ないのでスキップした(仮に読んだところで理解できそうにない)。何だか知らんが、消費が増大する程度だとか、貯蔵コストだとか、そういう定数を与えてやると、値引きの頻度やら値引き率やらの均衡点が出てくる、というモデルであるらしい。ふーん。
 後半は、このモデルによる予測と実データの比較。買い置きのみ起きると考えられる4カテゴリ(ティッシュなど)、買い置きと消費増大の両方が起きると考えられる4カテゴリ(ヨーグルトなど)のスキャン・パネル・データをつかう。モデルから導かれる「消費が増大するタイプのカテゴリでは、(1)値引きの頻度がより多くなり、(2)値引き率はより大きくなり、(3)平均価格はより安くなる」という予測が、データと整合することを示す。3つの変数をカテゴリ間で単に比較するだけでなく、3つの変数についてそれぞれ階層ランダム効果モデルをつくったりする。いっけん小難しく見えるけど、階層モデルになるのはカテゴリとアイテムの両方を考えるから、ランダム効果モデルになるのはアイテム間のちがいをランダム切片で表すためで、そんなに難しい話ではなさそうだ。ちゃんと読んでないけど。
 途中からもう死ぬほど面倒になったので、スキップ、スキップ、スキップ。。。結局なにもかも飛ばし読み。スミマセン。

読了:Bell, Iyer, & Padmanabhan (2002) 値引きが買い置きやカテゴリ消費増大をもたらすような商品カテゴリにおける価格競争

2011年6月 6日 (月)

Lemon, K.N., & Nowlis, S.M. (2002) Developing synergies between promotions and brands in different price-quality tiers. Journal of Marketing Research, 171-185.
 マーケティング分野の論文をちびちび読んでいる今日この頃だが、これはめずらしく感銘を受けた論文。残念ながら自分のいまの仕事の役には立ちそうにないし、専門家の方から見てどうなのかもよくわからないけど、とにかく感心した。理屈がすっきりしていて、デザインがスマートで、言い訳が少なくて、実世界に対するストラテジックな示唆がある。どんな分野にもプロがいるものだ。
 小売店の販促(エンド陳列、チラシ広告、値引き)とブランド価格帯の、それぞれの効果ではなく、組み合わせによって生まれる効果についての実証研究。以下の5つの交互作用について検討している:(1)価格帯 x 陳列有無、(2)価格帯 x チラシ有無、(3)価格帯 x 値引き有無、(4)価格帯 x 値引き有無 x 陳列有無、(5)価格帯 x 値引き有無 x チラシ有無。
 データに解釈を後付けするのではなく、認知的な前提から話をはじめているところが素晴らしい。著者らいわく、

 ...美しいロジックだ。こうでなければならない。
 実証研究は3つ。

 実務的な示唆としては... チラシやエンド陳列といった販促と値引きを同時に行うのは、廉価品ならいいけれど、高級品の場合はむしろ負のシナジーが生じるかもしれない。
 チラシだの陳列だのといった現象的な変数について、3要因交互作用を含むようなややこしい仮説をつくってしまうが、それらは観察研究(スキャン・パネル・データ)で一気にサポートしてしまう。で、疑い深いあなたのために、仮説のキーになる媒介変数(ブランド比較の有無)の効果だけ、要因を減らした統制実験で検証する... という戦略である。うまいことやるもんだ。

読了:Lemon & Nowlis (2002) 販促とブランドのシナジー構築

2011年6月 1日 (水)

Fader, P.S., Hardie, B.G.S., Huang, C.Y. (2004) A dynamic changepoint model for new product sales forecasting. Marketing Science, 23(1), 50-65.
 個々人の購買速度が動的に変化するような新製品販売予測モデルをつくりました。という論文。

 ええと。。。まず,新製品販売予測の核心はmultiple-event-timing processであり,問題はマーケティング・ミクス変数をコントロールしようがなにをしようがこの過程が本質的に非定常であるという点だ,との仰せである。multiple-event-timing processという言葉の意味がよくわからなかったのだが、おそらく、新製品の購買データとはtime-to-eventデータのeventが複数になったやつ、いわば「患者が何度でも死ねる生存データ」だ...ということではないかと思う。たぶん。
 著者いわく、古典的なトライアル・リピート・モデル(購買を初回購買=トライアルとその後の購買=リピートに分けて予測するモデル)には以下の問題がある。

 いっぽうこの論文の作戦は:

  1. ある対象者の j 回目の購買について、マーケティングミクス変数を共変量とした比例ハザードモデルをつくる。つまり、まずは瞬間死亡率、じゃなかった瞬間購買率について考えるわけだ。基準ハザード(つまり平均的マーケティングミクスにおける瞬間購買率) を \lambda_j とする。これは個人ごとに異なる。
  2. 基準ハザードは一回購買が起きるごとに変わったり変わらなかったりする、と考える。j 回目の購買の直後に基準ハザードが変わる確率を \gamma_j とする (どう変わるかは別にして)。これは個人間で同じ。
  3. なんどもリピートするうちに、購買速度はだんだん安定してくるだろう (速くなるか遅くなるかは知らないが)、というわけで、\gamma_j = 1 - \psi ( 1 - e^{-\theta(j+1)}) と考える。つまり、変化点が起きる確率が減少する曲線を考え、その形状を2つのパラメータ \psi, \theta で表す。
  4. 基準ハザード \lambda_j は同一のガンマ分布に従うと考える。基準ハザードがたくさん入った、みんなで使う大きな壺がひとつあり、ある人に変化点が訪れるたび、その人はいま持っている基準ハザードを未練なく捨て去り、壺から新しい基準ハザードをランダムに一個引く、というわけだ。著者らも認める通り、ここが一番現実離れした部分なのだが、まあとにかく、消費者間異質性はガンマ分布の2つのパラメータで表される。

 こうして、購買データをたった4つのパラメータ(と、マーケティングミクス変数の係数)だけでモデル化できたことになる。パラメータはちょっと工夫すれば最尤推定できる由。いったん推定すれば,その先の販売予測が可能。なお,このモデルでは配荷や競合のことは一切考えていない。
 もうちょっとシンプルに、「個人の基準ハザードが購買のたびごとに少しづつ変わる」と考えたほうがいいんじゃないかと思ったのだが、著者らはそういうモデルも作っているらしい(Moe&Fader,2003)。はあ、さいですか。

