elsur.jpn.org >

« 読了:08/27まで (C) | メイン | 読了:08/29まで (CH) »

2009年8月28日 (金)

Ramaswamy, V., Chatterjee, R., Cohen, S.H. (1996) Joint Segmentation on Distinct Interdependent Bases with Categorical Data. J. Marketing Research, 33(3), 337-350.
 潜在クラスモデルを使ったジョイント・セグメンテーション手法を提案する論文。

 マーケティング戦略を考えるために,まず市場を細分化して捉えましょう,という考え方をセグメンテーションという。市場調査でいえば,消費者をなにかの特性で分類し,それぞれのセグメントに対する戦略を立てるわけである。なにかの特性に注目してアプリオリに分類する場合もあれば(テレビの視聴者を年代・性別で区切り,20-34歳女性をF1層と呼んだりするのがそうだ),項目群についてクラスタ分析かなんかをやって,事後的に抽出する場合もある。

 事後的なセグメンテーションを行う際,使用する項目が概念的に2群に分かれている場合がある。
 この論文の例でいえば,銀行についての調査で,消費者に自分のファイナンシャルな目標13項目を提示して任意個選択,いま利用しているサービスを13項目のなかから任意個選択させている。両方の項目群をつかって消費者を分類したい。ポイントは,2つの項目群は概念的には異なるが,現象としては関連している,という点だ。さあ,どうすればいいか?

 なお,(A)のモデルは(C)よりもパラメータ数が多い。たとえば(C)でのクラス数が3×3だったとすると,(A)では9クラスできることになるが,(C)ではC1の3クラスの所属確率が合計1, C2の3クラスの所属確率も合計1になるという制約が課せられるのに対し,(A)では9クラス分合計してはじめて1になる,つまり(A)のほうが制約が緩い...ということであろう。
 また,(B)のモデルは(C)よりパラメータ数が少なく,2つの潜在クラス変数が独立ならば(C)と同じ結果になるが,独立でない場合には結果がゆがむ。あるヒトがC2のどのクラスに属するかを推定する際,C1のモデルの推定に使った情報を使えない分だけ損をする,ということであろう。

 この論文は,(C)の(A)(B)に対する優位性を実データと人工データで示して見せている。筋立てが明快で,とてもわかりやすい論文であった。実は,こういう論文がすでにあることを知らずに,(C)と似たような潜在クラスモデルを作ってセグメンテーションしたことがあったのだが,(C)のアプローチが(B)よりもなぜ優れているかという点について,自分でもいまいち整理できなかった。その点で勉強になった。
 なお,のちにこの論文のモデルは同定不能だという批判が出て(Walker&Damien,1999),いやそれは誤解だよという反論も出たらしい。数理的な議論みたいだからパス。

 この論文とは関係ないけれど...
 セグメンテーションはマーケティング分野の基礎の基礎みたいな概念なので,大きな声ではいえないが,こんなことやっていいのかなあ,ほんまかいなあ,という違和感をいつも抱えている。戦略立案のためには消費者の類型があったら助かるぞ,というお気持ちはよくわかるが,弁別的かつ収束的かつactionableな類型が,実際の市場に都合よく実在するかどうかは別の話だ。だから,市場理解のためには適切なセグメンテーションが重要です,なんていわれると,「求めよされば与えられん」と説教されているような気がして,なんだか落ち着かないのだ。
 現在の勤務先である市場調査会社に入社し,はじめてセグメンテーションという言葉を聞いたときは,はあ? じゃあ市場に少数のクラスタが存在していて,各クラスタの中で消費者の選好構造は等質だと想定するわけですか? そんなあほな,クレッチマーの類型論じゃあるまいし,そんな便利な構造なんて,なかなか存在しないと思いますよ,などと抵抗したものだ。さぞや面倒な新入社員であったことだろう,といまになって上司様に深く激しく同情する次第である(すみませんすみません)。
 そんなわけで,セグメンテーションという発想そのものに,いまだなじめずにいるのだが,まあ,それは個人的な宿題ということにしておいて。。。

論文:マーケティング - 読了:Ramaswamy, Chatterjee, & Cohen (1996) ジョイント・セグメンテーション

rebuilt: 2020年11月16日 23:03
validate this page