elsur.jpn.org >

« 「仏教とはなにか」 | メイン | 読了: Andrews, Ainslie, & Currim (2002) 有限混合モデル vs. 階層ベイズモデル ~選択データ分析での対決~ »

2012年4月21日 (土)

van Heerde, H.J., Gupta, S., Wittink, D.R. (2003) Is 75% of the sales promotion bump due to brand switching? No, only 33% is. Journal of Marketing Research, 40(4), 481-491.
 ええと、話の発端としては... ブランドの売上の弾力性は、カテゴリ購入の弾力性、ブランド選択の弾力性、購入数量の弾力性、の3つに分解できる。
 ある世帯である機会にカテゴリ購入が生じる確率を $P(I)$, カテゴリ購入が生じた場合のブランド$j$の選択確率を $P(C_j | I)$, ブランド$j$の購入が生じた場合の購入数量を $Q_j$とする。ブランド$j$の売上数量$S_j$はこの3つの積になる。すなわち
 $S_j = P(I) P(C_j | I) Q_j$
 価格弾力性について考えよう。ある購入時点でのブランド$j$の価格と、ブランド$j$の標準価格との比を$D_j$とする。売上数量の価格弾力性は、-(売上の変化率/価格の変化率)、書き換えると-(もとの価格水準/もとの売上水準)(売上の変化量/価格の変化量)である。これを偏微分で表して
 $\displaystyle \eta_{S_j} = \frac{\partial S_j}{\partial D_j} \frac{D_j}{S_j}$
このS_j にさっきの式を代入して下式が得られる:
 $\eta_{S_j} = \eta_{I_j} + \eta_{C_j} + \eta_{Q_j}$
右辺の3つの項はそれぞれ、ブランド$j$の価格に対する、カテゴリ購入の弾力性、ブランド選択確率の弾力性、購入数量の弾力性である。おお、分解できている。このうちカテゴリ購入と売上数量を一次需要効果、ブランド選択を二次需要効果という。
 Gupta(1988, JMR)という研究がプロモーションの効果にこの分解を当てはめ、以来たくさんの研究者がいろんなカテゴリについてこの分解を試みている由。コーヒーでは14:84:2だとか(Gupta, 1988)、ヨーグルトでは15:40:45だとか(Chintagunta, 1993)。概してブランド選択確率の弾力性が占める割合が大きいといわれている。
 問題はこの割合をどう解釈するかである。たとえばGupta(1988)はこういっているのだそうだ:「プロモーションが引き起こした売上増のうち、84%以上がブランド・スイッチングに由来している」。著者らは先行研究での文言を一覧表にしているのだが(暇だねえ)、多くの研究者が、この割合を売上数量に占める割合と解釈している。プロモーションによって売上が100個増えたとして、そのうち84個が他ブランドからのスイッチだ、という解釈である。
 この解釈は間違っています、というのがこの論文の主旨。やれやれ、疲れた。

 どこが間違っているかというと、プロモーションによってブランド売上だけでなくカテゴリ売上も増えるからである。著者らの説明は以下の通り。
 各週に購入機会が1000回生じ、カテゴリ購入率が20%、購入が生じた場合の購入数量は1個、購入が生じた場合のあるブランドの選択確率が18%だとする。ある週のカテゴリ売上は1000*20%=200個、うち当該ブランドの売上は200*18%=36個である。
 いま、ブランド売上の弾力性が0.248のブランド・プロモーションを行う。その弾力性が14:84:2に分解できるとしよう。つまり、カテゴリ購入0.034、ブランド選択0.210、購入数量0.004である。
 プロモーションの結果、ブランドの売上は1.248 * 36 = 45.2個となり、9.2個増える。さて、この9.2個はどこから来たか?
 まず、ブランド選択確率は1.210 * 18% = 21.8%であり、もとの200個のうち当該ブランドの売上は200*21.8%=43.6個である。他ブランドから7.6個奪ったわけだ。これは増加した9.2個のうち83%にあたり、弾力性の分解と対応している。
 ところが問題は、カテゴリの売上も増えているという点である。カテゴリ購入率は1.034*20%=20.7%、カテゴリ売上は1000*20.7%=207個、つまり7個増えているのだ。この7個のうち、7 * (100%-21.8%) = 5.4 個は他ブランドに流れる。他ブランドの立場に立つと、7.6個減って5.4個増え、差し引き2.2個の減少である。つまり、当該ブランドの増加9.2個のうち、他ブランドからのスイッチは、84%どころか、たったの2.2/9.2=24.3%だったことになる。

 というわけで、著者らは(売上の弾力性ではなく)売上数量の変化を分解する方法を提案し、実データ(世帯パネルデータ)への適用例を示している。面倒なので飛ばし読み。実務的な示唆としては、販売プロモーションの効果に占めるブランド・スイッチングは、売上数量ベースで考えるなら、いままで思っていたよりずーっと小さかった、という話である。

 どういう事情だったのかさっぱり忘れちゃったけど、この論文、前に仕事の都合で「お前らこれを読め」と回覧されてきて、しかしいざ他人に読めと言われると面倒くさくなってしまい、結局読まずじまいだった奴だ。その節はどうもすいませんでした。

論文:マーケティング - 読了:van Heerde, Gupta, & Wittink (2003) 販促の効果に占めるスイッチングは君が思うよりずっと小さい

rebuilt: 2020年11月16日 23:00
validate this page