 論文では、テストマーケットのホームスキャンデータを使い、上市後26週を学習データにして52週の売上ボリュームやリピート率を予測している。で,学習期間をためしに12週まで減らしてもどうにかなったそうだが、そのあたりの体系的な検討は今後の課題である,とのこと。
 いやいや,ちょっと,あなた!そこが肝心な所じゃない! とずっこけたのだが,よく考えてみたら,この論文が想定しているのは,上市後少し経った新製品のその先を予測するというようなせせこましい使い方ではなく,もっと壮大な使い方であろう。ホームスキャンデータを持っている会社が,あらゆる新製品にこのモデルを当てはめて片っ端から4つのパラメータを求め,カテゴリ別のノームをつくる,というような。あーあ,だんだんどうでもいいような気がしてきた。

読了:Fader, Hardie & Huang (2004) 新製品販売予測の動的変化点モデル

2011年5月27日 (金)

Shocker, A.D. & Hall, W.G. (1986) Pretest market models: A critical evaluation. Journal of Product Innovation Management. 3(2), 86-107.
 上市前販売予測モデルのレビュー。最初に歴史、意義、問題点をまとめたのち、BASES, ASSESSOR, ASSESSOR-FT, NEWS, LITMASについて、データ収集と計算メカニズムを紹介している。
 各種モデルのメカニズムについて並べて紹介している文献をほかにみつけることができなかったので、仕方なく読んだ。その限りにおいては勉強になったが、そもそもこの種の問題について、20年以上前のレビューを読んでも仕方がない面がある。早い話、ASSESSOR-FT, NEWS, LITMASはもう販売されていないはずだ(ええと、別の文献によれば、ASSESSOR-FTはIRIがASSESSORの権利を持っていたころに売っていたモデル。NEWSは70年代初頭に開発された歴史的なモデル。LITMASはsimulated test marketの嚆矢LTMの流れを汲み、現在のDiscoveryモデルの祖先)。ACNeilsenのBASESだって、82年当時と今とではずいぶんちがうだろう。やれやれ。

読了:Shocker & Hall (1986) プリテスト・マーケット・モデル

2011年5月24日 (火)

「このウジ虫め,何様のつもりだ!いま貴様ができることをやれ!」「サー!イエッサー!」というわけで,華やかな話題を横目に古い論文をコリコリと読む今日この頃である。コリコリ。

Armstrong, J.S., Brodie, R.J. (1999) Forecasting for marketing. in Hooley, G.J. & Hussey, M.K. (eds.) "Quantitative Methods in Marketing," Second Edition, pp.92-119.
 予測についての概論。分厚いハンドブックのなかの1章らしい。どっか基礎知識がすっぽり抜けているのではと不安になり、いまさらこういう概説を読んでいる有様である。
 最初に予測手法をざっと総ざらえしたのち、市場規模予測、意思決定者の行為の予測、市場シェアの予測、売上予測、利益予測の各領域について簡潔に紹介する内容。
 面白かったところをメモ:

読了:Armstrong & Brodie (1999) マーケティングのための予測

2011年5月21日 (土)

Abramson, C., Andrews, R.L., Currim, I.S., Jonese, M. (2000) Parameter bias from unobserved effects in the multinomial logit model of consumer choice. Journal of Marketing Research, 37(4), 410-426.
 消費者の選択データ(POSデータとか)に選択モデルをあてはめるとき、モデルに組み込みそこねている変数がパラメータにバイアスを与える。たとえばある消費者があるブランドをリピート購入したとして、それは前回の選択の影響かもしれないし(状態依存性)、そのブランドが好きだからかもしれない(選好の個人差)。仮にどちらも正しいとして、しかし選好の個人差を考慮せず状態依存性だけを考慮したモデルをつくると、状態依存性はその分大きく見積もられるわけだ。
 そこで、どんなときにどんなバイアスが生じるのか、シミュレーションでシステマティックに調べました、という研究。うーむ、玄人好みの渋いテーマだ。マーケティング実務への示唆は特にないが、POSデータの分析者にとっては大事な話だろう。
 5ブランドからひとつを選択する場面を考え、各ブランドの効用を適当に決め、マーケティング・ミックス変数(4つ)をランダムに発生させて架空のPOSデータをつくる。その際、さらに以下の4要因を操作する:

各3水準で操作するので、3^4=81通りの架空データができる。
 で、各データに次の9つのモデルを当てはめる:

 で、ブランドの効用のバイアス、マーケティングミックス変数の係数のバイアス、ブランド・ロイヤルティの係数を従属変数とし、4要因の分散分析をかける。その結果わかったことは、

などなど。全体的にいって、予測精度が高いのはモデル9, パラメータ推定が良いのはモデル7。2)のロイヤルティ変数をいつも組み込んでおくのがお勧めである由。
 推定したパラメータのバイアスの大きさは、モデルの予測的妥当性なり適合度なりをチェックすればわかるだろうと考えがちだが、決してそうではない。怖い話だ。

読了:Abramson, et. al. (2000) 消費者選択の多項ロジットモデルにおけるパラメータのバイアス

2011年5月19日 (木)

van Heerde, H.J., Leeflang, P.S.H., Wittink, D.R. (2000) The estimation of pre- and postpromotion dips with store-level scanner data. Journal of Marketing Research, 37(3), 383-395.
値引きなどの販促によって商品の売上は伸びるけど、買い貯めや事前の買い控えが起きるので、販促期間の前後は売上が落ちる。この現象はホーム・スキャン・データで確認できるのだが、不思議なことに、POSデータでは確認できないといわれているのだそうだ。そこで、販促の変数をラグつきでどっさりぶちこんで、ブランドの売上を予測する計量経済学的なモデルをつくりました。実データに適用した結果、やはり隠れた低下があること、その大きさはホーム・スキャン・データからの知見と同程度(4~25%)であることがわかりました。という論文。テクニカルな話で、実務的な示唆はあまりない。
 モデルはSCAN*PROモデル(ニールセンが商品化している)の改訂版である由。整理して書き出すと、

ln(店i, ブランドk, 第t週の売上}) 
= \sum_j \alpha_{jkl} ln(店i, ブランドj, 第t週, 状態 l のPI)
+ \alpha_{Fk} (ブランドk, 店i、第t週にfeatureのみ非価格販促の有無)
+ \alpha_{Dk} (ブランドk, 店i、第t週にdisplayのみ非価格販促の有無)
+ \alpha_{FDk} (ブランドk, 店i、第t週にfeature&display非価格販促の有無)
+ \sum_u \sum_l \beta_{kl,u} ln(店i, ブランドk, 第t-u週, 状態lのPI)
+ \sum_v \sum_l \gamma_{kl,v} ln(店i, ブランドk, 第t+v週, 状態lのPI)
+ (店i, ブランドkの切片)
+ (ブランドk, 第t週の切片)
+ (店i, ブランドk, 第t週における残差)

