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2006年1月 8日 (日)

Bookcover 教育を経済学で考える [a]
小塩 隆士 / 日本評論社 / 2003-02
 正月の新幹線で読んだ。面白かった。
 教育経済学の啓蒙書。著者のあとがきによればポイントは以下の通り。(1)教育には投資という側面もあれば消費という側面もあるので,人的資本論には限界がある。(2)教育需要をもたらすのは不確実性であり,同時に不確実性は教育によって冷却されていく。(3)エリート育成には公平性の観点からの議論が必要だ。(4)公教育のスリム化は格差拡大を加速する。(5)個人ベースのデータがなく,実証分析ができなくて困る。教育統計を整備・開示してくれ。
 面白かったのは(2)の点で,夢と勘違いが教育需要を支えているという指摘はなるほど腑に落ちる。教育支出をオプション取引の類推として捉えるところなど,学問の醍醐味を感じるのだが,そのいっぽうで,所詮合理的な行動モデルじゃないの,という疑念も消えず,服の上から背中を掻いているような気分である。去年,高橋秀実さんが週刊誌に中学受験のルポを連載していて,子どもが進学塾に通う最大の理由は「安心するから」だという主旨の文章を書いていた。もう目から鱗が落ちる気分だったのだが,そのへんは金融理論のアナロジーでは捉えきれないのではなかろうか。
 著者はゆとり教育がよほど嫌いらしくて,さんざん罵倒しているのだが,その根拠は「ゆとり教育は教え惜しみだ」ということに尽きており,それはそれで一面的である。もっとも新学力観の側も,新しい学力概念を実証的な言葉で特徴づけることに失敗しているわけであって,なるほど,学力低下をめぐる議論は本質的に不毛なものだなあと思う。まあどうでもいいや。

また職探しせねばならんかもしれん今日この頃,教育関連本を読む気も失せてきたぞ。といって,就職対策本を手に取る気分にもなれない。当分は気楽な本ばかり読んでお茶を濁すことにしよう。

心理・教育 - 読了:01/08まで (P)

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