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2014年4月 8日 (火)
Spann, M. & Skiera, B. (2003) Internet-based virtural stock markets for business forecasting. Management Science, 49(10), 1310-1326.
予測市場による市場予測の解説。寝不足なのか春のせいなのか、あまりに眠かったもので、要点をメモしながら読んだ。
1. イントロダクション
市場予測は大事だ。計量経済学的モデルによる外挿のためには過去のデータが未来についての情報を含んでいることが必要である。消費者調査・専門家調査は誰にどう聴くかが難しいし時間もかかる。本論文ではネット仮想株式市場(VSM)を中短期の市場予測に用いることができると主張する。
VSMはすでに選挙予測に適用され精度が高い。しかし市場予測は選挙予測とちがい、(1)もっと複雑で、(2)予想に使える情報が貧弱で、(3)専門家を参加させるためにインセンティブをうまく設計する必要があり、(4)予測が求められる頻度が多い。
いっぽう、VSMによる市場予測がもしうまくいけば、(1)情報がはいるたびに素早く予測できるようになり、(2)いろいろな専門家の意見を集約するために重みづけを考える必要がなくなり、(3)低コストで、(4)単なる参加ではなく真の評価に対して報酬を渡すことができ、(5)参加者も楽しい。
2. VSMの基本的概念と理論的基盤
VSMでは未来の市場状況を仮想株式で表現し取引させる(正確には株式stocksというより有価証券securities)。時期 T 終了時における出来事 i の状態をZ_{i,T}とし、株式の配当金 d_{i,T} をその可逆な単調変換とする。すなわち
d_{i,T} = \phi [ Z_{i, T} ]
時点 t における株価 p_{i,T,t} は次のようになる。Z_{i,T} の期待値は、割引率を \delta として
\hat{Z}_{i,T,t} = \phi^{-1} [ p_{i,T,t} (1+\delta)^{T-t} ]
VSMの理論的基盤は次の2つ。(1)効率的市場仮説。(2)ハイエク仮説(市場参加者における非対称な情報を累積する最も効率的な仕組みは競争市場における価格メカニズムだ)。
VSMがうまくいくには以下が要件となる。(1)株式の配当を決めるのがZ_{i,T}だということが明確であること。(2)参加者が未来の市場についてある程度の知識を持っていること。(3)専門家が参加してくれるだけのインセンティブがあること。
3. VSMの設計
3つの問題にわけ、政治予測市場、実験経済学、金融市場デザインの研究を概観する。
3.1 予測の目標をどう決めるか
以下の点を決める。(1)Z_{i,T}はなにか。次の3つがありうる。(i)絶対値(例, 売上)。(ii)相対値(例, 市場シェア)。(iii)特定の出来事の生起有無。(2)Z_{i,T}に応じた配当金d_{i,T}。(3)持続期間 T と、その間のVSMへのアクセシビリティ。(4)参加者の制限。
3.2 インセンティブをどう設計するか
インセンティブは参加者のパフォーマンスによるものにする。次の2つがありうる。(1)参加者に自分の金を投資させる。(2)最初に仮想株式や仮想通貨を渡す。
ゼロサムゲームにしておかないと胴元が大損するかもしれない。ゼロサムゲームにする方法は2つ。(1) d_{i,T} の i を通じた合計を定数にしておく。Z_{i,T}が絶対値である場合は工夫が必要(幅を持たせて予測させるとか)。(2)参加者の最終のポートフォリオ価値を相対評価する(線形変換、ないしトーナメント)。
初期ポートフォリオによるバイアス(現状維持バイアス、保有効果)や、リスク志向性の増大がありうるが、あとで現金と引き換えるのなら大丈夫だろう。
パフォーマンスによらないインセンティブを追加するのもいいかもしれない。
3.3 市場取引ルールをどうするか
主要な方法は2つ。(1)マーケット・メーカー方式。最初の相場と、相場を注文に応じて変える方法(自動か手動か)を決める。流動性が高い反面、マーケット・メーカーが損する危険もある。(2)ダブル・オークション方式。注文ブックの公開の有無を決める。
その他、以下の点を決める。(1)ポートフォリオ・ポジションを制限するか(すべてある株に突っ込んでいいかとか)。(2)注文・相場の最高価格・最低価格を制限するか。
取引手数料や保証金はよろしくないことがわかっている。
4. 実証例: 映画の興行予測
(Hollywood Stock Exchange の分析。省略)
5. 補足例の要約
(ドイツのChart-and-Movie Exchange, ドイツの携帯電話サービス予測市場の分析の要約。詳しくは補足資料を読めとのこと。省略)
6. 結論と将来の研究
我々の研究はビジネス予測のためのVSMの有用性を示している。
今後の課題: (1)マネージャーの評価に使う (予測市場で成績の良い奴を出世させるのはどうよ、というような話。殺伐としてきたなあ...)。(2)いろんなデザインの良し悪し。(3)市場の不完全性(例, バブル)。(4)参加者には代表性が必要か、事前にどんな情報を与えればいいか、どんな決定支援システムが効果を持つか。(5)他の手法との併用(例, フォーカス・グループ)。
頭が整理できた。くそう、去年の書籍原稿の前に読んでおけばよかった。
著者らはVSMの要件として「配当がZ_{i,T}で決まることが明確であること」というふうに書いているから、HSXみたいに正解がはっきりする予測市場だけが念頭にあるのだろう。正解がはっきりしない奴の研究はまだなかったのかしらん、それともこのレビューに載ってないだけだろうか。
論文:予測市場 - 読了:Spann & Skiera (2003) 仮想株式市場によるビジネス予測