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2014年12月 3日 (水)
LaComb, C.A., Barnett, J.A., Pan, Q. (2007) The imagination market., Information System Frontier, 9, 245-256.
いま検索したら、"imagination market"とはナントカというバンドだか歌手の方のアルバムのタイトルで、ナントカというアニメだかゲームだかの主題歌が収録されているのだそうだ。「繊細で心地よいメロディーはまさに癒し系」なのだそうだ。検索でこの記事を見つけた方、申し訳ないですが、たぶんお探しの情報とは違います。文字通り、イマジネーションを取引する市場の話で、かなり殺伐としてます。
GE社が企業内でのアイデア生成に市場メカニズムを活用した有名な事例報告。ざっと目を通していたのだけど、用事があって再読。
イントロ。
情報市場とは、出来事についての予測を行ったり参加者の選好を測定したりするために使われる架空の市場である[あとでalso known as prediction markets or idea marketsといっているから、「情報市場」という言葉にこだわりがあるわけではなさそう]。
有名な情報市場としてIEM, HSXがある。ビジネス利用の例もある[挙げられているのは Bingham(2003 なんだかよくわからない), Chen & Plot (2002 Working Paper), Hapgood(2004 雑誌記事), Kivat(2004 雑誌記事)。なんだかなあ]。しかしアイデア生成に使っているのはみたことがない。
[お約束の、既存手法ディスりの段:] アイデア生成のための手法はいろいろあるが、アイデア投稿箱とかだとフィードバックを返せないし議論もできない。ブレストとかだと大規模化できない。云々云々云々。そこで情報市場を使ってみましょう。
先行研究。
まず予測市場について。市場の情報蓄積能力は合理的期待理論に基づく。予測精度は高い(Forsythe & Lundholm 1990 Econometrica, Plott & Sunder 1988 Econometrica, Pennock et al 2002 Proc., Pennock et al 2001 Sci., Pennock et al 2001 Proc.)。
これとぜんぜんちがう市場に選好市場がある。ちがいは測定可能なアウトカムがないこと。報酬は他の参加者の選好の予測に対して与えられる。MITの実験が有名 [挙げられているのはChan, Dahan, Kim, Lo, & Poggio(2002 TechRep); Feder(2002 NYTの記事)。前者はJMRに載ったSTOC論文の前身であろう]。この線の研究にGruca, Berg, Cipriano(2003, Info.Sys.Front.)がある。ただし、選好市場が他の集団(たとえば製品のターゲット顧客)の選好の推定量になりうるかどうかはわかっていない。
こんどはアイデア生成の話。集団の創造性を支えるツールとしてブレストとかデルファイ法とかあって、有効性を示す研究も多い。でも全員が同時に参加しないといけないといった困難さもある。云々。
方法。
本研究でつくる市場の目的は:(1)伝統的な方法よりもたくさんアイデアを生むこと。(2)組織の全員を巻き込むこと。(3)最良のアイデアを決めること。
ソフトはForesight softwareを使う[Foresight eXchangeで使われているソフトのことかな]。市場の特徴は以下の通り。
- 参加者:社内のある部局のメンバーまるごと。
- 株(=アイデア):まずは実験者が5つのアイデアを用意。参加者は新アイデアをどんどん投稿できる[どういう形式で投稿するのだろう?]。他の株と似てたらはねられる[誰がどうやって決めるの?]。株価は1ドルから99ドルの範囲[無論、架空のドルであろう]。すべての株は50ドルで100株IPOされる[新規公開株は希望者に50ドルで100株売られ、それから上場して初値がつく、ということかなあ]。空売りオッケー。
- 市場設計:配当は市場終了前の5日間のVWAP(売買高加重平均価格)。空売りの場合も100ドル-VWAPで清算。取引期間中の参加者にはポートフォリオの時価総額が表示される。市場は23.5日間開催。終了は当日までお知らせしない。各参加者には最初に10000ドル渡す(途中参加でも)。さらに毎週1000ドル渡す。全員匿名。参加者があれこれ議論できるブログを開設、アイデア開発者もこのブログで詳細を説明できる。
- 報酬:配当額が最高の株に開発資金5万ドル。参加者への報酬は、organizational constraints required us to keep incentive values lowであったため[訳: 予算がなかったので]、ポートフォリオ上位2名にiPod、3位から12位に25ドルの商品券をプレゼントした。さらに取引するごとにくじがもらえて、抽選で1名様にiPodをプレゼント。最初の週にトレーニング・セッションを3回開催。途中でテコ入れ策として、参加者、登録済未参加者、未登録者から各一名に抽選で25ドルの商品券をプレゼント。さらに昼休み大会を開催(ランチはタダ)、参加者はラップトップで取引させながらおしゃべりさせた。[涙ぐましい... 大企業がやると決めたらここまでやるのか...]
