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2014年12月 3日 (水)
Wolfers, J., & Zitzewitz, E. (2004) Prediction Markets. Journal of Economic Perspectives. 18(2), 107-126.
ちょうど10年前に公刊された予測市場研究レビュー。進展の早い分野だから、別にいまこれを読まなくてもいいのかもしれないが...
予測市場のタイプ。contractの種類で分けると、
- "winner-take-all" contract. ある出来事が生じたとき、そのときに限り、決まった額のペイオフがある。価格は生起確率についての市場の期待値を表す(リスク中立性を仮定すればの話だが)。
- "index" contract. 量的アウトカム y に応じてペイオフが決まる。価格は市場から見たE[y] を表す。
- "spread" contract. たとえば、価格は1ドル、アル・ゴアがある閾値以上の得票率を得たときに2ドル配当、そうでないとき配当なし、という証券を提示し、その閾値を入札させる。得票率の中央値についての市場の期待がわかる。[←提示価格の平均値によって、ってこと?]
なお、たとえばwinner-take-all型のcontractを「得票率が46%だったら」「得票率が47%だったら」...と複数個用意すれば市場の期待の分布がわかるわけで、つまり市場の期待の不確実性についてもわかる。
非線形的indexも便利である。たとえば、y に応じてペイオフが決まるindex型contractと、yの二乗に応じてペイオフが決まるindex型contactをつくれば、分散とは(二乗の平均)-(平均の二乗)だから、E[y]のSD, つまりyのSEを求めることができる。
適用事例。Iowa Electronic Market, Austrian Electronic Market(UT Vienna)[現存するのか不明], Univ. British Columbia Election Stock Market[現 Sauder School of Business Prediction Market]。企業による市場としては、現実の通貨を使うものとしてTradesports.com[現存], Betfair.com[現存], Economic Derivatives[Goldman SachsとDeutsche Bankがやっていたらしい。現存しない模様]。架空通貨を使うものとしてNewsfutures.com[現LUMENOGIC], Foresight eXchange, それからかの有名なHallywood Stock Exchage.
これまでの事例からわかっていること。
- 予測精度について。IEMの予測精度は世論調査に比べて良い(大統領選の例を紹介)。Tradesports.comの「サダムフセイン失脚」証券の価格時系列は専門家評価に先行した。HSXの予測精度も高い。Chen & Plott (2002) のHPの社内予測、Ortner (1998) のSiemensの社内予測も精度が高かった。Economic Derivativesの...[めんどくさくなってきたのでパス]
- 裁定取引 [鞘取りのことね] は可能か。2003年カリフォルニア州知事選のシュワルツネガー証券の価格時系列をTradesportsとWorld Sports Exchange[英国のブックメーカーらしい]で比べると、差はほとんどない。つまり取引所間での鞘取りはほぼ無理。
- なお、行動上のバイアスは観察されている。確率が低いアウトカムの予測において確率評価のバイアスが観察されているし、政治市場でのトレーダーの取引は政治的立場のバイアスを受けている模様。バブルの例もなくはない。
- 市場を操作しようとした報告もあるんだけどみんな失敗している。DARPAが予測市場を計画した際、テロリストがテロ証券を買って儲けようとするんじゃないかと危惧する声があったが、そもそもテロ証券を取引する予定はなかったし、要人暗殺証券の取引による儲けよりも要人暗殺の報酬のほうが高いだろう[←こ、これは... 冗談で書いておられるのだろうか...] 。云々。
市場のデザイン。
- 買い手と売り手をどうやってマッチングするか。一番よくつかわれているのは連続的ダブルオークション。最近はパリミューチュエルも使われている。多くの場合、マーケット・メーカが売値・買値のwillingnessをアナウンスしている[←ここ、よくわからない。原文: many prediction makrkets are also augmented by market makers who announce willingness to buy and sell at a certain range of prices. ダブルオークションの板情報のことだろうか]。なお、Hanson(2003)はスコアリング・ルールを使った同時予測方法を提案している[よくわかんないけどLMSRって奴のことだろうか...]。
- contractは明確で理解しやすいものでなければならない。
- 現実の金銭を使うのがよいか、架空通貨を使うのがよいか。よくわかっていないが、たいしてかわらない模様。
- 取引のモチベーション、ならびにアウトカムについての見解の不一致が必要。また、蓄積に値する知能とまともな公開情報が必要。
予測市場による推論。
- もっとも単純なのは価格を直接に予測値とすること。
- 価格の時系列を調べる例もある。Leigh, Wolfers & Zitzewith(2003, Working Paper)はサダムフセイン証券価格(戦争のリスク)と原油価格の関連を調べている。
- contingent marketという方法もあって...[IEMの大統領選市場の話。Berg & Reitzのいうconditional予測市場のことだと思う]。しかし、証券の組み合わせによる推論には注意しないといけない。たとえば、さまざまな架空のシナリオを通じて、エドワーズが指名候補となる確率と民主党が勝つ確率の相関が高いとして、それは「エドワーズが民主党指名候補になったら民主党は勝ちやすくなる」のかもしれないし、実はそれは「エドワーズが指名されるためには南部民主党が勢力を増さないといけない、もしそんなことが起きたらそんな暁にはさすがに民主党が勝つ」ということなのかもしれない。[とかなんとか... ちゃんと読んでないけど、因果推論の際にはその前提になっている想定に気をつけろよ、という指摘だと思う]
いやー、眠かった... やはりもう少し新しいのを読まないと面白くないな。よし、次にいこう。
論文:予測市場 - 読了:Wolfers & Zitzewitz (2004) 予測市場レビュー in 2004