« 読了:「ソクラテス」 | メイン | 読了: Warton & Hui (2011) 逆正弦変換はせーへんように (←いまいち) »
2015年1月19日 (月)
Zhao, M., Hoeffler S., & Dahl, D.W. (2012) Imagination difficulty and new product evaluation. Journal of Product Innovation Management. 29, 76-90.
身体化認知の原稿の都合で読んだ奴。
仮説に至るロジックが入り組んでいてわかりにくかったのだが(私の知識不足のせいか、眠気のせいであろう)、要するに以下の仮説を検証する。
H1. 本当に新しい製品(RNP)の消費者評価はイメージ化が困難なときに下がるが、インクリメンタルな新製品(INP)の評価では影響しない。
H2. RNPにおけるイメージ困難性の効果は、関与が高いときにより大きくなる。
実験1. 学生83人。(1)架空の製品の広告を見せる。その製品は実は{Thinkpad(INP条件), Sonyが開発中であったAudioPCという初代Kindleのデカいのみたいな奴(RNP条件)}。(2)製品について想像するように教示。手がかりとして使用場面のリストを渡す。たとえば「教室でノートを取ってそのままハンドアウトにコピペする」。リストは{1項目(イメージ化困難), 8項目(イメージ化容易)}。で、目を閉じて2分間考える。(3)質問紙に回答。製品評価9件法とか。要因は、製品の新しさ{INP, RNP}とイメージ化{困難, 容易}、ともに被験者間操作。
結果: RNPではイメージ化容易な方が製品評価が高いが、INPでは差がない。OAの分析もやってるけど、省略。
実験2. 今度はイメージ化容易性の操作を提示情報を変えずにやります。学生84人。実験1との違いは、使用場面リストを渡さず、使用場面を{1個(容易), 8個(困難)}考えさせる。
結果: RNPではイメージ化容易なほうが製品評価が高いが、INPでは差がない。OAの分析は省略。
実験3. 学生55人。実験2のRNP条件のみ。イメージ化の際の時間制約を外す。
結果: イメージ化容易条件(1個考える)のほうが評価が高い。
実験4. 学生113人。(1)架空のRNP製品の広告を見せる(google Glassみたいな自動翻訳機)。教示: {「近々この町で若者にテスト・マーケティングする予定ですので、あなたのご意見が重要です。抽選で5名の方にこの新製品か同等なギフト券をプレゼント」(高関与)、「近々西海岸で高年齢者にテスト・マーケティングする予定なんですが、今日時間が余ったのでついでにあなたたちにもお伺いします」(低関与)}。(2)使用場面を考えさせる: {1個(容易), 8個(困難)}。(3)質問紙に回答。製品評価9件法とか、この製品とギフト券のどっちがいいかとか。要因は、関与{高, 低}とイメージ化{困難, 容易}、ともに被験者間操作。[←おいおい... 高関与群のプレゼントはホントにあげたのかね]
結果: 高関与条件では、イメージ化容易条件のほうが製品評価が高く、製品選択率も高い。低関与条件ではどちらも差がない。
うーん、実験4の手続きはどうなの、これ...? 著者らは「低関与条件では差が出ない」という結果で勝負しているんだけど、製品への関与が下がってたからというより、単にいい加減に課題を行い適当に答えてたからなんじゃなかろうか。だって「あなたら向けの製品じゃないけどついでに訊きます」なんて言われたら、学生さんはやる気なくしますよ、ほんとに。この手続きは心理学の雑誌ではちょっと通らないのではなかろうか。←と思ってよく見たら、この操作はPetty, Cacioppo, & Schumann(1983JCR) に拠る由。精緻化見込みモデルのご本家だ。まじっすか...
この論文の面白かったところは、題名にも入っている「イメージ化困難性」という概念が、ほんとにイメージ化しにくいかどうかではなく、実はイメージ化しにくい「ような気がする」かどうかというメタ認知的な概念だという点。
身体化認知の文脈で考えると、(A)ある身体動作の容易性と、(B)ある身体動作の心的シミュレーションの容易性と、(C)ある身体動作の心的シミュレーションの容易性のメタ認知とは、ちょっとずつ違うんじゃないか、と思うわけである。製品評価への運動流暢性効果はふつう(B)の効果だと考えられていると思うんだけど、もしそれが実は(C)の効果であるならば、なにかメタ認知を狂わせるような状況を設計し、製品使用動作の流暢性のメタ認知を高めることで、製品評価を高めることができたりしないかしらん。たとえば、使いにくそうな脚立の棚の横で、ジャッキー・チェンの脚立を使ったアクション場面を映す、とか...?
冒頭部分で、イメージ化とアクセス容易性と関与についてかなり執拗なレビューが行われているんだけど、イメージ化に関する先行研究だけメモしておく。
- 消費者に新製品を理解させるために心的イメージを用いることが多い: Feierensen, Wong, & Broderick(2008JPIM)
- イメージを喚起すると製品評価が上がる: Escalas & Luce (2004JCR)
- 過去経験の内容よりも検索容易性のほうがdiagnosticだ: Schwarz(1998PSPR, 2004 Medical Decision Making), Wanke, Bohner, & Jurkowitsch(1997JCR)
- 視覚化に関するレビュー: MacInnis & Price(1987JCR)
- 製品情報を視覚化するよう教示すると製品への態度が良くなる: Kiselius & Sternthal(1984JMR), Phillips, Olson, & Baumgartner (1995論文集)
- anticipation→イメージ化→選好: Shiv & Huber (2000JCR)
- 新製品設計においてイメージ化に焦点を当てた視覚化を行うと創造性が上がる: Dahl, Chattopadhyay, & Gorn(1999JMR)
- イメージ化によってRNPの選好測定を正確にする: Hoeffler(2003JMR)
- イメージ化はRNP, INPの評価に影響する: Dahl & Hoeffler(2004JPIM), Zhao, Hoeffler, & Dahl(2009JMR), Ziamou(2002JPIM)
- アウトカムに焦点を当ててイメージ化すると遠い未来の評価が上がり、プロセスに焦点を当ててイメージ化すると近い将来の評価が上がる: Castano, Sujan, Kacker, & Sujan(2008JMR), Zhao, Hoeffler, & Zauberman(2011JMR)
それにしても、イメージ化というのもそれはそれであいまいな概念ではあることよ。
論文:マーケティング - 読了:Zhao, Hoeffler, & Dahl (2012) 本当に新しい製品は、使っているところが想像しにくい「ような気がする」ときに評価が下がる