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2014年3月23日 (日)

 人々がどこかにお出かけしたり、おいしいものを食べたり、立派なことを言ったりしている間に、暗がりでジミーな論文をジトジトと読んでいるのでありました。魅力的な人物とは言いがたいね。

Patterson, B.H., Dayton, C.M., Graubard, B.I. (2002) Latent Class Analysis of Complex Sample Survey Data: Application to Dietary Data. Journal of the American Statistical Association, 97(459).
 えーと、複雑な標本デザインのデータについての潜在クラス分析(LCA)の方法を考えました、という論文。

 アメリカには全国レベルでの食生活調査がいくつかあって、たとえば何日かにわたって、過去24時間に野菜を食べた回数を聴取したりしている。そこで、潜在クラス分析によるデータ縮約を提案したい。ところがそういう調査は標本抽出デザインが複雑だ。というモチベーションがある由。著者らいわく、LCAに標本抽出デザインを組み込んだ報告はこれまでに見当たらないが(そうなんですか?)、回帰分析ではすでにある、とのこと。Korn & Graubard(1999, "Analysis of Health Surveys")というのが挙げられている。
 
 $J$ 項目の「食べた回数」設問への対象者 $i$ のベクトルを $Y_i$ とする。$j$ 番目の回答は 1から$R_j$までの離散値をとる。$L$個の潜在クラスを考え、$l$ 番目の潜在クラス $c_l$ のサイズを $\theta_l$ とし、そのメンバーが項目 $j$ に対して回答 $r$ を返す確率を $\alpha_{lkr}$とする。
 通常の潜在クラスモデル (LCM) であれば、
 $Pr(Y_i | c_l) = \prod_j \prod_r \alpha_{lkr}^{\delta_{ijr} }$
である($\delta_{ijr}$ は$y_{ij} = r$ のときに1, そうでないときに0)。対数尤度は
 $\Lambda = \sum_i ln \sum_l \theta_l Pr(Y_i | c_l) $
上の式を放り込んで
 $\Lambda = \sum_i \ln \{ \sum_l \theta_l \prod_j \prod_r \alpha_{lkr}^{\delta_{ijr}} \}$
シンプルだ。世の中の調査がみんな単純無作為抽出ならよかったのにね。
 さてここで、対象者 $i$ がウェイト $w_i$ を持っている。疑似対数尤度は
 $\Lambda = \sum_i w_i \ln \{ \sum_l \theta_l \prod_j \prod_r \alpha_{lkr}^{\delta_{ijr}} \}$
これを最大化する$\theta, \alpha$は母パラメータの一致推定量になることが示されている(Pfeffermann(1993) が挙げられている)。標準誤差の推定は難しくて(CSFIIのデザインにはクラスタも入っているので特に)、ごちゃごちゃ書いてあるけど、要するにジャックナイフ推定しますということなので、省略。実はそこんところが、この論文の売りらしいんだけど...どうもすいません。
 実データへの適用例。Continuing Survey of Food Intakes by Individuals (CSFII) という調査のデータを使う。多段の層別抽出で、ケースにウェイトがついている。野菜を食べた回数を4日分聴取している。食べた/食べないの二値に落として、weighted, unweightedそれぞれで2クラス解を推定。「野菜食べないクラス」のサイズが、unweightedよりweightedのほうで大幅に小さくなった。とかなんとか。そのほか、デザイン効果(deff)で標準誤差の見当をつけちゃだめだとか、Wald検定しましたとか、いろいろ説明してあるけど、スキップ。標準誤差のジャックナイフ推定の妥当性を示すためにシミュレーションしているけど、スキップ。どうもすいません。
 考察。ウェイティングすべきかせざるべきかという問題には長い歴史がある(以下を挙げている: Brewer & Mellor 1973; Smith 1976JRSS, 1984JRSS; Hansen, Madow, & Tepping 1983JASS; Fienberg 1989 in "Panel Surveys"; Kalton 1989 in "Panel Surveys"; Korn & Graubard 1995JRSS, 1995 Am.Stat.)。考慮すべき点は次の4つだろう:

