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2009年10月28日 (水)

Grover, R., Vriens, M. (2006) Trusted Adviser: How it helps ay the foundation for insights. in Grover, R. & Vriens, M. (eds.) "The handbook of marketing research," Chapter 1.
市場調査のハンドブックの序章に当たる部分。お世話になった方がこのたび本を出すことになり,その原稿を拝見するにあたって,なにかの役に立つかも,と思って読んでみた。そういえばこのハンドブック,ひとりで全部読んでやろうと思っていたのだが,昨年5月に4章分読んだところで挫折していた。再開しようかしらん。
 市場調査というもの,クライアント側の立場が強すぎても(researcher as order taker),リサーチャー側の立場が強すぎても(researcher shooting in the dark),どちらも相互信頼が生まれないし,従って「信頼されるアドバイザ」にもなれない,とのこと。なるほど,確かにそうですね。調査会社が信頼されるアドバイザの役回りを期待されているかどうかは,全然別の問題ですが。
 著者らによれば,市場調査が必要とされるビジネス課題には意思決定と市場学習がある。前者では,まずクライアントが抱えている症状から出発し,探索的調査を通じて問題領域と選択肢を定義し,情報ニーズが確定して定量調査の設計がはじまる,という演繹的アプローチが適している。ここで肝心なのは,症状から問題領域へ,という上流プロセスからリサーチャーが関わることだ,というわけで,著者らは例題を挙げ,情報ニーズからスタートする普通のリサーチャー(order taker)の手による企画書と,症状からスタートする良いリサーチャー(演繹的)の企画書とを並べて見せる。わたくし正直申しまして,前者の企画書を読んだ段階で,おお結構いいじゃん,なあんて思っちゃいました。すみませんすみません。このあたり,「市場調査業界でxx年生きて参りました」というベテランの方々の意見を聞きたいところだ。さぞや反発があるところだろう。そもそも業界自体がorder-taker的サービスを前提としているのではないかと思うので。
 いっぽう市場学習的な状況下では,重要な変数とそのあいだの関係について記述する概念枠組みを構築することがゴールになる。この場合に必要なのは帰納的アプローチで,その際のポイントは,(1)リーダー格のリサーチャーを中心にした放射状のチームをつくること(ブレインストーム型ではだめ),(2)複数手法・複数ソースの調査を組み合わせること,(3)確率抽出ではなく有意抽出に基づくこと,etc。これは腑に落ちる話だと思った。市場理解を目的とする調査は往々にして,複数のステークホルダーがわいわいとブレインストーミングした末,結局は焦点が絞れていない調査票になっちゃったり,十分な精度を得るべく大き目の調査を企画した結果,予算がないので一発の調査で勝負することになり,本当に知りたい消費者の像には手が届かなかったり,というようになりがちだと思うので。

論文:マーケティング - 読了:10/27まで (AM)

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