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2009年12月 2日 (水)
ここんところ滅法忙しく,土日出勤が延々と続き,つくづく消耗してしまった。いや,同じくらい長時間働いている人だって,さほど珍しくないとは思うんだけど。
この疲労感の原因ってなんだろう? 所詮はデスクワークであって,別に重い物を持ち運んでいるわけではないのに。もちろん,目や腕の疲労は無視できないけれど,単純な身体的疲労という観点からはうまく説明がつかないように思う。仕事における疲労感の多寡は,物理的な労働時間もさることながら,むしろ(1)成果に対するポジティブなフィードバックの有無,(2)今後の休息の見通し,の2点が重要な鍵を握っているのではないか。。。なあんてことは,誰かがきちんと理論化してるんだろうな,俺が不勉強なだけで。
俺は大学院で心理学を専攻していたのだが,当該分野における最大手の学会が日本心理学会である。年に一度大会が開かれ,関係者はこぞって参加する。院生のころよく仲間内の話題になったのが,毎年学会発表している謎の老人の噂だった。周囲にはよく理解できない,あまりに独特な内容の発表を,あまり日の目を見ないセッション(「原理・方法」)で淡々と発表し,記念写真を撮って帰る老人がいる,という話である。あのおじいさんはいったい何者だろうか? 変わった人だよねえ,という話は,いわば当たり障りのない笑い話として,よく口の端にのぼる話題だったと記憶している。
世間でよく誤解されている点だが,多くの学会の大会発表には事前審査が存在しない(ないし,ごく形式的な審査しか存在しない)。学会員になるのもさほど難しくない。その老人の発表がどのような内容だったか記憶にないが,大会期間中の無数の研究発表の中に,いわゆるトンデモ系の内容が紛れ込んでいたとしても,決して意外ではない。
それからずいぶん時間が経ち,俺は流れ流れてサラリーマンの真似事をはじめることになったが,いまにして思い出すのが,あの頃噂にきいた謎の老人のことである。その老人は,なぜわざわざ学会発表していたのだろうか。いったいどんな見返りがあったというのだろう。成果に対するポジティブなフィードバックがあったとは,とても思えない。発表時間がはじまった,喋った,おわった。きっとそれだけだ。老人はなにを求めていたのだろうか。
そんなことを考えるのも,先月かなり無理をしてとある学会に参加し,かなりがんばって研究発表し,その結果サクバクとした気分になったからである。正直言って,知人もろくにいない,トレンドもよくわからない学会である。俺の発表の内容も,注目を集めている話題であるとはお世辞にもいえない。我ながら,すごーーく,浮いている感じが否めない。
ひょっとしていまの俺は,院生の頃に噂で聞いた,「原理・方法」の謎の老人のような存在なのではないか? 誰も目もくれないような話題について研究発表を続ける,奇妙な辺縁的存在なのではないか? そう思うと,とても怖くなる。とてもとても怖い。この怖さを誰にどう伝えればよいのか。
いまもし,あのころ噂に聞いた老人にお会いすることができたら,あなたはこの恐怖感を感じなかったのですか,あなたはなにを求めていたのですか,と尋ねてみたいのである。
というわけで(どんなわけだ?),先々月からやたらに多忙であった理由の一つは,その学会の準備であった。せっかくなので,発表資料をwebに載せておくことにしよう。胸を張れるような立派な内容ではないが,検索で見つけた誰かの役に立つかもしれないし。ひとりで週末をつぶして考えた,ごくごくささやかな発表だけど,ちょっとした愛着を感じているのである。
雑記 - 「原理・方法」の謎の老人