  1. 目的は分析か記述か(←曖昧な言い方だと思うけど、どうやら共変量なしのLCMのような測定モデルを指して記述といっているらしい)。
  2. 要らないウェイティングをやっちゃったときのinefficiencyが、推定する効果に対して小さいか。
  3. ウェイティングしないときのバイアスの大きさ。
  4. 標本デザインについて十分な情報はあるか、また、ウェイティングせず標本デザインをモデル化するための変数が手に入るか。

 云々、云々。。。

 著者の先生方には大変申し訳ないんだけど、実はこの論文自体にはなんの関心もなくて、このあとのディスカッションが面白そうなので仕方なく読んだのである。この論文に対する4組の研究者によるコメントと、著者らによる返答がついている。主な論点をメモ。リングサイドよ、ゴングを鳴らせ!

 怖えーー! Vermunt怖えーー!

 特に面白かった2つの指摘について詳しくメモしておく。まず、Elliott & Sammel のベイジアン・アプローチの話。

母平均の推測について考えよう。標本 $s$ が標本抽出デザインによって$H$個の層にわけられており、母集団における層のサイズはわかっているものとする。層 $h$ の位置パラメータ $\mu_h = E(y_{hi} | \mu_h)$ が、平均 $\mu$, 分散 $\tau^2$ の事前分布を持っていると考える。
 $\tau^2=\inf$ のとき、個々の $\mu_h$ は固定された独立な量で、層を通じた情報の共有はなく、母平均 $E(\bar{Y} | y \in s)$ の事後平均は、完全にウェイティングされた平均推定量 $\bar{y}_w = \sum_i w_i y_i / \sum_i w_i$ で与えられる。
 同様に、$\tau^2=0$ のとき、すべての $\mu_h$ は $\mu$ と同じことになり、$E(\bar{Y} | y)$ は全層をプールしたウェイティングされていない平均推定量で与えられる。
 $0 < \tau^2 < \inf$ とすれば、$E(\bar{Y} | y)$ の推定量は、不偏性と分散最小性の間のトレードオフを調整したものになり、平均平方誤差を小さくすることができる。このように、事前平均と分散に構造を与えることで、バイアスと分散のトレードオフを手元にあるデザインとデータ構造に対してチューニングすることができる(Elliott & Little, 2000)。
 このアプローチを拡張して、次の階層モデルを考える。二値の指標 $Y_{ij}$ について(※読みにくいので左辺を括弧でくくった)、
 $(Y_{hij} | c_l, \alpha_{hlj}) \sim BERNOULLI(\alpha_{hlj})$
 $(\alpha_{hlj} | c_l) \sim BETA(a_{lj}, b_{lj})$
 $(c_l | \theta_{hl}) \sim MULTINOMIAL(1, \theta_{hl}, L)$
 $(\theta_{hl}) \sim DIRICHLET(d_1, ..., d_L)$

