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2011年12月 3日 (土)

Koppelman, F.S., Wen, C.H. (2000) The paired combinatorial logit model: properties, estimation and application. Transportation Research Part B, 34, 75-89.
 離散選択モデルのひとつであるpaired combinatorial logit モデル (PCLモデル) がいかに優れておるか、という論文。PCLモデルとは、multinominal logitモデルのIIA特性を緩和したモデルのひとつで、nested logit モデルをさらに大げさにしたような奴。選択肢のすべてのペアがそれぞれひとつのネストをつくっていると考える。選択肢が3つあったら、選択肢1はネスト{1,2}とネスト{1,3}に属しているわけだ。

 恥ずかしながらこの論文を見つけたときは、paired combinatorial logitだって!! そんな手法があるのか!! nested logit とちがって事前に構造を決めなくていいじゃん!! やったぜ俺!! 検索の天才!! と思ったのである。で、喜び勇んで読み始めたら、だんだん疑念がわいてきて... 先日どさっと買い込んだ本のなかの一冊、たぶん有名な教科書であるTrain(2009)を調べたら、ちゃあんと載ってました。この論文の著者の研究も引用されてました。離散選択モデルの世界では有名なモデルなのであった。よく知らない分野の話を毎度付け焼刃で勉強しているから、こういうナサケナイ目にあうのである。というわけで,意気消沈して後半から流し読み。
 ところで、ずぶの素人としては、そうまでしてIIA特性を緩和したいんならさっさと多項プロビットモデルを使えばいいんじゃないですか? 早いPC買ってきてシミュレーションでガンガン解けばいいんじゃないですか?という気がするのだが、その道の方々にはなにかしらの事情があるのだろう。ぼんやりディスプレイを眺めて待ってんのが嫌だとか。閉形式のほうがクールだとか。

里村卓也(2008) 消費者の理論的選択モデルに関する考察. 三田商学研究, 51(4), 121-133.
 ネットで拾った論文。私がお名前を知っているくらいだから、著者はマーケティング研究の分野で有名な研究者だと思う。前半は経済学的な観点からの、予算制約下での効用最大化モデルの紹介。複数商品の選択もカバーできる(バラエティ・シーキングの分析に使われている由)。後半は選択の文脈効果を統一的に説明する数理モデルの紹介。Busemeyerのdecision field theoryの拡張とか(ムズカシイ...)。

 論文の主旨からは外れるのだが、マーケティングの分野で用いられるモデルを誘導型(reduced form)と構造型(structural form)に区別しているところ、勉強になった。前者は「理論を用いてデータ間の関係を記述し、その後はその理論にたちもどらずに誘導されたモデルだけからデータを解析する方法」。ただし、「理論モデルを利用することなく統計モデルとデータだけを利用して知見を得ようとするデータ主導の方法」を含めることもある。後者は「企業や消費者の意思決定過程をモデル化し、統計モデルとデータからモデルの同定を行う」方法。
 なるほどねえ、便利な用語だなあ、と腑に落ちたのだが、具体例に当てはめて考えると、これは案外ややこしい話だと思った。いい例ではないかもしれないが、ある事柄についての態度項目についての探索的因子分析を行う人のなかには「各項目への回答はその回答者が持っている少数個の潜在的態度を反映しているのだ」と心的な反応生成メカニズムに踏み込んで解釈する真剣な人と、「なんでもいいから似た項目がまとまればいいや」とか「回答の傾向が少数の因子得点に縮約できればハッピー」としか考えていない呑気な人がいると思う。因子分析モデルは前者の人にとっては構造型、後者の人にとっては誘導型ということになろうか。このように、同じ数理モデルが異なる思惑で用いられている例を、ほかにもたくさん挙げることができるだろう。さらにややこしいと思うのは、特定の理論的見地が深く刻み込まれているモデルがその理論抜きで使われている場合で、たとえば、消費者の補償型購買意思決定など露ほども信じていないけど、コンジョイント分析で売上シミュレーションしちゃう、なんていうのがそれだと思う。
 気になって、引用されているChintagunta et.al.(2006)の該当箇所も読んでみたのだが、彼らが書いているように、これは relative weights placed on data fitting [...] versus relying on theory in building an econometric modelという話なのですね。モデルが2つのタイプにパキッと分かれるというより、theory-drivenとdata-drivenの連続体上に位置するという感じの話なのだろうと思った。と同時に、ある人が道具として使うモデルの成り立ちと、その人のアプローチとは分けて考えたほうがいいなあ、などと思った。
 こんなことについてあれこれ考えてしまったのは、ぼんやりしているとついつい理論的負荷を帯びまくった構造型モデルのほうがカッコいいように思えるからであって(理由1:理論さえ正しければ外挿的予測が可能だから; 理由2:なんか頭良さそうにみえるから)、要するにちょっと動揺しただけである。

論文:データ解析(-2014) - 読了:里村(2008) 消費者の理論的選択モデル; Koppelman&Wen(2000) paired combinatorial logit モデル

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