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2011年5月21日 (土)
Abramson, C., Andrews, R.L., Currim, I.S., Jonese, M. (2000) Parameter bias from unobserved effects in the multinomial logit model of consumer choice. Journal of Marketing Research, 37(4), 410-426.
消費者の選択データ(POSデータとか)に選択モデルをあてはめるとき、モデルに組み込みそこねている変数がパラメータにバイアスを与える。たとえばある消費者があるブランドをリピート購入したとして、それは前回の選択の影響かもしれないし(状態依存性)、そのブランドが好きだからかもしれない(選好の個人差)。仮にどちらも正しいとして、しかし選好の個人差を考慮せず状態依存性だけを考慮したモデルをつくると、状態依存性はその分大きく見積もられるわけだ。
そこで、どんなときにどんなバイアスが生じるのか、シミュレーションでシステマティックに調べました、という研究。うーむ、玄人好みの渋いテーマだ。マーケティング実務への示唆は特にないが、POSデータの分析者にとっては大事な話だろう。
5ブランドからひとつを選択する場面を考え、各ブランドの効用を適当に決め、マーケティング・ミックス変数(4つ)をランダムに発生させて架空のPOSデータをつくる。その際、さらに以下の4要因を操作する:
- (a)状態依存性(ブランド・ロイヤルティ)、
- (b)系列相関(残差に自己相関があるか)、
- (c)選好ならびにマーケティング・ミックスへの反応の個人差、
- (d)選択集合形成方略の個人差。
各3水準で操作するので、3^4=81通りの架空データができる。
で、各データに次の9つのモデルを当てはめる:
- 1) ただのロジットモデル(a,b,c,dすべて無視)。パラメータは、ブランドの効用とマーケティングミックス変数(正しく4つ指定)の係数、計8個となる。
- 2) Guandagni&Little(1983)のブランド・ロイヤルティ変数を乗せたモデル(aのみ考慮)。パラメータは10個。
- 3) Fader&Lattin(1993)のブランド・ロイヤルティ変数を乗せたモデル(aのみ考慮)。14個。
- 4) Kamakura&Russell(1989)の潜在セグメントモデル(cのみ考慮)。2セグメント、17個。
- 5) Siddarth, Bucklin & Morrison(1995)のプロモーション拡張モデル(dのみ考慮)。10個。
- 6) Roy, Chintagunta & Haldar(1996)のモデル(a,b,cを考慮)。2セグメント、20個。
- 7) 2)と5)を合わせたモデル(a,dを考慮)。12個。
- 8) 2)と4)を合わせたモデル(a,cを考慮)。21個。
- 9) 2)と4)と5)を合わせたモデル(a,c,dを考慮)。25個。
で、ブランドの効用のバイアス、マーケティングミックス変数の係数のバイアス、ブランド・ロイヤルティの係数を従属変数とし、4要因の分散分析をかける。その結果わかったことは、
- (a)状態依存性があるのにそれをモデル化しないと、マーケティングミックス変数の係数が実際より低く推定されてしまう。
- (b)系列相関があるのにそれをモデル化しないと、ロイヤルティが高く推定されてしまう。係数や効用は大丈夫。
- (c)選好・反応に離散的な個人差があるのにそれをモデル化しないと、ブランドの効用が実際より低く推定されてしまう。連続的な個人差であれば大丈夫。
- (d)非補償的なスクリーニング方略が用いられているのにそれをモデル化しないと、効用と係数が低く推定され、ロイヤルティが高く推定される。
などなど。全体的にいって、予測精度が高いのはモデル9, パラメータ推定が良いのはモデル7。2)のロイヤルティ変数をいつも組み込んでおくのがお勧めである由。
推定したパラメータのバイアスの大きさは、モデルの予測的妥当性なり適合度なりをチェックすればわかるだろうと考えがちだが、決してそうではない。怖い話だ。
論文:マーケティング - 読了:Abramson, et. al. (2000) 消費者選択の多項ロジットモデルにおけるパラメータのバイアス