  PIとはそのときの価格と通常価格の比。状態 l = {1,2,3,4} は順に、値引きについてfeatureもdisplayもなし、featureのみ、displayのみ、両方、を示す(所与のi, j, tのもとで現実の状態は一つしかないから、現実でない l についての PI は 0とでもするのかしらん)。\alphaが現在の値引きや非価格販促に対する売上の(交差)弾力性、\betaと\gammaが過去・未来の値引きに対する売上の弾力性を表している。
 で、ツナ缶(3ブランド)、ティッシュ(6ブランド)の、それぞれ24店舗・52週のPOSデータを用い、上記のモデルをブランド別に推定する。\betaと\gammaにあれこれ制約をかけてみたり(指数関数的に減衰するとか)、uとvの上限を動かしてみたりして、AICでモデル選択する。で、(a)実際の売上曲線、(b)得られたパラメータをもとにしたシミュレーション、(c)販促前後のネガティブな効果を取り除いたシミュレーション、の3本を比較すると、(a)(b)が一致し、そこでは販促前後にいっけん「谷」がないようにみえるけど、(c)と比べると「谷」がある、実は落ちていたんですね、というストーリー。

 J. Marketing Researchの論文はどれも難しそうな数式が多くて近寄りがたいのだが、きちんと読んでみるとそんなにややこしい手法は使っていないことが多い。誠にありがたいことである。この論文も、いろいろ工夫しているけれど、要するに回帰モデルだ。
 話の本筋からは離れるが、Narasimhan, Chakravarthi, Neslin, Sen(1996, J. Mktg) は製品カテゴリの"ability to stockpile"の消費者評定をとっているそうだ。へええ。

読了:van Heerde, et. al. (2000) POSデータによる販促前後売上減の推定

2011年5月12日 (木)

Corstjens, M., Lal, R. (2000) Building Store Loyalty Through Store Brands. Journal of Maketing Research, 37(3), 281-291.
 ちょっと思うところあって目を通した論文。
 あるカテゴリのナショナル・ブランド製品とプライベート・ブランド製品の2つだけを扱う小売店が2軒あり,消費者がそのエリアに均等に散らばっている... というような単純化された状況を想定し,それぞれの店が利益最大化のために価格をどのように設定するかについてゲーム理論的分析を行いました。その結果,もしPB製品の品質が良く,かつNBを買い続ける人がある程度多いときには, PBは店舗の利益に貢献するし,過度な価格競争を回避し両方の店を共存共栄にみちびく,ということが示されました。この結果は実際のパネルデータでも裏付けられています。という論文。

 数理的分析のほう,面倒なので読み飛ばしたのだが,要するに,上のような状況ではブランド・スイッチしやすい消費者が自店のPBに乗り換えてくれるから,PBは店の差別化要因になる,ということらしい。NBよりPBのほうが利益率が高いからPBを売ったほうが良い,という話ではない。
 NBを買い続ける人が多すぎても少なすぎても駄目だ,というところがこの分析のミソで,どうやら,多すぎるとNBでの価格競争,少なすぎるとPBの価格競争に突入する,ということらしい。ふうん。こういう抽象的状況での数理的分析による知見が,いったいどのくらい実世界にあてはまるのか,いまいちぴんとこないなあ。
 実データの分析のほうは,世帯スキャンデータをつかって店舗への支出額についての重回帰分析を行い,その店舗に行った回数を調整した後でも,PB購入額の割合が高い店舗のほうが支出額が大きいです,という話であった。決定的証拠とはいいにくそうだ。

 毎度のことながら,マーケティング分野の論文の良し悪しはさっぱり見当がつかない。これは単に俺の知識が足りないからだろう。ま,他の分野なら見当がつく,と胸を張れるわけでもないしな。

読了:Corstjens&Lal(2000) ストア・ブランドによる店舗ロイヤリティ構築

2011年5月11日 (水)

Fildes, R., Nikolopoulos, K., Crone, S.F., Syntetos, A.A. (2008) Forecasting and operational research: a review. Journal or Operational Research Society. 59, 1150-1172.
 予測手法について勉強しないとな... しないとなあ...と思い,まず手始めに読んでみた。ORの学術誌に載った予測研究のレビュー。よく知らないけど,第一著者は相当えらい人のようである。
 全くの門外漢の感想なんだけど,「時系列曲線の補外について地道な研究に邁進しても,いまさら劇的な進歩があるでなし,せっかく改善しても実務家は相変わらず指数平滑法なんか使い続けてるし,そうこうしてるうちにあさっての方角からANNだのSVMだの出てきたりして,いやいやこの世界も大変なのよ全く」というぼやきが,行間から聞こえてくるような気がしました。いや,勝手に聞いているだけですが。
 まあそれは幻聴としても,価格決定やプロモーション評価のための先進的システムをせっかく作ろうとしても,クライアントの担当者が異動しちゃって頓挫しちゃうことあるよね... というような話が,ほんとに出てきた。はっはっは。
 ともあれ,よく知らない世界の話なので,とても勉強になりました。レビューを読むのは疲れるのだが,その甲斐はあったぞ。。。ということにしておこう。明日にはもうすっかり忘れちゃっているかもしれないけど。

 ところで,著者らはOR関係の主要12誌から予測関係の論文を選び('85-'06)、被引用回数でランキングしている。1位はKahneman&Lovallo(1993, Management Sci.)、リスク下での楽観バイアスについての論文。以下、ニューラルネット、ブルウィップ効果と続き、顧客維持にCSが大事だというMarketing Sci.の論文(Bolton, 1998)が4位にランクインしている。ふーん。

読了:Fildes, et.al. (2008) 予測とOR

2011年1月 3日 (月)

面白そうな論文を見つけ,いつか読もうと積んでおく。。。というのが一番いけないのである。斜め読みでもいいからさっさと目を通す,そして必ず記録する,というのを徹底したい。徹底するぞ。

