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2012年2月13日 (月)
行動計量学への招待 (シリーズ〈行動計量の科学〉)
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/ 朝倉書店 / 2011-09-15
仕事の足しになるかと思って読んだ本。行動計量学会編でただいま刊行中の10巻シリーズの第1巻。錚々たる大家による分担執筆。実務家では,ビデオ・リサーチの森本栄一さんも執筆しておられる。
こういう本には社史ならぬ学会史編纂という側面があるから,実質的な勉強のためには他の本をあたった方がよいと思うのだが,読み物として面白かった。いくつかメモ:
- 行動計量学会といえば林知己夫,というわけで,林の数量化理論についてはもちろん一章が割かれている(執筆は飽戸弘)。先生の回想によれば,かつて「マーケティングの分野や,社会心理学,社会学などの分野では,数量化理論は一世を風靡し,調査結果は数量化またはせめて多変量解析を施さないと報告書として通用しない,という状況に達していた」のだそうだ(この辺の感覚は,私の世代にはもう十分に理解できなくなっていると思う)。ところが,かの「数量化理論第 I 類」「第 II 類」... という分類名は,林自身ではなく飽戸(1964)によるものであって,「原作者である林はたいへん不本意であった」由。でも普及しちゃったものは仕方がなく,「林から夜中に電話があり,『飽戸君か,II類ってどれのことかね』 などと問い合わせがあった」りしたのだそうだ。ははは。
- 意思決定についての章(松原望) の,効用理論について説明するくだりによれば,ベルヌーイの対数効用関数は「心理学の『ウェーバー-フェヒナーの刺激-反応法則』あるいは別領域ではあるが『限界効用逓減の法則』へ継承されたとみてよいが,学説史的には明白なつながりはない」由。えー,ないんだ...すいません,私よく知らずにウソついてました。
- 計量政治学の章(猪口孝)によれば,著者は日本とソ連のサケ・マス漁業交渉について状態空間や重回帰を使ったモデルを作ったことがあって,交渉妥結量をすごく正確に予測できたのだそうだ。へえー。
- 医療統計の章(宮原英夫)によれば,「筆者の周囲では,増山元三郎,高橋晄正らが,1960年代から,今でいうEBMとほぼ同じ主張を繰り返していた」が,受け入れられなかった由。とはいえ読み進めていくと,医療費削減という要請からくるものではなかったようだし,診断・治療を超えて医療行政に至るもっと大きな主張だったようだし,当時といまとではデータベースの整備の程度がちがうだろうと思う。この辺,なにをもって「ほぼ同じ主張」とみなすか,というところが問われるなあと思った。
- 正直いってこの本は最終章(木下富雄)が目当てで買ったのだが(すいません),この章はやはりとても面白く,啓発的であった。データ解析のアルゴリズムに対する解析ユーザの立場について触れた部分で,因子分析の主流が直交解から斜交解に移行しているという話に触れたついでに,じゃあかつて因子の直交性を前提としてつくられた類型論はどうなっちゃうのかしらね,とコメントしておられる。三隅のPM理論とか。そ,そうか...!
データ解析 - 読了:「行動計量学への招待」