云々。という風に、素知らぬ顔で階層ベイズモデルを持ち出す。なるほどね。でもちょっと面倒くさすぎる。。。

ふたつめ。Vermuntの原理的な批判。

 彼らが示した事例において、weightedの解がunweightedの解よりもより良いと云っていいものかどうか、私にはよくわからない。
 話を明確にするためには、潜在クラスモデルの2種類のパラメータを区別しておくことが大事だ。すなわち、潜在クラスの比率 $\theta_l$ と、項目の条件つき確率 $\alpha_{ijr}$ である。確かに、もし抽出ウェイトと相関する諸特性がクラスのメンバーシップとも相関していたら、$\theta_l$ のunweightedの推定値はバイアスを受ける。しかし注意すべきは、標準的な潜在クラス分析で得られた結果が妥当なのは、母集団が$\alpha_{ijr}$ について等質である場合に限られるという点である。仮にこの仮定が維持されているなら、$\alpha_{ijr}$ の推定の際に抽出ウェイトを使う必要はない。仮にこの仮定が維持されていないなら、抽出ウェイトを使っても問題は解決されない。$\alpha_{ijr}$ の異質性を、適切なグルーピング変数を導入した多群潜在クラス分析で取り扱わなけばならない。
 weightedの分析では標準誤差が大きくなる。だから私はunweightedの$\alpha_{ijr}$のほうがよいと思う。unweightの$\theta_l$はバイアスを受けるかもしれないが、それは$\alpha_{ijr}$をunweightedのML推定値に固定した上で、潜在クラス確率を(たとえば疑似ML推定で)再推定すれば修正できる。

 そうそうそう! まさにそう思うんですよ! 私が確率ウェイティングつきの多変量解析に対してふだん感じている違和感はまさにこれだ。ありがとうVermunt先生。やっと巡り会えたという感動でいっぱいです。

さて、著者らの返答。Vermuntの原理的批判に対する返答だけメモしておく。

 一般に、モデルが「正しく」指定されているかどうかを知ることは不可能だ。仮に可能であったとしても、その「正しい」モデルはむやみに複雑で解釈困難かもしれない。モデルが間違っている場合、Vermuntの2段階アプローチは「センサス」モデル(仮に母集団全体が標本になっていたら得られていたであろうモデル)を推定していない。
 これに対して、我々のweighted疑似尤度アプローチは、センサスモデルを推定している。このアプローチは、仮にモデルが間違っていても、異なる確率標本デザインからの推定値が平均してだいたい同じになるという利点を持っている。Vermuntの示唆する、まず等質な群を同定して項目の条件つき確率の異質性を取扱い次に多群潜在クラスモデルを用いるというやりかたは、現実性に欠け実行困難であるように思われる。

 うーん... そうかなあ...

 $\alpha_{ijr}$の異質性はないと信じる、というのはひとつの立派な考え方だと思う。異質性を正面からモデル化するというのも、実行可能性は別にして、もちろん立派な考え方だ。いっぽう、著者らの言い分はこうだ。「異質性があるかもしれないけど、まあそれは気にしないことにして、抽出デザインに起因するバイアスに対して頑健な推定値を求めましょう」。うーん、それってどうなんだろう...
 彼らのアプローチは結局のところ異質性を無視しているわけだ。そのことによってミスリーディングな結果を得てしまう危険性は、ウェイティングしようがしまいが変わらない。この話、とどのつまりは、(異質性がないという前提が正しい場合の)標準誤差を犠牲にして、(前提が間違っている場合の)抽出デザインに対する頑健性を得たいですか? という問いに帰着するのではなかろうか。私の個人的な感覚としては、答えはNoだ...
 もっとも、彼らのいう「センサス・モデル」つまり「単純無作為標本の下で推定されていたであろうモデル」に、常になんらかの認識的価値が認められるのならば(実際には異質性が存在するのにそれを無視してしまっていた残念な場合においてさえ!)、そのときには彼らの手法には価値があるということになろう。かつてわたくしの元上司様は、「それが現象理解や意思決定の役に立つかどうかを別にして、手続き的に正しい結果を提出すればよい、あとのことは知らない」という市場調査会社の姿勢を指してシニカルに「コンナンデマシタケド」と呼んでいて、笑ってしまったのだが、私がいま想像できないだけで、そういう姿勢が求められる場面もあるかもしれない。うーむ。

 というわけで、「多変量解析での確率ウェイティングってなんなの?」というちょっとしたマイ・ブームのために、資料を手当たり次第にめくっていたのだけど、だんだん考え方が自分なりに整理できてきたような気がするので、そろそろ打ち止めにしておこう。

論文:データ解析(-2014) - 読了:Patterson, Dayton, Graubard (2002) 複雑な標本抽出デザインのデータに対する潜在クラス分析 (仁義なき質疑応答つき)

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