elsur.jpn.org >

« 2013年8月 | メイン | 2013年11月 »

2013年9月24日 (火)

こうしてみると、ここんところ妙に戯曲ばかり読んでいる。なぜだろう。

Bookcover こんにちは、母さん [a]
永井 愛 / 白水社 / 2001-03
古本屋で購入し、帰宅して本棚を見たらすでに購入済みであった。道理で、親しみが持てる表紙だと思った。
 2001年初演の作品。老いらくの恋を軸にした家庭劇。一読して感嘆... これまでに読んだ永井愛作品のなかでも、「歌わせたい男たち」「兄帰る」「かたりの椅子」に並ぶ傑作だと思う。なんでこんなに秀作を量産できるのかしらん。

Bookcover ジャン・アヌイ (1) ひばり (ハヤカワ演劇文庫 (11)) [a]
ジャン・アヌイ / 早川書房 / 2007-09-21
ジャンヌ・ダルクの物語。時間と空間が奔放に入れ替わる現代的な戯曲であった。巧い巧い。巧すぎて嫌味なくらい。
 結末、ルーアンでジャンヌが火刑にかけられる寸前に舞台の上の全員が思い直し、ランスでのシャルル7世の戴冠式の場面に戻ってしまう。

シャルル「この男のいうことは正しい。ジャンヌの物語の、ほんとうの結末は、終わりのない結末。ぼくらの名前こそ忘れられ、混同されようとも、人々が繰り返し語り継ぐ結末、それは、ルーアンで追い詰められた、みじめな獣の境遇のなかにはない。それは、大空にあがるひばり、栄光に包まれた、ランスのジャンヌ...。ジャンヌの物語のほんとうの結末は、喜びにあふれている。ジャンヌ・ダルク、それはハッピー・エンドの物語だ!」

 なるほどなあ... 歴史に向き合うというのはとても難しいことなのだ。

Bookcover シェイクスピア全集 (10) ヴェニスの商人 (ちくま文庫) [a]
W. シェイクスピア / 筑摩書房 / 2002-04
つい松岡訳の文庫を買って読んでしまった(小田島訳が本棚にあるのに...)。ものすごーく不愉快な話。シェイクスピアをちびちび読んでいると、こういうことが時々ある(「十二夜」とか、「終わりよければすべてよし」とか)。おそらく、時代のちがいから生じるギャップが、運よく面白く感じられることもあれば、運悪く自分の深いところにあるコードに抵触して耐えがたく感じることもあるのだろう。

 この戯曲のどこが不愉快といって、登場人物がみな人を誑かす性根卑しき奴らばかりであり、しかし自分ではそうは思っていないというところだ。だいたいバサーニオってただの口先だけの遊び人ではありませんか。ポーシャは眉根ひとつ動かさず人を騙す嘘つき女だし、シャイロックの娘は軽薄で、その恋人はせっかくの財産を食い潰すに決まっている。唯一共感できるのは、あまりに正直すぎあまりに法を信じすぎたシャイロックだけだが、彼は腐敗したキリスト教徒どもの癒着と差別によって虫けらのように踏みつぶされるのである。まっことに許し難い。破産しろアントーニオ。地獄に落ちろ貴族ども。立てよ飢えたるヴェネチア人民よ! いまぞ日は近くないけどな、まだ中世だから!

Bookcover 井上ひさし全芝居〈その6〉 [a]
井上 ひさし / 新潮社 / 2010-06
傑作「父と暮らせば」「紙屋町さくらホテル」、評伝劇「太鼓たたいて笛吹いて」「兄おとうと」「貧乏物語」、それから「黙阿弥オペラ」「連鎖街のひとびと」「化粧二題」を収録。
 渡辺美佐子のロングランで有名になった「化粧」は、もともと一幕だったものを単独上演用に二幕に書き直したものであった。たまたま高校生の頃に一幕のほうを読んでいたので、あとで二幕劇のほうを読んで、これはこれで素晴らしいけど、原型のほうがもっと鋭くて衝撃的だったのに、と思ったのを覚えている。
 この全集ではじめて知ったのだが、井上さんにも反省があって、2000年に当初の一幕劇に戻し、さらに別の物語を付け加えた改作を発表していたのだそうだ。この全集に収録されているのはそのバージョン。

 酒やお茶をはさんで誰かとゆっくり話していて、その人の過去に話題が及んだ際に、話がある深さに触れた瞬間、その人の口調がどこかしら説話的なニュアンス、唄いあげるようなニュアンスを帯びることがあるように思う。これはその人の性格を問わないし、面白いことに、話し手の年齢とも関係がない。誰であれ、なにかしら自分の人生についての物語のようなものを持っている、ということではないかと思う。もちろん、こちらが勝手にそのような幻影をあてはめているだけかもしれないけれど。
 というわけで、他人と話していて不意にその人の昔話になったときは、ほんの少し身構える、というか、息を詰めるような気分になる。そんなときに思い出すのが、「化粧」一幕のラストで、女座長が不意に口調を変えるくだりだ。全集ではこうなっている。