Johnson, E.J., & Meyer, R. J. (1984) Compensatory choice models of noncompensatory processes: The effect of varying context. Journal of Consumer Research, 11(1).
 さきほど斜め読み。第一著者のJohnsonというのはSawtooth社の有名なJohnsonさんではない。84年の論文をわざわざ読んでるなんて,物好きもいいところだが。。。
 非補償的選択に対してコンジョイントモデルを当てはめるとどうなるか,という研究。学生にアパートを選ぶコンジョイント課題をやらせる。アパートは4つの属性でできている。操作するのは選択肢の数(1,2,4,8個。1個の場合は評定課題)。で,選択肢の数が多いときには非補償的選択にシフトしているということを,発話思考法のプロトコル分析で確認しておく。さて,多項ロジットモデルで推定したパラメータがどうなるかをみてみると,(1)選択肢の数が増えるにつれて重要属性がより重要だと推定される。これは,連結型ルールやEBAルールでフィルタ役を果たす属性が,コンジョイントモデルでは重要性が高いことになっちゃうからだ,と数理的に説明できる。(2)いっぽう数理的予測に反して,選択肢の数が増えても多項ロジットモデルの予測的妥当性は下がらない。
 多項ロジットモデルのパラメータを集団レベルで推定している点が話をややこしくしていると思う。それはともかくとして,非補償的選択がなされているのに多項ロジットモデルの予測力は下がらない,という点が不思議だ。選択シミュレータを使おうという立場からはハッピーなニュースかもしれないけど,部分効用の解釈という観点からはいささか気持ち悪い。

読了:Johnson&Meyer(1984)

2010年12月27日 (月)

Bakken, D., & Frazier, C.L. (2006) Conjoint Analysis: Understanding Consumer Decision Making. in Grover, R. & Vriens, M. (eds.) "The handbook of marketing research," Chapter 13.
コンジョイント分析についての実務家向け概説。バランスのとれた内容であった。日本語でこういうのを探すのはなかなか難しい。
ほんとはSAS社のKuhfeldさんが書いた離散選択課題の実験計画についての章も途中まで読んだのだが,眠くて死にそうになったので断念。ま,必要になったら慌てて読むことにしよう。

読了:Bakken&Frazier(2006)

2010年12月23日 (木)

Louviere, J.J. (1994) "Conjoint Analysis." in Bagozzi, R.(ed.) Advanced Methods of Maketing Research. Wiley.
 社内研修の教材作成のために読もうと思って上司様の蔵書をコピーし,時間がとれずに結局読まなかった奴を,今頃になって読了。著者は斯界の偉い人だと思う。
 コンジョイント分析の現状についての紹介。ちょっと古いものだから,HB推定などという話は出てこない。重点は執筆時点における最新の話題に置かれているのだけれど(多項ロジットモデルに個人差を組み込むとか,順位づけ回答の正しい分析法とか,Best/Worse法とか),そっちはあまり関心がないので適当に読み飛ばした。むしろ,その手前の部分が面白かった。

 個人効用を推定するのと,集団レベルで効用推定するのとを比べると,素人目には当然前者のほうが気が利いているような気がするのだが,そうでもないのだそうで...

 コンジョイント分析では,与えられた属性・水準の下で,ある種の直交配列を用いて水準の組み合わせ(「プロファイル」)をつくるのが普通である。[...] 伝統的なコンジョイント技法では,たいていの場合,「主効果計画」と呼ばれる組み合わせを用いてきた。[...]
 主効果計画をつかうことのジレンマは,厳密に加法的な効用しか推定できないという点である。消費者の反応が,実は属性間の交互作用を含む効用モデルでよりよく記述できるようなものであったとしても,そのことはわからないどころか,反応過程が加法的だという想定を反証することさえできないのである。[...]
 主効果計画の過度の重視は,個人効用関数のモデル化の過度の重視と関連しているように思われる。コンジョイント分析では伝統的に,属性の水準についての個々の消費者の効用が測定されてきた。個人に特定的な効用を推定するということは,直交配列のサイズ(つまり,一人の対象者が判断するプロファイルの数)が制約されるということである。そのせいで,デザインと分析の可能性が限られてしまい,属性の交互作用の推定は全く行われないか,少数についてしか行われないのが普通となっている。[...]
 個人レベルの分析が重視されてきた背景として以下の点が挙げられるだろう。(a)コンジョイントの理論と方法はもともと個人レベルに重点をおいていたから。(b)個人の多様な選好を,どうやって累積すべきかという確たる理論もないままに累積してしまうことへの,健全な懐疑。(b)個人レベルでの測定が,消費者のセグメンテーションのための論理的でアクショナブルな基盤を与えてくれるという信念。
 これらの点は確かにもっともだが,それも消費者が誤差のない加法的効用関数を用いていればの話である。もし個人レベルの反応のなかになんらかの原因に起因する誤差が含まれていたら,どんな場合でも個人レベルの分析が最適だといえるかどうか,はっきりしなくなる。
 例として,個人レベルの効用の特徴づけにおける誤りについて考えよう。[...]選好データから加法的コンジョイントモデルをうまく推定できたとき,そのモデルは必ずといっていいほどデータに適合するし,ホールドアウトの選好データをうまく予測できてしまう。[Daws& Corrigan(1974), Wainer(1976), Anderson&Shanteau(1977)の紹介。真の選好構造がどうであれ適合するという話]
 こうしてみると,個人レベルの属性効用の測定によってセグメンテーションができるということが,果たして伝統的なコンジョイント分析の主要な長所であるといえるのかどうか,怪しくなってくる。[...] 第一に,もし個人効用関数が加法的でなかったら,バイアスを受けた効用測定に基づいてセグメンテーションをすることにどんな利点があるのか(セグメントレベルでの効用もバイアスを受けることになる)。第二に,生の反応データをつかってセグメンテーションしたほうがよいという見方が出てくるだろう(モデルに依存しないから)。[...] 第三に,反応なり効用なりはサンプリング誤差を含むのに,セグメンテーションのたいていの手法(例, クラスタ分析)は誤差のないデータを仮定しているわけであり,その仮定を破っているせいでなにが起こるのか定かでない。第四に,[プロファイルに対する反応の尺度水準の話...]

そうか,そういう見方があるのか。

恥ずかしながら,前々から不思議に思っているのは,非補償的選好モデルが正しいかもしれない問題に,にもかかわらずコンジョイントモデルを適用しちゃうことが妥当だといえるのか,いえるとしたらそれはいつか / なぜか... という点である。こんな古い論文をわざわざ読んでみたのも,そのへんについて言及があるかと思ったからである(俺のこんな疑問など,決して新しくないはずだと思うので)。果たして,まさにその点について述べている論文であったものの,著者の立場は俺の予想のはるか斜め上を飛び去っていくものであった。

