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2015年3月 4日 (水)

Piazza, T., Sniderman, P.M., Tetlock, P.E. (1989) Analysis of the dynamics of political reasoning: A genral-purpose conputer-assisted methodology. Political Analysis, 1(1), 99-119.
 いやー、都合により仕方ないとは言え、いまなんでこんな昔の論文読んでんだろうかと、いささかむなしい気持ちにもなりますね... どんな物好きなのかと... 夜は寝た方がいいんじゃないか、と...
 第二著者のSnidermanさんという政治学者は偏見の研究をしている人だけど、ずいぶん前から調査に対話的要素をいれるというのをやっているらしい。その方法論に関心があってあれこれ探していたのだが、研究の中に散発的に顔を出すものの、方法論に絞った文献がなかなか見つからず... ようやく探し当て、やけになってPDFを買い込んだ(別ルートで入手している時間がない)。20pで数千円。ホントに馬鹿みたいだ、と...

 相互作用的調査の4つの手法を提案。なお、この時代の研究だから、想定されているのはCATI(コンピュータを使った電話インタビュー)なのだが、まあそこは本質ではない。

 その一、反論テクニック。
 著者らは白人の人種間平等性に対するコミットメントについて調べているんだけど、調査において平等を支持する人でもそれは表面的なものに過ぎず、平等を達成するための努力を払うつもりは露ほどもないんだよ、という説がある。結局、どうやったら自己評価に頼らずにコミットメントが測れるか、という話になるわけだ。
 そこで以下の手順を用いる。(1)ある価値なり政策なりについての支持/不支持を訊く。(2)その回答に対する反論をぶつける。つまり支持者向けの反論と非支持者向けの反論を用意しておいて分岐するわけだ。(3)立場が変化したかどうかを訊く。
 実験結果の例が紹介されているんだけど、これがなかなか面白くて... 「政府は黒人を助けるべきだ」に対しては最初は57%が支持、しかし反論すると支持者の52%が不支持にまわり、不支持者の40%が支持に回る。いっぽう、大学入学のアファーマティブ・アクションに対しては27%が支持、反論で立場が変わるのは17%, 23%。著者らいわく、もともと支持率が低い主張の支持者が反論に耐えるのは、マクガイアの接種理論で説明がつくんじゃないかと思うけど、でもそしたら多数派はもっと反論に脆そうなものだよね、とのこと。(マクガイア! いやーホントに久しぶりに目にする名前だ)
 さて、マクガイアさんには「ルーズ・リンケージ」モデルというのがあって(恥ずかしながら初耳)、いわく、普通の人は政治的信念とルーズなリンケージしか持っていない。必要に迫られてはじめて諸信念をタイトに結びつける。この概念を用いれば、最初の回答はまだルーズ・リンケージだから、内的に不整合な信念も表れる。反論されてはじめて整合性が現れるのである。その証拠に、もともと保守的な人は、人種問題について最初にリベラルに回答していても、その意見を変化させやすい。もっとも、もともとリベラルな人が人種問題について保守的に回答した場合、反論してもあんまり意見が変わらないようで、その点は今後の課題です、云々。

 その二、置き換え実験。
 調査でわかるのはしょせん態度(偏見)どまり、行動(差別)ではない、と人はいう。そんなことないです。電話調査で差別を調べる方法をご紹介しましょう。と風呂敷を広げて...
 「人員削減で解雇されて求職中の人がいます。(年齢)(人種)(性別)で、子供が(いて/いなくて)、信頼(できる/できない)働き手で...政府はこの人を助けるべきでしょうか?」かっこ内をランダムに変え、全96パターンを使用。コンピュータ時代ならではの調査方法です、とのこと。
 さて、結果をみてびっくり。回答者(白人)は、白人よりも黒人に対して「政府は助けるべきだ」と答えやすい。さらに、政治的立場(保守/リベラル)の自己報告との関連を調べると、リベラルの人のほうが「助けるべきだ」と答えやすいんだけど、なんと保守の人は黒人に対して「助けるべきだ」と答えやすく、同じ白人に対しては非常に厳しい。なんてことだ。人種差別の時代は終わったのか?
 さらに深掘りした結果、次の点が判明。白人保守派は「信頼できる働き手」(a dependable worker)である黒人に対してのみ、ものすごく寛容なのである。著者らいわく、白人保守派にとっては「信頼できる黒人の働き手」は驚くべき存在であり、例外として扱われるのだ。

 その三、整合性チェック。
 たとえば、
 A. 特定の人種・宗教集団に対する憎悪を促すような文章を書いたり話したりすることは法に反する。
 B. いかなる政治的信念を持った人であれ、他の人と同じ法的権利を持ち保護を受ける資格がある。
 この2文、論理的には矛盾しているのだが、心理的にはどちらにも共感できる。つまり心理的な整合性は論理的整合性とは異なる。では心理的整合性をどうやって測るか?
 そこで次の手順。(1)Aについての質問。(2)他の問題についての質問(20項目)。(3)Bについての質問。(4)A, Bの両方に同意してたら、こんな風に尋ねる。「記録が正しいか確認させて下さい。Aに賛成と仰いましたよね。Bにも賛成と仰いましたよね。お答えを変更しなくていいですか?」矛盾してますよね、などと余計なことを言わないのがポイント。
 カナダでこの実験をやったら、A,Bの両方に同意した人は全体の72%、そのなかで(4)で意見を変えた人は11%であった。政治のプロ(議員とか)に同じ調査をやったら、78%が両方に同意し、そのなかで意見を変えた人は3%、一般人よりもっとすごい。つまり、これは政治的関心の欠如とか能力の欠如の問題ではない。
 著者らいわく、認知的整合性の知覚は信念変化の原動力だ。しかし信念システムがルーズにリンクしているときには、厳密に論理的な観点からみた不整合性を調和させる必要がない。

 その四、ソース帰属。
 精緻化見込みモデルでいうところの「周辺的ルート」に注目する。
 ある政策(たとえば、破壊活動に関する出版の禁止)について説明し、同意するかどうかどうか訊く。ここでその政策を主張している人についての説明を操作する: {弱い帰属(some people say...とか) / 強い帰属(連邦議会によれば...とか)}。
 さて、強い帰属のほうが同意率が高くなるはずだ... と思いきや、これまでの実験では案外そうでもなくて、ほとんど差がなかったりするのだそうである。著者らいわく、人々は見境なく意見を変えるわけじゃない、測ってみないとわかんない、とのこと。

 というわけで... サーヴェイ調査のおなじみのモデル(項目の標準化)から離れ、状況を変動させたより相互作用的なサーヴェイ調査へと進んでいこうではありませんか。もちろん順序効果やインタビュアー効果が増大するといった困難はありますが、既存のリサーチはいまや限界です、新しい地平を目指さなければ。云々。

 いやー面白かった!! 最初は落ち込んでたんだけど、この論文は大当たり。スナイダーマン、お前はなかなか使える奴だ! おかげで元気が出ました。
 今頃になって89年の論文に痺れているのってどうかと思うけど(ディープラーニングとかDMPとか、なんかそんな感じのナウな話題に関心を持つべきなんでしょうね)、特に手法1と2は、消費者調査にも大いに関係する話である...非常に示唆的であった。

論文:調査方法論 - 読了:Piazza, Sniderman, & Tetlock (1989) 相互作用的な調査手法 by 政治学者

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