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2014年4月 8日 (火)
Wertenbrock, K. & Skiera, B. (2002) Measuring consumers' willingness to pay at the point of purchase. J. Marketing Research, 39 (2), 228-241.
incentive-aligned mechanismについて調べていて目を通した論文。Ding(2007, JMR)で引用されていた。著者のSkieraって、予測市場の研究をしている人ではないか。こんなところでつながっているのか。
購入時点において支払意思金額(WTP)を聴取するいくつかの方法、特にBecker-DeGroot-Marschakの方法(BDM法)とそれ以外の方法を比較しました、という論文。
まず、WTPを調べる方法についてレビュー。
- 取引データから調べる。ないし、ニールセンのBASESみたいなsimulated test market (STM)から調べる。
- 調査で調べる。
- コンジョイント分析。
- WTPの直接聴取。"Contingent valuation"と呼んでいる。Jones(1975, J.Mktg); Kalish & Nelson(1991, Mktg.Letters)。
- Vickreyオークション。ええと、Vickrey(1961)が示したところによれば、オークションに出された財を買う権利だけを決める競りは、インセンティブ整合的である。そこで、買値を封印したオークションで、n番目に高値をつけた競り手がn+1番目の買値で買う。これをVickreyオークションという。競り手の支配戦略は自分のWTPで値づけすることになる。欠点: (1)オークションの実施は大変。(2)auctionは購買時意思決定とずいぶん違う。
- Becker, DeGroot, Marschak (1964, Behavioral Sci.)の手続き。本文中の説明によれば、"the utility of lotteries was measured by eliciting minimum selling prices [...] for gambles by determining actual transacion prices randomly". わかりにくくて悩んだが、こういうことであろう。くじの効用を測るために、くじの売値の最低値をつけさせる(売値づけ課題なのだ)。ランダムに決まる買値よりもその値が低かった時にはくじがその買値で売れる、そうでないときは売れない。市場調査はともかく、行動決定理論では広く使われている由(いま調べてみたら本当だった。不勉強でした)。例として Kahneman, Knetsch, & Thaler(1990, J.Political Economy), Prelec & Simester (2001, Mktg.Letters) が挙げられている。なんと、ベイジアン自白剤のPrelecだ... 世間狭いなあ。
実験1と2。
- 実験1は、ドイツのキールという町のビーチで実施。被験者はビーチにいた人、200名。商品はコカ・コーラの缶。
- 実験2は、キールのフェリーで実施、被験者はフェリーの乗客、200名。商品はパウンド・ケーキ一切れ。
どちらも、100人を統制群(直接聴取)、100人を実験群(BDM法)に割り振る。実験者が寄ってって声を掛ける:「こんにちは!キール大のリサーチャーです。マーケティングの調査をやってます」。断る人はほとんどいなかったそうだ。課題をやって、最後に質問紙。なお、調査参加報酬については記載がみあたらない。なにも渡さなかったようだ。
課題は以下の通り。
- 統制群では、商品をみせ、買値の最大値を聴取する。
- 実験群の手続きは以下の通り。(1)商品をみせて手続きを教示。(2)「提案価格」(s)を答えさせる。(3)修正のチャンスを与える。(4)買値(p)をランダムに決める。ほんとに壺からくじ引きさせるのだそうだ。買値の分布は一様分布だが、一切教えない。(5)買値が「提案価格」以下だったら、その買値で強制的に買わせる。そうでなかったら買えない。
実験群のほう、参加者の支配戦略は真のWTPを提案価格にすることである。
リアリティを追求するので、架空貨幣をつかうとかあらかじめ報酬として金を渡すとか、そういう生易しい話ではなく、ほんとに被験者の財布から金を出させて売りつけるのである。日本でやったら役所に叱られちゃいそうな実験だ。
