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2013年7月24日 (水)
幸せを科学する―心理学からわかったこと
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大石 繁宏 / 新曜社 / 2009-06
著者は幸福についての研究で有名な心理学者 (PSPBの副編集長だそうだ)。どうやら、まだ若い方らしいのだが...。なんで今頃になって心理学の本読んでんのかわかんないけど、諸般の事情のせいで、大慌てでメモを取りながら読んだ。
前半は心理学分野の幸福感研究の概観といったところ。いくつかメモ:
- アメリカ文化では自分自身の選択が重要視され、アメリカ人は選択を通じて自分の独自性を確認することを好むといわれているが(MarkusとかIyengar & Lepperとか)、それは社会階層とも関係があって、労働者階級ではそうでもない、という報告もある由(Snibbe & Murkus, 2005, JPSP)。へー。
- 著者の研究(2002, PSPB)によれば、7日間毎日「今日の満足度」を評定させた後で、8日目に「過去一週間の満足度」を評定させると、アジア系では前者と後者はおなじだが、欧州系アメリカ人では後者のほうが全然高くなる由。全く、なんて人たちだ。
- 主観的幸福度研究に対するアンチテーゼとして、 まずRyffという人 (さっき読んだ論文で eudimoniac well-beingと呼ばれていたアプローチだ)、それからDeci らの自己決定理論の立場があるんだそうだ。(デシってまだ生きているんだ...)
- 幸福感の心理学尺度で一番使われているのは DienerらのSWLSである由。著者はそのお弟子さん筋にあたるらしい。日本での信頼性・妥当性研究もやっておられる由。SEMやIRTを使って。(やってんじゃん!!)
- 人生の満足度評価には検査再検査信頼性がないという批判も強いそうだが、著者は結構強気。妥当性もいちおうある由。回顧的自己報告に対するカーネマン流の批判は、この分野ではどうやら左派という感じらしい。
- 幸福度評定の認知過程についての実験研究もたくさんあるのだそうだ。へええ。紹介されていたのは、幸福度評定を事前課題でプライムするタイプの研究(長期記憶のアクセサビリティで説明する)。評定の速度の研究。カーネマンのピーク・エンドの話とそれへの批判。満足度の評定のプロセスは性格特性からのトップダウンか、経験からのボトムアップか (この話、めちゃくちゃ面白い... 顧客満足の問題と密接な関係があるのではなかろうか。Shimmackという人の論文を探せばいいらしい)。
後半は幸福感の規定因の話。
- 幸福感に対する具体的な出来事の影響はたいてい短期間にとどまる。極端な悲劇を別にすれば、大きな出来事でもせいぜい三か月、スポーツの試合に負けたくらいなら数日で元通り。
- 結婚生活への満足度と人生全般の満足度との関係についてはメタ分析があって(Heller, et al., 2004, PB), 潜在相関は0.51, 健康や仕事より高い。うーむ、これはさもありなんという気がする... 子どもの有無や数と結婚満足との関係についてのメタ分析もある由 (Twenge, et al., 2003, J. Marriage and Family)。いやはや、恐ろしい分野だ。
- 「感謝」概念をプライムすると、直後の人生の満足度評定の値が高くなるそうだ。過酷な労働現場の壁に「あらゆる人々に感謝せよ」というような張り紙が貼ってあるのを、つい思い浮かべてしまった。
- 幸福感の規定因じゃなくて、幸福感が影響を与える変数についての研究もあって、若いころの幸福感が寿命に与える影響を調べた研究もあるのだそうだ。さあ、いったいどうやって調べたのか? 修道女になる人は自伝を書くのだそうで、その中に出てくるポジティブな言葉の数と、その修道女の死亡年齢との関係を調べた由。あったまいいなあああ。Danner et al. (2001, JPSP)という研究だそうだ。
いやー、面白かった。大変勉強になりました。
ついつい、自分の仕事に引きつけて考えてしまうのだけれど。。。知能の研究では、知能そのものじゃなくて知能の素朴概念、つまり「世間の人々が知能についてどう考えているか」を調べるという分野があるけれど、幸福の素朴概念についての研究はないのだろうか。応用領域がすごく広いと思うのだが。
心理・教育 - 読了:「幸せを科学する」