 コンジョイント分析は両刃の剣である。コンジョイント分析は,コンジョイント課題から得た選好データによく適合するし,条件さえ整えば選択を予測できるだろう。しかしその予測力は真の理解を犠牲にして得られたものかもしれない。[...] 予測的妥当性についてのこれまでの学術研究で,いったい何が得られたのか定かでない。なぜなら,[...]コンジョイント調査の典型的な条件下ではコンジョイントモデルは良いパフォーマンスを示すだろうということが,アプリオリに期待できるからである。[...]
 要約すると,コンジョイント分析が学術・商用の両方で蓄積してきた20年以上の経験にも関わらず,加法的効用関数が真の決定過程の正しい表現なのかどうか,正しい表現なのはどんなときなのか,わかっていない。わかっているのは,加法的コンジョイントモデルが(全く誤っているときでさえ)コンジョイント反応データに非常に良く適合するということ,さまざまな状況下での選択をうまく予測できるということ,特に一位になる選択肢がどれか予測するのは容易だということ,である。

つまり,モデルに予測的妥当性はあったとしても,部分効用から正しい示唆が得られるかどうかは定かでない,というわけだ。そ,そういわれても。。。

読了:Louviere(1994)

2010年5月 4日 (火)

Lilja, J., Wilkund, H. (2006) Obstacles to the creation of attractive quality. The TQM Magazine, 18(1), 55-66.
 品質の狩野モデルについての批評論文。バリバリの品質管理の論文だが,仕事の役に立つかと思って読んでみた。否定的コメントと言うより,むしろ建設的批判という感じであった。
 狩野紀昭が「品質管理の課題は魅力品質の創造だ」と主張してから久しいが,品質管理においては依然としてエラー回避のほうが重視され続けている。その原因はふたつある。第一に,「魅力品質」ということばの意味が人によってバラバラだから。魅力品質は差別化要因だと位置づける人もいれば,顧客を驚かせ喜ばせる品質だという人もいれば,特定のタイプのニーズを充足する品質だという人もいる。そもそも,かの充足-満足の2次元空間の縦軸と横軸の意味もはっきりしない。縦軸は,狩野にいわせれば満足という感情だが,他の人に言わせれば顧客満足そのものだ(つまり認知的側面も込みになる)。横軸は,狩野にいわせれば物理的充足だが(つまり認知と独立),ニーズ充足の程度だという人もいる(つまり認知)。第二に,なぜある品質が魅力品質になる(ならない)のかを説明する心的過程の理論がないから。顧客の期待を超える品質がそうなるんだとか,潜在的欲求を満たす品質だといった提案はあるが,実証されていないし,だいたい期待と欲求じゃまるきりちがう。云々。
 第一の論点,概念の曖昧さについてはなるほどその通りだと思うけれど,それが魅力品質創造のobstracleだというのは,さあ,どんなものだろうか。ある理論のなかで概念が曖昧だというのならともかく,概念の定義が人によって異なること自体は,必ずしも害をなすとはいえないのではなかろうか。古い話だけど,「科学革命の構造」でトマス・クーンが広めた「パラダイム」という言葉は大変曖昧なものであったが,それ故に科学論に対して広汎なインパクトを持った。いま諸方面で使われている「パラダイム」という言葉の意味を整理したら,きっと人によってずいぶんブレがあるだろうと思うが,そのせいで我々の科学観の深まりが阻害されているといえるのか,どうか。
 いっぽう第二の論点,心的過程がブラックボックスになっているという点は,最初に一読した際には一種の言い掛かりじゃないかと思った。理由はともかく,いまなにが魅力品質なのかを毎回消費者調査で調べればよいではないですか,と。でも,読み返してみると...

 現代の品質管理は一般にリアクティブな方略ではなくプロアクティブな方略を支持する。もちろん,分析を通じてなにもかもが予測できるわけではないが,予測の能力を増そうというのが一般的な野望なのである。[...] しかし,魅力品質創造のプロアクティブな工学手法は理論に依存する。すなわち,なぜその魅力品質反応が生じたのか,という理解に依存する。従って,図4でブラックボックスになっている過程[=ある品質が魅力品質となる心的過程]を明らかにすることが,プロアクティブな方略という路線を進んでいくために必要である。そうすることで,いわゆる狩野質問紙を使用する現在のリアクティブなアプローチから脱することができるのである。[...] 魅力品質の創造手法を開発するために必要な問いはこうだ:あるときは魅力品質反応が生じ,あるときには生じない,そのシステマティックな理由はなにか? それは特定のタイプの欲求の従属か,はたまた期待の超越か? もしそうなら,それはどのようにはたらくのか?

 なるほどなあ,と説得されてしまった。魅力品質の基盤にある消費者の心的過程なんてどうでもいい,結果だけ知りたい,などというのは,調査プロパーが抱きがちな近視眼的発想ですね。製品開発の発想ではないな。

読了:Lilja&Wilkund(2006)

2010年3月27日 (土)

Hofmeyr, J., Goodall, V., Bongers, M., Holtzman, P. (2008) A new measure of brand attitudinal equity based on Zipf distribution. International J. Market Research, 50(2).
 消費者にある商品カテゴリのブランドリストを示し,その人の考慮集合(買う気がなくはないブランドの集合)を答えさせたあとで,そのなかにある各ブランドについて,なんらかの評価(たとえば購入意向)をx件法で答えさせる。で,評定値をいったん順位データに落としてしまい,そこからその人にとっての各ブランドの価値を算出する。なぜ順位を連続量へと逆算できるのかというと,世の中の多くの現象がそうであるように,ブランド・エクイティもまた一種のべき乗法則に従うだろうから(大きさ∝1/(順位^s)),という理屈である。で,世界各国の消費者調査データに基づき,考慮集合のサイズ別に指数sを推定する。得られた式を使うと,スキャン・パネル・データでの売上シェアや市場シェアを,簡単な態度調査でもってすごーく正確に予測できました。という論文。

 背景としては。。。まず90年代から,企業にとってブランド・エクイティ(ブランドの資産価値)の構築が大事だ,という話が出てきた。じゃあ現在のブランド・エクイティをどうやって測るのかというと,(A)財務データを使うやりかた(割引キャッシュフローとか。あああ面倒くさい),(B)過去のマーケティング活動のROIを推定するやり方(マーケティング・ミックス・モデルとか),(C)消費者の態度データを使うやりかた,がある。ま,M&Aに携わる投資銀行マンなどは,サイコメトリクスによるブランド価値評価なんて鼻もひっかけてくれないだろうけど,消費者相手のマーケッターが自分たちの活動のアウトカム指標として態度データを調べようとするのは自然だし,世の中にいろんな測定方法があるって素晴らしいことですよね。
 で,(C)消費者調査でブランド・エクイティを調べる方法にも,(C1)広告で使うような効果階層モデルに基づくものとか(認知から好意を経由して忠誠にいたる,というようなやつ),(C2)好意やらユニークさやらいろんなことを尋ねて組み合わせるやつとか,さまざまなやりかたがある。そのなかに,(C3)とにかく各ブランドに対する関与の強さを直接聞いちゃえばいいのよ!というアプローチもあって,その旗手がこの論文の第一著者である。この論文はブランド評価というよりもサーヴェイ方法論寄りの内容で,超シンプルな態度評定から売上をうまく予測できますよ,というのが売り。
 雑誌掲載時にざっと目を通していたのだが,このたび用事があって最初から読み返した。勤務先の業務内容とあまりに密接に関連しているので(そもそも著者らは勤務先の人である),感想は差し控えるが,わかりやすい良い論文だと思います。

