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2013年7月 1日 (月)
Arce-Ferrer, A. (2006) An investigation into the factors influencing extreme-response style. Educatonial and Psychological Measurement, 66, 374-392.
質問紙調査における回答スタイルについての実験研究。問題意識は文化差にあるようだが、研究自体は国際比較ではない。先日用事があって回答スタイルの論文を読みまくった際、途中までめくって放置していた。気持ち悪いので読み直した。
X件法尺度項目において項目内容と無関係に両端につけてしまう傾向(extreme response style, ERS)の文化差に注目。先行研究はいっぱいあるけど、著者いわく、それらには3つの問題点がある。
- ERSの測定が、研究者が勝手に聴取した調査項目への回答の二次分析によってなされている事が多い。「ERSを測るための尺度」を使え。
- そもそも項目が翻訳されている段階で等価でない。
- なぜある文化においてERSが高いのか、という説明が足りない。
というわけで、次のような調査票をつくる。
- Greenleaf(1992, POQ)のERS尺度(16項目)。2バージョンつくる。
- one-stage version。オリジナル(6件法)とは異なり、両端に"totally agree", "totally disagree"と書いてある目盛のない直線上に、自分の態度の位置をマークさせる。
- two-stage version。項目ごとに次の2つを聴く。(1)agreeかdisagreeか。(2)それはどのくらいの強さか。両端に"totally agree", "totally disagree"と書いてある目盛のない直線を、中心でちょっと折り曲げてV字型にしたような図形をみせて、その上にマークさせる。なんでこんな変なことを思いついたんだろうか。
- "totally agree"- "totally disagree"の直線上に5個の点を打っておき、そこのラベルを自由記述。評定カテゴリの主観的な位置を調べることができるという趣旨である。ほんまかいな。Smith, et al., 2003(Edu.Psy.Measurement)の手法である由。
調査対象者はメキシコの都市部と農村部の高校生。農村の高校生は調査に慣れていない由。要因は地域(都市/農村)とバージョン、ともに被験者間要因である。
直線の両端あたりにマークした回答をextreme responseと定義し、その割合をERS傾向とする。自由記述は、学生さんが必死に作業し、"moderately agree", "slightly agree", "neither agree nor disagree", "slightly disagree", "moderately disagree"の5カテゴリに分類する。対象者が書いたラベルが上記5カテゴリにぴったり一致したら5点、全然ずれてたら0点になる。
で、結果は:
- 農村部のほうがERS傾向が高い。バージョン間の差や、地域とバージョンの交互作用はない。(この知見の意義がわからず困惑したのだが、Albaum & Murphy (1988, Psych. Report)への反証になっているのだそうだ)
- 16項目に対する回答行列をMDSにかけて項目を3分類する。各クラスタの項目は、acceptanceとsuccess(「大学教育は現代社会での成功においてとても大事だ」とか)、face threatening sounds(「広告は私の知性を侮辱している」)、face building sounds(「わたしはたいていいつでもよく働いている」)をあらわしている由。で、ERSはひとつめのクラスタで特に高く、かつどのクラスタでも農村部で高かった由。(話の先が読めない... 著者は読み手をどこに連れて行こうとしているのか...)
- 自由記述の採点が高いと(つまり、直線に対する回答者の主観的カテゴリが分析者が想定しているカテゴリに近いと)、ERSは低くなる。
考察: スペイン語圏でERSが高いといわれているが、それは集団主義的な文化のせいでコミュニケーションの文脈依存性が高いからではないか、だからface threatening sounds, face building soundsクラスタの項目では対象者はノンバーバルな手掛かりをふくめた文脈再現を行う必要があったのではないか。(そのせいでERSが低めだった、という理屈だろうか? よくわからない)
一字一句きちんと読んだわけではないので、あまり大声で言うことじゃないと思うけど、ぜ・ん・ぜ・ん納得できない論文であった。この実験からわかることは、要するに、調査慣れしてない人は両端につけやすいみたいね、ということに尽きるのではないか。なんでスペイン語圏のERSの高さの話や、集団主義的/個人主義的文化とか文脈依存性とかの話につなげることができるのか、さっぱり理解できない。
既存の回答スタイル尺度を事後的に分析し、項目内容と回答スタイルの関係について考察するロジックもよくわからない。そもそもERSはその定義からいって「項目内容と無関係に極端な反応をするスタイル」のことではないのか。
調べてみると、著者は現 Pearson Education におつとめの測定の専門家らしいから、何か私の側に問題があるのかもしれないけど... まあどうでもいいや、次にいこう、次に!
論文:調査方法論 - 読了: Arce-Ferrer (2006) メキシコの調査回答スタイルの地域差