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2014年8月11日 (月)
Verworn, B., Herstatt, C., Nagahira, A. (2008) The fuzzy front end of Japanese new product development projects: Impact on success and differences between incremental and radical projects. R&D Management, 38(1), 1-19.
前に調べものをしたときに見つけて積読の山のなかに入れていた奴。別にいま読まんでもいいのだが、整理がつかないのでざざーっと目を通した。著者らについても雑誌についても全く見当がつかないが、google scholarさんによれば引用件数131件。第三著者は東北大教授の長平彰夫さんという方だそうです。
新製品開発の初期段階のことをfuzzy front endっていうけど (Smith & Reinertsen, "Developing Products in Half the Time", 1991 というのが初出らしい。翻訳はなさそうだ)、日本企業の新製品開発におけるFFEの影響を定量的に調べました、という研究。
背景のお話は3つ。(1)新製品開発においてFFEが重要だという研究は山ほどあるが、それらの多くは理論研究か探索的研究である。(2)ふつうの漸進的な新製品開発のfuzzy front endと、ほんとにイノベーティブな新製品開発のそれとがどう違うか、という点が問題になっている。(3)日本企業はドイツの企業と比べ、fuzzy front end における不確実性を減少させるためによりフォーマルなアプローチをとっている、という指摘がある。
えーっと、まず先行研究に基づき概念モデルをつくる。これがどのくらい説得力のあるモデルなのか、私には皆目わからないんだけど、とにかくこういうモデルである。
FFEについて3つの因子を考える。(1)市場の不確実性の減少。つまり、顧客のニーズ・ウォンツや価格感受性を理解すること、また市場の魅力を理解すること。(2)技術的な不確実性の減少。(3)計画立案におけるインテンシブな議論。
いっぽう、新製品開発の成功についての2つの因子を考える。(4)効率性。つまり、FFEにおいて計画されていた財務的・人材的資源が、実際に必要となった資源と一致していた程度。(5)有効性。つまり、利益目標に到達した、顧客満足を得た、競争優位性を得た、といったアウトカム。
で、モデルは:
- 市場の不確実性が減ると、新製品開発の効率性が上がるし(H1)、有効性も直接に上がる(H2)。
- 技術的な不確実性が減ると、新製品開発の効率性が上がるし(H3)、有効性も直接に上がる(H4)。
- 計画のintensityが高いと、市場の不確実性が減り(H6), 技術的な不確実性も減る(H7)。また、新製品開発の効率性も直接に上がる(H5)。
- 効率性が上がれば有効性が上がる (H8)。
新製品開発を漸進的な奴とラディカルな奴に分ける。ここでは、コスト削減、リポジショニング、製品改善を前者、全くの新製品の場合を後者とし、ライン拡張は除外する。
- FFE段階が終わるとき、市場の不確実性はラディカルな新製品開発で高く(H9)、技術的不確実性もラディカルな新製品開発で高い(H10)。でも計画のintensityは変わらない(H11)。
実証研究。要するに質問紙調査である。
日本の製造業のR&Dディレクターに対する郵送調査、497票を分析。各因子につき数個の項目を7件法で聴取している。
で、AmosでSEMのモデルを組む。あれれ、効率性って2項目しか指標がないけど、大丈夫なのかなあ(説明を見落としているかもしれない)。因子間パスがH1~H8に対応しているわけだが、H1以外は全部支持。H1が支持されなかったのは(市場理解が新製品開発の効率性を上げなかったのは)、回答者の多くが産業材メーカーで、新製品開発が顧客との協同で進められているからだろう、とのこと。
次に、ケースを漸進的新製品開発とラディカルな新製品開発に分け、群間で各項目を比較。t 検定をひたすら繰り返す。えええ、多群分析するんじゃないの? それに多重比較法も使わないの? と面食らったけど、このへんは分野によってカルチャーも違うんでしょうね。ちゃんと読んでないけど、H9はある程度支持、H10は不支持、H11は支持、とのこと。H10に関しては、ラディカルな新製品開発のほうが出発時点では技術的不確実性が高いんだけど、FFEを通じて減るんじゃないか、云々。
まとめとしては... FFEは新製品開発の成功の一定部分を説明する。漸進的新製品開発もラディカルな新製品開発も、FEEはそんなに変わらないんじゃないか。云々。
全くのど素人なので、ちゃんと理解できているかどうかわからないのだけど、フガフガと楽しく読了。世の中にはこういう研究をしている方々がいらっしゃるんですね、勉強になりましたです。
それにしても、「新製品開発」というのがどこまで等質的なカテゴリなのか、だんだんわかんなくなってきた。著者らも最後に触れているけど、なんてったって産業財と消費財では、メーカーの市場理解も開発プロセスも違うだろう、という気がするわけで...。
本筋とは全然関係ないけど、非回答バイアスは大きくないですという主張のために、郵送回収が早かった票と遅かった票を比べて違いがないことを示している。うむむ。昔そういう考え方があったと聞いてはいたが、実物を見るのははじめてだ。Armstrong & Overton (1977, JMR)が挙げられている。
論文:マーケティング - 読了: Verworn, Herstatt, Nagahira (2008) 新製品開発の初期段階とその後の成功との関係