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2007年6月 6日 (水)

Edwards, J. R. & Bagozzi, R.P. (2000) On the nature and direction of relationships between constructs and measures. Psychological Methods, 5, 2, 155-174.

ある指標(measure)がreflectiveかformativeかを決めるための一般的原則について論じる。
[構成概念とはなにか,指標とはなにか] (略)
[構成概念-指標間関係の因果方向]
科学哲学の分野で受け入れられている,因果性を確立する際の4つの基準に沿って考えると
  1. 弁別性: 構成概念と指標は弁別できなければならない。たとえば,操作的に定義された知能は構成概念になりえない。
  2. 連関性: 構成概念と指標は共変しなければならない。評価の方法には以下がある:(a)指標間の共変動によって推論する(必要条件を与えるが十分条件を与えてはくれない),(b)頭の中で実験する。どちらも決め手にはならない。
     reflectiveな指標の場合,構成概念と指標の間の関係は,モデルがどうであれ変わらない。しかしformativeな指標の場合,構成概念は指標の関数であると同時に,モデルのなかのなにかの従属変数を予測する合成変数でもあるから,その従属変数がなにかによって,構成概念と指標の関係も変わってくる。というわけで,構成概念の意味はあいまいになる。
  3. 時間的先行性: 構成概念における変化が先か,指標における変化が先か。評価の方法としては:(a)原因側を制御する実験を行う,(b)頭のなかで実験する。
     後者の場合,結論は指標の定義そのものによって決まる。たとえば,態度→項目提示→反応と考えることもできるし,項目提示→態度→反応と考えることもできる。
     Heise(1972)は,SESという構成概念が結果側で,教育・所得などの指標が原因側だ,と論じている。筋は通っているが,たとえば通学年数を教育そのものとみなしているわけで,これは社会経済的現象についてのある種の操作主義である。いっぽう,通学年数が教育のあとに生じ,測定誤差を伴っていると考えれば,これらの指標はそれぞれに対応する構成概念のreflectiveな指標であり,SESはこれらの構成概念の結果である,ということになる。
  4. 対抗する因果的説明の除去: この基準を満たすのが一番難しい。一般的な処方箋はない。ここではライバルとなる説明を同定する方法について考える。(a)準実験のときに妥当性を損なうような脅威について考える。たとえば i)history。原因と結果のあいだに,統制されていない媒介変数があること。ii)instrumentation。原因と結果の間にあるとみなされている関係が,実はデータ収集手法によって引き起こされていること(nuisance factorとか)。(b)頭のなかで実験する。
[構成概念-指標間関係のモデル]
6個の基本的モデルを考えることができる。(同定可能なモデルかどうかはこの際どうでもよろしい)
  1. direct reflective model: (指標 x_i) = (因子負荷 λ_i)×(構成概念 ξ) + (誤差δ_i)。テスト理論,因子分析,などなどはこのモデル。
  2. direct formative model: (構成概念 η) = Σ(係数 γ_i × x_i) + (誤差ζ)。使い道としては:(a)観察変数の合計を表す潜在変数をつくるとき。ζを含めないことも多い(主成分分析,正準相関分析,PLSなど)。(b)いくつかの変数の効果を要約するブロック変数をつくるとき。(b)潜在変数の実験的制御の効果をあらわすとき。例, 睡眠剥奪(formative指標)で疲労(構成概念)を制御し,別の変数で操作チェックする(reflective指標)。
  3. indirect reflective model: reflectiveモデルなのだが,指標と構成概念のあいだをいくつかの潜在変数が媒介していて,それらの変数にもそれぞれ誤差が刺さっているモデル。
  4. indirect formative model: formativeモデルなのだが,指標と構成概念のあいだをいくつかの潜在変数が媒介していて,それらの変数にもそれぞれ誤差が刺さっているモデル。
  5. spurious model: まずいくつかの潜在変数があって(相関もあるかも),それらが構成概念の原因でもありまた指標の原因でもあるモデル。仮に指標の誤差が0ならば,direct formative モデルになる。
  6. unanalyzed model: そのほかいろいろ:(a)構成概念も指標も外生(ただ相関だけがある), (b)指標は外生で,それと相関のある潜在変数があって,それが構成概念の原因, (c)指標は外生で,ほかのなにかの指標と相関していて,そいつらが構成概念のreflectiveな指標, (d)構成概念が外生で,別の潜在変数と相関があり,指標はそいつのformativeな指標。
以上を整理すると
  • reflectiveな指標が構成概念の原因をあらわしている→spurious
  • reflectiveな指標が構成概念の本質的な属性をあらわしている→direct reflective
  • reflectiveな指標が構成概念の結果を表している→indirect reflective
  • formativeな指標が構成概念の原因を表している→indirect formative
  • formativeな指標が構成概念の本質的な属性をあらわしている→direct formative
  • formativeな指標が構成概念の結果を表している→unanalyzed
[適用事例]
  1. ライフ・ストレス。SRRS(社会再適応評価尺度)はライフストレスのreflectiveな指標であるともformativeな指標であるともいわれている。上記基準を適用すれば,弁別性はある,連関性はある,時間的先行性は怪しい(ライフストレスを引き起こすライフイベントよりは後だが,ライフイベントによって生じる生活パターンの変化より前かもしれないから),対抗説明がありうる(ライフイベントがSRRS得点とライフストレスの原因である)。個々のライフイベントを共通原因とするspurious modelが正しかろう。
  2. 組織コミットメント。広く用いられている指標OCQは一次元尺度であると捉えられており,内的整合性で信頼性を評価するのが通例である(つまりdirect reflective modelである)。しかし項目のなかにはコミットメントの原因のreflectiveな指標もあれば,コミットメントの結果のreflectiveな指標もある。spurious modelとindirect reflectiveモデルの混ざったのが正しかろう。
  3. 社会的相互作用。Doney&Cannon(1997)の指標はformativeな指標であるとされている。しかし各項目はイベントの有無について尋ねているので,構成概念のほうが時間的に先行している。さらにそれらのイベントには会話と会合がある。二つの下位構成概念についてのdirect reflectiveモデルが正しかろう。
[要約と含意]
本稿のガイドラインをつかい,かつ構成概念-指標間関係についての補助理論を充実させることをお勧めします。
本稿の原則を適用することによる主な副産物としては:
  • direct formative modelの多くの例は,実はspurious modelにしたほうがよい。モデルが同定できなくなるのならdirect reflectiveな指標を付け加えるがよかろう。
  • 一般的構成概念の諸側面を記述する項目を,一般的構成概念のdirect reflectiveな指標とみなしてはいけない。
  • 信頼性係数が低いからといってdirect formative modelをつくるのはやめろ。formativeかreflectiveかというのはアプリオリな概念的基準で決めるべきだ。

