elsur.jpn.org >

« 片側検定の迷路 | メイン | 読了:10/02まで (C) »

2009年10月 1日 (木)

 誠にどうでもよい話だが,先週土曜日の講義終了後,学生さんたちがわらわらと教室から出て行くのを見送りつつ,ノートPCを終了させ,荷物を鞄にしまって,部屋のエアコンと照明をオフにし,ドアを開けて廊下に出たところで,そこに立っていた人と危うくぶつかりそうになった。みるとそれは制服を着た女子高生で,驚いたことに,その後ろにも女子高生たちが,ずらーっと,長い行列をつくって並んでいるのである。その奇妙さが俺にこの下手な文章でうまく伝わるかどうかわからないが,先頭の女の子と目があったときは,なんというか,シュールレアリズムの映画のなかの住人になったかと思った。
 正面から顔をつきあわせることになった娘さんが,緊張した声で「こんにちは」というので,我に返って「え?!なに?!なにこれ?!」と口走ると(ちっとも我に返っていないぞ),その娘さんも俺につられて慌てたようで,「あ,あの。。。エイオーニューシの。。。」と口ごもる。振り返って見ると,いま開けたドアの廊下側に,「AO入試受験者控え室」というような張り紙が貼ってある。教務の方が講義中に貼っていったらしい。知らないうちに,教室は高校生たちの控え室になっていたようで,彼女たちはドアが開くのを行儀良く待っていたのだった。
 とっさに,「あ,そんならこの教室使うのね?,はいはいはい」と明るく声を掛け,後ろ手にドアを開けて数歩後ずさり,片手で照明とエアコンをつけながら「はいどうぞー」とドアを大きく開けた。で,あたかも急用があるかのような早足で教員控え室に向かいつつ,そうかそれで高校生がいたのか,と納得した。ああ,びっくりした。
 それから,これが我ながら不思議なのだが,俺はひとしきり反省した。いま俺の行動は不審ではなかったか? いや,なかったなかった,大丈夫だ。いかにも教員らしい落ち着いた振る舞いであったことよ。うんうん。というふうに。

 先日の休日に近所を散歩していて,音大の前を通りかかったら,ちょうど秋の学園祭をやっていた。オーケストラの生演奏に釣られて入ってみると,コンサート会場はもう立ち見で満杯で,屋外ステージは人混みに隠れて見えない。仕方がないので,屋台で紙コップの生ビールを買い,所在なくあたりを見回していると,まわりは二十歳前後の女の子たちでいっぱいで,それがなんだかおしなべて美人なのである。さらに,彼女たちの腰の位置の高いことといったら。とにかくもう,スタイルがものすごーく良い。日本人はいったいどうなっちゃったんだ,食い物のせいか,などと呟きながら,若く美しい娘たちをジロジロジロジロと鑑賞した。
 これはお嬢様の通う名門音大だからか? それともイマドキの女の子はみんなこんなにスタイルが良いのか? 別の大学ならどうだろうか,とそこまで考えて,はたと気がついた。自分が教えている学生さんたちを,俺はろくろく見ていない。顔は覚えているけど,美人だとかそうでないとか,そういう視点で学生さんたちをみたことはないし,体型に至っては全く記憶にない。教室で顔を合わせるだけ,せいぜいたまに飲みに行ったりする程度だから,当然のことだろうか。。。いや,やはりそれだけではないな。いざ自分がなにかを教える立場となると,学生たちのスタイルだとかルックスだとか,そういう事柄にはもう全く気が回らなくなってしまうのである。

 要するに,これは役割の問題であろう。仕事先のキャンパスにおいては,俺はせっかちな非常勤講師であり,音大のキャンパスにおいては,俺は近所の忌憚無きスケベオヤジである。どちらが本物,という問題ではない。俺は見事に社会的役割を取得している。
 でも,なにかの拍子に不意を打たれると。。。たとえば,開けたドアのすぐ目の前に可愛らしい女の子が立っていて思わずつんのめりそうになったりしたときに,ぶ厚い被覆が一瞬剥がれ落ちる。その内側の俺は,若い女性を見るとすぐにあがってしまってまともに口もきけなくなってしまう,小心な青年のままだ。俺はさまざまな社会的役割をとっかえひっかえして,かろうじて生き延びている。
 年を取ろうが,結婚しようが,俺は全く成長していない。これからも成長できないだろう。そう気づくことはとても哀しい。実に情けないことだが,オカシイ,コンナハズデハナカッタ,という気がするのである。

雑記 - ドアの前に立つのはやめてください