 ほんとはこんなメモではなくて,「平家物語」の異常なまでの面白さについて語り倒したいのだが。。。いったん書きはじめると時間がかかりそうで,妙に気が重い。

読了:Hofmeyr et. al. (2008)

2009年11月19日 (木)

Neijens,P., Smit, E., Moorman, M.(2009) Taking up an event: Brand image transfer during the FIFA World Cup. International J. of Market Research, 51(5), 579-591.
たまたまみつけて,息抜きに読んでみた論文。多少なりとも会社での仕事の役に立つかと思ったけど,そうでもなかった。

[イントロダクション]
スポーツ・イベントに協賛することで,ブランドイメージをどの程度変化させることができるか? そのイメージ形成過程はどのようなものか?

[背景]
ブランドと他のなにか(例, スポーツ・イベント)との間に連想関係をつくると,イメージの転移が起きることが予想できる。しかし,スポーツ・イベント協賛に関する実証研究は少ない。イベント前・中・後の広告の効果についての研究は見当たらないし,スポーツ協賛についての研究は,協賛によって強化できるのは既存のブランド・イメージだけだとか(Javalgi,et al.1994J.Adv),協賛の効果はない(Pope&Voges,1999J.Mktg.Comm)といった結果を示している。 本研究では,イメージの転移に影響する3つの要因について検討する。

  1. イベントとブランドのあいだの一致性の知覚(両者が同じイメージを持っている程度)。(Gwinner&Eaton,1999J.Adv; Gwinner,1997Int.Mktg.Rev; Smith,2004J.Mktg.Mng)
  2. 協賛の程度。(Gwinner,1997; van Reijmersdal et al.,2007Psych.Mktg.)
  3. イベントへの関与の強さ。(Levin et al.,2001J.CurrentIssues&Res.Adv.; Wann&Branscombe,1990J.Sports&SocialIssues; Fisher&Wakefield,1998; Madrigal,2000; Jones et al.,2004)

先行研究の多くは実験研究で,外的妥当性が限られていた。また,イベント直後のイメージのみを調べ,イメージへの持続的効果を調べなかった。本研究では実生活における長期的効果について検討する。

[データ収集]
オランダで調査。SSIのパネルからランダム抽出してオンライン調査。2006ワールドカップ直後に調査(N=1299),3ヶ月後に同一対象者で再調査(N=638)。

[指標]

  • イメージ: 協賛広告主であった3ブランド(金融,通信,小売)と,同カテゴリで広告主でなかった3ブランド,計6ブランドについて聴取。イメージ項目は「スポーティ」「フットボール」「オレンジ」の3つ(オレンジはオランダのチームカラー)。項目を行,ブランドを列としたマトリクスを提示し,ブランドにあてはまる箇所をチェックさせた。(※オランダではこれをASSPAT法というらしい)
  • 接触時間: ワールドカップの情報を得るのにかけた時間を,TV, ネット, 新聞, etc. について聴取。ここから2指標を作成。(1)試合接触時間(TVで試合中継を観た時間)。(2)メディア接触時間(試合中継以外の総時間)
  • イベント関与: スポーツ関与尺度(Shank&Beasley,1998)から以下の8項目の7件法SD項目を選び,ワールドカップについて聴取。{関心ある-ない,価値ある-ない,魅力的である-ない,有用である-ない,必要である-ない,自分と関連する-ない,重要である-ない,関与がある-ない}。ここから1指標を作成。
  • 広告評価:広告親近性尺度(Smit&Neijens,2000J.Adv.Res)から項目を選び(すべて5件法),以下の3指標を作成:面白さ(4項目),情報性(2項目),魅力(2項目)。
  • 背景変数:性別,年齢,教育,フットボールファンである程度(5件法)
  • CFの特性:すべてのCFを録画し,以下をコード化:ブランド名,製品カテゴリ,長さ,スポーツイベントについて言及するやりかた(画像,文章,音楽,バーゲン)。

[結果]

  • イメージ転移 ... 協賛ブランドは非協賛ブランドに比べ,イメージ3項目への反応率が著しく高かった。
  • 接触時間の効果 ... 金融機関では,接触時間とイメージ3項目への反応率との相関が,協賛ブランドで正,非協賛ブランドで負になった (つまり,競合が協賛したせいでイメージが下がっている)。この傾向は小売・通信ではみられなかった。
  • イベント関与の効果 ... 金融機関では,イベント関与とイメージ3項目への反応率との相関が,協賛ブランドで正,非協賛ブランドで負になった(この効果は接触時間の効果を統計的に除外しても残った)。この傾向は小売・通信では明確でなかった。
  • 効果の持続 ... イメージ3項目への反応率を直後と3ヶ月後で比較すると,協賛ブランドではわずかに低下,非協賛ブランドではわずかに向上した。

[結論]

  • ワールドカップ協賛広告によってブランドイメージが変化した
  • その効果は接触時間が長いときに大きく,イベント関与が高いときに大きい
  • 効果は3ヵ月後も持続している

[議論]

  • イベント関与が高い人は,協賛広告への接触時間が長いだけでなく,協賛広告により注意を払いやすく,協賛広告を情報的だとみなしやすいのだろう。
  • 金融機関で効果が大きかったのは,この金融機関がオランダチームのスポンサーでもあったことによるシナジー効果ではないか
  • 小売と通信で接触時間・イベント関与の効果がみられなかったのは,TV CF以外にコミュニケーション・チャネルがあるからだろう (店頭とか)。

へー,こういう研究があるんですね,ふーん。という感じだが,ま,あるブランドがスポーツのスポンサーになると,その競合ブランドとそのスポーツとの連想関係が下がる,というのはちょっと面白いっすね。

それにしても,マーケティング関係の論文の書き方にはいまだに慣れない。この論文でいうと,質問紙でとった指標のところを細かく説明しているのに,結果の報告ではそのほとんどが使用されていないのである。そんなら書かなくてもよいのではなかろうか?

