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2011年6月24日 (金)
Chandon, P., Wansink, B. (2002) When are stockpiled products consumed faster? A convenience-salience framework of postpurchase consumption incidence and quantity. Journal of Marketing Research, 39(3), 321-335.
特売でビールの6本パックを買っちゃったのが間違いのもとで、ついつい毎晩飲んでます... というように、あてのない買い置き(外生的買い置き)は消費を促進する場合がある。そのメカニズムについてモデルを提案し検証いたします、という論文。
モデルといってもかんたんなパス図のようなもので、「買い置き」と「製品の消費容易性」(食品でいえば、個別包装になっているかとか) が、「消費時点での顕著性」「知覚されたコスト」を通じて消費の「頻度」と「量」に影響する、というもの。
モデルから出てくる仮説が3つ:
- P1. 外生的買い置きは消費を促進する。その影響は消費容易性が高い製品において強い。
- P2. 外生的買い置きは消費の量を増大させる。さらに消費の発生率も増大させる。ただし後者は消費容易性が高い製品に限る。
- P3. 外生的な買い置きが消費容易性の高い製品の消費発生率に対して与える効果は、製品の顕著性によって媒介される。
P3. がちょっとわかりにくいのだが、「買い置きする」→「製品の顕著性が高まる」→「消費発生率が高くなる」という仕組みがあるものの(ここで顕著性はメディエータ)、消費容易性が低い製品では顕著性が高まっても消費発生率が高くならない(消費容易性はモデレータ)、という理屈らしい。有名な純米酒が安売りだったので思わず買い求め、心はもうすっかり日本酒モードなのだが、しかし日本酒はうかつに開封すると風味が落ちるからじっとがまん、よって消費発生率は増大しない、というようなことですかね。
で、まずP1を世帯スキャンデータで支持する(研究1)。ジュース、クッキー、洗剤について、ある購入における購入量を次回購入までの期間で割った値を消費速度の指標とみなしてこれを従属変数とし、「外生的買い置き」「内生的買い置き」を表す2つのダミー変数を独立変数にした回帰モデルを作ったら、ジュースとクッキーにおいては外生的買い置きによる消費速度の増大がみられました、とのこと。気になるのは独立変数の作り方だが、「プロモーション・パックだけを買った」ら外生的買い置き(あてのない買い置き)、「レギュラーパックを含んだ買い物で、しかも普段よりも量が多い」のは内生的買い置き(あてのある買い置き)、なのだそうだ。訳あって多めに買う際にはきっとバラエティ・シーキングするでしょう、という理屈である。こ、これは... かなりな無理筋ではないでしょうか。 「孫が遊びに来ているからジュースを多めに買っとこう」というのは内生的買い置きだが、その際おばあちゃんが孫の好むブランドのLLサイズを買ったとしても、なんら不思議ではないだろう。この理屈、この業界では通るのかしらん?
まあいいや、本命は実験のほうだ。研究2はフィールド実験。クラッカー、グラノーラ・バー、フルーツ・ジュース(以上が消費容易性=高)、麺、オートミール、電子レンジ用ポップコーン(以上が消費容易性=低)の6製品の詰め合わせを56世帯にプレゼントする。その詰め合わせには、3製品(買い置き=高)が12個づつ、3製品(買い置き=低)が4個づつ入っている。で、冷蔵庫に紙を貼り、2製品(顕著性=妨害)についてその消費履歴を日々書き付けるよう頼む。ところがこの紙には、この2製品の写真のほかに、なぜかほかの2製品(顕著性=高)の写真も載っている。対象者はこの4枚の写真を日々眺めて過ごすわけで、顕著性も高くなろうというものでしょう、という理屈である。2週間後に予告なく調査票を送りつけ、全製品の消費履歴を聴取する。妨害条件の2製品のデータを捨て,世帯当たり4件のデータを得ると考えると、買い置き(高/低) X 顕著性(高/低) X 製品の消費容易性(高/低) という3要因デザインである。で、消費回数、一回当たり消費量、全消費量を従属変数とし、要因やら製品名のダミー変数やら世帯特性やらを独立変数に放り込んだ回帰モデルをつくり、P2を支持してみせる。1世帯から複数件のデータを取っているので、ほんとは階層回帰モデルじゃないといけないような気がするのだが...ちゃんとやっているのかしらん。
研究3は実験室実験。学生に台所の棚の写真を見せる。それはオレオやらキットカットやら計8ブランドのスナック菓子が詰まっている棚で、うち4ブランドは16個づつ(買い置き=高)、残り4ブランドは4個づつ(買い置き=低)入っており、また4ブランドは上の棚(顕著性=高)、残り4ブランドは下の棚(顕著性=低)に入っている。で、1週間のテレビ番組表を渡してどの番組を見たいか尋ね(これはダミー課題)、ついでに各曜日に消費したいお菓子のブランドと数量を答えさせる。一人あたり8件のデータを得ると考えれば、買い置き(高/低) X 顕著性(高/低) という2要因デザイン。で、消費回数の回帰モデルで買い置きと顕著性の交互作用を出してP3を支持し、さらに顕著性をモデルに出し入れしてそれがメディエータであることを示す。研究4もそんな感じの実験室実験(面倒なのでスキップ)。
いろんなアプローチの実証研究を繰り出すところが面白かったんで、ついつい最後まで読んでしまったが、考えてみると、個別の知見自体はまあ当たり前な話ばかり、という気もする。いろんな話をひとつのモデルで整理しているところが偉いのであろう。
論文:マーケティング - 読了:Chandon & Wansink (2002) 買い置きを使ってしまうのはいつ?