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2014年3月21日 (金)

いわゆる「ウェイト・バック集計」関連の論文を集めてはパラパラめくる今日この頃である。ちょっと飽きてきた。

Asparouhov, T. (2005) Sampling weights in latent variable modeling. Structural Equation Modeling, 12(3), 411-434.
 著者はMuthen導師の弟子でMplus開発チームの人。確率ウェイティングを伴う潜在変数モデルの推定について、Mplusがお勧めする疑似最尤法(PML)、LISRELなどで用いられている重みつき最尤法(WML)、そして重みつき最小二乗法(WLS)を比較する、という内容。Mplusといってもversion 3だけど。
 主旨そのものは、ふうん... としかいいようがないんだけど、シミュレーションの部分が面白かったのでメモ。

 まず本題のほう。
 PMLもWMLも、重みつき対数尤度(ケースの対数尤度にケースのウェイトを掛けて合計したもの)を最大化するという点では変わらない。従ってパラメータ推定値は同一である。ちがうのは、推定量の共分散行列の推定方法である(なんだか超複雑な式がツラッと書いてあるけど、みなかったことにします)。よくわかんないけど、WMLというのは、まず重みつき標本統計量(平均と共分散)を求め、それに対してモデルを通常のML法でフィッティングするのと同じことなのだそうだ。本文の途中の説明では、「WMLというのは確率ウェイトをうっかり頻度ウェイトだと解釈したようなものだ」という記述もある。あー、なるほどね... これは目から鱗だ。
 WLSというのはカテゴリカル変数に対しても使える奴。まず切片や閾値や傾きについてのみ重みつき対数尤度を最大化し、推定値を固定して次に相関について重みつき対数尤度を最大化し... という面倒な手順を踏んでいる由。
 なおPMLとは、MplusでいうところのMLR推定量のことで、MLM, MLMVもこれに近い。WLSとはWLS, WLSM, WLSMV, ULSのこと。

 いくつかのシミュレーションを紹介。最後に、成長モデルについてMplus(MLR推定量), MLwiN, HLMを比較している。SASのproc mixedはHLMと同じらしい。うーん、他のソフトのことは知らないけど、SASのproc mixedのweight文は確率ウェイトを意味していないことがあきらかだから(いわゆるanalytic weight、測定値の誤差分散の逆数だと思う)、フェアな比較なのかどうかわからないけど... とにかくMplusの推定値が一番よかった由。とはいえ脚注によれば、LISRELやHLMではその後のバージョンアップによってもっと良い出力が出せるようになったそうだ。
 
 で、話をシミュレーションに戻すと... 一因子確認的因子分析(PML, WML)、潜在クラス分析(PML, WML)、カテゴリカル変数の一因子因子分析(WLS)、その「標本抽出がクラスタ抽出だったら」版(WLS), の4つについてシミュレーションする。まず適当な母集団モデルをつくって、つぎに標本抽出モデルをつくる、という手順。後者のモデルは、標本抽出の確率が指標によって決まるようなモデルである。どちらのモデルについても、パラメータをあれこれ動かしてみたりはしない、あっさりしたデモンストレーションなのだが、こんな選択バイアスがかかったら多変量解析の結果はどうなるでしょうか? という頭の体操として、面白く読んだ。

 例題。連続変数5項目の一因子因子分析。真のモデルは、どの項目も負荷1, 切片0.3, 残差分散1, 因子分散0.8とする。で、ケースの抽出確率を1/(1+exp(-項目1))とする。項目1の値が高い人をオーバーサンプリングしているわけだ。ちなみにn=1000。さて、得られたデータをウェイティング抜きで因子分析する。項目1の負荷を1に固定して識別させる。さあ、推定結果はどうなるか? 昼飯後のコーヒーショップでここまで読んで、あわてて頁を伏せ、目を閉じて考え始めたら、すこし居眠りしてしまった。
 正解。当然ながら、項目1の切片はやたらに高くなり(バイアスは+0.6)。残差分散はやたらに低くなる(-0.15)。他の項目も、切片はかなり高くなるが(+0.26くらい)、残差分散は影響されない。で、他の項目の因子負荷が高くなり(+0.16くらい)、因子分散は低くなる(-0.28)。なるほどー。

 というわけで、面白かったんだけど、いろいろ考えさせられる面もあった。
 潜在変数モデルにおける確率ウェイティングの出番、つまり「標本抽出確率の不均一性でバイアスが生まれており、確率ウェイティングでそのバイアスを除去できる」状況とは、いったいどんな状況だろうか。この論文では、「データの発生メカニズム自体に異質性はないけど、調査項目による標本選択が生じている」状況を想定しているわけだけど、現実の場面でそういうことは起きるだろうか。
 調査データの分析で単純な確率ウェイティングが用いられる二大場面は、非比例層別抽出、ならびに(たとえば調査無回答に対処するための)事後層別、だと思う。ふつう層別変数は対象者のデモグラフィック属性などで、調査項目や潜在変数からみると共変量だから、不均一な抽出による選択バイアスは、潜在変数の分布特性(たとえば因子分散)の推定には効いても、測定モデルのパラメータ(たとえば因子負荷)には効かないのではないかと思う。実際この論文でも、潜在クラス分析のシミュレーションのくだりで、抽出確率が(潜在クラスの指標となる項目ではなく)潜在クラスの予測子によって決まっている場合、選択バイアスは閾値の推定には効かない、と紹介している。もっとも閾値の分散の推定においては、ウェイティングを伴う正しい推定方式が必要になるわけだけど。
 層別変数が共変量ではなく、調査項目から見た結果変数になっている、というケースもあり得なくはない。たとえば、ある製品カテゴリに対する態度の調査で、ユーザと非ユーザに標本サイズを割りつけている場合がそれだ。でもこういう場合、そもそも各層の標本抽出確率がわからないので(潜在的消費者におけるユーザの割合がわからない)、ウェイティングしたくてもできない、ということが少なくない。それに、わざわざ指標と関連した層別を行っているからには、それらの層を通じた共通モデルという想定そのものが疑わしいことが多いと思う。ユーザと非ユーザでは態度の構造が違うだろう。

 そんなこんなで、因子分析や潜在クラス分析で確率ウェイティングをかけたい、どうしてもかけたい!という事態が、ちょっと想像しにくいように思うのだが、うーん、どうなんですかね。もっとも、これは私がパラメータ推定にばかり目を向けているからで、パラメータの信頼区間やモデルのカイ二乗値に強い関心があれば、話は少し変わってくるだろう。

論文:データ解析(-2014) - 読了:Asparouhov(2005) 因子分析・潜在クラス分析における確率ウェイティング(または: Mplus 3はこんなにすごいんだぜ)