(ハッとなり、辛うじて持ちこたえ) 敏ちゃん、塩まいとくれ。みんな、お客様がお帰りだよ。表までお送りしてちょうだい。(視線の移動でテレビ局員の去るのを示しつつ) ... 物を捨てるのならともかく、自分のお腹を痛めた可愛い子どもを捨てるんだ。その母親にもそれなりの覚悟があってそうしたんでしょうよ。覚悟の上で捨てた子どもが出世したからってノコノコ御対面とやらに出かけてゆく母親なんているものか。どのつらさげておめおめと... (突然、作り話) あたしの息子はね。北海道の岩見沢に預けてあったんです。高校を出て、岩見沢駅につとめ... 事故で死にました。駆けつけたあたしを見て、「人生ってこうしたものなんだね、かあさん」と淋しく笑って死にました。そのとき病院の窓の外を走って消えた流れ星...

フィクション - 読了:「ひばり」「こんにちは、母さん」「井上ひさし全芝居 6」「ヴェニスの商人」

Bookcover フルシチョフ秘密報告「スターリン批判」 (講談社学術文庫 204) [a]
フルシチョフ / 講談社 / 1977-12
古本屋で購入。フルシチョフのスターリン批判演説の全訳。すごーく長い演説だったと聞いたことがあるんだけど、確かにこれ朗読したら、結構な時間がかかるだろう。

Bookcover 西太后―大清帝国最後の光芒 (中公新書) [a]
加藤 徹 / 中央公論新社 / 2005-09
昔の中国映画の「西太后」では(レオン・カーフェイが出てましたね)、ライバルの手足を切って甕にいれて飼うという場面が出てきたのだけれど、あれはもちろんフィクションだそうです。よかったよかった。
→いまふと調べたら、この本、2005年に読んでいるではないか。「面白かった」なんてメモしているぞ。確かに、ちょっと既読感があったのだけれど... 砂漠に水を撒くようなものだなあ。

Bookcover 『平家物語』の再誕―創られた国民叙事詩 (NHKブックス No.1206) [a]
大津 雄一 / NHK出版 / 2013-07-26

Bookcover 戦士ジャンヌ・ダルクの炎上と復活 [a]
竹下 節子 / 白水社 / 2013-06-15
ジャンヌ・ダルクについての言説の歴史について語る内容。アヌイの「ひばり」があまりに面白かったので、勢い余って読んでしまった。

Bookcover 藤原道長の日常生活 (講談社現代新書) [a]
倉本 一宏 / 講談社 / 2013-03-15

Bookcover 生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書) [a]
今野晴貴 / 筑摩書房 / 2013-07-10

ノンフィクション(2011-) - 読了:「生活保護」「ルポ・虐待」「戦士ジャンヌ・ダルクの炎上と復活」「『平家物語』の再誕」「西太后」「フルシチョフ秘密報告『スターリン批判』全訳解説」

Bookcover ラブやん(19) (アフタヌーンKC) [a]
田丸 浩史 / 講談社 / 2013-09-20
このマンガが19巻まで続くとは...。連載初期の異常な言語感覚はなりを潜めてしまっているのだけれど、うまいこと安定飛行するポイントのようなものを、どこかで手に入れたのだろうと思う。実際、読むとほっとするもんね、主人公のニート青年がまだ働いてないので。

Bookcover リューシカ・リューシカ (7) (ガンガンコミックスONLINE) [a]
安倍 吉俊 / スクウェア・エニックス / 2013-09-21

Bookcover オールラウンダー廻(12) (イブニングKC) [a]
遠藤 浩輝 / 講談社 / 2013-09-20
この巻では、登場人物たちがそろって東北ボランティアツアーに参加するのだが、旅館での夜の乱痴気騒ぎとセクシャルなギャグが執拗に描かれる。この辺、バランスをとるためだろうか、それとも一種の照れのようなものだろうか。

Bookcover イノサン 1 (ヤングジャンプコミックス) [a]
坂本 眞一 / 集英社 / 2013-06-19
Bookcover イノサン 2 (ヤングジャンプコミックス) [a]
坂本 眞一 / 集英社 / 2013-09-19
フランス革命前後を舞台にした歴史マンガ。のちの公娼デュ・バリー夫人が、このマンガでは修道院の田舎くさいメガネ娘として描かれている。それでふと気になったのだけれど、日常使いのメガネってのはいつごろから普及したんだろうか。

Bookcover 補助隊モズクス 2 (ビームコミックス) [a]
高田築 / エンターブレイン / 2013-09-14
スプラッタ・サスペンス。1巻と変わらず、不思議に面白い。なぜ面白いのか、いまいち整理できないのだけど...

