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2008年5月 6日 (火)
池端俊策ベストシナリオセレクション1
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池端 俊策 / 三一書房 / 1997-12-01
収録された脚本のひとつ,「百年の男」(1995,NHK)はこんな話だ。さびれた商店街で一人暮らす60歳の理容店主が癌を疑われ,借金している不動産屋に押し切られて,自宅に下宿人を入れる羽目になる。台所もトイレも共用,高額の家賃を取るが,店主が死んだら土地も家も譲り渡す,という契約だ。若い夫婦がこの条件に応じて入居してくるが,突然の共同生活には店主も夫婦もなかなかなじめない。夫婦の仲はこじれ,夫は浮気相手の元へ出奔する。うなだれる若い妻と老いた店主のあいだに信頼が芽生える。精密検査の結果,癌ではないことがわかるのだが,店主はそれを言い出せないまま,妻に連れられて夫の浮気相手のアパートに乗り込むことになる。逆ギレした夫が「お前,本当にあの家が俺たちの物になるとおもってんのか」と叫ぶ。「本当にそのおっさんが死ぬと思うか? 末期癌だと思うか? そんな人間がこんな所までノコノコ来るか?」。。。ここまでが前半部分。
かつて池端俊策さんは俺にとってのアイドルで,シナリオ雑誌のバックナンバーからこの人の脚本を探し集め,コピーしては繰り返し読んだものであった。そのときは,台詞の面白さ,そこに現れる人間像の深さ,暗示的表現の豊かさをひたすら畏れ敬っていたのだけれど,この度久々に読み返してみて,そもそもプロットがとてもしっかりしているのだと痛感した。上記のあらすじだけでも,これが面白くならないわけがない,という気がする。
池端俊策のTVドラマは国内外の賞を取りまくり,こうしてシナリオ集まで出版されているし,ビートたけし主演の何本かはビデオ化されている。とても幸せな脚本家だが,それにしても,たとえば「百年の男」をいま観るのはなかなか難しいと思う。テレビってのは切ないメディアだ。
世の中へ・乳の匂い 加能作次郎作品集 (講談社文芸文庫)
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加能 作次郎 / 講談社 / 2007-01-11
加能作次郎という名前すら知らなかったが(なぜ買ったんだっけ?),大正年間に活躍した自然主義作家だそうだ。そういわれるとなんだか古めかしく聞こえるが,代表作だという「世の中へ」「乳の匂い」は,どちらも瑞々しく魅力的な小説であった。
フィクション - 読了:05/06まで (F)