結果。WTPの平均はBDMのほうが低い。そのほか「信頼性」「表面的妥当性」「内的妥当性」「基準関連妥当性」の4つに分けて、いろいろ分析してBDMが優れていると主張しているんだけど、いまいち決め手に欠ける感じ。たぶん一番強く推している証拠は、内的妥当性と称されている箇所であろう。それぞれの条件で、横軸にWTP、縦軸に人数をとった累積分布を描く。で、買値で購入確率を予測するロジットモデルを組んで、得られる予測曲線をあてはめると、BDMのほうがフィットしていた由。うーん、それって要するに、WTPの累積分布がBDMのほうでなめらかだった、ということの言い換えのような気がするんだけど。
想定される批判にお答えして、実験3につなぐ。
- BDMはほんとにincentive compatibleだったか(支配方略は真のWTPを答えることだったか)。というのは、Vickreyオークションでも真のWTPより少し高めの値付けをしてしまうといわれているからである。この論点はさらに3つに分けられる。
- 被験者が調査の文脈を超えたところに規範的な反応目標を置いていて、戦略的に誤った表現をしていたかも。→ BDMに限らず、直接聴取についてもいえることだ。
- 買値が提案価格を下回っていたら強制的に買わされる、ということがわかってなくて、高めに答えちゃってるんじゃないか。→ コストが支払としてフレーミングされているときはそういう戦略的行動は起きないという研究がある(Casey & Delquie, 1995, OBHDP)。
- 参加しているうちに関与が高まっていて、買値が提案価格を上回っていたら手ぶらでサヨナラというのが嫌で、高めに答えちゃってるんじゃないか。→実験3で検証。
- BDMのほうが優れているのは、より考慮が必要な課題だったからではないか。→実験3で検証。
- 買い置きに影響されるような耐久財だったらうまくいかないのでは? →実験3で検証。
というわけで、実験3。こんどは実験室。被験者は学生255名、商品はボールペン。課題のあとで質問紙。課題は以下の3条件。
- BDM-非MM群。BDM法で聴取する。
- BDM-MM群。BDM法で聴取するのだが、開始前に報酬としてM&Mのチョコレートキャンディをあげる。BDM法でボールペンを購入できなくても、手ぶらでサヨナラということはなくなった、という主旨。ははは。
- BRACKETS群。これが実験1-2の直接聴取群のかわりになる。まずチョコキャンディをあげる。つぎに、Gabor-Granger法っぽい課題を行う。まず「$5なら買いますか?」と聴取。もしyesだったら$7.5に値上げ。そこでnoだったら$5.25からはじめて、$0.25ずつ$7.25まで値上げしていく。こんな風に、最初の2問で上限と下限を決め、あとは下から絞り込んでいくわけだ。こういうのをdouble-bounded discrete choiceというのだそうな。ふうん。前掲のCasey & Delquie(1995)というのが引用されている。
結果。実験1-2と同じく、BDMだとWTPが低めになった。
- BDM-非MM群とBDM-MM群のあいだにWTPの差はない。「関与が高まるので高めに答えちゃう」説を否定。(うーん、ちょっと苦しいロジックだなあ...)
- BRACKETS群だって大変な課題であった。だからこの差は考慮の必要性では説明できない。
- 耐久財でも再現できた。
云々。
考察。BDMは優れた方法である。直接聴取のような主観選好法はWTPの過大評価を招く。
今後の課題。BDMはコンセプト評価には使いにくいし、高価な商品は難しいかも。こうした限界を克服する工夫が必要。とかなんとか。
要するに、WTPを調べるのにBecker-DeGroot-Marschakの方法が優れている、という主旨の論文である。ふうん、そうですか。
論文の主旨とはちがうけど、むしろ、あるWTP測定の信頼性・妥当性を示すのがいかに難しいかという点を痛感した。この論文では、たとえばデータを調査の日付で分割し、日付間での変動がBDMのほうで小さい、だから信頼性が高い、なあんてことをやっている(別に日付がノイズになると考えるだけの理由があるわけではないのに)。く、苦しい...それって信頼性の検証の方法としてはどうなの? でも、ほかにいい方法も思いつかない...。
妥当性のほうも、質問紙の回答からWTPを予測するモデルをつくったら、BDMのほうが係数が有意になった、とかなんとか(もともとWTPの生成について明確なモデルを持っているわけではないのに)。く、苦しい...。でも、ほかにいい方法も思いつかない...。
論文:予測市場 - 読了:Wertenbrock & Skiera (2002) 消費者の支払意思額をくじ引きを使って測定する