« 読了: 「アート・オブ・Rプログラミング」 | メイン | 読了: Hahsler et al. (2005) arulesパッケージ »
2013年6月15日 (土)
Popper, R., Rosenstock, W., Schraidt, M., Kroll, B.J. (2004) The effect of attribute questions on overall liking ratings. Food Quality and Preference, 15, 853-858.
別にいま読む必要はないんだけど、ちょっとした空き時間に、未読の山のなかから適当に抜き出して読んだ論文。著者はシカゴのPeryam&Krollという調査会社の人とクラフト・フーズの人。調査会社の名前をwebで調べたら、前の勤務先でguruと呼ばれていた偉い人たちがそっくりここに転職していた。なんだかなあ、もう。
食品の消費者テストでは、テスト製品についての全体的な好き嫌いを聴取するほかに、あれこれと属性評価を尋ねることが多いが (「歯ごたえはどうですか」とかなんとか)、当然ながらそのせいで、全体好意度の回答はバイアスを受ける可能性がある。全体好意度を先に聴いたとしても、複数製品について聴取したら、2製品目からはやはりバイアスを受けるかもしれない。どんだけバイアスを受けるかを属性評価の項目形式別に調べました。という実験研究。いやあ、久々にこういうシンプルな論文を読むと、楽しいなあ。胸に一陣の風が吹き抜けるようだ。
調査項目として以下を用意する。
- 全体好意度。好き-嫌いの9件法。
- 属性好意度。外見、香り、consistency(なんて訳せばいいんだろう)の3項目について、好き-嫌いの9件法。
- 属性強弱度。甘さとか香りとかの9項目について、強い-弱いの9件法。
- 属性のJAR(just-about-right)評価。強弱度と同じ9項目について、強すぎる-ちょうどよい-弱すぎるの5件法。
実験はお菓子4製品の会場調査。対象者に4製品を提示し(順序はカウンターバランス)、調査票に答えてもらう。対象者832名を5群に分ける。各群の調査票は、
- 全体好意度しか聴かない。
- 全体好意度→属性好意度の順に聴取。
- 全体好意度→属性強弱度の順に聴取。
- 全体好意度→属性JARの順に聴取。
- 全体好意度→属性好意度→属性JARの順に聴取。
分析するのは全体好意度。製品(被験者内4水準) x 調査票(被験者間5水準)の2要因計画である。多重比較をいまどきDuncan法でやっている... よく査読を通ったものだ。
結果は... 製品と調査票に交互作用がある、でも最初に提示した製品に絞ると交互作用が消える。つまり、2回目以降に提示した製品では、調査票によって全体好意度の製品間差が変わる。綺麗な結果が出てよかったですね。
製品別にみると、全体好意度しか聞かない条件(1)では全体好意度が首位であった製品が、属性の強弱度も聴く条件(3)でも首位のままなのに、属性をJARで聴取する条件(4,5)では3位に転落してしまう。属性について尋ねたことそれ自体より、その尋ね方が、その後の全体好意度評価に影響するわけだ。著者いわく、JAR設問は対象者に「なぜ自分はこの製品が好き/嫌いなのか」と考えさせてしまうのではないか、とのこと(と、ここで著者はWilson&SchoolerのJPSPの論文を引き合いに出す。そうきたか、プロだなあ)。
フガフガと楽しく読み終えた。もっとも、所詮はワンショットの実験研究だし、項目内容と製品によって話がちがってくるだろうから、あんまり知見を一般化しちゃうのもどうかと思う。未読だけど、JAR項目の聴取はそのあとの全体好意度聴取に影響しないという報告もあるようだし (Gacula, et al., 2008, J. Sensory Stud.)。
これ、きっとあれですね、製品開発のためにありふれた消費者テストを実施する際に、今回は予算が取れて、サンプルサイズも大きいし、なんか面白いことできませんかね... とメーカーの調査部と調査会社が語らって、ちょっとした仕掛けを仕込んでおいた、という研究であろう。こういうことができる現場は風通しがよさそうだ。
論文:調査方法論 - 読了: Popper, et al. (2004) あれこれ尋ねると好き嫌いは変わるか