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2015年3月 2日 (月)
都合により読んだ論文のメモが残っていたので、記録しておく。
Suchman, L., & Jordan, B. (1990) Interactional troubles in face-to-face survey interviews. Journal of American Statistical Association. 85(409), 232-243.
調査法研究について調べている文脈で読んだ論文だったし、論文上での肩書が民間企業になっているので、途中まで気がつかなかったのだが、第一著者は「プランと状況的行為」のあのルーシー・サッチマン。そうそう、この人はゼロックスの研究所勤めが長かったのだ。やられた、状況論ですよ... 正直、最初から気づいてたら手に取らなかったと思う(気が重いから)。
いわく、survey interviewは標準化と引き換えに会話が本来持っている相互作用性を抑圧している。普通の会話なら、話し手はそれまでの会話の履歴に基づき発言を再設計できるが、インタビュアーはそれができない。また対象者による発言は精緻化が足りなかったり、不必要に精緻化されたりする。設問に含まれた世界観が対象者のそれと違っていても、通常の会話と違って摺り合わせが始まったりはしないし、発話の意味を明確にするためのやり取りもないし、誤解を検出して修復することもない...と、公的調査の対面インタビュー・ビデオから集めた例で示す。きちんと読んでないけど、どれもありそうなやりとりばかり。以上が論文の大半を占める。
最後に問題提起。むしろインタビュアーは調査票作成者の意図だけ踏まえて、質問についてもっと自由に話し、日常の会話でそうするように対象者と会話したほうがいいんじゃないですかね? 云々。
ちょっと面白かったのは、当時まだ新しい手法であった質問紙認知インタビューに対して著者らが意外に好意的であるという点。質問紙を改善することはもちろん大事だ、でもどこまでいっても調査というのは本来は相互作用的行為だし、そうでなければ測定の妥当性も保てないんだよ、という立場なのだと思う。状況論の先生だからもっとポストモダンで(?)、ふつうの認知心理学者がやることはみな気に入らないかと思ったけど、下衆の勘繰りでしたね、すいません。
たとえばこういうくだり、耳が痛い。
質問と反応の意味を評価するという問題はインタビュー状況を超えた広がりを持つ。仮に質問と回答が質問紙の作成者が意図した形で解釈されたとしても、データのユーザがその理解を共有していることの保証にはならない。調査データを記述統計や推測統計に用いるリサーチャーは、そのデータを正しく使うために、質問がどのように聞かれどのように答えられたか、その意味を知らなければならない。従って、妥当性のある調査のためには、そこに関与するすべての人々(質問紙の作成者、インタビュアー、回答者、コーダー、分析者)が、質問が何を意味し回答がどのようになされたかということについての共通の理解を持つことができるようなメカニズムが必要なのだ。
... 耳が痛いけど、では著者らが提案するような「すべての関与者の間でのactive collaboration」がどのように可能か、という点についてはちょっとよくわからない。
市場調査における消費者の定性的インタビューでは、「その場にいる人すべてをなんとなく納得させる」魔術的なスキルを持ったインタビュアーが高い評価を得ることがある。しかし、新しい認識を得るプロセスには本来は混乱や葛藤がつきもののはずであって、ああいう「その場の納得感が大事」主義は長期的には知的退廃をもたらすんじゃないかしらん...と思うこともある。この論文で取り上げている対面的インタビューでも、インタビュアーのインセンティブは、質問紙作成者の意図を代理することよりも、むしろスムーズな業務進行や整った回答データと連動しているはずで、「インタビュアーの自由度を高めて参加者の協同させる」というと美しいけれど、ともすればナァナァに陥っちゃうんじゃないかなあ...
調査に会話的な相互作用性を導入しようとした先行研究としては、Briggs(1986, "Learning How to Ask"), Mishler(1986, "Research Interviewing")という本がある由。ふうん。
論文:調査方法論 - 読了:Suchman & Jordan (1990) インタビューそれは相互作用だ