読了:11/18まで (A)

2009年10月28日 (水)

Grover, R., Vriens, M. (2006) Trusted Adviser: How it helps ay the foundation for insights. in Grover, R. & Vriens, M. (eds.) "The handbook of marketing research," Chapter 1.
市場調査のハンドブックの序章に当たる部分。お世話になった方がこのたび本を出すことになり,その原稿を拝見するにあたって,なにかの役に立つかも,と思って読んでみた。そういえばこのハンドブック,ひとりで全部読んでやろうと思っていたのだが,昨年5月に4章分読んだところで挫折していた。再開しようかしらん。
 市場調査というもの,クライアント側の立場が強すぎても(researcher as order taker),リサーチャー側の立場が強すぎても(researcher shooting in the dark),どちらも相互信頼が生まれないし,従って「信頼されるアドバイザ」にもなれない,とのこと。なるほど,確かにそうですね。調査会社が信頼されるアドバイザの役回りを期待されているかどうかは,全然別の問題ですが。
 著者らによれば,市場調査が必要とされるビジネス課題には意思決定と市場学習がある。前者では,まずクライアントが抱えている症状から出発し,探索的調査を通じて問題領域と選択肢を定義し,情報ニーズが確定して定量調査の設計がはじまる,という演繹的アプローチが適している。ここで肝心なのは,症状から問題領域へ,という上流プロセスからリサーチャーが関わることだ,というわけで,著者らは例題を挙げ,情報ニーズからスタートする普通のリサーチャー(order taker)の手による企画書と,症状からスタートする良いリサーチャー(演繹的)の企画書とを並べて見せる。わたくし正直申しまして,前者の企画書を読んだ段階で,おお結構いいじゃん,なあんて思っちゃいました。すみませんすみません。このあたり,「市場調査業界でxx年生きて参りました」というベテランの方々の意見を聞きたいところだ。さぞや反発があるところだろう。そもそも業界自体がorder-taker的サービスを前提としているのではないかと思うので。
 いっぽう市場学習的な状況下では,重要な変数とそのあいだの関係について記述する概念枠組みを構築することがゴールになる。この場合に必要なのは帰納的アプローチで,その際のポイントは,(1)リーダー格のリサーチャーを中心にした放射状のチームをつくること(ブレインストーム型ではだめ),(2)複数手法・複数ソースの調査を組み合わせること,(3)確率抽出ではなく有意抽出に基づくこと,etc。これは腑に落ちる話だと思った。市場理解を目的とする調査は往々にして,複数のステークホルダーがわいわいとブレインストーミングした末,結局は焦点が絞れていない調査票になっちゃったり,十分な精度を得るべく大き目の調査を企画した結果,予算がないので一発の調査で勝負することになり,本当に知りたい消費者の像には手が届かなかったり,というようになりがちだと思うので。

読了:10/27まで (AM)

2009年10月21日 (水)

書いておかないと忘れちゃうので。。。最近読んだ論文。下二本は再読だけど,記録のために。

狩野紀昭,瀬良信彦,高橋文夫,辻進一(1984) 「魅力的品質と当り前品質」, 品質, 14(2) , 147-156.
狩野分析の原論文。いきなりアリストテレスからはじまるのであった。

Walden, D. ed.(1993) Kano's methods for understanding customer-defined quality. Center for Quality of Management J., 2(4).
論文というか,狩野分析についてのハンドブックのような雑誌特集。どういう雑誌なんだろうか。

狩野分析はむしろ海外のほうで知名度が高いようで,学術研究も意外に多い。日本ではあまり見かけないので,webで「狩野分析」を検索したときに俺の名前が上位に出てきたりしたら,ちょっとなんだなあ。。。と要らん心配をしてしまったほどである。ま,杞憂でしたけど。
そんなこんなでちょっと事情があって,ここんところ毎日毎日狩野分析の文献を読みあさっているのだが。。。だんだん飽きてきたぞ。困った。

読了:10/20まで (AM)

2009年8月28日 (金)

Ramaswamy, V., Chatterjee, R., Cohen, S.H. (1996) Joint Segmentation on Distinct Interdependent Bases with Categorical Data. J. Marketing Research, 33(3), 337-350.
 潜在クラスモデルを使ったジョイント・セグメンテーション手法を提案する論文。

 マーケティング戦略を考えるために,まず市場を細分化して捉えましょう,という考え方をセグメンテーションという。市場調査でいえば,消費者をなにかの特性で分類し,それぞれのセグメントに対する戦略を立てるわけである。なにかの特性に注目してアプリオリに分類する場合もあれば(テレビの視聴者を年代・性別で区切り,20-34歳女性をF1層と呼んだりするのがそうだ),項目群についてクラスタ分析かなんかをやって,事後的に抽出する場合もある。

 事後的なセグメンテーションを行う際,使用する項目が概念的に2群に分かれている場合がある。
 この論文の例でいえば,銀行についての調査で,消費者に自分のファイナンシャルな目標13項目を提示して任意個選択,いま利用しているサービスを13項目のなかから任意個選択させている。両方の項目群をつかって消費者を分類したい。ポイントは,2つの項目群は概念的には異なるが,現象としては関連している,という点だ。さあ,どうすればいいか?

 なお,(A)のモデルは(C)よりもパラメータ数が多い。たとえば(C)でのクラス数が3×3だったとすると,(A)では9クラスできることになるが,(C)ではC1の3クラスの所属確率が合計1, C2の3クラスの所属確率も合計1になるという制約が課せられるのに対し,(A)では9クラス分合計してはじめて1になる,つまり(A)のほうが制約が緩い...ということであろう。
 また,(B)のモデルは(C)よりパラメータ数が少なく,2つの潜在クラス変数が独立ならば(C)と同じ結果になるが,独立でない場合には結果がゆがむ。あるヒトがC2のどのクラスに属するかを推定する際,C1のモデルの推定に使った情報を使えない分だけ損をする,ということであろう。

 この論文は,(C)の(A)(B)に対する優位性を実データと人工データで示して見せている。筋立てが明快で,とてもわかりやすい論文であった。実は,こういう論文がすでにあることを知らずに,(C)と似たような潜在クラスモデルを作ってセグメンテーションしたことがあったのだが,(C)のアプローチが(B)よりもなぜ優れているかという点について,自分でもいまいち整理できなかった。その点で勉強になった。
 なお,のちにこの論文のモデルは同定不能だという批判が出て(Walker&Damien,1999),いやそれは誤解だよという反論も出たらしい。数理的な議論みたいだからパス。

