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2014年8月27日 (水)
Hampton, K.N., Rainie, L., Lu, W., Dwyer, M., Shin, I., & Purcell, K. (2014). Social Media and the ‘Spiral of Silence.’ Pew Research Center, Washington, DC.
ピューリサーチセンターの自主調査報告。今日twitterでたまたまリリースを見かけ、あまりに面白そうなので報告書まで探して読んでしまった(なにをやっておるのか)。第一著者のHamptonって人はいまこの分野で活躍している社会学者らしい。
一言でいっちゃえばSNS利用についての単発の横断調査なんだけど、目のつけどころがすっばらしい。痺れました。
重要な政治的問題について、人は自分の意見を他者に公開したがるか。かの沈黙の螺旋理論に言わせれば、自分の意見が少数派だと感じるとき、人は自分の意見を公開したがらなくなる。でもSNSの登場により、少数派であっても自分の意見を自由に公表しやすくなり、公共的議論の幅は広がったのではなかろうか。
というわけで、去年の夏、スノーデン事件を題材に約1800人にRDD調査。主な知見は:
- 政府の監視プログラムの問題について会話したいという意向は、対面よりSNSのほうで低い。エビデンス: 状況別に意向を4件法で聴取。top2boxは、たとえば家庭で74%, 職場でさえ 65%なのに、FBでは42%, twitterでは41%。[報告書の構成がわかりにくいのでメモしておくと、サマリーのp.4-5, 本文のp.14-15]
- SNSは公共的議論の新たなるプラットホームを提供したりしてはいない。エビデンス: すべての対面状況で会話意向がbottom2boxだっ人が14%いるんだけど、そのうちFBないしtwitterでの会話意向がtop2boxだった人はたった0.3%。[同上]
- 会話意向は関心の高さ・意見の強さ・知識と関連する。エビデンス: 関心と知識は4件法で聴取。意見の強さは、政府への賛否を4件法で訊いて、両端かどうか。で、各状況での会話意向を2値に落としてロジスティック回帰する。デモグラ、情報源、メディア使用、他者との意見一致性判断 etc.をコントロールしても、なお関心・意見の強さ・知識が効く [本文p.16-18, 付録Table B] (←この項、あたりまえにも思える話だが、状況によって係数がちょっとちがうところが興味深い。職場での会話意向は知識の多寡と関連するのに対し、FBでの会話意向は意見の強さと強く関連しているみたいだ)
- FBユーザは他者が自分と同じ意見を持っていると思う傾向がある。エビデンス: 自分の意見に他者が「同意してくれると思うか」を4件法+DKで訊く。top2boxは配偶者が86%, 同僚が64%, FBフォロワーが63%, 近所の人が47%, などなど。これをロジスティック回帰すると、デモグラ、関心・意見の強さ・知識、メディア使用 etcをコントロールした状態で、家族・友人が「同意してくれると思う」にFB投稿頻度が、家族・FBフォアーが「同意してくれると思う」にいいねボタン押し頻度が、それぞれわずかに効いている。[本文p.20-23, 付録Table C] (←これはまぁ、ちょっと弱いかな...)
- 「沈黙の螺旋」はSNSにも当てはまる。エビデンス: たとえば「同僚が自分の意見に同意してくれると思うか」で層別すると、職場での会話意向は「同意してくれると思う」層で2.92倍高い。このやり方で分析して、家族が同意してくれると思う人は家族との会話意向が1.90倍, フォロアーが同意してくれると思う人はFBでの会話意向が1.91倍。[サマリーp.6-7, 本文p.23] (←おもしれー!! これおもしれー!!)
- もともとSNSユーザはオフラインで自分の意見を公開しない傾向があるが、SNS上で同意してもらえないとなおさらそうなる。エビデンス: たとえば友人との会話意向は、ネットユーザをベースにして、FBユーザでは0.53倍。さらにフォロアーが自分の意見に同意してくれると思っている人に絞ると0.74倍。[サマリーp.5-6, 8, 本文24-25]
いやー、ものすごく面白い。もちろんスノーデン事件に限った話だから、むやみに一般化しちゃいけないんだけど、ソーシャルメディアは多様な議論を支えてなどいないんじゃないか、むしろ世論形成の「沈黙の螺旋」メカニズムの一端を担っているんじゃないか... と考えさせられる分析結果である。
いやはや。プロの研究者の方を相手に失礼な言い方かもしれないが、正直云って、ちょっと悔しい。たった約10問、1800人の調査でコレなのである。
ノエル=ノイマンの「沈黙の螺旋」という概念を知っている人は多いだろう。また、世の中に広報目的の自主調査をやっている会社はたくさんあるし(市場調査会社もね)、実査だけみればこのくらいの調査は容易である。でも、思いつかないよなあ、この切り口。つくづく思うに、調査の価値ってのは目の付け所で決まるのだ。
論文:その他 - 読了: Hampton, et al. (2014) ソーシャルメディアと「沈黙の螺旋」