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2012年5月17日 (木)
Gawronski, B. & De Houwer, J. (in press) Implicit measures in social and personality psychology. In H. T. Reis, & C. M. Judd (Eds.), Handbook of research methods in social and personality psychology (2nd edition). New York, NY: Cambridge University Press.
社会心理学方面における潜在認知課題のレビュー。別の著者による全く同じ題名の本があるが、関係ないと思う。
ある方がtwitterで呟いておられたのをみかけて、ちょうどいま仕事で考えている話の役に立ちそうだと思い目を通したのだが、しかし、なんでいまになって心理学の話なんか読んでるんだろうか、どうも妙なものだ。
前半は手法の概観。紹介されているのは、
- ご存じ IAT (Implicit Association Test)。
- Evaluative Priming Task ... 測定対象をプライムにして、posi/nega語のposi/nega判断をプライミング。
- Semantic Priming Task ... 測定対象をプライムにして、形容語の語彙判断や意味判断をプライミング。
- Affect Misattribution Task ... 測定対象をプライムにして、漢字の意味判断をプライミング。
- Go/No-go Association Task ... IATみたいな干渉課題だけど、課題がgo/no-goになっている奴。
- Extrinsic Affective Simon Task (EAST) ... これも干渉課題で、刺激は語。白字の語(posi/nega語)はposi/nega判断、色つきの語(測定対象)は色判断しなさいと教示する。本指標は測定対象語への反応時間。へえー。ID-EASTという変種もあって、そちらはすべての語を大文字/小文字で提示し、posi/nega語はposi/nega判断、そうでない語(測定対象)は大文字/小文字判断しなさいと教示し干渉させる由。理屈はわかるけど、そんなのうまく教示できるのかしらん。
- Approach-Avoidance Task ... 刺激の意味と筋運動を干渉させるパラダイム。レバー操作のような課題では、posi刺激への接近運動とnega刺激からの回避運動は促進される、というような話があって(すでに60年代からあるのだそうだ)、これを利用する。もっとも、筋運動そのものというより運動の意味付けが重要だといわれているのだそうで、たとえば"pull"運動とposi刺激、"push"運動とnega刺激は一致するが、同じ筋運動でもそれらを"move downward"と"move upward"と呼ぶと逆転するとのこと。変種として、Evaluative Movement Assessment (左右を使う)、Implicit Association Procedure(自己関連性を調べる)、などがある由。ふうん。Kinectと組み合わせると面白そうですね。
- Sorting Paired Features Task ... これも干渉課題だが、刺激1(測定対象)-刺激2(posi/nega語)を系列呈示したのちにキー押しさせる。4つのキーを2行2列に並べておいて、たとえば、上を白人、下を黒人、posiを右、negaを左、と決めておく。おおお、おもしれー。Bar-Anan et al. (2009, Experimental Psychology)というのが挙げられている。
- Implicit Relational Assessment Procedure ... 2つの刺激を同時提示し関係性を判断させる。正解はあらかじめ学習させておく。たとえば、デブと"good"が出てきたら"similar"キー、痩せている人と"bad"が出てきても"similar"キー、逆の組み合わせだったら"opposite"キー、なんて決めておくわけだ。信念と合わない正解は遅くなるという理屈。associationを調べているというより、命題的信念を調べている手法である由。提案したのはBarnes-Holmesたち。ネオ-スキナリアンっていうのだろうか。
- Action Interference Paradigm ... 幼児向けに開発されたパラダイム。「サンタさんがおうちにやってきました。ふたり子どもがいて、男の子はお人形が、女の子はミニカーがほしいそうです。さあ配んなさい」とかいってキー押しさせる。ステレオタイプに合わないと遅くなる由。これ、implicit task といえるのかしらん。よくよく調べてみたら、幼児は「おいおいおばさん、それって言い間違いじゃない? いいの配っちゃって?」などと気を使って、キー押しをためらってたりなんかして...