 この論文とは関係ないけれど...
 セグメンテーションはマーケティング分野の基礎の基礎みたいな概念なので,大きな声ではいえないが,こんなことやっていいのかなあ,ほんまかいなあ,という違和感をいつも抱えている。戦略立案のためには消費者の類型があったら助かるぞ,というお気持ちはよくわかるが,弁別的かつ収束的かつactionableな類型が,実際の市場に都合よく実在するかどうかは別の話だ。だから,市場理解のためには適切なセグメンテーションが重要です,なんていわれると,「求めよされば与えられん」と説教されているような気がして,なんだか落ち着かないのだ。
 現在の勤務先である市場調査会社に入社し,はじめてセグメンテーションという言葉を聞いたときは,はあ? じゃあ市場に少数のクラスタが存在していて,各クラスタの中で消費者の選好構造は等質だと想定するわけですか? そんなあほな,クレッチマーの類型論じゃあるまいし,そんな便利な構造なんて,なかなか存在しないと思いますよ,などと抵抗したものだ。さぞや面倒な新入社員であったことだろう,といまになって上司様に深く激しく同情する次第である(すみませんすみません)。
 そんなわけで,セグメンテーションという発想そのものに,いまだなじめずにいるのだが,まあ,それは個人的な宿題ということにしておいて。。。

読了:Ramaswamy, Chatterjee, & Cohen (1996) ジョイント・セグメンテーション

2009年8月25日 (火)

読んだものは端から記録しておくことにしよう。というわけで,仕事の都合で読んだマーケティング系の記事を2本。

クリステンセン, C.M., クック, S., ホール, T. (2006) セグメンテーションという悪弊. ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー, 2006年6月号. (原著2005)
 分析の基本単位は顧客ではなく,顧客の「ジョブ」だ(消費者はドリルじゃなくて穴がほしいんだよ,っていうときの「穴」ですね)。従来のセグメンテーション手法がうまく機能したのは,消費者の「ジョブ」が,消費者のデモグラフィックスやサイコグラフィックスとたまたま一致していた場合にすぎない。消費者の「ジョブ」にぴったり合致する「目的ブランド」を構築しましょう。ブランド拡張にあたっては,(1)同じジョブを処理する別の商品を追加するか,(2)目的ブランドは特定のジョブ専門にしておき,親ブランドと並存させるか,にしておきなさい。云々。
 市場調査のテクニカルなレベルでいえば,ヒトのセグメンテーションではなく,ヒト×状況を単位にしたセグメンテーションをしなさい,ってことですかね。

ヤンケロビッチ, D., ミーア, D. (2006) セグメンテーションの再発見. ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー, 2006年6月号. (原著2006)
 セグメンテーションにおいて大事なのは,消費者の理解を深めることそのものではなく,目的合理性である。つまり,セグメンテーションは(1)自社の戦略に対応したものであり,(2)利益の発生源を特定できるものであり,(3)商品・サービスに直結する限りにおいて消費者のサイコグラフィックスを反映し,(4)現実の顧客行動を対象とし,(5)経営者が即座に理解できるくらいに単純で,(6)市場の変化を把握・予測できるものでなければならない。そのためには,重要性に応じたセグメンテーションを構築すべし。たとえば,サニタリーやスナック菓子は重要度低,高価格商品は重要度中,購入者の価値観そのものに関係する商品は重要度高。云々。
 よくわかんなかったんだけど,重要性というのは誰にとっての重要性なのか。消費者が購買意思決定過程にどれだけの認知的コストをかけるか,という意味での重要性か,それともそのセグメンテーションに基づいてなされるであろう企業の意思決定の重要性か。本文中の表をみるかぎり,ごっちゃになっているような気がするんだけど。

読了:08/24まで (MA)

2009年1月31日 (土)

Bawa, K., & Shoemaker, R. (2004) "The Effects of Free Sample Promotions on Incremental Brand Sales." Marketing Science, 23(3), pp.345-363
 製品サンプリング(無料試供品を配るプロモーション)が売上にもたらす影響についての数理モデルを提出し,大規模なフィールド実験を紹介した論文。
 仕事の都合で,サンプリングについてあれこれ考える機会があったのだが,潜在客にもれなく使用経験させちゃうわけだからプラスの面もあるだろうし,でも試し買いしなくて済むわけだからマイナスの面もあるだろうし,それにタダでもらっちゃったら有り難みが薄れるのでは。。。と混乱した気分であった。モヤモヤが整理されたので,読んだ価値があった。
 マーケティングのアカデミックな論文は,この論文のように無闇に複雑な数式が列挙されていることが多くて腰が引けてしまうのだが,きちんと読んでみたら,さほど込み入った話ではなかった。その点でもちょっと自信がつきました。以上がポジティブ面。

 いっぽう,よくわからない点としては。。。この論文が提出しているモデルは,要するに「人々が試し買いする確率の分布と,その後に反復して買う確率の分布がわかれば,サンプリングの効果を算出できます」というものだ(なぜなら試供品受領とは無料の試し買いだから)。そりゃまあ,算出できるでしょうね? で,サンプル受領と非受領を無作為割付した大規模実験のホーム・スキャンパネルデータの,主に非受領群のデータから(←ここがミソ) 購買確率分布を推定し,モデルに当てはめてサンプリングの効果を試算してみせる。推定の方法は勉強になったけど,そりゃまあ,数学が得意な人がやればできることだよね?
 それで論文は終わりなのである。スキャンパネルから求めた売上増加を推定値と照らし合わせ,ほうらモデルの予測はこんなに当たってるよ,という方向には進まない。このモデルを使えば,サンプリングする前から効果がわかるので便利ですよ,という話なのだ。モデルをつくるだけつくっておいて,その検証にはあまり焦点を当てないのである。いいのかそれで? そこのところがよくわからない。
 当該業界におけるMarketing Scienceというのは,察するに心理学でいうJEP:GeneralとかJPSPとか,そういうクラスの雑誌であろう。おそらく,問題はこの論文ではなくて俺のほうにある。マーケティング方面での「良い論文」の基準が,俺にはよくわかっていないのだ(いや,心理学ならよくわかるというわけでもないですけれども)。

 最近,仕事の資料を読むのにちょっと飽きてきて,ふと修士1年の頃の論文抄読会を思い出した。JEPに載っている論文を,なんでもいいから読んで紹介するという。。。研究者養成プログラムとしてはちょっとどうかと思うが,いまにして思えば,あれはあれでなかなか楽しかったような気もする。必要なのは他人に喋るチャンスであろう,というわけで,昼休みに同僚を無理矢理集め,上記の論文を紹介する会を開いた。自分で読まなくても最新の知識が手に入るんだよ,アリガテエと思いネエ,などと恩着せしたが,忙しい中つきあわされる方はいい迷惑であろう。ははは。ご協力ありがとうございました。

読了:01/31まで (MA)

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