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2011年5月19日 (木)

Bookcover 国家の崩壊―新リベラル帝国主義と世界秩序 [a]
ロバート クーパー / 日本経済新聞出版社 / 2008-07
著者はイギリスの外交官で,ブレア政権下の外交戦略の理論的支柱として知られた人。(読み終えてから知ったのだが,ピアニスト・内田光子の旦那さんである由。へぇー。)
 この本,副題に「新リベラル帝国主義と世界秩序」とあり,きっとネオコンのエゲレス版なんだろうなあ,ブッシュ政権に追随した英国の外交官だもんなあ... と勘ぐって,怖いモノみたさで買ったのである。で,読みかけたものの内容についていけず,そのまま放置していた。先日読んだ細谷雄一「倫理的な戦争」のおかげでようやくコンテキストがわかり,最初から読みなおすことができた。ここでいう「帝国主義」とは,ある種の価値の普遍性を信じる,という程度の意味で,アメリカの新保守主義者の単独行動主義とは対極にあるもののようだ。
 さほど長くない文章を3編所収。第一部の,世界秩序をプレ近代・近代・ポスト近代にわけて論じる文章が白眉なのだと思うが,他の文章もとても面白かった。
 著者は現代の外交のありかたについて,5つの(すごく一般的な)提言を行っているのだが,そのひとつが「状況を拡大せよ」である。「ビスマルクが目指したのは,ヨーロッパ内部の現状維持だった。この目標を追求する家庭で,ビスマルクにとって最大の問題となっていたのは,ドイツがアルザス・ロレーヌ地方を併合したことが引き金となったフランス側の抜き差しならぬ敵意だった。[...] フランスと和解する望みはまったくない。そこでビスマルクは,問題となる状況を拡大し,フランスの帝国主義的野心を焚きつけ,[...] ヨーロッパを越えた帝国の世界を巻き込んでヨーロッパの国境問題を処理しようとした」「状況を狭めることは,さまざまな問題を発生させたり,悪化させたりすることが多い」ではなぜ,問題を大きくすることが問題の解決につながるのか? 「戦術レベルでは,[他の問題とリンクさせることで] 威圧や報償など何らかの一時的手法をみつけることになる。戦略レベルでは,より大きな利害を問題に加えることになる。実存主義のレベルでは,アイデンティティを変えることを意味する」「イギリス,フランス,ドイツが,1000年にもわたる敵対関係にもかかわらず,もはや戦争を起こさないのは,『われわれ』自身を再定義したことが理由である[...] 状況拡大の究極の形とは,状況だけでなく,われわれ自身についての定義を拡大することなのである[...] その答えが幅広いものになればなるほど,『われわれ』が平和に暮らせる可能性は高くなる」 なるほど。。。 この発想は勉強になった。問題を切り分ければいいってもんでもないですね。

ノンフィクション(2011-) - 読了:「国家の崩壊」

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