- 参加者に課せられたルール:勤務時間中は取引しないこと[あっ、そうだったのか。そりゃあなかなか盛り上がらないわけだわ]。市場を操作しようと思うなと教示。参加IDはひとりひとつだけ。
- 教示:GEのビジネスに高い金銭的インパクトを持ち、我々がフォーカスしている領域に一致した先進技術を用いており、1~3年以内にインパクトを示し、かつ成長につながるであろう株を買え。[うっわー... うざい... こんなの俺なら絶対関わりたくない]
結果。
全部で62アイデアが投稿された。他のアイデアに触発されたアイデアも見受けられた[←そこが大事なのに...エビデンス出してくれないと...]。
期間中の取引参加者は85名(150名中)。ランチタイムパーティの集客効果が大きかった。
最優秀アイデアは期間の後半ずっと首位に近かった。VWAP、終値、株価平均、中央値のいずれをみても、株のランキングはそんなにかわらなかった。
GEのリーダーシップ・チームのメンバー11名に各株を10件法で評価させ、平均のランキングをVWAPのランキングと比べると、相関0.43。それぞれのランキングを四分位点で区切って4x4のクロス表をつくると、カイ二乗検定は有意でなく[でもp=0.077なんですけどね]、39%が対角セルに落ちた。このように市場の評価とリーダーの評価はかなり一致した[く、苦しい...]。ズレの原因としては:(1)市場参加者の多くがアイデア開発者でもあったので、wishful thinkingが生じたのでは。(2)リーダーシップ・チームと市場参加者では持っている情報がちがうのかも。(3)リーダーシップチームは全アイデアを一気に通してみたからでは。
考察。
3つの目的は果たされた。[という理屈付けが、終了後アンケートなどを基にぐだぐだと書いてある。面倒なので省略]
今後の課題
- ポートフォリオ表示の改善。配当はVWAPで決まるのに表示は時価っておかしい。
- 最初は金を渡すのがいいか、株を渡すのがいいか?
- IPOは必要だったか?
- 真実申告インセンティブをポートフォリオ評価でない形でつくれないか? たとえば専門家委員会の選んだ株を持っていると評価されるとか。
- 流動性を高めるためにインフレを起こすのはどうだろう?
- もっとデータを集めて、株数に対して最適な参加者数を調べたい。
- 市場の結果の妥当性を評価するうまい統制条件はないだろうか。調査などをつかって...。[←仰せの通りですね]
- 事後アンケートで「過大評価されてる株」について訊くのはどうか。
- 現実の製品デザインに選好市場を適用してみたい。顧客の声を聴く楽しいツールになるかも。
以前にめくったときは、正直言ってあまり感心しなかった論文なのだけど(話の進め方が雑な気がして。なにを偉そうに。はいすみません)、読み直してみるといろいろ発見があった。
Skiera一派のアイデア・マーケットの論文でも思ったけど、こういう風に選好をアグリゲートする市場メカニズムって、仕組みの妥当性や有用性を示すのがすごく難しいですね。予測市場とは違って「正解」がないので、どうしても、参加者の事後アンケートとか、経営層の感想とか、そういうのに頼ることになってしまう。ううむ。
論文:予測市場 - 読了:LaComb, Barnett, Pan (2007) イマジネーション・マーケット