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2019年1月12日 (土)
Tellis, G. J. (2006) Modeling Marketing Mix. in Grover, R. & Vriens (eds), The Handbook of Marketing Research: Uses, Misuses, and Future Advances, Sage.
年末に仕事の都合で大急ぎで目を通した奴。Marketing Mix Modeling (通称MMM。なんでも略すればいいってもんではないだろうに) について急遽整理する必要が生じ、参ったなと思ったら、このハンドブックに1章が割かれていた。困った時のGrover & Vriens である。
著者はマーケティングの先生で、「意志とビジョン: マーケット・リーダーの条件」という邦訳書がある。しらんけど。
いくつかメモ:
著者曰く、広告に対する反応にみられる重要なパターンが7つある。(1) current effect, (2) carryover effect, (3) shape effect (広告-売上関係が曲線的だという話), (4) competitive effects, (5) dynamic effect (wearin, wearout, hysteresis), (6) content effects, (7) media effects. レベルが揃ってなくてすごく気持ち悪い...
広告反応のモデルとして著者は次の5つを挙げている。
- 基本的な線形モデル:
$ Y_t = \alpha + \beta_1 A_t + \beta_2 P_t + \beta_3 R_t + \beta_4 Q_t + \varepsilon_t$
$Y_t$は売上かなにか、$A_t$は広告かなにか(以下「かなにか」を省略), $B_t$は価格, $R_t$はプロモーション, $Q_t$は品質。$\varepsilon_t$はIID normalだと思っているわけですね。 - 乗法モデル:
$ Y_t = \exp(\alpha) \times A_t^{\beta_1} \times P_t^{\beta_2} \times R_t^{\beta_3} \times Q_t^{\beta_4} \times \varepsilon_t $
推定の際には全部対数にする。利点: (1) シナジーをモデル化できている。(2)いろんな曲線を表現できる。(3)$\beta$が弾力性になっている。欠点: (1)carryover, competitive effects, dynamic effects, content effects, media effectsを表現できていない。(2)S字型の曲線を表現できない。(3)広告の弾力性は一定だと仮定していることになる。[いちいち書かないけど、頭のなかに疑問符が乱舞する... もっと厳密に書かれた説明を読みたいのに] - 指数魅力モデルと多項ロジットモデル。めんどくさいので途中端折るけど、市場シェアを各ブランドのマーケティング努力の指数におけるシェアとし、マーケティング努力について線形モデルを組んで
$ M_i = \exp(\sum_k \beta_k X_{ik} + e_i) / \sum_j \exp(\sum_k \beta_k X_{jk} + e_j)$
という感じ(めんどくさいので独立変数は$X_{ik}$と書く...)。しかしこれだと係数を解釈しにくいし推定も大変なので対数中心化する。結局
$ \log(M_i M^{-}) = \alpha^{*}_i + \sum_k \beta_k X_{ik}^{*} + e_i^{*}$
となる。$M^{-}$ってのは幾何平均ね。これは結局多項ロジットモデルになっている。利点: (1)競合も考慮している、(2)関数形がS字型になっている、(3)市場シェアの独立変数に対する弾力性が、マーケティング努力にたいしてベル型になる。 - Koyckモデルと分散ラグモデル。まず、
$Y_t = \alpha + \lambda Y_{t-1} + \sum_k \beta_k X_{ik} + \varepsilon_t$
これがKoyckモデル。限界: (1)carryoverは減衰だと決めてかかっている。(2)個別の変数についてのcarryoverを推定するのは大変。(3)データの時間間隔によって結果が大きく変わる。そこでもっと一般化して
$Y_t = \alpha + \lambda_1 Y_{t-1} + \lambda_2 Y_{t-2} + \ldots + \beta_{10} A_{t} + \beta_{11} A_{t-1} + \ldots $
というように広げるのが分散ラグモデル。でも多重共線性がひどくなり推定が安定しない。データが足りない場合はKoyckモデルのほうが良い。 - 階層モデル。そのまえにダミー変数回帰について考える。たとえば広告の内容が2種類ある場合、一方であることを表すダミー変数$A_{2t}$をつくり、
$Y_t = \alpha + \beta_1 A_t + \delta A_t A_{2t} + \ldots $
という風に交互作用項をいれる。当然ながら、広告の種類が増えるとめっちゃ複雑になる。そこで階層モデルの登場...[めんどくさいのでメモ省略。というか、数式で書いてよ!かえってわけわかんなくなるから!]。データがリッチなら、指数魅力モデルとかKoyckモデルとかと併用してもよい。
後半は価格反応の話とモデル例。死ぬほど眠くなってきたので、ばーっとめくって読了ということに。
やれやれ。著者の先生には悪いけど、これ、素人向けにわかりやすく書こうとしてかえって曖昧模糊となる、という典型例なのではないかと思う。
論文:マーケティング - 読了: Tellis (2006) マーケティング・ミックス・モデリングについて初心者諸君のために解説してあげよう