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2013年4月20日 (土)

Ferjani, M., Jedidi, K., Jagpal, S. (2009) A conjoint approach for consumer- and firm-level brand valuation. Journal of Marketing Research. 46(6), 846-862.
 ちょっと関心があってめくった論文。大上段から話が始まるし、聞き慣れない経済学の用語が出てくるし、本筋を見失いそうになったが、要するにこういう話だ。(1)コンジョイント分析でブランド名と属性と価格の部分効用を推定する。(2)そこから消費者ベースのブランド価値を求める。(3)さらには企業ベース(収益ベース)でのブランド価値まで求めてしまう。

 序盤はわからないなりに丁寧に読んだので、メモをとっておくと...
 消費者 i が ブランド j の属性 m について感じる知覚価値を \tilde{x}_{ijm}, イメージ次元 k に対する連想の強さを z_{ijk} とする。ブランド j の価格を p_j とする。
 いま消費者 i が ブランド j を 1 個買おうかしらどうしようかしらと考えているとしよう。消費者の選好は準線形な効用関数で表され、消費者 i にとっての現状は単価 p^w_i, 購入個数 q_i の合成財の購入で表現できるとしよう (合成財とは、要するに「そのほか」を表す架空のブランドのことであろう。むやみに経済学の用語を使うのはやめてほしい... こっちは素人なんだから)。
 消費者 i の効用関数を U_i (n_{ij}, q_i) とする。n_{ij} は消費者 i がブランド j を選んだときに1, そうでないときに0になる変数。予算を w_i とする。で、すべての消費者が、予算を使い切って U_i (n_{ij}, q_i) を最大化する、と仮定する。つまり、q_i は「残りのお金で合成財があと何個買えるか」である。
 j を買う場合の間接効用 U_i (1, q_i) について次のように考える (間接効用というのは、どうやら価格と予算で条件づけた効用のことをいうらしい。もっと易しく書いてくださいよ... 経済学部の奴ってほんとにいやらしいなあ)。それは z_{ij1}...z_{ijK}と, \tilde{x}_{ij1}...\tilde{x}_{ijM}と、「残りのお金で合成財があと何個買えるか」と、切片と誤差の線形結合であると考える。めんどくさいから式は書かないけど、切片は (i,j) ごとに、zの係数は(i,k) ごとに、xの係数は(i,m)ごとに、「あと何個買えるか」の係数 b^p_i は i ごとに、それぞれ決まる。いっぽう、j を買わない場合の間接効用 U_i (0, q_i) は、「合成財を何個買えるか」と誤差の線形結合である。係数はさっきの b^p_i。

 さて、著者らはブランドの知覚価値やイメージ連想について消費者に訊くつもりはさらさらない。代わりに、ブランド属性の客観的なデータが手に入っている場合について考える。ブランド j の属性 m における客観的な値を x_{jm} とする。\tilde{x}_{ijm}は、客観的値 x_{jm}と、価格 p_j と、切片と誤差の線形結合で決まるものと考える。切片も係数もすべて(i,j,m)によって決まるものとする。
 これを U_i に代入して一本の式にすると、すごく長くて退屈な式になる。ところが... 著者いわく、要するにブランドの価値がわかればいいんだから、ある人があるブランドについてどういうイメージをもっているかなんてどうでもいいでしょう、と。だから z の効果はすべて、(i,j)によって決まる切片に放り込んでしまう。どんどん簡略化して、結局
U_i (n_{ij}, q_j) = \beta_{ij0} + \sum_{m} b^x_{ijm} x_{jm} - \beta^p_{ij} p_j + \epsilon_{ij}
と書ける(最初からそう書いてよ...)。著者曰く、これは属性からベネフィットへという一般的な情報処理方略を表し、ブランド・エクイティの多様な発生源を捉えたモデルである (壮大な言い回しだなあ...)。

 このモデルを、選択型コンジョイント課題での各試行の選択にあてはめる。対象者 i は試行ごとに、U_i (n_{ij}, q_i) が最大でありかつ U_i (0,q_i) よりも大きくなるような s を選ぶ (なかったら「どれも選ばない」を選ぶ) と考える。b^x_{ijm}と \beta^p_{ij}が部分効用になる。i の間で部分効用がMVNに従うと仮定しベイズ推定する。
 無事推定できたとして、消費者レベルのブランド価値は、そのブランドの WTP と、同じものが「ノーブランド」である場合のWTPとの差として推定できる。それはブランド自体の価値、その属性による価値、そのブランドの価格感受性、に分解できる。
 いっぽう、企業レベルのブランド価値は、そのブランド名を使った時の利益と、使わなかった時の利益の差である。利益の算出のためには、売上数量とシェアと単価と製造コストとマーケティング活動費があればよいが、利益の差を出すためにはさらに「ブランド名を使った時の売上数量」「ブランド名を使わなかった時の売上数量」が必要になる。それを認知率と配荷率から求めていくんだけど、力尽きたので飛ばし読み。「使わなかった時」の認知率と配荷率について、目標値を使う、PBの値を参考にする、ゲーム理論で求める、の3つの方法がある由。
 実例は、ヨーグルトのコンジョイント課題。属性はブランド名、フレーバー、価格。いくつかモデルをつくってベイズファクターを比較して、結局はブランドの効用(個人別)、ブランドとフレーバーの交互作用の効用(個人別)、価格(これは全体レベル) がはいったモデルを採用する。消費者レベルのブランド価値と企業レベルのブランド価値を求めておられるが、飛ばし読み。

 かなり幻惑されたが、冷静に考えると、(1)コンジョイント分析でブランドの効用を推定、(2)消費者ベースのブランド価値を求める、(3)企業ベースでのブランド価値を求める ... のうち、

というわけで、きっと(3)が新しいんだろうと思う。よく理解できないけど。
 しっかし、ブログでこういう正直な感想を書いて無知をさらすのって、どうなんでしょうね...

 正直いってだんだん関心を失ってしまったのだが(すいません)、読み始めたきっかけは、コンジョイント課題で「ノーブランド」というブランドをどうやって提示するんだろう、という変なところに興味があったからであった。著者らは、ダノンやヨープレットのような実在する主要ブランドと並べてSemsemという架空のブランド名をしれっと提示し、当たり障りのないコンセプト記述をつけている。名前からの推論が気になるんなら、複数の架空ブランド名を使えばいいんじゃないですか、とのことであった。なるほどね。とはいえ、著者らも最後にちょっと触れているけど、消費者調査での「ノーブランド」の提示の仕方って、なかなか難しい問題だと思う。
 消費者ベースのブランド・エクイティをコンジョイント分析やブラインド・テストのような消費者テスト・データから直接測る、というのは、私の仕事の関係でもかなり大事な話で、前職で学会発表をさせてもらったこともある。考えてみれば、ああいうデータはある程度大きな調査会社の人でないとアクセスできないし、いろいろな付加価値にもつながっていくんだから、そういう立場にある皆様はもっと頑張ればいいのに、と思うんだけど、まあどうでもいいや。Iyengar, Jedidi, Kohli (2008, JMR)がテレコム分野でそういう分析をしているそうだから、いずれ読んでみよう。

論文:マーケティング - 読了: Ferjani, Jedidi & Jagpal (2009) 消費者ベースのブランド価値はおろか、企業収益上のブランド価値まで、コンジョイント分析一発で調べてみせましょう

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