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2008年5月12日 (月)

Bookcover 影の護衛 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [a]
ギャビン ライアル / 早川書房 / 1993-06
連休明けの会社勤めと非常勤をなんとか乗り切って週末にこぎ着け,あとは好きな小説でもめくりながら寝て過ごそうと溜息をつき,既読本の本棚から文庫本を引き抜いて布団に潜り込んだ。ギャビン・ライアルの冒険小説は手垢がつくほど読み返しているが,ライアルが五十歳近くになって書き始めた「マクシム少佐」シリーズだけはなぜか縁遠く,一読したがあまり印象がない。読み返すにはよい機会である。
 パラパラとめくりはじめたところ,これが意外に面白い。まるではじめて読むような面白さ。というか,読んだ覚えがまったくない。何頁読んでもまったく思い出せない。だんだん嫌な冷や汗が出てきた。
 結局,一箇所たりとも既読感を感じないままに読み終えた。加齢と共に減退するのは作業記憶であって長期記憶ではないと誰かが云っていたが,実に怪しいものだ。

Bookcover 八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫) [a]
ローレンス ブロック / 早川書房 / 1988-10
ライアルの一件のせいでなんだか目の前が薄暗くなるような気分になったので,絶対に未読だと断言できる娯楽小説を買ってきた。前から一度読んでみたかったのである。
 NYの探偵スカダーは,魅力的な娼婦から依頼を受けてヒモに会いに行くが。。。その娼婦が惨殺され,スカダーは乏しい手がかりを追って同僚の娼婦たちを訪ね歩き。。。と同時に,酒の誘惑と戦いAAに参加しアルコール依存について葛藤し。。。会話や新聞記事で示される都市の荒廃と虚無。。。物語はある種の大団円を迎え,スカダーは真の転機を迎える。
 この小説に限って,読んだことはなかったはずだ,と思う。これは探偵小説の古典的名作,ハムレットみたいなものだから,未読の俺でさえ,ある程度のあらすじは知っていたという可能性もある。しかし,この強い既視感はなんだろうか? こんなに細かいところまで,ずっと昔に読んだような,なじみ深い感じがするのはなぜだろうか? だんだん嫌な冷や汗が出てくる。

 なにかの拍子に,潮時だ,あきらめろ,もう潮時だ,という小さな声が聞こえるような気がして,はっと凍り付くことがあるのだけれど,それはたぶん自分の声なのだろう。いったい何の潮時だかわからないが,うん,そうだね,潮時だね,という気もする。ときどき俺は,自分の頭蓋骨を開けて脳を適宜取り出して冷たく澄んだ川に流し,蓋を元通りに閉め,残り時間をよだれを垂らしながら布団で眠りこけたい,と思うことがある。

フィクション - 読了:05/12まで (F)

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