Bookcover 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!(3) (ガンガンコミックスONLINE) [a]
谷川 ニコ / スクウェア・エニックス / 2012-12-22
Bookcover 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! (4) (ガンガンコミックスONLINE) [a]
谷川 ニコ / スクウェア・エニックス / 2013-06-22
最近読んだマンガのなかでは一番の大当たり。ラノベ風の長い題名だが、端的にいってしまえば、対人恐怖症の女の子の話である。

コミックス(2011-) - 読了:「ラブやん」「リューシカ・リューシカ」「オールラウンダー廻」「イノサン」「補助隊モズクス」「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」

Bookcover 富士山さんは思春期(2) (アクションコミックス) [a]
オジロ マコト / 双葉社 / 2013-08-28
中学生のうぶな初恋を、丁寧な日常描写のなかで描く。面白いマンガだけど、寝転がって読んでいると、いい年のおっさんがこんなマンガ読んでにやけていていいのだろうか、と思っちゃいますね、ちょっと。

Bookcover 亜人(1) (アフタヌーンKC) [a]
桜井 画門 / 講談社 / 2013-03-07
Bookcover 亜人(2) (アフタヌーンKC) [a]
桜井 画門 / 講談社 / 2013-06-07

Bookcover 甘々と稲妻(1) (アフタヌーンKC) [a]
雨隠 ギド / 講談社 / 2013-09-06
妻を亡くして幼い子どもと二人暮らしの高校教師と、その教え子の女子高生との交流を描く料理マンガ。ベタベタな設定でためらったのだけど、案外面白い。教師と女子高生のあいだにちょっと距離感があるのが面白いのかもしれない。あんまり大っぴらに話していると周囲に誤解されるというので、開いた窓越しに背中合わせで話す場面、風情があって良い。

Bookcover 予告犯 3 (ヤングジャンプコミックス) [a]
筒井 哲也 / 集英社 / 2013-09-10
犯人視点の犯罪サスペンス。やはりこういう、いかにも日本的な、湿った結末になってしまうのだなあ...

Bookcover 土星マンション 1 (IKKI COMIX) [a]
岩岡 ヒサエ / 小学館 / 2006-10-30
かなり前に評判になった作品。なるほど、面白い。

コミックス(2011-) - 読了:「土星マンション」「予告犯」「甘々と稲妻」「亜人」「富士山さんは思春期」

たいしたこともしていないのに、なぜこんなに忙しいような気がするのか... そのわりに、なぜこんなにマンガばかり読んでいるのか...

Bookcover I【アイ】 3 (IKKI COMIX) [a]
いがらし みきお / 小学館 / 2013-08-30

Bookcover mon*mon (Fx COMICS) [a]
シモダアサミ / 太田出版 / 2013-08-07
都市部のアラサーの生活を描いたオムニバス作品、登場人物がやたらにセックスばかりするので不思議に思いながら読んでいたら、マンガ・エロティクスFでの連載作品であった。まあその点を別にしたら、いかにもありそうなマンガで... うーむ、こういうの、どうなんだろう。ニーズがあるということなのだろうか。

Bookcover 機械仕掛けの愛 1 (ビッグ コミックス) [a]
業田 良家 / 小学館 / 2012-07-30
Bookcover 機械仕掛けの愛 2 (ビッグコミックス) [a]
業田 良家 / 小学館 / 2013-07-30

Bookcover エバタのロック 1 (ビッグコミックス) [a]
室井 大資 / 小学館 / 2013-01-30

Bookcover ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~4 (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) [a]
宮崎 克(原作):吉本浩二(漫画) / 秋田書店 / 2013-09-06

Bookcover 不器用な匠ちゃん 3 (フラッパーコミックス) [a]
須河 篤志 / メディアファクトリー / 2013-08-23
帯にうたわれているとおり、「読むと趣味友が欲しくなる社会人青春ストーリー」。意外に面白い。著者は平凡な女性を平凡なまま可愛らしく描くのがとてもうまい人で、これはマンガの徳のひとつだと思う。

コミックス(2011-) - 読了:「アイ」「mon*mon」「機械仕掛けの愛」「エバタのロック」「ブラック・ジャック創作秘話」「不器用な匠ちゃん」

« 2013年8月 | メイン | 2013年11月 »

rebuilt: 2020年11月16日 22:43
validate this page