sem-netで紹介されていた論文。ネットで拾った。
 SEMは独りで読みかじっただけなので,基本的なところについていっぱい疑問があって困ってしまう。たとえばこのあいだ,かのトヨダ先生によるAmosのセミナーに行ったらば,弟子の院生が示したすごく初歩的なモデル例のなかで,"講義後の充実感"が潜在変数,講義への満足感・理解度・目的一致度がその指標となっていた。たったこれだけのことで,いやちょっと待って,矢印の向きが逆じゃないの?むしろ理解度が高いと充実感が高くなるんじゃないの?だからこれはformative indicatorであるべきなんじゃないかしら,とすっかり混乱してしまったのである。まあ矢印の向きについて考えるのは大事なんだろうけど(Loehlinの本にもboth possibilities should be kept in mindと書いてある),こういちいち悩んでいたのでは身が持たない。場数を踏んでいない悲しさである。
 会社の仕事でもSEMのモデル構築について悩むことがあったので,暇をみつけて読んでみた。「こんなデータのときにはformativeなモデルをつくるといいよ」というプラクティカルなアドバイスを期待していたのだが,そういうポストホックな発想がいかんのだ,と叱られてしまった。失礼いたしました。
 どうやら「指標が潜在変数の原因側だったらformativeだ」と単純に考えるわけにもいかないようだ(うかつにformativeなモデルをつくると測定誤差がないことになってしまう)。なるほど。やっぱし勉強しなきゃなあ。

論文:データ解析(-2014) - 読了:06/07 (A)

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