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2012年5月10日 (木)
Rothman, L., & Parker, M.J. (eds.) (2009) Just-about-right (JAR) Scales: Design, Usage, Benefits and Risks. ASTM Manuals, MLN63. ASTM International.
食品や飲料の消費者テストで、このジュースのすっぱさは「弱すぎる-ちょうどよい-強すぎる」のどれですか、なあんて聴取することがある。英語ではJust-about-right scale ないしJust-right scaleというが、日本語ではなんていうのだろうか。
こういうJAR尺度の利用法についてのガイドブック。ASTMは工業規格の標準化機関だと思うが、ASTM Manualというのがどういう位置づけなのかよくわからない。特許庁の標準技術集と雰囲気がちょっと似ている。
以前の勤務先で、社内のどこぞの誰ぞが作った資料でお勉強するのがいい加減いやになってしまい(ごめんなさい)、たまたまこの資料を見つけ、あとで会社に経費申請するつもりで、55ドル出して買い込んだ。その後、うっかりしているうちに時が経ち、うっかりしているうちに転職してしまった。買ったきり読んでないのはもちろん、経費申請さえしそびれていた、ということにさきほど気が付いた。悔しい。55ドルあったらビールが何杯飲めることか。自腹を切ったモトを取らねばならぬ、というわけで、とりあえずざーっと拾い読み。
最初に編者による総論が13p。編者はクラフトフーズの人と、食品専門のコンサル会社の人。いくつかメモ:
- JAR項目の利点: formulation guidanceを提供する;理解しやすい; 消費者異質性を見つけやすい; likingと一緒に使って優先順位づけできる; いろんな分析方法がある。
- JAR項目を含めどんな調査項目にも共通する危険性: 光背効果; どうでもいい項目に対して特定の回答が生じる; 知覚ではなく期待に基づいた回答; 対比効果; 疲労などの文脈効果; テスト内の刺激水準による文脈効果; 属性の解釈のずれ; 知覚の誤帰属。
- JAR項目に特有な危険性: 知覚と認知の混同; 世の中にはどうしたってjust rightとは思っていただけない属性がある(例, チョコバーのナッツ); 回答者が余計な気を使う(好きな製品じゃないとjust-rightって答えちゃいけないんじゃなかろうかとか); 個々の属性についてjust-rightを目指しても最適製品がつくれるとは限らない; 回答者が自分の理想を知っているかどうか定かでない; too muchと答えた人が多いからと言ってすごく強すぎるわけではない; 試食時間の長さによって評価が変わることがある; どこかの属性についてjust-rightを目指すとこれまでjust-rightと思っていた人が逃げるかもしれない; JAR項目とhedinic項目の両方を聴取したあとでoverall likingを聴取すると回答が歪む。
- Gacula et.al. (2008, J. Sensory Stud.) は、JAR尺度での聴取がoverall liking聴取の前にあっても、overall liking回答は影響を受けない、といっているのだそうだ。本当だろうか。
総論のあとにAppendixとして、いろんな分析手法が事例つきで紹介されている。実に26章, 100pを超える。面白そうなところだけ拾い読みした。各章の内容は:
- A. JAR項目への回答分布を視覚化する。
- B. strong% と weak% の差を求め(これを net effect と呼ぶ)、視覚化する。
- C. あらかじめjust-right反応率のノームを決めといて、それを下回っている属性があったらweak% と strong%の差を求める。ないし、just-right反応率とそれ以外の反応率を比べ、後者のほうが多かったらweak%とstrong%の差を求める。
- D. JAR項目への回答を単純に量的尺度とみなして平均する。
- E. 回答をjust-rightを0とした量的尺度とみなして平均する。ついでに絶対値を平均する。
- F. 回答をjust-rightを0とした量的尺度とみなし、帰無仮説 μ=0 として検定する (ワイルドな発想だ...)
ここからは、同じJAR項目の回答分布の製品間比較。
- G. カイ二乗, CMH, Stuart-Maxwell, McNemar。
- H. 比例オッズモデル・比例ハザードモデルを適用する。おおお、これはやったことがあるぞ。悪くない発想だとわかってうれしい。書いているのはXiong & Meullenet。
- I. JAR項目への回答を単純に量的尺度とみなして平均し、2製品間で t 検定。
- J. JAR項目への回答を単純に量的尺度とみなして平均し、3製品間で ANOVA。
- K. サーストン流の尺度構成法。その発想はなかった...
ここからは、JAR項目のほかに全体好意度も聴取している場合。
- L. いわゆるpenalty analysis。図の書き方が面白い。strongとweakの両方について、%を横軸、ペナルティ(全体好意度の低下)を縦軸にとった散布図を描いている。いいなあ、これ。
- M. 上記のペナルティの求め方の紹介。strongないしweak反応者の全体好意度平均から、全対象者の平均を引いた値をペナルティとする方法と、just-right回答者の平均を引いた値をペナルティとする方法があるが、そのどちらでもなく、回答者の比率を加味した weighted penaltyなるものを求めることを推奨している。面倒なのでパス。
- N. ペナルティの有意性を検定する方法。SEの求め方がいくつか紹介されている(回帰; ジャックナイフ; ブートストラップ)。超めんどくさい...
- O. bootstrapping penalty analysis。面白いことを考えるなあ。書いているのはまたもXiongさんとMeullenetさんだ。
- P. opportunity analsys。JAR項目と全体好意度のほかに当該属性に対する好意度も聴取しているとき、製品好意者に占める属性好意者の割合をrisk, 製品非好意者に占める属性非好意者の比率をopportunityとする。これをペナルティと併用するわけだ。なるほど。書いているのはケロッグ社の人。
- Q. PRIMO analysis. PERT Survey Researchという会社の商品らしく、いま調べたら、弊社のツールはなんとASTMマニュアルにも紹介されています、なんていうリリースが出ている。そのわりに細かいことは書いてないのだが、考え方が面白そうだ。背景の理論についてはWeirichの"Decision Space"という本を読みやがれ、とのこと。
- R. 突然話変わって、just-rightかそうでないかと全体好意かそうでないかとの関係をカイ二乗検定する話。
- S. 複数製品に対する複数JAR項目の回答集計値をマップで視覚化。平均のPCAとか、strong/weak/just-right%のコレポンとか。
- T. JAR項目と属性好意度項目の相関を求める。
- U. 全体好意度をJAR項目(量的尺度とみなす)で説明する回帰。製品別とか、全製品縦積みでとか。ステップワイズで変数選択している。なんだかなあ。
- V. 同じようなモデルだが、今度はMARS(multivariate adaptive regression splines)モデルを使っている。ちくしょー、気が利いているなー。またもXiongさんとMeullenetさんだ。
- W. これもXiong-Meullenet組。JAR項目への回答を、strongとweakの二つのダミー変数にしちゃって、OLS回帰したり、PLS回帰したり。これは前に著者に論文をご恵送いただいたことがある。感謝感謝。
ここからはJAR項目と関係なくて...
- X. 属性のJARじゃなくてintensity("not-at-all"-"extremely")を聴取しといて、全体好意度を回帰で説明したり、2属性で張った空間上に好意度曲面を描いたり。
- Y. 製品の成分を実験計画で動かし、好意度に応答曲面モデルを当てはめる話。
- Z. 実際の製品セットのほかに「理想の製品」についてもあれこれ聴取しといて比較する話。
論文:調査方法論 - 読了:Rothman & Parker (eds.) (2009) オール・アバウト・ちょうどよい尺度