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2014年5月 3日 (土)
Kuncel, N.R., Borneman, M., & Kiger, T. (2012) Innovative item response process and Bayesian faking detection methods: More questions than answers. in Ziegler, M., Maccann, C., & Roberts, R.D. (eds.) "New prospectives on faking in personality assessment", Oxford University Press.
時間がないので、やけになって論文集ごと買ってしまった(資料費が原稿料を上回りそうだ...)。社会心理系の調査法研究者からみたベイジアン自白剤の位置づけを知りたくて買ったのだけど、短い章であった。まあ、他の章も面白そうだし、いつか役に立つかもしれないし。
いくつかメモ:
- 回答は対人相互作用だ。対人相互作用における目標には13種類あるという研究があるそうだが(Fitzsimons & Bargh, 2003, JPSP. "Thinking of you"っていう気の利いたタイトルの論文だ)、単一項目への回答における対人的目標としては次の3つが挙げられるのではないか: impresive, credible, true to the self.
- 従来、フェイキング(意図的虚偽回答)の代理指標として、社会的望ましさ尺度 (社会的に望ましい回答をする傾向を測る尺度) やunlikely virtue 項目 (いわゆる「ライ・スケール」のことだろう) が用いられてきた。これらは、虚偽回答するように指示された被験者を見つける実験ではうまく機能するんだけど、通常の調査を補正する役には立たない。フェイキング検出研究はいま変革の時にある。フェイキングという概念そのものも洗練され複雑化している。
- Paulhus et al.(2003, JPSP)は地名・人名などの再認課題におけるaccuracyでself-enhancementを測るという方法を提案している。でもこの指標、確かにナルシシズムと関連してるんだけど(←へー)、認知能力とも正の相関があるので、たとえば採用試験でこの指標が高い奴を落とすとアホばかり残るという悲劇になりかねない。虚再認率を使うという手もあるが、虚再認がほんとにdeceptionかどうかはわからない。たとえば"cholarine"は実在しない名称だが、これを「知ってます」と答える人は、虚偽回答しているのかもしれないし、"chlorine"(塩素)のことだと思ったのかもしれない。(←そりゃそうだ。だいたい人々の生活世界は多様なんだから、一般的知識の記憶課題を調査の虚偽回答検出に使われちゃったら、マイノリティが損をするんじゃないかしらん)
- ベイジアン自白剤の紹介。有望だが、本来関心のない項目(他者回答の予測)を入れなきゃならないのが欠点。今後の課題として、
- 実際の人事採用システムで使えるか。
- 専門家がコーチすれば勝てたりしないか。(←怖いなあ... リクルート発行「ベイジアン自白剤完全対策ガイド2014年版」なんてね)
- 被験者の母集団に対する準拠枠の影響は? (←そうそう... 準拠枠に異質性があるとベイジアン自白剤の前提は崩れるはずだ)
- これって単なるbogus pipeline効果で、被験者が教示にびびっているだけではないか? (←そうそうそう!! やっぱりそう思いますよね!)
- 著者らのアイデア(Kuncel & Tellegen, 2009, Personel Psych.): 人事採用の際のパーソナリティ自己評価で、"complex"とか"daring"といった項目は、高い回答を望まれているのか低い回答を望まれているのかわからない。こういうとき、フェイキングしている回答者は、どっちかに賭けるか、ないし中立的に答えるだろう。というわけで、こういう項目に対して9件法評定で1,5,9を回答した回数を数えて、それが高い人を探す。フェイキングするように教示されている人を20~37%検出し、誤検出は1%程度であった。これから基準関連妥当性を検討したい(そ、そうですか...)。
- 重回帰とか決定木とかで、外的基準を項目群で予測し、そのモデルによって項目に重みづけすることを keying methodsという(へー)。この路線で、フェイキングしている人を検出するための重みをつくるというアイデアもある。
論文:予測市場 - 読了:Kuncel., Borneman, & Kiger (2012) 意図的虚偽回答の検出 feat. ベイジアン自白剤