後半は潜在指標の性質についての議論。面白かったところをメモ:
- Perugini et al.(2010, Handbook of Implicit Soc. Cog.) はこう述べているのだそうだ。潜在指標が行動を予測する、そのパターンには5つある。(1)潜在指標のみが行動を予測する。(2)顕在指標と潜在指標が行動を加法的に予測する。(3)顕在指標がdeliberateな行動を、潜在指標がspontaneousな行動を予測する(二重分離)。(4)顕在指標と潜在指標が行動を加法的に予測するが、共通のモデレータが存在する。(5)顕在指標と潜在指標が行動を乗法的に予測する。どの結果も、いわゆる二重過程理論と整合してしまう。だから特定の行動を潜在指標でアプリオリに予測するのは難しい。なるほど。
- 潜在課題は社会的望ましさバイアスと無縁だと思われているが、以下の点に注意する必要がある。(1)うまく二重分離が示せたからといって、その分離が顕在課題での社会的望ましさバイアスのせいで生じているとは限らない。そりゃそうだな。(2)潜在課題だって回答方略の影響を受けうる。つまり、回答の偽装も可能である。(3)潜在課題をウソ発見器として使うのは無理。たとえば、child-sex 間連想を潜在課題で測ってペドフィリアを判別できたという報告があるが(ひょえー)、child-sex間連想はたとえば性的虐待の被害者においても生じるかもしれない。
- 潜在指標は自己報告とちがって文脈に影響されないと思われがちだが、全然そんなことない。この点の説明は大きく3つある。(1)どんな指標も、回答者の安定的な表象というより、その時点でアクセス可能な情報を反映しているから。(2)文脈によって反応が変わるのではなく、対象そのものが変わるから。つまり、バスケットコートにいるマイケル・ジョーダンと、落書きだらけの壁の前にいるマイケル・ジョーダンでは、そもそもカテゴリが違う。それぞれのカテゴリは安定的だが、ジョーダンのカテゴリ化は文脈に依存するわけだ。(3)この中間で、同じ対象であっても文脈によって異なる情報を活性化させる、という説明。(どれも似たように聞こえるけど...)
- 潜在指標で測ろうとしている心的属性は課題の結果に自動的に影響する、と一般に考えられている。だからといって、実験操作の影響が自動的であることを潜在指標でチェックします、という理屈はおかしい。なぜなら、(A)実験操作が心的属性に与える影響が自動的かどうかと、(B)心的属性が結果に与える影響が自動的かどうかとは、別の問題だからだ。たとえば、実験操作として外向的過去経験ないし内向的過去経験を想起させたのちに、IATで自己と内向-外向性との連想を測ったら、条件間で差が出た、としよう。自己表象が結果に与える影響は自動的かもしれないが(B)、過去経験の想起が自己表象にあたる影響が自動的だったかどうか(A)はわからない。
- 適切な刺激を呈示するやいなや、注目している心的連想関係がぼわーんと自動的に活性化し、課題はそれにぐりぐりと直接アクセスしているのだ... という見方は楽観的に過ぎる。課題遂行の過程はもっと複雑なのであって、複数のコンポーネントにわけた細かい数理モデルも提案されている由。たとえばConrey et al.(2005, JPSP)はquad-modelというのを提案していて、たとえば黒人/白人のIATで、(a)人種ステレオタイプに基づく連想が活性化する尤度, (b)正しい回答が得られる尤度, (c)(両方生じたときに) 連想が正解を上回る尤度, (d) (両方生じなかったときの)一般的反応バイアスの尤度、をデータから推定しているのだそうだ。こういうモデル化の例として、ほかにKlauer, et al.(2007, JPSP)、Payne(2008, Soc. Personality Psycho. Compass)というのが挙げられている。新しい手法の開発はもうええかげんにして、こういうメカニズム研究をやりましょうよ、というのが著者らの意見である。面白いなあ。たぶん読まないけど。
知らない話ばかりで、かなり憂鬱になったが、考えてみたらこの分野の論文を読むのは7~8年ぶりなので、新しい話は知らなくて当然、古い話は忘れてて当然である。勉強になった、と前向きに捉えよう。
論文:調査方法論 - 読了:Gawronski & De Houwer (in press) 潜在認知指標レビュー