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2011年5月19日 (木)
van Heerde, H.J., Leeflang, P.S.H., Wittink, D.R. (2000) The estimation of pre- and postpromotion dips with store-level scanner data. Journal of Marketing Research, 37(3), 383-395.
値引きなどの販促によって商品の売上は伸びるけど、買い貯めや事前の買い控えが起きるので、販促期間の前後は売上が落ちる。この現象はホーム・スキャン・データで確認できるのだが、不思議なことに、POSデータでは確認できないといわれているのだそうだ。そこで、販促の変数をラグつきでどっさりぶちこんで、ブランドの売上を予測する計量経済学的なモデルをつくりました。実データに適用した結果、やはり隠れた低下があること、その大きさはホーム・スキャン・データからの知見と同程度(4~25%)であることがわかりました。という論文。テクニカルな話で、実務的な示唆はあまりない。
モデルはSCAN*PROモデル(ニールセンが商品化している)の改訂版である由。整理して書き出すと、
ln(店i, ブランドk, 第t週の売上})
= \sum_j \alpha_{jkl} ln(店i, ブランドj, 第t週, 状態 l のPI)
+ \alpha_{Fk} (ブランドk, 店i、第t週にfeatureのみ非価格販促の有無)
+ \alpha_{Dk} (ブランドk, 店i、第t週にdisplayのみ非価格販促の有無)
+ \alpha_{FDk} (ブランドk, 店i、第t週にfeature&display非価格販促の有無)
+ \sum_u \sum_l \beta_{kl,u} ln(店i, ブランドk, 第t-u週, 状態lのPI)
+ \sum_v \sum_l \gamma_{kl,v} ln(店i, ブランドk, 第t+v週, 状態lのPI)
+ (店i, ブランドkの切片)
+ (ブランドk, 第t週の切片)
+ (店i, ブランドk, 第t週における残差)
PIとはそのときの価格と通常価格の比。状態 l = {1,2,3,4} は順に、値引きについてfeatureもdisplayもなし、featureのみ、displayのみ、両方、を示す(所与のi, j, tのもとで現実の状態は一つしかないから、現実でない l についての PI は 0とでもするのかしらん)。\alphaが現在の値引きや非価格販促に対する売上の(交差)弾力性、\betaと\gammaが過去・未来の値引きに対する売上の弾力性を表している。
で、ツナ缶(3ブランド)、ティッシュ(6ブランド)の、それぞれ24店舗・52週のPOSデータを用い、上記のモデルをブランド別に推定する。\betaと\gammaにあれこれ制約をかけてみたり(指数関数的に減衰するとか)、uとvの上限を動かしてみたりして、AICでモデル選択する。で、(a)実際の売上曲線、(b)得られたパラメータをもとにしたシミュレーション、(c)販促前後のネガティブな効果を取り除いたシミュレーション、の3本を比較すると、(a)(b)が一致し、そこでは販促前後にいっけん「谷」がないようにみえるけど、(c)と比べると「谷」がある、実は落ちていたんですね、というストーリー。
J. Marketing Researchの論文はどれも難しそうな数式が多くて近寄りがたいのだが、きちんと読んでみるとそんなにややこしい手法は使っていないことが多い。誠にありがたいことである。この論文も、いろいろ工夫しているけれど、要するに回帰モデルだ。
話の本筋からは離れるが、Narasimhan, Chakravarthi, Neslin, Sen(1996, J. Mktg) は製品カテゴリの"ability to stockpile"の消費者評定をとっているそうだ。へええ。
論文:マーケティング - 読了:van Heerde, et. al. (2000) POSデータによる販促前後売上減の推定